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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 宮城県の復興まちづくりの 計画と現状

 

はじめに

平成23年3月11日, 三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生した。この地震発生から30分~ 1時間後,当県の沿岸部には最大20mを超える巨大津波が押し寄せ,防潮堤や河川堤防を乗り越えて多くの尊い人命と貴重な財産を一瞬のうちに奪い去った(図-1)。死者・行方不明者は1万1千人を超え,全壊した家屋は8万3千棟にのぼり,県全体としての被害額は9兆円を超える未曾有の大災害となり,特に沿岸部の住宅・社会資本は壊滅的な被害を受けた(図-2)。
 

  • 図-1 東日本大震災の概要

  • 図-2 宮城県の被害状況



当県では,地震発生から7ヶ月後の平成23年10月,土木建築行政分野の部門別計画である「宮城県社会資本再生・復興計画」を策定し,その基本理念として「次世代に豊かさを引き継ぐことの出来る持続可能な宮城の県土づくり」を掲げ,災害に対し粘り強い県土構造への転換を図る他,高台移転,職住分離,多重防御による大津波対策など,沿岸防災の観点から被災教訓を活かした「災害に強いまちづくり宮城モデルの構築」(図-3)に全力で取り組んでいる。
 

図-3 「災害に強いまちづくり宮城モデル」


 

〈復興まちづくりの基本方針〉

1. 新しい津波防災の考え方

これまでの津波対策は,過去数百年間に経験してきた地震・津波(1896年明治三陸津波,1933年昭和三陸津波,1960 年チリ津波など)を再現することを基本に科学的に立証可能なものを設計諸元に定め,海岸保全施設を整備してきた。
 
一方,歴史文献などにより過去に発生した可能性のある地震(869年貞観三陸沖地震,1611年慶長三陸沖地震など)であっても,震度や津波高さなどを再現できなかった地震は発生の確率が低いとみなし,想定の対象外とし体系的な防災対策が論じられることはなかった。
 
今回の東北地方太平洋沖地震は,わが国の過去数百年間の資料では確認できなかった地震であり,実際に発生した地震とこれまで想定してきた地震・津波が大きくかけ離れていたことは,従来の想定手法の限界を意味しており,これを契機にこれからの津波防災の考え方を抜本的に見直し,今後の津波防災対策を構築するにあたって,数十年から百数十年の頻度で発生すると考えられる津波(レベル1津波)と構造物対策の適用限界を超過する津波(レベル2)の2つのレベルの津波を想定(図-4)し,これを踏まえた復興まちづくりを検討することとした。
 

図-4 新しい津波防災の考え方

2. 被災教訓を踏まえた「新しいまちづくり」

今回の地震では,とりわけ沿岸部の8市7町において地震後の津波と大規模な地盤沈下によって甚大な被害を受けており原形復旧による復興は極めて困難な状況にあった。
 
このため,地震の原因や被害を検証し,ハード・ソフト両面の対策を講じることにより,同等の災害が発生しても人命が失われることのない,災害に強く安心して暮らせるまちづくりを目指すこととした。特に沿岸防災の観点から被災教訓を活かし,地形上の特性や津波による被災状況を踏まえ,県内沿岸部を大きく三陸沿岸地域と仙台湾南部地域に区分し復興まちづくりを計画することとした(図-5
 

図-5 復興まちづくり計画

2-1 三陸沿岸地域のまちづくり

三陸沿岸地域は,北上山地と海岸部に伸びる斜面・丘陵地が大半を占め,平地が少ない地形となっている。今回は津波の規模があまりにも大きかったため,過去に何度も津波被害を受け防災意識の高い地域だったにもかかわらず多くの人命が失われた。
 
今回の地震では,津波がその勢力を保ったまま防潮堤をはるかに超える高さで来襲し,海岸沿いの住宅密集地や鉄筋構造のビル,防潮堤や水門などあらゆる施設が壊滅的な被害を受けた。
 
このような地域特性や被害状況を検討し,レベル1津波を防潮堤で防護することで,人命・財産を保護し安定した経済活動を継続させ,レベル2津波に対しては,レベル1を防護する海岸堤防を整備した上で,今回の津波浸水域である沿岸域には災害危険区域を設定して居住を制限し,産業エリアとして活用することとした。また最大クラスのレベル2津波でも人命を失われることのないよう居住地は高台へ移転することを基本とした。また,沿岸部の産業エリアと高台の居住エリアを結ぶ連絡道路を整備し,津波避難路としても活用できるよう津波避難態勢にも十分配慮することとしている(図-6)。
 

図-6 三陸沿岸地域の復興まちづくり

2-2 仙台湾南部地域のまちづくり

仙台湾沿岸部は,松島地区を除き,なだらかな砂浜海岸の背後に平地が広がる地形となっている。防潮堤を越えた津波は,その勢いを徐々に失いながらも内陸の奥深くまで到達し,海岸線から仙台東部道路や常磐自動車道付近までの広範囲が被災し多くの人命が失われるとともに,物流拠点である仙台塩釜港,仙台空港,下水道浄化センター,工業団地や農地などが大きな被害を受けた。
 
このような地域特性や被害状況を検討し,レベル1津波を防潮堤で防護することで,人命・財産を保護し安定した経済活動を継続させ,レベル2津波に備えた「まちづくり」の考え方は,基本的にはレベル1津波を第一線で防護する海岸堤防や防災緑地の整備と併せて盛土構造の道路を配置し,その内陸側に新市街地を整備することで,大津波から多重に防御することを基本としている(図-7)。この盛土構造の津波対策施設を「多重防御施設」と呼んでおり,仙台湾沿岸の6市2町において海岸線にほぼ平行する位置に23施設が計画され,順次整備が進められている。
 

図-7 仙台湾南部地域の復興まちづくり

3. 復興まちづくり事業の概要及び進捗状況
3-1 復興まちづくり事業の概要

復興まちづくり事業には,被災市街地復興土地区画整理事業,防災集団移転促進事業,漁業集落機能強化事業,市街地再開発事業の他,今回の震災を契機に創設された津波復興拠点整備事業がまちづくり関連5事業と称されている。ここでは,代表的な3事業について紹介し,事業を実施した地区の進捗状況も併せて掲載する。
 
①被災市街地復興土地区画整理事業
広範かつ甚大な被害を受けた市街地の復興に対応するため,それぞれの地域のニーズに的確に対応し緊急かつ健全な市街地の復興を推進する事業である。本震災では,一定以上の計画人口密度(40人/ha)などの要件を満たした場合に限り,防災上必要な土地のかさ上げ費用を津波防災整地費として限度額に追加されることとなった(図-8)。
 

図-8 被災市街地復興土地区画整理事業

②防災集団移転促進事業
被災地域において住民の居住に適当でない区域にある住居の集団的移転を行うための事業であり,市町が被災した宅地を買い取り,再び津波などに対して脆弱な住宅が建設されることがないように必要な建築制限が行われる。被災者に対し,住居の移転に要する費用や敷地の取得,住宅建設のために住宅ローンを活用する際の利子相当分を助成する。強制力のない任意事業なので,事業の実施には関係する被災者の事業に対する理解と合意が不可欠である(図-9)。
 

図-9 防災集団移転促進事業

③津波復興拠点整備事業
復興の拠点となる市街地を用地買収方式で緊急に整備する事業に対して支援を行う津波復興拠点整備事業が創設された(図-10)。補助対象として,津波復興拠点整備計画の策定の他,津波復興拠点のための公共施設整備や用地取得造成費用などが認められた。
 

図-10 津波復興拠点整備事業


各市町の復興まちづくりは,前述した各まちづくり関連事業を単独に実施しているのみではなく,各市町の被災規模,地形,住民意向などを踏まえ,各事業を組み合わせて実施している事例が多い。具体的な事業選定の要点,各市町まちづくり方針は以下のとおりである(図-11)。
 

図-11 各市町の復興まちづくり計画

3-2 復興まちづくり事業の進捗状況

各市町の復興まちづくり事業は,平成24年度から着手され,事業がスピーディーに進捗した地区では,平成26年度から住宅の建築が可能となった箇所も存在する。
 
令和元年12月末現在,防災集団移転促進事業,被災市街地復興土地区画整理事業,津波復興拠点事業の3事業で合計242の事業地区があり,このうち1地区を除き住宅などの建築が可能となっている。残る1地区においても令和2年度内に住宅などの建築が可能となる見込みであり,県内の復興まちづくり事業は終盤を迎えている状況である(図-12)。
 



 

おわりに

地震の発生から,まもなく9年目を迎えようとしている。沿岸部の被災地においては,ハード面の復興は着実に進んでおり,復興まちづくり事業地区のほぼ全てにおいて住宅などが建築可能な状態となっている他,公共土木施設の復旧・復興も概ね順調に進んでいる(写真-1~4)。
 
一方で,災害公営住宅,防災集団移転団地および業務系復興土地区画整理事業地の空き区画対策や防災集団移転元地の利活用策などの課題が各市町で顕在化しており,人口減少や高齢化の加速が見込まれる中で,10年後,20年後を見据えた持続可能なまちづくりへの取組みの必要性が高まっている。
 
このような社会情勢の中で,新しい「まち」での賑わいの創出,定住人口の確保と交流人口の増加に向けた取組みを強化していくとともに,当県の復興まちづくりで得た教訓や知見を後生へ伝え,大規模災害の発生が懸念されている地域をはじめとする全国の各自治体に発信していきたい。
 

  • 写真-1
     鹿折地区復興土地区画整理事業竣工式(気仙沼市)

  • 写真-2
     商業施設とプロムナード(女川町)

  • 写真-3
     閖上地区まちびらき(名取市閖上地区)

  • 写真-4
     防災集団移転促進事業移転先団地(岩沼市玉浦西地区)


 
 

宮城県 土木部 復興まちづくり推進室

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年3月号


 

最終更新日:2023-07-10

 

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