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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 防災減災・国土強靭化 > 東日本大震災における応急対応と復旧・復興事業の現状《後編》

 

一般社団法人 宮城県建設業協会 専務理事兼事務局長
伊藤 博英

 

3.復旧・復興事業の現状と課題

震災から2年目は「復興元年」との位置付けのもとに、復旧・復興事業の発注が本格化し、
3年目においては「復興を実感する年」として、現在、加速的に進められており、
瓦礫の焼却等の最終処理も平成25年度内で予定どおり終了する見込みであるが、
一方で、大震災発生前の建設産業界は、建設市場が縮小するなかで、
各建設会社、並びに建設資材等関連会社は企業存続のために、徹底した合理化、スリム化を図ってきた。
その結果、人材は建設業から離れていき、資材等供給能力は極端に低下し、
ヒト・モノの確保と価格上昇への対応が全国的に大きな課題、支障となっている。
 
そのような状況においても、官民挙げて様々な工夫を駆使し、資材はフル生産、施工もフル稼働で、
日々かつてない事業量をこなしているのも事実であり、120%以上の力を発揮しているからこそ、
課題が次から次へと発生し、一つ課題を解決すれば、新たな課題が発生するという状況で、
まさに手探り状態で施工をしている現場実態にある(写真-5)
 

写真-5 仙台湾南部海岸工事の施工状況

写真-5 仙台湾南部海岸工事の施工状況


 
一番の問題は、復旧・復興事業に携わる企業が赤字に陥る大きな危機感を抱いていることであり、
実際に、被災地現場においては、資材供給においても必要な時に必要な供給量が確保されずに、
被災があったから工事用道路も増えるわけでもなく渋滞する等の要因により、
一日当たりの標準作業量は到底こなせない状況にある。
施工者の責によらない要因で工期延長しても、特例としてペナルティは課せられないという施策が講じられたが、
一般的にも工期が延伸すれば経費は嵩む一方であり、
各現場での生産性は極端に低下するとともに工期は1.5倍から2倍へと延伸傾向にあり、
そのこと等が各現場での赤字へと陥る実態にある。
 
こういった問題に対し、国土交通省においても「復旧・復興事業の施工確保に関する連絡協議会」を設置し、
様々な施策を講じているところであり、昨年10月からは土工・コンクリート工の日当たり作業量を10%補正した「復興歩掛の設定」や、
「インフレスライドの発令」、「遠隔地からの資材・労働者確保に関わる間接費の設計変更」、「労務単価の大幅な引き上げ」、
「引取単価による設計変更」等、現場の実態に即した対応により、間違いなく改善の方向に向かっているのも事実である。
 
しかしながら、これまで経験したことのない500kmにわたる広範囲での復旧・復興事業であり、
今起きている課題を検証してからの後追いにならざるを得ない状況であり、まだまだ追いついていない実態が赤字要因を含んでおり、
不調が発生する原因ともなっている。
 
千年に一度といわれるこの大震災において、現場実態に即した改善のスピードを上げ、官民挙げての英知を結集し、
今後の大震災へのノウハウとしての蓄積も含め、超法規的な対応が望まれるところである。
 
 

4.最後に

このように、建設産業界が総力を結集し着実に復興に向け進んでいるが、
しばしば復興が遅れているとの報道がなされているところでもある。
資材不足といわれるほどのスピードで進められている一方で、防災集団移転等の街づくりについては、
被災500kmの沿岸部一帯の自治体ごとにそれぞれ計画されている。
巨大津波により街ごと流出するとともに地盤沈下を起こしている状況において、
場所の選定から計画、用地買収等、長期間の時間を要する街づくり事業を、
早期復興に向け短期間で遂げようということで進められている。
建設業界の能力が限界で遅れているようなニュアンスであるが、実態が正しく伝えられていないと感じている。
 
このことは、震災直後の地域建設業の活躍を伝える映像がないこと、広報を戦略的に展開しなかったことによるものでもあり、
今後建設業界が正しく積極的に広報していかなければならない責務を担っているところでもある。
 
震災から3年が経過し、この大震災も全国的には風化が進んでいるが、
被災地で復興に携わる者として、復興を遂げるまで現状を発信し続けることが必要不可欠であり、
当協会としても2012年末に震災の記録誌を発刊し(写真-6)、第二弾を2014年3月に発刊予定で進めており、
今後も定期的に発信して参るところである。
 

写真-6 震災の記録誌(2012年12月発刊)右は現場対応中の著者

写真-6 震災の記録誌(2012年12月発刊)右は現場対応中の著者


 
建設業を取り巻く環境も、この大震災や各地で発生する自然災害、老朽化問題等により、
国土強靱化基本法も成立し、計画的・安定的に建設投資がなされようとしている。
若年労働者が極端に減少した建設産業界において、人材育成は国土を守る建設産業の維持・発展に欠かせない喫緊の問題であり、
処遇改善に向けた取り組みも始まっているが、何よりも安定的な収入で生活が成り立つ産業にすることが重要であり、
そのためにも建設企業が安定的に経営できる先の見通せる環境とする必要がある。
 
災害発生時に真っ先に駆けつけ応急処置を行う資機材と優秀な人材を有する地域建設業が各地域に存続できる建設投資が、
一過性で終わることなく、平準的・安定的に確保できるよう切に望むところである。
 
最後に、2020年東京オリンピック・パラリンピックが決定し、被災地においては復興を遂げる予定の時期である。
全世界の皆様方から受けた支援に対し、素晴らしい復興を遂げた防災先進地として披露する機会であることから、
今後も風化させることなく、復興に向け総力を結集し取り組んで参る所存であるので、
皆様方のご支援、ご協力をお願い申し上げる次第である。
 
 
 
東日本大震災における応急対応と復旧・復興事業の現状《前編》
東日本大震災における応急対応と復旧・復興事業の現状《後編》
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年03月号
特集「復興・防災等の社会資本整備に貢献する技術と製品」
積算資料SUPPORT2014年03月号
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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