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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > ローカルファーストによるまちづくり ~地域主導によるPFI柳島スポーツ公園整備事業~

 

はじめに

茅ヶ崎市では,市内初のPFI事業により,本格的な競技場,テニスコートを有する総合スポーツ公園を整備するため,2013年に柳島スポーツ公園整備事業の公募を行った。
 
大手ゼネコンやスポーツメーカーを中心とした事業体が参加する中,地元企業である亀井工業ホールディングス株式会社を代表企業とした,地元企業を中心とする事業体(SPC:特別目的会社「茅ヶ崎スマートウエルネスパーク株式会社」)が選定され,事業に着手することになったが,事業規模約75億円のPFI事業をこうした地元企業中心の事業体が請け負うことは,全国的にはかなり異例のことであった。それまでの過程の中で,茅ヶ崎市内において地元企業が中心となり,市民や行政をも巻き込んだ「ローカルファースト」によるまちづくりのムーブメントが起こり,民間を中心としたさまざまな活動が動き出していたことも,決して無関係ではない。
 
本稿では,なぜ,当事業体が選定されたのか,地方都市においてローカルファーストによるまちづくりはなぜ必要なのか,そして公民連携によるまちづくりにおける今後の課題は何かという点について,本PFI事業を通して見えてきたことを中心に述べていきたい。
 
 
 

1. ローカルファーストによるまちづくり

近年,地方都市では急激な高齢化が進み,三大都市圏においても人口減少が進みつつある。また,大規模な地震対策だけでなく,想定を超える風水害や新型コロナウイルスのような新たな危機にも向かい合いながら,地域社会を安定的に持続させていかなければならない。
 
そのためには,地元企業や市民,行政がしっかりと連携を図りながら,共通意識を持って地元経営を進めていく必要がある。その中で,最も大切なことは,地域経済をしっかりと循環させていくことである。地域の中でモノやサービスが活発に生産され,生産によって得られた所得が家計・企業に分配され,分配された所得を家計・企業が消費・投資に向ける。この結果,地方自治体の税収増にもつながる。
 
この循環をいかに強くできるかどうかが鍵であり,地域内外で稼いだ所得を地域内で消費し,残すことが重要である。
 
そのために地元でできることは地元で賄い,地元企業や店舗を住民がしっかり支援していこうとする運動がローカルファーストのまちづくりである。
 
また,行政においても業務のアウトソーシングやPPP,PFIを活用した公民連携によるまちづくりを通して地元事業者や市民が参加できるような地域市場を活性化することが,地元企業の育成と市民の雇用機会の創出につながり,地域のエンジンを活発にまわしていくことになるものと考える。
 
 
 

2. 柳島スポーツ公園整備事業への挑戦(写真-1)

写真-1 柳島スポーツ公園全景(公園は圏央道に接続する新湘南バイパス 茅ヶ崎海岸ICそば)



柳島スポーツ公園整備事業は,茅ヶ崎市で初めての本格的な総合スポーツ公園の整備であるが,単純にスポーツ競技をするだけの器を作るのでは意味がない。市民を第一に考えたとき,この事業はスポーツ振興だけではなく,スポーツと食を通して「からだ」を考え,健康をテーマに多様な活動や交流の場を創出し,「コミュニティ」の醸成と地域の活性化につなげていかなければならないと考えた。これを実現できるのは,地元に愛着を持ち,地元にしっかりと根付いた事業体しかないという信念のもと,地元企業を中心とした構成企業・協力企業で事業体を立ち上げ,事業公募に参加することとした。また,地元で総合的なスポーツクラブの実現を目指す特定非営利活動法人湘南ベルマーレスポーツクラブや,食とスポーツに高いプロ意識を持って取り組んでいる特定非営利活動法人パームインターナショナル湘南,湘南地域で新しい公園づくりを目指す湘南造園株式会社という魅力ある事業者の参画も大きな強みとなった。また75億円という規模の事業について,特にPFI事業として長期の展望を持って取り組むにあたり,PFI 事業そのものに実績,ノウハウを持つ事業者として,パシフィックコンサルタンツ株式会社を加え,特定目的会社「茅ヶ崎スマートウエルネスパーク株式会社」を組成することとなった(図-1)。
 

図-1 茅ヶ崎スマートウエルネスパーク株式会社,構成企業



選定評価委員会の審査講評では,「ローカルファーストというコンセプトを打ち出し,地域社会との連携による地域活性化に向けた熱意あふれる取組みを高く評価した。中でもハード面においては,シンボリックなクラブハウスの施設計画や地域特性を踏まえたサイクルステーションの設置等の提案,ソフト面においては,地域のスポーツコミュニティの形成を促進し,集客力の向上が期待される各種スポーツ教室事業や自由提案事業の提案により,コミュニティの核となるハードとソフトとが調和した一体的な施設利用計画を高く評価した。」とされ,入札価格評価では次点であったものの,事業全体のコンセプト,運営方針,自由提案施設については他社と比べ高い評価を得て総合評価で1位となり,選定されることとなった。特に,市民生活の向上や地域活性化の視点に立った,地元愛を持った地元ならではの提案が最たる強みとなり,高い評価を得ることになったと考える。さらに,地元の人材活用など,地元の雇用機会の創出につながる方針を打ち出し,建設段階から必要ポストの約80%を地元から採用し,運営から維持管理の要員についても地元居住者の採用を優先し,地元企業の発展および地域の活性化に寄与することを強く打ち出した点は,ローカルファーストの根底にある地域経済の循環を目指したものであった。
 
 
 

3. ローカルファーストによる事業計画

3-1 地元ニーズを反映した施設

この整備事業では,茅ヶ崎市の基本計画をベースに地元の希望と民間ならではのノウハウを設計・建設に生かすこととし,「市民がスポーツを始めるきっかけとなり,スポーツのある豊かな生活習慣を身につける公園」を目指した。そのため従来の陸上競技場とテニスコート4面の他,ジョギングコースを新設した他,競技場には約1300人収容できるスタンド席を整備し,テント幕の屋根をスタンド席全体に付設した(図-2)。
 
また,後述するがクラブハウスには,公園の管理機能や利便施設に加えて,多様なニーズに応じた民間主導による施設・サービス機能を付加した。
 
公共施設と民間施設の合築という,全国の都市公園でも珍しい事例であり,公民一体型のサービス提供として,PFI 事業のメリットを最大限生かしている。
 

図-2 施設概要



3-2 地元参加型の取り組み

地元主導型のPFI事業として,地元の参加を促す取組みを建設段階から実施し,スポーツ公園がオープンするまでの期間も地元に根付く活動を行った。
 
①アートプロジェクト
工事期間中には,工事現場のイメージアップと地元の子供たちの交流の場として,仮囲いへ隣接小学校の児童による絵の展示や,市内中学校美術部員170人によるスポーツをテーマにした絵を描くアートイベントを開催した(写真-2)。
 

写真-2 アートプロジェクト




②元気アップコンテスト
近隣の方々を中心にした工事現場見学会や現場で働くお父さんの職場見学会を開催し,親子で現場作業を楽しむ機会を演出した(写真-3)。
 

写真-3 柳島小学校の皆さんの工事現場見学会




③ロゴマークの公募
公園のロゴマークのデザインを市内外から募集した(図-3)。
 

図-3 柳島スポーツ公園ロゴ




④メッセージプレートの公募
市民を対象にメッセージプレートを募集し,メインスタンド棟の壁面に設置した。
 
 
このように柳島スポーツ公園が開業するまでの期間においても,地元との交流やコミュニケーションを重視し,オープニングイベントでは1万人以上の市民が参加し,地元中学生のブラスバンドの演奏や地元高校生によるチアリーディングの演技,ステージでは地元の方々による伝統芸能やダンスやバンドの演奏が披露され,地域自治会からは本神輿が担がれ,安全祈願と開業を祝っていただいた(写真-4)。
 

写真-4 柳島自治会本神輿




PFI事業は,民間の資金とノウハウを活用し民間主導で行うものであるが,事業契約後から開業に至るまで,また運営開始後も多くのハードルが存在した。特に,行政側の要求水準書に反映されていないものが地元の要望として調整の過程の中で出てくることがあり,そのような事項については,事業者独自で解決することになる。その場合,地元に軸足を置こうとすると行政と地元との板ばさみとなり,地元企業だからこそクールに割り切れない調整事案が数多くあったことも事実である。
 
また,本事業は,当時,全国初のPFI によるスポーツ公園整備事業だったため,行政と事業者とが有識者の見解を踏まえながら一つ一つ課題を解決していく作業となり,膨大な労力と時間を要した。しかし,このプロセスをこなすことで,今後もPPP・PFI 事業は,地元企業でも対応が可能であるということを実証した。
 
地元への各種説明会,各スポーツ団体や福祉関係団体との協議などにおいても,地元のあらゆる事情や歴史に鑑みながら丁寧な説明・協議を重ね,解決が難しい課題についてもクリアできたのは,やはり地元で構成された事業体であったからこそと考える。

3-3 プロモーション活動・地元密着型事業

施設開園以降,地元との信頼関係の構築を図り,地域活動に参加しながらスポーツ公園施設の認知度アップを目指してきた。多くの地元の方々に本スポーツ公園を身近に感じてもらうため,年間を通して市内各団体と連携・協力し,さまざまな体験型イベント,教室などを開催している。
 
併せて,多岐にわたるプロモーション活動を実施し,スポーツ公園全体の魅力をPRするため,効果的なプロモーション戦略の立案や広報計画の推進,これらの実施効果の検証や見直しを行った。特に,指定管理事業と自由提案事業との密接な連携を図ることで相乗効果を高め,公園全体の魅力向上や認知度アップ,公園利用者の増加促進を行ってきた(図-4)。
 
これらの効果は数字として表れており,日頃より,行政,代表企業,構成企業,協力企業および地元との情報共有を継続的に行っている成果でもあると考える。
 

※印は湘南地区まちぢから協議会(近隣7自治会)との共催
図-4 プロモーション業務 実施一覧表(2019年度)



3-4 地元企業体ならではの自由提案事業

「あらゆる市民がスポーツを始めるきっかけとなり,スポーツのある豊かな生活習慣を身につける場所」として,クラブハウス内にレストラン,スタジオ,コンディショニングセンター,サイクルステーションなどの民間施設を併設することで,「健康」をテーマにした多様な活動や交流の場を創出し,子どもから高齢者までより多くの市民に親しまれる「コミュニティの場」を目指した。
 
現在,運動と合わせた健康増進,食の安全,コミュニティの創造,高齢化社会への課題解決など,さまざまな課題を解決していく施設づくりの運営を行っている。
 
〈具体的施設〉
①レストラン~食の安全・身体が喜ぶ・地産地消~(写真-5
 
②サイクルステーション~「自転車のまち茅ヶ崎」を応援~
 
③スタジオ~三世代参加型,運動や文化教室など多彩なプログラム~(写真-6
 
④コンディショニングセンター(鍼灸整骨院)~運動機能の改善・予防,今日よりも明日をもっと元気に!~
 

写真-5 柳島キッチン

写真-6 ヤナギシマラボ(スタジオ)



 

4. ローカルファーストによるまちづくりの課題

以上のようにローカルファーストを基本コンセプトにし,地元企業ならではの強みを生かし,市民に対しての細かい配慮や地域活性化にしっかりとつながる計画事業にできたことが,地元主導によるPFI事業の実現を可能にしたものと考える。しかしながら,可能な限り地元資本でまちづくりを進めていくには,整理しなくてはならないいくつかの課題もある。ローカルファーストとは人と人、地域と地域が隣人のように協力し合い、それぞれのまち、地域を高めていくことである。ローカルファーストによるまちづくりは,地元企業だけでは到底実現できるものではなく,行政,市民が加わり,しっかりとした連携の上で実現していくものと考える(写真-7)。このまちづくりを進める上で,主体ごとに意識する必要があると思われる課題を以下に述べる。
 

写真-7 ローカルファーストについて,その考えや事例をまとめた
書籍を2013年に東海大学出版会より発刊



4-1 行政の支援

厳しい財政状況の中,今後の社会情勢に対応していくため,地方自治体ではさらなる効果的・効率的な行政経営が必要であり,地域経済活性化の観点からも,できるものはできるだけ民間に委ねることが求められる。そこで,PPP・PFI等の公民連携事業の領域を増やすとともに,地元事業者が,その担い手としてできるだけ参画しやすい環境整備を図ることが重要となる。
 
地元事業者の情報収集力やノウハウには限界があり,全国規模の大手事業者とはじめから同じ土俵で勝負することは厳しいことも事実である。これについては,事前の情報提供,公募や選定の基準において,地域経済活性化と地方創生の観点から,地元事業者に何らかのインセンティブが働くような仕組みづくりが望まれる。

4-2 地元事業者の意識・スキルの向上

一方で,行政や市民の後押しがあったとしても,地元事業者から手が上がらなくては始まらない。そのためには,地元事業者も自らハードルを設けず,絶えず情報収集を行い,スキル向上を目指さなければならない。
 
事業規模によっては,地元事業者による共同企業体や特定目的会社の検討も必要になる。地域内の横のつながりを大切にし,ともに地元で生き残っていくという視点も重要であり,地元の商工会議所や商工会が動くことにより,事業参画への機運醸成や企業間の連携強化が期待できる。

4-3 市民の協力

ローカルファーストの基本は,地元を愛し,地域の中ですべての者が支え合いながら誇りを持って暮らし続けていけるまちを作り上げていくことである。そのためには当然のことながら,市民の参加やコミュニティの醸成が必要であるが,市民と地元企業との連携もより重要となる。
 
地元企業は地域への社会貢献を果たし,市民は一消費者,一納税者として地元企業を応援することで地域経済の循環がしっかりとできてくることになる。
 
 
 

おわりに

開園し2年が経過し,茅ヶ崎スマートウエルネスパーク株式会社は事業計画の目的を達成しているだけでなく,稼働率,利用者数も計画時を大きく上回る数字を達成している(図-5)。しかし,事業が進むにつれ,準備段階では予想できなかった課題も見えてくる。日々,民間の事業者としての力を存分に発揮したいにもかかわらず実践できない場面がいくつも発生しているのも事実である。
 
今後,全国の地域でPFIが事業化され定着するには,より民間の力が発揮されやすい仕組みにする必要があり,PFIの真髄を活かすために民間の実情を熟知したコンサルタントの役割が不可欠である。PPP・PFI事業の目的は,計画されたサービスの提供はもとより,新しく設立された地元のSPCが利益を上げ納税し,雇用を創出し,地域のコミュニティの核となることであると考えている。それを最後まで責任を持って実現できるのは,中央の会社ではなく,地元の事業者のみである。
 

図-5 総合競技場 稼働率




 
 

一般財団法人 ローカルファースト財団 理事長          
亀井工業ホールディングス株式会社 代表取締役社長 
 亀井 信幸

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年8月号


 
 

最終更新日:2023-07-07

 

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