建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料 > 民族共生のシンボル 「民族共生象徴空間(ウポポイ)」─アイヌ文化復興のナショナルセンター─

 

民族共生象徴空間整備に至る経緯

平成19年9月の国際連合総会で採択された「先住民族の権利に関する国際連合宣言」,さらに平成20年6月の衆参両院において全会一致で採択された「アイヌ民族を先住民族とすることを求める決議」を受け,内閣において「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」が開催されました。平成21年7月に取りまとめられた同懇談会報告書において,民族共生象徴空間(ウポポイ,以下,「象徴空間」)は今後のアイヌ政策の「扇の要」として提言されました。
 
平成24年7月「民族共生の象徴となる空間」基本構想が取りまとめられ,北海道白老町に整備することとなりました。その後,平成28年7月に基本構想が改定され,象徴空間はアイヌ文化の復興等に関するナショナルセンターとして,「アイヌの人々による歴史・伝統・文化等の継承,創造の拠点」「国内外の人々のアイヌに関する理解を促進する拠点」「アイヌ文化復興に向けた全国的ネットワークの拠点」といった複合的意義・目的を有する空間とすることが盛り込まれました。
 
象徴空間の主要施設となる博物館および公園については,平成27年7月に文化庁が「国立のアイヌ文化博物館(仮称)基本計画」,平成28年4月に国土交通省が「国立の民族共生公園(仮称)基本計画」をそれぞれ策定し,これらに基づく施設の整備は北海道開発局営繕部および札幌開発建設部が実施しました。
 
なお,平成30年12月には,象徴空間の愛称が一般の方々からの投票により「ウポポイ」(アイヌ語で(おおぜいで)歌うこと)に決定し,併せてロゴマークも決定しました(タイトルバック参照)。
 



 

象徴空間の施設整備

象徴空間は,「展示・調査研究」「文化伝承・人材育成」「体験交流」「情報発信」「公園」「精神文化尊重」の機能を有し,これらの機能を担うため①中核区域,②慰霊施設,③関連区域,④広域関連区域で構成されています(図−1)。
 

【図−1 象徴空間と周辺エリア】




中核区域はポロト湖畔に位置し,国立アイヌ民族博物館および国立民族共生公園からなり,公園内施設にはエントランス棟,体験交流ホール,体験学習館,工房,伝統的コタン(アイヌ語で集落),管理運営施設を整備しました(図−2)。
 

【図−2 中核区域内の施設】




慰霊施設は全国各地の大学等に保管されていたアイヌの人々の遺骨および副葬品を集約し,アイヌの人々による尊厳ある慰霊の実現およびアイヌの人々による受入体制が整うまでの間の適切な管理を行うための施設として,ポロト湖東側の太平洋を望む高台に,墓所,慰霊行事施設およびモニュメントを整備しました。
 
これらの施設は令和2年の一般公開を目指し,平成27年度から順次各施設の設計を進め,平成29年9月には慰霊施設,平成30年1月からは中核区域の国立アイヌ民族博物館をはじめ各施設の建設工事がスタートし,令和2年3月に全ての施設が完成しました。
 
 
 

中核区域内の施設

共生公園に入場する時に最初に目にするのは「いざないの回廊」です。コンクリートの壁に木々や動物が描かれた回廊で,自然とともに暮らしてきたアイヌの文化を感じることができます。いざないの回廊を抜けると大きな広場「歓迎の広場」が来場者を迎え入れ,広場では飲食や買い物を楽しむことができます。
 
広場を少し進むと,「エントランス棟」にたどり着きます。エントランス棟には券売所,インフォメーション,ショップ,レストラン,フードコート等がありアイヌの工芸品や食文化を楽しむことができます。
 
エントランス棟は国内外の多様な人々との共生と連携の和を表現する円形広場を囲むように配置し,飲食・券売所,ガイダンス・物販等の提供を行う施設として整備しました。ウツナイ(川)とポロト湖を望む方向に設けた大きなガラススクリーンにより自然を感じながらの飲食ができる施設となっています(写真−1)。
 

【写真−1 エントランス棟】




エントランス棟のゲートを通ると,すぐ目の前に見えるのがウポポイの中核施設となる「国立アイヌ民族博物館」です(写真−2)。
 

【写真−2 国立アイヌ民族博物館 外観全景】




この博物館の建物は,①ポロト湖の自然景観等,周辺環境との調和,②アイヌの歴史・文化等に関する正しい認識と理解を促進する展示・研究拠点,③国内外の多様な人々に向けたアイヌの歴史・文化の発信拠点─を基本方針として整備しています。建物形状は周囲の稜線(りょうせん)と連続した形状とし,ポロト湖を中心としたすり鉢状の空間を補完しています(図−3)。1階にエントランスホール,ミュージアムショップ,調査研究ゾーン,2階に展示室,収蔵庫を配置しました。1階のメインエントランスは,来園者のメインアプローチとなる西側に配置し,ポロト(湖)北側のサブエントランスには大きなガラススクリーンを設け,開放感や公園との一体感を演出しています。貴重な資料を津波などの自然災害から守るため,展示室・収蔵庫は2階に配置しました。2階に上がると,まずパノラミックロビーから公園とポロト湖を一望し,雄大な自然を感じた後,広い展示室でアイヌの歴史や文化を感じることができます(写真−3)。また,1階の外壁に天然スレート,軒天に森林認証材を用いるなど,国立の博物館として品格と耐久性がある仕上げ材を選定し,メインエントランス側の屋根面には博物館のロゴマークを表現。正面玄関回りには儀式の時などに使用することが多いゴザ文様を模したアイヌ文様ウォールを配置したほか,館内にはアイヌ文様のデザインを随所に使用しています(写真−4,5)。
 

【図−3 全体計画概念図】




  • 【写真−3 国立アイヌ民族博物館
    2階パノラミックロビー】

  • 【写真−4 国立アイヌ民族博物館
    メインエントランス】

  • 建築写真 酒井広司(グレイトーンフォトグラフス)
    【写真−5 国立アイヌ民族博物館
    エントランス】


博物館の北西側に建っているのが「体験交流ホール」と「体験学習館」です。
 
体験交流ホールはアイヌ文化を体験・交流することができる体験型のフィールドミュージアムの拠点施設として整備しました(写真−6)。建物はポロト湖や周辺の山並みと呼応し柔らかなシルエットとなる円形のデザインとし,ホール内にはアイヌ伝統の輪踊り等を大人数で踊れるよう広い半円形ステージを設け,ステージとそれを取り囲む客席は床に段差がない空間でつながり,演者と観客の一体感を醸成します。ステージ背面の大きな借景窓からはポロト湖と対岸の伝統的コタンが望めます(写真−7)。
 

【写真−6 体験交流ホール 外観全景】




【写真−7 体験交流ホール ステージ・借景窓】




体験学習館はアイヌ料理の調理,伝統楽器の演奏,刺繍などを体験しながら学習できる施設として整備しました。
 
建物は周辺の山並みに溶け込む緩やかな勾配屋根と柔らかな曲線の屋根・庇とし,建物内は中廊下上部にハイサイドライトを設けることにより自然光・自然風を採り入れ,内装は木材を主とした仕上げで自然の温もりを感じられる空間としました(写真−8,9)。
 

【写真−8 体験学習館 玄関ホール】




【写真−9 体験学習館 外観全景】




公園の東側に建っているのは「工房」「管理運営施設」「伝統的コタン」です。
 
工房はアイヌの方々が受け継いできた伝統工芸の伝承と,来場者を対象としたアイヌ工芸家創作活動の見学と交流,木彫や刺繍などの工芸品の製作を体験する施設として整備しました。建物は,プ(アイヌ語で倉)をモチーフとした木彫ルーバーを持つ外観とし,内部は伝統的チセ(アイヌ語で家屋)につながるような小屋組を表し,木材をふんだんに使った内装とし,創作活動を間近で見ながら対話できる空間としました(写真−10,11)。
 

【写真−10 工房 木彫実演・体験室】




【写真−11 工房 外観全景】




「伝統的コタン」にはアイヌの暮らしが息づく空間の中で,その昔アイヌの人々が親しんだ口承文芸や子供たちの遊びなどの体験を通じてアイヌの方々と来場者の方々との交流を促進する施設として,3棟のチセを整備しました。建物は伝統的なチセの外観を再現し,屋根・壁とも茅(かや)を用いて仕上げています(写真−12)。
 

【写真−12 伝統的コタン チセ外観全景】




「管理運営施設」は旧アイヌ民族博物館の外観はそのまま残し,事務所用途にコンバージョンしました。
 
 
 

慰霊施設内の施設

慰霊施設には「墓所」「慰霊行事施設」「モニュメント」を整備しました(図−4,写真−15)。
 

【図−4 慰霊施設内の施設】




【写真−15 慰霊施設 全景】




墓所は遺骨および副葬品の保管室,遺骨等の整理や返還に必要なスペース,遺骨等の一時保管室を有し,大学等で保管されていたアイヌの人々の遺骨等について,アイヌの人々による受入体制が整うまでの間,適切に管理するための施設として整備しました。外観はシンプルなコンクリート打ち放し(羽目板模様)とし,建物正面の外壁には,アイヌの墓標をイメージしたレリーフを装飾しています(写真−13)。
 

【写真−13 墓所 外観全景】




慰霊行事施設は伝統儀式を実施する施設として,広間と調理場等の付属室からなります。施設の外観はチセをイメージした形となっており,行事の際には広間の大きなガラス戸により内部で行う行事の様子を確認することができます。
 
モニュメントは慰霊施設を象徴し,かつ民族共生の理念を表現するため,その外観はアイヌ文様をあしらい,アイヌの人々が儀式で使用するイクパスイ(儀式で使う木製の祭具)をモチーフとした形としています(写真−14)。
 

【写真−14 慰霊行事施設とモニュメント】




 

さいごに

象徴空間(ウポポイ)は令和2年7月に開業しました。皆さまにぜひお越しいただき,アイヌの歴史と文化を感じていただければと思います。
 

【写真−15 慰霊施設 全景】




【施設概要】







 
 

 北海道開発局 営繕部営繕計画課・開発監理部アイヌ施策推進課・事業振興部都市住宅課

 
 
 
 
【出典】


積算資料2020年8月号



 
 
 

 

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