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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 農業土木 > フィルダムやため池の固化改良土を用いた堤体改修技術 ─貯水池内底泥土を固化改良して築堤土に活用する砕・転圧盛土工法─

 

はじめに

築造年代の古いフィルダム(堤高H≧15m)やため池(H<15m)は,堤体が老朽化して断面不足や漏水などにより地震や豪雨に対する安定性が不足し,早急な改修を必要とするものが多い。特に,フィルダムは貯水量が大きく,堤体が決壊すると下流側に大きな被害を及ぼすため深刻である。初めてのダム基準1)が制定された1953年より以前のものは,土質力学を導入した近代的フィルダム工学による設計・施工法で築造されていないため,現行基準を満足していない可能性がある。また,新潟地震の発生した1964年以前に設計されたフィルダムは液状化を考慮しておらず,細粒分の少ない築堤土により築造された堤体では耐震性に注意が必要である2)。以上の条件に一致するフィルダムは何らかの弱点を抱えている可能性があり,堤体安定性の詳細調査を実施して必要に応じて適切な対策を講じるべきである。
 
また,築造年代の古いフィルダムやため池では,周辺の市街地化の進展などにより堤体改修に必要な築堤土を入手しにくくなっているだけでなく,貯水池には貯水容量の減少や水質悪化の原因になる底泥土が堆積しているため,除去が必要とされているものの土捨て場の確保が難しい問題を抱えている例が多い。
 
 
 

1. 砕・転圧盛土工法の概要

砕・転圧盛土工法3)4)は,前述のような築堤土の入手難と底泥土の除去問題を解決すべく開発された堤体改修技術で,主に底泥土を高含水比土に適したセメント系固化材により固化改良して築堤土に利用することで堤体改修と底泥土除去を両立させたものである。砕・転圧盛土工法は,①所要の強度の築堤土を人工的に準備できるため急勾配法面による改修が可能で土工量を少なくできる,②底泥土を築堤土に利用するため貯水容量の減少がない,③築堤土の土取り場と工事発生土の土捨て場が不要であるなど,経済的で環境負荷が少ない利点を有しており,これまでに4箇所のフィルダムと9箇所のため池の堤体改修に適用されている。
 
本稿は,砕・転圧盛土工法による堤体改修の特徴と,その設計・施工法の概要について説明するとともに,堤体改修に適用する際の参考になるように適用事例のうちの代表的なフィルダムの事例を紹介するものである。
 
 
 

2. 砕・転圧盛土工法による堤体改修の特徴

砕・転圧盛土工法は,図-1に概念的に示すように,池内の底泥土,あるいはこれに既設堤体の掘削土を加えた混合泥土などの原料泥土を,セメント系固化材を加えて固化改良することで築堤土に有効活用して堤体の耐震補強や漏水防止を行うものである。築堤は,一定の初期固化期間tSだけ固化させた原料泥土(これを「初期固化土」という)を規定の最大粒径Dmaxになるように解砕し,通常土の盛土材と同様に仕上り層厚30cmを目標に撒出し,敷均しを行なってから,土工用振動ローラーなどで締固め転圧して一層毎に行う(これを「砕・転圧土」という)。
 
砕・転圧土の強度は単位体積当りの原料泥土に加える固化材添加量ΔM C だけでなく,初期固化土を解砕・転圧するまでの日数t Sとそれ以降の経過日数t CCを合わせた期間t=tS+tCCに関係し,特にtSが解砕・転圧後の再固化強度の発現に強く影響する。また,Dmaxは砕・転圧土の強度と遮水性の両方に影響し,Dmaxを大きくした砕・転圧土ほど高い強度を,透水係数も大きい値を示す。このため,砕・転圧土により所要の強度と遮水性を有する堤体を築造するにはΔMCとともに,tSとDmaxを適切に管理しなければならない。
 
従来,単なる底泥土などの固化土(初期固化土に相当)は強度をΔMCの加減により容易に制御できるが,この固化土は通常の築堤土に比較すると破壊ひずみが小さく脆性的なひずみ軟化型の応力~ひずみ特性にあるため,既設堤体との間の変形性の相違に起因したクラックが生じやすく,貯水目的の堤体には使用できなかった。砕・転圧盛土工法はこのような固化土を築堤土に使用する場合の問題点を,初期固化させた底泥土などを固化途上中に解砕して通常の築堤土と同様に締固め転圧することで砕・転圧土の再固化時の応力~ひずみ特性が通常の築堤土に類似したひずみ硬化型になる性質を利用して既設堤体との密着性を良くして解決を図ったものである。
 

図-1 砕・転圧盛土工法の概要




 

3. 砕・転圧盛土工法の設計法

3-1 堤体改修におけるゾーニングの基本形

フィルダムやため池の堤体の耐震補強・漏水防止を目的とした砕・転圧盛土工法によるゾーニングパターンは以下の形式が基本である。
 
従来法による堤体改修では,築堤土が強度と遮水性の両面で優れていないため,遮水機能を受け持つコアゾーンは遮水性に優れた築堤土により,堤体安定機能を受け持つシェルゾーンは強度に優れた築堤土により,それぞれ築造する必要がある。そのため,築堤土は現地周辺で遮水性に優れたコア用土と強度に優れたシェル用土をそれぞれ入手しなければならない。堤体ゾーニングは,図-2の中段に概念的に示すように,堤体の上流側は既設堤体の一部を掘削除去してコア用土によるコアゾーンを,その外側にシェル用土によるシェルゾーンをそれぞれ築造し,下流側は劣化した法面表層を掘削除去し,シェル用土により押え盛土を施してシェルゾーンとする。コアゾーンやシェルゾーンの形状と勾配は使用される各築堤土が有する強度に依存し,堤体全体の安定計算により所要の安全率FSを満足するように決定する。築堤土は強度がすべり面上の垂直応力にほぼ比例するので,図-3上段に概念的に示すように,法先部ではすべり面上の垂直応力が低く,そこで発揮されるせん断抵抗が小さいため,上・下流側ゾーンを幅広に,勾配を旧堤体より緩くする必要がある。なお,堤体の上・下流側のシェルゾーンは既設堤体等からの掘削発生土を流用して築造することもあり,その場合にはランダムゾーンと称される。
 
一方,砕・転圧盛土工法による堤体改修では,図-2の下段に概念的に示すように,堤体上流側の一部を掘削除去して砕・転圧土によるコアゾーンを腹付け,下流側に砕・転圧土によるシェルゾーンを押え盛土を施して行われる。砕・転圧土は強度だけでなく遮水性にも優れているので,コアゾーンとシェルゾーンのように機能ごとに分ける必要がなく,一体として築造できる。砕・転圧土の強度成分のうち,粘着力(c’)CCはΔMCの加減により自由に設定できるのに対して,内部摩擦角(φ’)CCはΔMCの影響が少なく10~20°と小さい。このため,砕・転圧土ゾーンの目標強度はあらかじめ堤体改修のためのゾーニングの形状と寸法を決めてから,堤体全体の安定計算を実施し,所要のFSを満足するように逆算して決定するのが基本である3)4)。砕・転圧土ゾーンは,図-3の下段に概念的に示したように,すべり面上の垂直応力に関係なくほぼ一定の粘着力が作用するので法先部に効果的にせん断抵抗力を付加できる。すなわち,砕・転圧盛土工法は,腹付けるコアゾーン幅を小さく,急勾配での補強が可能なため,堤体ゾーニングを旧堤体断面内とすれば下流側に新たな用地を用意する必要がなく,貯水容量の減少もなくすことができる。
 
なお,砕・転圧土ゾーンの法面表層部には,砕・転圧土の乾・湿環境の繰返しによる劣化や高アルカリ水の溶出を防止し,植栽の基層とするために,既設堤体からの掘削土などにより層厚30~50cm程度の覆土を設ける必要がある。
 

図-2 砕・転圧盛土工法による堤体改修の特徴

図-3 砕・転圧盛土工法による堤体補強原理


3-2   砕・転圧土ゾーンの目標強度の決定

砕・転圧土の強度は原料泥土に加えた固化材による固結強度に起因した(c’)CCからなる。そこで,砕・転圧盛土工法では設計上の強度パラメータとして,ΔMCの加減により制御できる(c’)CCだけを考慮することにしている。(φ’)CCは室内配合試験による平均値を一定値として与えるか,無視することもある。そして,砕・転圧土の目標強度(c’)CC*は,砕・転圧土ゾーンを含む堤体全体の安定計算により所要のFSを満足する堤体安定に必要な強度(c’)CCStabilityと,築堤中の施工機械のトラフィカビリティーを確保するために施工上必要な最低強度(c’)CCTrafficabilityを比較して,大きい方の値を
 
(c’)CC*=([c’)CCStability,(c’)CCTrafficability]max
として決定する3)4)。一般に,(c’)CC*は堤体規模によりH ≧10mでは堤体安定に必要とされる強度により決まり,H<10mでは堤体安定に必要とされる強度が小さいため,施工機械のトラフィカビリティーにより決まるようである。   なお,砕・転圧土は固化改良土であるため,その強度は時間経過により増加していく。そこで,砕・転圧盛土工法における設計強度は固化材を添加してからt=10日までに発現する値,すなわち初期固化土であればt=tS=10日目の強度,砕・転圧土であれば解砕・転圧後の強度,標準のtS=3日であればtCC=t-tS=10-3=7日目の値により設定している。
 
 
 

4. 砕・転圧盛土工法の施工法

砕・転圧盛土工法の施工手順は,原料泥土の初期固化工程,初期固化土の解砕工程,解砕土の築堤工程の3つの工程から構成される。
 
初期固化工程は,写真-1に示すような固化材スラリープラントにより水・固化材比w/c=1.0(標準値)のスラリー化した固化材を圧送して,写真-2に示すような二軸回転翼型撹拌混合機(DAM機)5)などを用いて,容積が既知なように準備された固化ピット内の原料泥土に固化材スラリーを添加して撹拌混合する工程である。
 

写真-1 固化材のスラリープラント

写真-2 DAM機による混合泥土の初期固化状況



解砕工程は一定の期間tS(3日間を標準としている)だけ固化させた初期固化土を規定のDmaxで解砕するもので,写真-3に示すように掘削から解砕,積込みまでを連続的にできるバケット式解砕機により行う。バケット式解砕機は,0.7㎥級バックホウをベースマシンにアタッチメントとして写真-4に示すような所定間隔の格子枠をもつバケットに最大力約200kNの押土プレートを装着したもので,固化ピットから掘削した初期固化土塊を格子枠から押出して解砕するものである。解砕時のD maxはバケットの格子枠間隔を50mm,100mm,200mmの3種類とし,原料泥土の固化特性や,砕・転圧土に要求される特性,すなわち強度だけでなく遮水性も要求されるのかなどを考慮して決定する(200mmを標準としている)。
 

写真-3 バケット式解砕機による初期固化土の解砕

写真-4 バケット式解砕機



築堤工程は,初期固化土を解砕した粗粒から細粒までの解砕土の粒子塊が均一に混合されるようにバックホウで撒出し,ブルドーザで仕上り層厚約30cmを目標に敷均してから写真-5に示すように土工用振動ローラにより試験盛土等により決定された規定回数により締固め転圧を行うものであ
る。
 

写真-5 振動ローラによる解砕土の締固め転圧状況




砕・転圧盛土工法の施工管理は日常試験と,築堤土量1,000~1,500㎥に1回程度の頻度の品質確認試験を実施することを基本にしている3)4)。日常試験では,築堤面での球体落下試験6)による強度確認と,その付近から採取したコア供試体(直径D×高さH=75mm×100mm)を用いた密度試験による遮水性確認を実施する。また,品質確認試験では,採取したコア供試体(D×H=75mm×150mm)を用いた一軸圧縮試験による強度確認と,築堤面における現場透水試験とその付近から採取したコア供試体(D×H=75mm×100mm)を用いた三軸透水試験による遮水性確認を実施する。
 
 
 

5. 大原ダム(滋賀県)の改修事例

大原ダムは1953年に築造された堤高H=27.4m,堤長L=191.7m,堤体積V=23.6万㎥,貯水量Q=192万㎥の中央コア型フィルダムである。大原ダムでは堤体が老朽化して断面不足にあり,かつ堤頂面以下5~6m付近からの漏水により浸潤面が高くなっていたことや,堤体上流側のランダムゾーンの一部に液状化の危険性が想定され耐震性が不足していたことから,耐震補強と漏水防止のための改修が実施された。堤体改修は,ダムサイト周辺で築堤土を確保できなかったことや工事に伴って発生する底泥土や既設堤体土の土捨て場を確保できなかったことから,池内の底泥土や既設堤体土を築堤土に利用できる砕・転圧盛土工法を採用して実施された7)。
 
堤体ゾーニングは図-4に示すように堤体軸を変えずに,改修後の堤体が貯水量を減少させないように既設堤体断面内にほぼ入るように決定された。工事に伴って発生した既設堤体等からの掘削土は覆土と仮設工事に利用し,残りを底泥土に加えて砕・転圧盛土工法の原料泥土に利用することで全量を処分することができた。
 

図-4 大原ダムの改修前・後の標準断面7)




堤体上流側は,既設堤体の一部を掘削除去し,砕・転圧土によりランダムゾーンⅠ・Ⅱを腹付け,その強度レベルは小段面を境にして変えて強度ゾーニングしている(図-4では色の濃い方を高強度として表示している)。すなわち,下層は堤体の安定上,重要な役割を果たすので,図-3に示したように効果的に補強するために高強度ゾーンⅠとして粘着力(c’)CC≒150kN/㎡とし,上層は地震時に大きな変位が生じやすいため低強度ゾーンⅡとして砕・転圧土の施工上,必要な最低強度レベルに近い(c’)CC=55kN/㎡としている。漏水が確認された堤頂部は掘削除去してコアゾーンⅢとして遮水性のある砕・転圧土により築造し,その強度をゾーンⅡと同じとしている。改修後の堤体の安定性は,砕・転圧土の内部摩擦角(φ’)CCを室内配合試験による平均値に余裕をみた(φ’)CC=10°に設定して安定計算を実施し,堤体安定に必要とされるFS≧1.20を満足するFS=1.22を確認している。
 
堤体下流側は法先部にせん断抵抗を付加させるために(c’)CC≒150kN/㎡の砕・転圧土によるランダムゾーンⅣを押え盛土的に築造し,さらに浸潤面を低下させるために既設堤体部との間にフィルターゾーンを配置している。また,ランダムゾーンⅣの基礎は幅4mにわたり基盤層Grまでの深さ約2mをセメント改良してキーブロックとし,目標強度は安定計算によりすべり面がGr層を通らない条件を満足する粘着力c=70kN/㎡に設定された。

 
 
 

おわりに

本稿では砕・転圧盛土工法による堤体改修の特徴とその設計・施工法の概要,この工法を適用する際の参考とするために堤体改修が実施された代表例として大原ダムの事例を紹介した。
 
砕・転圧盛土工法による堤体改修のゾーニングは,改修に伴う貯水量の減少がないように新堤体が既設堤体の断面内に収まるように,工事に伴って発生する掘削土を底泥土に加えて砕・転圧盛土工法の原料土に,あるいはランダムゾーンの築造に流用して場外処分をなくすように決められる。
 
砕・転圧盛土工法の利点は築堤土を現場内で調達できるのでダムサイト周辺で築堤土が確保できなくとも堤体改修が可能であること,築堤土の強度レベルの所要値を,固化材添加量を加減することで自由に設定できるので急勾配での堤体改修が可能で土工量を少なくできることである。特に,築堤土を現場内で確保できることは緊急性の高い地震や豪雨により被災した堤体の復旧にも役立つものと考える。
 
 
参考文献
1) 農林水産省農地局監修:土地改良事業計画設計基準,第3部設計,第1編土堰堤,農業土木学会,1953.
 
2) 福島伸二,谷 茂:フィルダム堤体改修における液状化問題,地盤工学会誌,Vol.59,No.1,pp.26-29,2011.
 
3)(社)農業農村整備情報総合センター:ため池改修工事の効率化,-砕・転圧盛土工法によるため池堤体改修-,設計・施工・積算指針(案),(社)農業農村整備情報総合センター,2006.
 
4)(社)農業農村整備情報総合センター編:砕・転圧盛土工法によるフィルダム堤体改修,―堆積土・発生土を有効活用したフィルダムのリニューアル技術―,設計・施工・積算指針(案),(社)農業農村整備情報総合センター,2009.
 
5) 福島伸二,渋谷光男,平野高嗣,五ノ井 淳:二軸回転翼型撹拌混合機(DAM工法),建設の施工企画,6月号,pp.56-60,2010.
 
6) 福島 伸二・北島 明・谷 茂:固化改良底泥土(砕・転圧盛土工法)の球体落下試験による強度推定法の一解釈,第53回地盤工学研究発表会,pp.603-604,2018.
 
7) 福島伸二,谷 茂:大原ダムの砕・転圧盛土工法による耐震補強の設計・施工,ダム日本,No.812,pp.9-27,2012.

 
 
 

株式会社フジタ 土木本部 土木エンジニアリングセンター エグゼクティブコンサルタント  福島 伸二

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年9月号


 

最終更新日:2023-07-07

 

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