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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 軟弱地盤・液状化対策 > 地盤改良工事におけるICT活用の試み

 

はじめに

国土交通省は,少子高齢化による現場担い手不足の解消といった問題に対し,建設現場における生産性の向上を図るため,ICTの全面的な活用によるi-Constructionの推進を図っている。このICTの全面的な活用については,まず土工事における基準の整備が進められ,現在,土工事以外の幅広い建設工事分野への拡大とこれに伴う基準類の作成が進められている。
 
本稿では,こうしたICT施工の導入を試みた事例として,2018年「i-Construction大賞i-Construction推進コンソーシアム部門」において優秀賞を受賞した岡山環状南道路大福地区第2改良工事の事例について紹介する。
 
 
 

1. 現場概要

当該現場は,盛土で計画された道路直下の地耐力増強を目的とした軟弱地盤の改良工事である。この現場では,深層混合処理工法と表層・中層混合処理工法の2工種を3段階で同時施工しなければならず,生産性の向上による工期短縮や省人化がより切望された。
 
当該現場における深層混合処理には,RMPMST工法(以下:RMP-MST)が採用された。本工法は,大型三点支持式杭打機をベースマシンとした機械撹拌式であり,10m以深となる軟弱地盤層にセメントスラリーを吐出しながら,特殊な曲がり羽を装着した撹拌混合翼の回転で改良体を造成するものである。従来工法(φ1,000mm×2軸)と比較して,大口径改良(φ1,600mm×2軸)が可能なことから,工程短縮とコスト縮減および高品質な改良体を造成可能といった特長を有している(写真-1)。
 
同じく表層・中層混合処理には,SCM工法(以下:SCM)が採用された。SCMは,汎用性に優れる油圧ショベルをベースマシンとし,軟弱地盤にセメントスラリーもしくはセメント粉体を吐出しながら撹拌混合翼の回転で改良体を造成するもので,施工深度10m程度までの改良に適している。深層混合処理に使用される大型の施工機械と異なり,小型軽量であることから機動性に優れていること,狭隘地での作業性に優れているといった特長を有している(写真-2)。
 
図-1に当該現場の概要と施工平面図を示す。
 

  • 写真-1 RMP-MST施工全景

  • 写真-2 SCM施工全景



図-1 現場の概要と施工平面図




 

2. 当該現場における問題点とその解決策

当該現場では,道路盛土直下の地耐力増強のため,まず施工機械足場の支持地盤改良を目的とした表層1.2~1.5mにおける安定処理をSCM(粉体)にて施工した。次に主体となる支持層までの12.5~14.5mにおける深層をRMP-MST(スラリー)にて施工し,さらに改良体上部の一体化による盛土支持地盤全体の剛性向上を図るために,再度,SCM(スラリー)にて深度2mまでを改良するといった3段階施工を実施した。
 
こうした複数工種の施工に際しては,ヒューマンエラーの発生や品質不良による再施工といった手戻り作業を発生させないための施工管理が重要となる。
 
当該現場における問題点を整理すると,①3段階施工における事前測量の簡略化および施工位置のズレ解消といった「施工精度の向上」,②改良体造成の要となるセメント粉体およびセメントスラリー注入量および施工深度などの「施工中の管理方法」,②異なる工種別に段階ごとの出来形確認が必要になることによる「出来形管理の複雑化」といった点に集約できる。

2-1 施工精度の向上

RMP-MST における事前測量とは,杭打設位置の中心(杭芯)に施工機械据え付けの際に必要となる目串の設置が該当する。同様に,SCMにおける事前測量とは,全施工エリアにおける区画割りが該当する。また,両工法ともに,施工機械運転手が施工位置を目視確認しづらいことから,誘導員を配置しなければならないため,施工機械の据え付け位置のズレなどによる出来形精度にバラツキが生じやすい。特に,悪天候時における施工基面の乱れや敷鉄板の移設および発生排土などによる目串の逸失が生じやすく,かつ誘導員と施工機械との接触事故といった安全性への問題が指摘されていた。

2-2 施工中の管理方法

RMP-MSTおよびSCMにおける改良深度やセメントスラリー注入量などの施工管理は,施工機械コックピット内や計測管理室に設置した管理装置によってリアルタイムに確認することが一般的である。これは,施工中の管理を施工機械運転手や計測管理室のオペレータに依存していることに他ならず,これまで,セメントスラリーの注入量不足といったヒューマンエラーに起因した品質不良による再施工などが発生しやすかった。

2-3 出来形管理の複雑化

地盤改良工事において,不可視部となる出来形管理は,品質および要求性能の担保に重要かつ必要不可欠な項目である。当該工事のように,改良深度の異なる工種を広範囲に組み合わせて施工する際には,それぞれの段階における出来形管理の重要性が増すことは必然といえる。
 
RMP-MSTにおける出来形管理には杭頭確認が,SCMにおける出来形管理には改良深度が該当する。特に,RMP-MSTにおける杭頭確認は,空掘長が深い設計の場合,掘り起こし作業に長時間を要するため,工程を圧迫する要因の1つとなっていた(写真-3)。当該現場における杭頭確認の実施頻度は,100本ごとの7箇所を課せられており,空掘長も2.5mと比較的深いものであった。
 

写真-3 杭頭出来形確認(RMP-MST)



以上の問題点に対し,当該現場においては,杭芯の位置出しや再測量が不要な衛星情報測位システムを利用した「GNSSステアリングシステム」と施工中の施工情報を3次元で可視化可能にした「3D-ViMaシステム」のICTを併用導入することにより解決を図った。
 
以下に当該現場において併用導入したICTについて紹介する。
 
 
①「GNSSステアリングシステム」
「GNSSステアリングシステム」とは,地盤改良機などの施工機械を計画改良位置へ高精度で誘導する位置計測システムと施工情報の表示システムを施工管理モニターもしくは専用タブレットに統合させた一元管理システムである。
 
このシステムの最大の特長は,正確な位置情報を施工機械運転手と施工管理者が同時共有できることにあり,改良深度やセメントスラリー注入量などを複数のタブレットによって管理することで施工ミスの発生防止が容易となっている。タブレットには,改良深度,セメントスラリー注入量に加え,未施工箇所の色別区分や羽切回数と改良速度といったさまざまな施工情報を表示可能である。この2者共有による施工管理が,正確かつ迅速な施工箇所への機械誘導と高い施工精度を可能にしている。
 
 

②「3D-ViMaシステム」
「3D-ViMa システム」とは,地盤改良分野におけるCIMを実現させた技術であり,現場の設計図面や地形データ(点群・TIN:不等辺三角形網)などを基に,各種施工管理における実績値などの情報を盛り込んで3次元可視化させた情報統合システムである。
 
この3次元モデル化システムは,改良体が不可視部の地中に造成される地盤改良工事において,従来の紙ベースによる2次元情報では限界があった施工前の状況と施工後の効果および出来形の把握などを容易に具象化できることに特長がある(図-2)。
 
これによって,出来形・品質管理の効率化が容易となっている。また,施工後の各種情報を反映させた可視化モデルを共有することで,施工前の計画立案や設計変更の効率化に加え維持管理計画の効率化を実現させている。
 

図-2 紙ベース2D成果品から3D成果品へ




 

3. 当該現場におけるICT 施工の効果

当該現場において併用導入を試みた「GNSS ステアリングシステム」および「3D-ViMaシステム」による効果について示す。

3-1 施工精度の向上

施工精度の向上に関しては,事前測量で決定された杭芯や改良区画への施工機械誘導を正確かつ迅速に行えるかが重要となる。
 
ここでは,設計図面と事前測量結果を照合して決定された杭芯座標および区画割した座標と「GNSSステアリングシステム」によって誘導することで解消を図った。誘導に際しては,施工機械コクピット内のモニターと施工管理者が所持するタブレットのダブルチェックにより施工精度を高めた。測量による杭打設位置とタブレット座標とのダブルチェックによる偏心誤差は50mm 以内である。
 
また,誘導員を不要にしたことによる安全性の向上が図られたとともに,施工基面の乱れによる目串などの所在確認や再測量の手間が省略可能となった(写真-4)。
 

写真-4 施工機械運転手用モニター(RMP-MST)



3-2 施工中の管理方法

これまで,施工機械運転手と計測管理室のオペレータに依存していたセメントミルク注入量や改良深度といった施工中の管理方法については,「GNSSステアリングシステム」の専用モニターに施工中の情報を統合表示させ,これを施工管理者とリアルタイムに情報共有することで解消を図った。特に,既施工箇所と未施工箇所の色別表示は,施工忘れや重複施工といったヒューマンエラーの防止に繋がった。この施工管理者とのダブルチェックは,セメントミルク注入量不足などに起因する品質不良の発生防止にも貢献した(写真-5)。
 

写真-5 施工中の管理用モニター画面(SCM)



3-3 出来形管理の複雑化

RMP-MSTにおける杭頭確認およびSCMにおける改良深度といった出来形管理の複雑化については,「3D-ViMaシステム」の導入によって解消を図った。
 
ここでは,「GNSSステアリングシステム」に統合させた施工情報を基に,所定のセメントミルク注入量や施工深度などを色別表示させた3次元可視化モデルと,実績値による3次元可視化出来形図を対比させることで出来形の容易な確認を可能にした。
 
この具象化させた3次元可視化出来形図は,数値のみで改良深度や範囲を想定せざるを得なかった2次元データによる出来形図と比較して,より完成形をイメージしやすいものとなっている。この3次元可視化出来形図は,実際の掘り起こしによる出来形と整合した結果,ほぼ100%の整合率であることが確認され,7箇所の杭頭確認を2箇所に減じることが認められた。これらのICT活用によるさまざまな効果によって25%以上の労働生産性が向上された(図-3,4)。
 
図-3,4中の水色は,SCM中層改良ゾーン,青色の円柱がRMP-MST改良ゾーン,洗朱色の円柱部が空掘部,紫色が着底層を示している。
 

  • 図-3 3次元可視化出来形図(上部より)

  • 図-4 3次元可視化出来形図(下部より)



 

まとめ

軟弱地盤の改良工事におけるICT施工導入事例として,岡山環状南道路大福地区第2改良工事の概要について紹介した。
 
ここで紹介した「GNSS ステアリングシステム」および「3D-ViMaシステム」の併用によるICT地盤改良工の導入実績は,既に100件を数えるまでになっている。
 
また,ICT地盤改良工においは,国土交通省が示した「施工履歴データを用いた出来形管理要領(案)」に対応可能な帳票作成ソフトが完成している。既に,表層安定処理・中層地盤改良工事における帳票作成ソフトについては現場運用が開始されており,固結工(スラリー撹拌工),いわゆる深層混合処理工における帳票作成ソフトについても2020年6月に北海道開発局小樽開発建設部発注の一般国道5号仁木町仁木北改良工事において,施工者希望Ⅱ型での運用が実現した。この工事での導入がICT活用工事として認められれば,現時点における国内初の事例となる。
 
今後は,課題とされてきた高圧噴射撹拌工法におけるリアルタイム杭径確認システムの開発に加え,地盤改良工事以外のICT施工への取組みとして,法枠工における3次元計測技術を用いた出来形計測に関する検証を進めるなど,こうした分野における現場担い手不足の解消や生産性向上および安全性の確保に努めていく所存である。
 
 

ライト工業株式会社 R&Dセンター  関  徹也
二見 肇彦

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2020年10月号


 

最終更新日:2023-07-07

 

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