建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 土木施工単価 > 「忍者の里」で川上ダムを建設中

 

「忍者の里」で有名な三重県伊賀市で,独立行政法人水資源機構がCIMやICT施工などの最新技術を駆使して,川上ダムを建設中です。忍者のように「かしこく」「すばやく」「地域と密着して」ダムづくりを進めている状況を紹介します。

 

1. はじめに

川上ダムは,服部半蔵などの忍者で有名な三重県伊賀市で,独立行政法人水資源機構が建設している重力式コンクリートダムです。淀川水系木津川の左支川前深瀬川に位置し,洪水調節や流水の正常な機能の維持,伊賀市水道用水の供給のほか,国内初となる既設ダムの堆砂除去のための代替補給も目的としています。ダムサイトの近傍には人口5,000人規模の桐ケ丘団地があり,流域には国の特別天然記念物のオオサンショウウオも多く生息している,人と自然が調和した地域です。令和元(2019)年9月より堤体コンクリート打設を開始し,令和4(2022)年度末の事業完成を目指し,今,まさに建設工事の最盛期となっています(図−1)。
 
この地域では,これまで度重なる浸水被害によりダムの早期完成への期待が高まっています。型枠工や鉄筋工といった熟練技術者不足が深刻な状況下で,堤高84m,堤体積約45万㎥の重力式コンクリートダムを,CIMやICT施工を活用し,生産性を向上させることで,「かしこく」「すばやく」「地域と密着して」建設しています。
 

【図−1 川上ダム完成イメージ】




 

2. 「かしこく」つくる

水資源機構では, 平成28(2016) 年にi-Construction&Management推進委員会を設置し,調査・測量から設計,施工,検査,維持管理・更新,改築までのあらゆる建設生産プロセスの現場において,抜本的な生産性の向上,効率化および高度化を図る取り組みを進めることとしています。
 
川上ダム建設事業においても,3次元モデルを計画,調査,設計段階から導入し,その後の施工,維持管理の各段階においても連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にしました。そして,一連の建設システムの効率化・高度化を図ることを目的とするCIMを構築して,活用しています(図−2)。
 

【図−2 CIMによる関連データ閲覧イメージ】




建設段階(現場施工管理)において,例えば,堤体基礎の岩級スケッチ図と基礎処理工をCIMモデルで統合することにより,タブレット端末で立体的に止水性の確認を行うことができるなどの利点があります(図−3,表−1)。
 

【図−3 統合モデル(基礎処理工)のイメージ】

【表−1 基礎処理工モデルの凡例】



施工者独自の取り組みとしては,堤体基礎地盤の掘削作業にMC(マシンコントロール),MG(マシンガイダンス)を導入し,CIMモデルを活用して仕上がり面をチェックすることで,従前の丁張り作業をなくしたり,コンクリート打設用バイバックによる締固め判定を,加速度データを解析することにより自動化することで,現場管理の省力化,コンクリートの品質向上を図るなどの取り組みも行っています。熟練技術者不足が深刻化する中,「かしこく」つくる取り組みを進めることで,生産性を大きく向上しています(写真−1,2)。
 

【写真−1 CIMモデルを活用した堤体基礎地盤掘削】

【写真−2 加速度データ解析による自動締固め判定】



 

3. 「すばやく」つくる

水資源機構は,前身の水資源開発公団の時代より,ダム構造の安定,工事の安全を確保しながら,建設費用を節減するために,工事を効率的に行い,工事期間を短くする工法がないか,絶えず新しい工法を追求してきました。水資源機構が開発した「拡張レア工法ELCM(Extended LayerConstruction Method)」は,昭和50(1975)年から平成4(1992)年にかけて建設した布目ダム(奈良県)にわが国ではじめて取り入れられ,今や,国や地方自治体が建設する多くのダムに採用されています。
 
川上ダムは,水資源機構が新規に建設する最後の重力式コンクリートダムであり,水資源機構のダム技術の集大成として,この拡張レア工法ELCMを採用するだけでなく,堤体コンクリート打設のリフトスケジュールに影響を与えるものを極力排除し,打設能力を最大限発揮させる超高速施工を実施しています(写真−3)。具体的には,細部設計や施工管理にCIMを最大限活用しながら,放流設備も含めた堤体付属構造物の設置等が打設工程に影響を与えないよう,構造物周りのプレキャストコンクリート化をはじめ,自動スライド型枠の採用,さらには,従来,型枠の設置に時間を要していた堤体下流面の勾配変化点や,堤体天端の橋脚部分についても,プレキャストコンクリートを導入しています(図−4)。
 

【写真−3 超高速での堤体打設状況】


 

【図−4 ダム型枠自動スライドシステムの特徴】



これらの取り組みは,単に堤体コンクリートの打設スピードを向上させるだけではなく,施工の安全性向上にも大きく貢献しています。
 
また,これに付随して,施工前の段階確認等を随時,迅速に行えるよう,ICT環境の整備による遠隔臨場についても積極的に取り入れています。
 
これらの新しい取り組みを実践することで,堤高84m,堤体積約45万㎥の重力式コンクリートダムを約20カ月で打ち上げるという,超高速での堤体打設を目指しています。この工程での打設が達成できれば,拡張レア工法ELCMによる中規模のダムとしては従来の打設速度を大きく上回る超高速打設となります(図−5)。
 

【図−5 ELCMによる堤体積と打設速度】




 
 

4. 「地域と密着して」つくる

(1)建設時における取り組み

ダムサイトの近傍(最短距離で約500m)には人口5,000人規模の桐ケ丘団地があり,ダム建設工事においては,地域への影響を最小限にする必要があります(図−6)。特に原石採取や骨材製造の際に発生する振動や騒音,粉じんの影響をどれだけ小さくできるかが大きな課題でした。
 

【図−6 ダムサイトと桐ケ丘団地,旧原石山予定地の位置関係】




川上ダムでは,当初,ダムサイト直上流に原石山を選定し,骨材製造を行うことを計画していました。しかし,経済性が有利なこと,近隣環境へ与える影響が小さくなることなどから,周辺の砕石工場から調達する「購入骨材」を採用しました。水資源機構で骨材を全量購入するのは,初めての試みです。購入骨材の採用に当たっては,総運搬量が100万tを超えることから骨材運搬による地域への影響についても配慮し,ダンプ運搬の通行量を最大で360台/日(往復)と設定し,堤体コンクリート打設の約1年前から骨材運搬を開始し,事前に搬入した骨材を施工ヤード内に仮置きすることとしました。
 
骨材運搬に当たっては,運搬経路となった道路沿線の住民の方のご理解を得るため,説明会のほかに,沿線地域の小中学校への説明,地域や学校にチラシを配布しました。また,必要に応じて地域への個別対応,地元自治体をはじめ関係機関との協議など,地域とできる限り積極的なコミュニケーションを図り,沿線地域の方からのご理解をいただくことに努めました。
 
具体的な対策としては,骨材運搬ルートの一部見直しによる交通量の分散や,運搬車に対して注意喚起するための標識,安全灯の設置,通学路等への安全誘導員の配置などを実施しています。
 
さらに,車両にGPS機能付きのタブレット端末を搭載することにより,車両の位置や速度などの運行情報をリアルタイムに確認し,自動的にシステムに保存される運行管理システムも導入することで,地域との信頼関係の醸成に努めています(図−7)。
 

【図−7 骨材運搬の運行管理システム(運用イメージ)】



(2)将来の管理に向けた取り組み

川上ダムの建設地である伊賀市青山地域には,周辺に大村神社,初瀬(はせ)街道,藤原千方窟(ちかたくつ)など,潜在能力の高い観光資源が多く存在しています。川上ダムでは,伊賀市,伊賀市商工会,伊賀上野観光協会と,川上ダムを地域振興に役立てるためのアイデアや,その実現のための方策を地域と一緒に考え,協力して実行する「川上ダム地域連携プロジェクトチーム」を平成31(2019)年4月に立ち上げ,地域活性化に向けた取り組みを開始しています。
 
これまでにダムサイト右岸天端近くに展望台「WELCOME 川上ダム観眺台(みてチョーだい)」を整備し,広報拠点として情報館の設置や展示内容の検討,快適トイレの設置,コスモスの種まきなどを実施するほか,ダムの完成した姿を5カ所の視点からVR画像で楽しんでいただく「VRみてチョーだい!」や広報ポスター,チラシの作成などに取り組んでいます(図−8,9)。
 

【図−8 WELCOME 川上ダム観眺台(みてチョーだい)】

【図−9 「VRみてチョーだい!」のQRコードと操作方法】



また,伊賀市,伊賀市商工会,伊賀上野観光協会の方々も積極的に取り組みを始めていただいており,地元の野菜にこだわった「伊賀青山川上ダムカレー」の開発・販売や,商工会主催のバスツアーの開催などを実施したほか,民間ツアーの開催に向けた交渉やナイトイベントの企画などにも取り組んでいます(図−10)。
 

【図−10 伊賀青山川上ダムカレーの販売】




 

5. おわりに

川上ダム建設事業は,予備調査開始以来50年以上の長きにわたり,地元の皆さまをはじめ多くの方々のご協力とご支援をいただいてまいりました。地域の安全・安心を確保する川上ダムの効果を早期に発揮するため,工事の安全や周辺の環境に十分配慮しながら,また,川上ダムが将来にわたり誇りに思っていただける資産となるよう地域と連携・協力しながら,魅力あるダムづくりを進めていきます。
 
川上ダムの工事状況は川上ダムのホームページでライブ映像配信を行っております(https://kawakamidam-cam.arksystem.jp/)(図−11)。また,毎月第3日曜日には現場見学会も開催しておりますので,ぜひ,現場に足を運んでいただき,伊賀の魅力を感じていただければと思います。
 

【図−11 川上ダム工事状況のライブ映像配信のQRコード】


 
 

独立行政法人 水資源機構 川上ダム建設所

 
 
 
【出典】


土木施工単価2020秋号



 

 

同じカテゴリの新着記事

最新の記事5件

カテゴリ一覧

バックナンバー

話題の新商品