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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM > オープンBIMによる建設デジタルツイン 構築への挑戦 buildingSMARTバーチャルサミット2020レポート

はじめに

2020年10月末、世界各地のBIM関係者が集い、建設産業におけるデジタル化についての標準化や実用化に向けての情報共有、議論を行うbuildingSMART International(以下bSI)サミット会議がオンライン会議形式で開催された。今年の世界的COVID-19拡大の影響を受け、これまで世界各地の会議場で開催されていた形式を、今年度はバーチャルサミットと称して約2週間にわたるオンライン形式へと完全に切り替えての開催となった。
 
bSIサミット会議において、建設ライフサイクルにおけるBIMワークフロー、BIMのデジタルツインへの展開、建築からインフラへのBIMの拡張などの議題を中心に、標準化、最新事例の共有、BIM実務者のネットワーキングが行われてきている。
 
本稿では、bSI バーチャルサミット2020秋での主要テーマ、およびbSIバーチャルサミット期間中に発表されたオープンBIMの国際アワード bSI Award 2020の概要について報告する。

 
 

buildingSMARTバーチャルサミット2020

bSIでは、建築・土木、スマートシティ、法規、教育などの各分野において、それぞれRoomと呼ばれている分科会活動が行われている。今回のサミットでは、53のRoomセッション、104のプレゼンテーション、196名の発表者、80時間以上の発表コンテンツ量となった。今回のバーチャルサミットにおける各Roomと、BIM個人能力認証プログラムにおける主なセッション概要を以下に示す。
 
建築分科会(Building Room):
建築分野における、BIMデータ連携の要件定義であるIDM(InformationDelivery Manual)、IDMに 基 づ いたIFC使用範囲の定義であるMVD(Model View Defi nition)など、BIM活用に必要な標準、レポート、技術仕様などの策定を行っている。今回のサミットでは、FM(ファシリティマネジメント)、防災・避難シミュレーション(人流解析)、エネルギーシミュレーション、空間ゾーン(Spatial Zone)のユースケース・IDM策定、建物性能シミュレーション(BIM2SIMプロジェクト)、鉄骨モデル分野のMVD策定、研究施設設計へのBIM・IFC活用などについて議題が設定された。
 
インフラ分科会(Infrastructure Room):
 道路、橋梁、鉄道、トンネル、港湾分野へのIFC拡張を行っている。現在進行中のIFC拡張プロジェクトの最新のロードマップが確認された(図-1)。IFC5へ到達するまでの、インフラストラクチャー分野のIFC拡張バージョンIFC4.3リリース候補版(ReleaseCandidate)の進捗状況、トンネル分野のIFC拡張プロジェクト、港湾施設・水路(Ports&Waterways)分野のIFC拡張プロジェクトの活動状況報告があった。
 

インフラストラクチャー分野のIFC策定ロードマップ

図-1 インフラストラクチャー分野のIFC策定ロードマップ(Infrastructure Room資料から)

 
製品情報分科会(Product Room):
BIMに関連する用語、分類体系コード など を、 国 際 標 準(ISO 12006)に基づく建築デジタル辞書サービスbSDD( building SMART Data Dictionary)により、BIMライブラリや、デジタルサプライチェーンなどへの展開を検討している。製品識別コード(GTIN: Global Trade ItemNumber)の標準化・普及展開を行っている国際組織GS1との協調活動、建設サプライチェーンにおける資材、製品情報の流通プラットフォームに関連するテーマが増加してきている。
鉄道分科会(Railway Room):鉄道分野の軌道、エネルギー、信号設備、通信設備などへのIFC拡張作業を行っている。中心となっている鉄道事業者企業は、フランス、イタリア、スイス、オーストリア、北欧、中国などとなっている。
 
建築確認分科会(Regulatory Room):
建築申請分野におけるユースケース、自動チェックシステム活用に必要な要件整理、建築確認分野のIDM、MVDやガイドラインの策定を目指している。今回のサミットではEU、およびエストニア政府からのBIMによる建築確認プロセスの試みが紹介された。また、buildingSMART Japan(以下bSJ)からは、意匠設計小委員会における建築確認へのIFC活用の検討作業から、法規情報モデルRIM(RegulationInformation Model)という概念を具体的なイメージで説明した(図-2)。
 

法規情報モデルRIMのイメージ

図-2 法規情報モデルRIMのイメージ

 
技術専門分科会(Technical Room):
IFCの拡張、メンテナンスおよびセマンティックWebへのIFC活用手法、API活用などの検討を行っている。共通データ環境CDE(CommonDataEnvironment)のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)標準に関しての提案が行われた。

 
施工技術分科会(Construction Tech Room):
施工段階における、製造業(ファブ)、流通(ロジスティクス)などのサプライチェーンと連携するため、BIMデータをAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)によって他システムと連携する仕組みについて、現状と今後の方向性について発表が行われた。取り上げられたテーマとしては、4D/5D BIM、CDEのAPI標準openCDE API、デジタルツイン、IoTプラットフォームFIWAREおよびそのデータモデル・API仕様であるNGSI(Next Generation Service Interface)などが挙がっている。
 
空港分科会(Airport Room):
空港分野の資産管理、運用管理の視点から空港施設ライフサイクルへのBIM活用に必要なIDM 、MVD、ガイドラインなどの策定を行っている。今回はデータのセキュリティに関する設計、施工、維持管理者など各分野におけるシナリオ分析について報告があった。そのほか、ウィーン空港におけるBIMデータとCADデータの連携プロセスの実証実験結果の分析、空港のデジタルツインについての議論が行われた。

 
BIM個人能力認証(buildingSMARTProfessional Certifi cation Program):
bSIでは、国際的なBIMの個人能力認証制度の展開を進めている。建設産業における情報共有の重要性、BIMの背景や利点、BIMデータの国際標準であるIFC、BIM情報管理に関する国際標準ISO 19650など、bSIが推進してきているオープンBIMに関する基本知識テキストに基づいた教育コースおよび個人能力の認定が2018年から開始されている。これまでにオンラインテストによって3000人弱へ認定証明書を発行した。現時点でドイツ、スイス、オーストリア、ノルウェー、スペイン、イタリア、ロシア、中国などがこの認証制度を開始しており、それぞれの言語での教育コース、オンラインテストが実施されている。日本国内でも、bSJがこのBIM個人能力認証の仕組みを導入する準備を進めている。
 
 

bSI Awards 2020にみるオープンBIM活用

bSIでは、IFC、IDM、MVD、BCF(BIM Collaboration Format)などbuildingSMART標準を活用したオープンBIMの普及促進を目的に、2014年からbuildingSMART Awardを年一回実施している。春に応募を開始して、秋のサミット国際会議において設計、施工、運用・維持運営、学生、研究などの部門ごとの審査、表彰式を行っている。2020年度も、全世界から100以上の応募があり、10の分野別Awardが発表された(図-3)。また、今回のAwardプログラムには各buildingSMART支部から111名の審査員(内3名が日本支部から)が参加した。

 

bSI Award 2020各カテゴリー優秀賞

図-3 bSI Award 2020各カテゴリー優秀賞(bSIホームページから)

 
□設計:パナマ運河第4ブリッジプロジェクト(中国)
□施工:プロジェクトCelsius (JohannesRis)(スウェーデン)
□ハンドオーバー:Tonsberg病院プロジェクト(ノルウェー)
□資産管理:オークランド空港プロジェクト(ニュージーランド)
□学生研究:スマートBCF(フランス)
□社会人研究:BIMによる安全・健康分野検証(英国)
□テクノロジー: openBIMデータパイプラインツールキット開発(オーストラリア)
□イノベーション:Novo Brdo共同住宅プロジェクト(スロベニア)
□テクノロジーリーダーシップ:IFCモデルサーバusIFCserver (イタリア)
□発注者リーダーシップ:マシンリーダブル分類体系マニュアル(ノルウェー)

 
 

建設デジタルツイン関連の動向

建設プロセスをデジタル化する過程で、BIMが提供する3次元空間情報、4D(時間軸)、5D(コスト情報)はさまざまな情報をつなげる重要な要素となる。製造業から生まれた「デジタルツイン」のコンセプトが、建設業においても建設デジタルツインとして注目されている。2019年の開催されたbSIサミット・ドイツデュッセルドルフ会議以降、製造業で進展してきているデジタルツインの概念がBIMへと拡張されてきており、今回のバーチャルサミット会議においても、デジタルツインに関連する話題が多数発表された。
 
元来製造業におけるデジタルツインは、実際に存在する製品とその製品のデジタルデータ、実空間の状態をセンサーデータ(IoT)として取り込み、製品ライフサイクルを通してデータ解析、シミュレーション、機械学習などを活用して全体最適を図る概念である。bSIにおける建設産業へのデジタルツイン推進の旗振り役の一企業として、独シーメンス社がある。製造業のデジタル化を目指しているIndustrie4.0(インダストリー 4.0)の本拠地ドイツにおいて、シーメンス社のこれまでの製造業におけるデジタルツインは、以下のように定義されている。

 
製品デジタルツイン:
新製品の効率的な設計のためのデジタルツインの活用
 
生産デジタルツイン:
製造と生産計画におけるデジタルツインの活用
 
パフォーマンスデジタル・ツイン:
デジタルツインを活用した運用データの取得、分析、および対処
 
これらのデジタルツインの概念は、BIMにおける設計段階の各種シミュレーション、施工段階における建設現場におけるIoT、3次元点群データとBIMデータ連携、維持管理段階における建物維持管理システム、IoTセンサー情報などとBIMデータ連携と一致している。さらに、運用段階において蓄積されたデジタルツインデータを、新たな設計、施工段階への改善にフィードバックしていくことが、デジタルツインの特徴として挙げられている。
 
これまでのbSIサミットにおいて、建設分野におけるデジタルツインについて、従来の製造業における概念から、以下のような展開が始まってきている。建設デジタルツインの具体的な構成については、第一にBIMが提供する建物のデジタル表現としての3次元モデル情報、第二に建物・インフラを構成する建材・設備などの製品情報、第三に建設中および運用中の建物・インフラ構造物の状況がどのようになっているかというセンサー情報・シミュレーションデータ、という3つの要素から成り立つといえる。このようなデジタルツインにより、その時点での現実空間の状態が把握され、さらに解析、シミュレーションにより現実世界がどのような状態になるかを予測し、その情報に基づいて対処、現実空間の状況を変更していくことが可能となるとされる(図-4)。
 

デジタルツイン全体像

図-4 デジタルツイン全体像(bSIバーチャルサミット2020秋会議資料から)


 
英国では、英国政府のBIMタスクグループのBIM導入の延長線上において、インフラ・建設業をはじめとしたサービスバリューチェーンと資産ライフサイクル全体をデジタル化し、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を目指すため、「デジタル・ビルト・ブリテン(Digital Built Britain)」プログラムを2016年に開始した。この取り組みを推進するためにケンブリッジ大学に設置された Centre forDigital Built Britain(CDBB)が、BIM Level 3以降 を目指すための戦略として、BIM をスマートシティ・デジタルツインの基盤として位置付け、産官学連携のDX推進活動を行っている(図-5)。
 
デジタルツイン構築のための情報管理原則

図-5 デジタルツイン構築のための情報管理原則(英国CDBBのGemini Principles資料から)

 
 

おわりに

本稿では、オンライン会議形式で開催されたbSIバーチャルサミット会議2020秋の概要を紹介した。BIMの展開は、設計、施工フェーズを超えて、製造業、サプライチェーン、インフラストラクチャー、運用・維持管理、スマートシティなどの領域に広がってきている。今回のbSIサミットにおいて、建設分野におけるデジタルツインについての議題がさまざまな分科会で取り上げられ、bSIとデジタルツインコンソーシアムとの協調活動の合意が署名された。今後、BIMとデジタルツイン間の連携についての検討、実証が加速していく状況である。
 
2021年には、3月下旬にbSIサミットがスイス支部の支援によりオンラインカンファレンス形式で開催される予定となっている。bSJでは、bSIサミットにおいて発表された基調講演、分科会(Room)、アワードなどの資料を各委員会やWG活動で分析し、今後の活動に役立てていく予定である。ご興味のある方は、ぜひこれらの活動の原動力となっているbuildingSMARTJapanへ参加し、世界の大きなオープンBIMの潮流へ加わっていただきたい。
 

【参考文献】
●buildingSMART International and DigitalTwin Consortium Sign Memorandum ofUnderstanding:
https://www.buildingsmart.org/buildingsmart-international-and-digital-twin-consortium-sign-memorandum-of-understanding/
 
●buildingSMART Professional Certifi cation:
https://education.buildingsmart.org/
 
●デジタル・ツイン(SIEMENS):
https://www.plm.automation.siemens.com/global/ja/our-story/glossary/digital-twin/24465
 
●Centre for Digital Built Britain:
https://www.cdbb.cam.ac.uk/
 
●buildingSMART International Awards2020:
https://www.buildingsmart.org/bsi-awards-2020
 
 
 

一般社団法人 buildingSMART Japan 理事・技術連携委員会委員長 buildingSMART Fellow
足達 嘉信 博士(工学)

 
 
【出典】


建設ITガイド 2021
BIM/CIM&建築BIMで実現する”建設DX”
建設ITガイド_2021年


 
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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