• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 農業土木 > 農地整備事業の今後の展開方向について

 

農林水産省農村振興局 整備部農地資源課 経営体育成基盤整備推進室

 

1.はじめに

わが国の農業は、農業従事者の減少や高齢化、農業所得の減少等、大変厳しい状況にある。
このような状況の中、わが国の食料自給率の向上を図るとともに、農業の有する多面的機能が将来にわたって発揮されるためには、
担い手への農地集積の加速化や農業の高付加価値化の推進等により、競争力ある農業を展開し、
意欲ある農業者が農業を継続できる環境を整えることが必要である。
そのためには、
生産効率を高めるための農地の大区画化・汎用化や農業経営基盤の強化のための畑地かんがい等といった農業生産基盤整備を、
地域の実情等に応じて実施することが重要になる。
 
本稿では、農地整備事業のうち、とりわけ水田整備に主眼を置き、現状と課題、事業の概要、今後の展開方向について紹介する。
 
 

2.水田整備の現状と課題

全国の水田においては、昭和38年にほ場整備事業が創設されて以降、順次整備が進められている。
しかし現状は、全水田面積247万haの63%に相当する156万haが30a程度以上の区画に整備されているものの、
1ha程度以上の大区画ほ場については22万haと全体の9%にとどまっている。
また、全水田面積の20%に相当する49万haが、輪換畑として利用できない排水不良水田となっており、
米から麦・大豆等への作物の転換に支障をきたしている(図-1)
 

図-1 水田の整備状況

図-1 水田の整備状況


 
こうしたことから、転作作物の団地化や単収・品質の向上、直播栽培の導入等のためには、
農地の区画拡大や排水性等の向上をいかに効率的かつ効果的に推進していくかが課題となっている。
 
 

3.農地整備事業の概要

農地の大区画化や暗渠排水等の整備を推進するための事業としては、
 
①一定規模以上の集団化した地域(20ha以上等)において、区画整理と併せて暗渠排水等の整備を行う事業
②主に区画が整備された水田において、畦畔除去による区画拡大等の二次的整備を行う事業
 
の大きく2つに分けられる。
以下に、各事業について概要を示す。
 

3-1 農業競争力強化基盤整備事業

農地の大区画化・汎用化にあたっては、
ハードの整備のみならず、整備された農地を誰がどのように利用するのかということまで考えて実施しなければならない。
このため、農業競争力強化基盤整備事業の実施にあたっては、面積要件、農業競争力強化基盤整備計画等の作成に加え、
①担い手の農地利用集積率、
②担い手の農地集約化率、
③農業生産法人等の育成および農地利用集積率
のいずれかを要件としている。
 
また、ハード事業(都道府県)と一体的に、
農地利用の集積・集約化を促進するための支援等を行うソフト事業(都道府県等)も可能としており、
中心経営体(「人・農地プラン」において、今後の地域の中心となる経営体に位置づけられているもの)
への農地集積率に応じて促進費を加算等している。
 
平成25年度補正予算から新たに拡充された事項としては、
中山間地域の現状を考慮し、その採択要件を受益面積10ha(経営体育成型は受益面積20ha)とする中山間地域型を追加した。
また、国営農地再編整備事業と一体的に実施する国営事業促進型を追加した(ソフト事業のみ)。
さらに、高度経営体集積促進事業、特定高度経営体集積促進事業、
高度経営体面的集積促進事業および農業生産法人等農地集積促進事業を、
中心経営体農地集積促進事業(促進費)に一本化するとともに、
事業実施主体に土地改良区を追加し、最大12.5%の助成を可能とした(図-2)
 

図-2 農業競争力強化基盤整備事業の概要

図-2 農業競争力強化基盤整備事業の概要


 

3-2 農業基盤整備促進事業

農業基盤整備促進事業は、主に整備済みの農地において、農地の区画狭小、排水不良等の地域が抱える課題にきめ細かく対応するため、
地域の実情を踏まえた農地・農業水利施設等の整備を行う事業であり、
農業者の自力施工等も活用しながら迅速かつ安価な整備を可能としていることが特徴である。
 
事業内容としては、暗渠排水、区画整理等を行う定率助成に加え、
主に整備済み農地(田畑)の簡易な区画拡大や暗渠排水、湧水処理、末端の畑地かんがい施設整備を行う定額助成がある。
事業の実施要件が農業基盤整備計画の策定、総事業費200万円以上、受益者は農業者2者以上と取り組みやすく、
事業の実施主体として都道府県、市町村、土地改良区、農業協同組合、
農地中間管理機構(公的な農地の中間的受け皿)等を想定しており、
地域の整備状況とあわせて弾力的かつ機動的な整備が可能である。
また、中心経営体に集約化する農地については、定額助成単価の加算を行っている。
 
平成25年度補正予算から新たに拡充された事項としては、
定率助成の対象に権利関係、農家意向、農地集積、基盤整備等に関する調査・調整を追加し、
定額助成の対象に畑地の簡易な区画拡大、湧水処理、末端の畑地かんがい施設整備を追加した。
また、事業実施主体に農地中間管理機構を追加するとともに、
農地中間管理機構との連携による事業の推進に柔軟に対応するため、
事業申請等の事務手続きを都道府県経由に一本化し、事業申請期限を原則として前年度の11月末日までとした。
さらに、中心経営体に集約化する農地に対する定額助成単価の2割加算を追加した(図-3)
 

図-3 農業基盤整備促進事業の概要

図-3 農業基盤整備促進事業の概要


 
 

4.今後の展開方向

平成24年3月30日に閣議決定された「土地改良長期計画」では、農地の大区画化・汎用化等による農業の体質強化を政策目標に掲げ、
地域の中心となる経営体への農地集積を加速化するための整備に重点化し、
既に区画が整備されている水田の畦畔除去等による区画拡大や暗渠排水の整備については、
農業者の自力施工等も活用して推進するとされている。
具体的には、平成28年度までに農地の大区画化の整備を約20万ha、
暗渠排水等の整備による農地の汎用化を約16万ha実施する目標を掲げている。
 
また、平成25年6月に閣議決定された「日本再興戦略」および平成25年12月に決定された
「農林水産業・地域の活力創造プラン」において、農業の生産性を高め、成長産業としていくためには、
担い手への農地集積・集約化をさらに加速する必要があるとし、
「今後10年間で、担い手の農地の利用が全農地の8割を占める農業構造の確立」を目指すこととされている。
具体的には、都道府県段階に農地中間管理機構を整備し、これを活用して10年間で140万haの農地を集積することとしている。
 
このようなことからも、今後の農地整備の展開方向としては、「人・農地プラン」および農地中間管理機構と連携をとりつつ、
農業競争力強化基盤整備事業による未整備農地における農地の大区画化・汎用化や
農業基盤整備促進事業による整備済み農地における二次的整備等を、地域の実情に合わせて推進し、
担い手への農地集積を加速化していくことが重要となる。
 
 

5.おわりに

冒頭に述べたように、競争力ある農業を確立するためには、
今後、担い手への農地集積の加速化、農業の高付加価値化の推進により、農業の構造改革を図っていく必要がある。
「人・農地プラン」や農地中間管理機構と連携をとりつつ、地域の実情に即した農地整備を推進していくことが重要であることから、
現場の声に耳を傾けつつ、より使いやすい制度のあり方を検討する必要がある。
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年09月号
特集「農業土木~農地の大区画化・ストックマネジメント~」
積算資料SUPPORT2014年09月号
 
 

最終更新日:2023-07-11

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品