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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 健全な水循環系構築への取り組み《前編》

 

公益社団法人 雨水貯留浸透技術協会 常務理事
忌部 正博

 

1.はじめに

近年、地球温暖化による影響と考えられる局地的な豪雨の発生、
無降雨日数の増加など洪水と渇水の両方の危険度が増大していることが指摘されている。
更に、雨水に関する今般の大きな動きとしては、水循環基本法と雨水の利用の推進に関する法律が挙げられる。
いずれも衆議院を通過して、2013年6月26日の参議院の本会議で採択を行い成立する見通しであったが、
政局の混乱の中、審議未了で廃案となってしまった。
次回の国会で再度取り上げられ、可決されることを期待したい。
 
このような状況を踏まえて、今後の健全な水循環系構築の必要性に鑑み、本稿ではこれまでの試みを振り返る。
 
 

2.行政の動き

「水循環」というキーワードは、全国総合開発計画や環境基本計画等の国の根幹となる計画をはじめとして、
水関係の諸施策の中でも度々登場してきている。
国土計画等における水循環健全化に関する取り組み(図-1)に示すように、
全国総合開発計画は国土形成計画と名称を変えているが、ほぼ10年おきに更新されている。
次回の更新は2018年頃になると思われる。
 

図-1:国土計画等における水循環健全化に関する取り組み

図-1:国土計画等における水循環健全化に関する取り組み


 
前々回の第5次全総から健全な水循環という言葉が登場し、前回の国土形成計画では、物質の循環や生態系の重要性に触れている。
環境基本計画は、6年おきに更新されており、
前回の第4次環境基本計画が2012年に策定されているので、次回は2018年になると思われる。
また、前回の第4次環境基本計画でも表現されているように、
「水循環」はその地理的単位を代表する「流域」という言葉とともに論じられることが多い。
流域単位で水循環を考えるのは、わが国特有のもので、他国にあまり例を見ない。
 
わが国の河川管理は、
洪水・高潮などの水害や地すべり・土石流・急傾斜地崩壊などの土砂災害から人間の生命・財産・生活を守るために、
水系一貫型の治水事業を基本として、進められてきた。
人口の密集した大都市の河川流域では、密集した家屋、建物の屋根、舗装された道路など雨が浸透しにくい面積が増大したことに伴い、
大雨が降ると雨が一気に河川に流れ込み、河川の流下能力を超える洪水流量が発生する危険性が高まっている。
しかしながら、これら人口密集地域では、堤防嵩上げ、河道の掘削・拡幅、遊水池・放水路の建設などの従来の治水方式では、
用地・建設費の確保が難しく、事業化が困難になってきた。
 
そのような状況に鑑み、1977年、河川審議会は、旧建設省(現国土交通省)への答申1)の中で、
都市河川流域における総合的な治水対策の必要性を指摘した。
すなわち、流域内に面的に分散した様々な設置可能場所を見つけて、雨水貯留浸透施設を普及させる必要があるとの見解である。
 
一方、治水対策を中心に進められてきた都市河川については、水資源としての価値が見直されたり、
普段の河川の流量の減少や水質の悪化が指摘されたりして、
旧建設省の1995年度の重点施策の1つとして「都市における適正な水循環系再生への取り組み」が掲げられ、
当時の建設省河川局都市河川室が中心となって、「都市の水循環再生構想策定マニュアル」2)の作成と、
同時並行のケーススタディとして全国6流域を対象に各流域の水循環系再生構想の策定が進められた。
 
このあたりの流れについては、関係省庁における水循環健全化に関する取り組み(図-2)に示される。
 
図-2:関係省庁における水循環系健全化に関する取り組み

図-2:関係省庁における水循環系健全化に関する取り組み


 
同図は、水に関する関係5省(環境省、国土交通省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省)による
手引書「健全な水循環系構築のための計画づくりに向けて」3)の作成、
河川局、水資源部、下水道部、都市局、農林水産省などによる水循環に関わる当時の取り組みの流れを示している。
 
1998年には、河川審議会水循環小委員会より「流域の健全な水循環はいかにあるべきか」と題して中間報告が提出された4)
その中で、今後は流域単位で健全な水循環の構築に向けて水循環マスタープランを策定する必要があることが指摘された。
 
1997年には、1964年以来となる河川法の改正が行われている。
今回の主要な改正点は、従来の「治水」、
「利水」に加え、「河川環境」(水質、景観、生態系等)の整備と保全が目的の1つに追記されたことと、
河川整備にあたって住民の意見を反映することを明記したことである。
 
 

2.代表的な水循環再生計画のその後

図-3:地域における水循環系健全化に関する取り組み

図-3:地域における水循環系健全化に関する取り組み


 
図-3は、地域における水循環系健全化に関する取り組みの経緯を示している。
「都市の水循環再生構想策定マニュアル」2)や手引書「健全な水循環系構築のための計画づくりに向けて」3)に関わり、
多くのモデル調査が実施された。
表-1は、代表的な水循環再生計画策定例の一覧である。
 
表-1:流域全域を対象とした水循環計画の策定例一覧

表-1:流域全域を対象とした水循環計画の策定例一覧


 
以下に、各策定例の概要を述べる。
 

(1)手賀沼水循環回復行動計画(千葉県北西部)

平成11年度から13年度に環境省が実施した「手賀沼水循環回復検討基礎調査」の成果を踏まえ、
平成14年9月以降、学識者、住民代表(地域の環境団体の代表)等で構成する「手賀沼水循環回復行動計画検討委員会」
および県・市町村の行政関係者による「行政部会」において検討を重ね、正式な計画として策定した。
手賀沼とその流域に、かつてあった美しく豊かな環境の再生と環境基準の達成を目指すとしている。
今後は、行政、NPO、県民および事業者が協働・連携して、生活排水等の負荷削減の取組をさらに強化するとともに、
雨水浸透の促進や多様な生物の生息空間の保全など、総合的な水環境の保全のための取組を進めるとしている。
 

(2)印旛沼流域水循環健全化計画(千葉県)

平成13年10月、印旛沼・流域が抱える多くの課題(水質や生物、治水等)を解決するため、
印旛沼、流域の関係者(住民・市民団体、専門家、関係機関、行政等)で構成される
「印旛沼流域水循環健全化会議(通称:健全化会議)」が設立された。
 
平成15年1月には、主に印旛沼内での水質改善対策の検討・実施に特化した「水質改善技術検討会(通称:水質検討会)」も設立し、
流域対策と沼内対策の二本柱で対策を進めることとした。
平成22年1月、平成42年度を目標年次とした水循環健全化計画を策定した。
取り組み内容としては市街地・雨水浸透対策、生活排水対策、環境に優しい農業の推進などが挙げられており、
それぞれのワーキンググループで検討・実施することになっている。
 

(3)海老川流域水循環再生構想、行動計画(船橋市)

「都市の水循環再生構想策定マニュアル」のモデル流域の1つとして、
千葉県、船橋市、鎌ヶ谷市、学識経験者、行政、市民団体からなる「海老川流域水循環再生構想検討協議会」を設置し、
海老川流域の水循環系に関わる課題や水循環系再生のための基本的な施策について検討し、
平成10年3月に「海老川流域水循環再生構想」が策定された。
 
この構想に示された海老川流域の健全な水循環系再生に関わる諸施策を具体的かつ確実に実行していくために、
平成10年10月に学識経験者、行政、市民団体からなる「海老川流域水循環再生推進協議会」を設置し、
行政、市民、企業とのコラボレーションおよび連携を強化し、
三者のパートナーシップに基づいて、それぞれの役割を明確にするとともに、
各種施策の年次計画として平成11年12月に「海老川流域水循環系再生行動計画」をとりまとめた。
 
また、この行動計画をより実効性のある計画とするために、
「海老川流域水循環系再生第二次行動計画」(平成18年3月)に基づき展開されてきた取り組み状況を確認し、
その効果や成果を検証・評価した上で、
平成23年から平成27年までの5年間の計画を「海老川流域水循環系再生第三次行動計画」(平成23年3月)として取りまとめた。
 

(4)神田川流域水循環再生構想(東京都)

「都市の水循環再生構想策定マニュアル」のモデル流域の1つとして、
東京都、流域に関連する区および学識者から構成される流域協議会において検討を重ね、平成10年に構想書を策定した。
 
その後、平成13年12月に都市再生本部が決定した「都市再生プロジェクト(第3次決定)」中に盛り込まれた
「大都市圏の水循環系再生」を実現するために、東京の神田川流域を対象とした水循環系再生構想を策定することを決定。
検討委員会を設立し、平成15年6月に構想を完成させた。
この中で、神田川流域では、本来流域が有していた自然の水循環系の回復や東京湾への負荷
および他流域への依存の軽減に重点を置いた対応を行うことを基本理念とし、
市街化が進行する以前の土地利用を想定した浸透能の回復等の施策を提案している。
 

(5)東川流域水循環再生構想行動計画~柳瀬川流域水循環マスタープランアクションプラン(東京都、埼玉県)

「都市の水循環再生構想策定マニュアル」のモデル流域の1つとして、
埼玉県、所沢市および学識者から構成される協議会において、
平成10年3月に東川流域に関わる構想書、平成13年3月に行動計画が策定された。
 
その後、新河岸川流域の水循環マスタープランに先立ち、支川の柳瀬川流域の水循環マスタープランの検討が始まった。
東川は、柳瀬川の支川にあたるので、東川での検討結果は、柳瀬川の水循環マスタープランに吸収されることとなった。
平成17年3月にマスタープラン、平成21年3月にアクションプランが完成している。
マスタープランの特徴は、目標とする河川流量、水質(BOD)を具体的な数値として挙げていることである。
アクションプランでは、年度毎の予算の裏付けに基づく実行計画は難しいことから、
やれることから取り組む「見試し」の考え方を導入し、行政と市民の協働を重視している。
その前提の上で、緑地の保全、雨水貯留浸透施設の普及を取り組みの柱としている。
 

(6)和泉川水循環再生構想、行動計画(横浜市)

「都市の水循環再生構想策定マニュアル」のモデル流域の1つとして、神奈川県、横浜市、学識経験者からなる協議会を設置し、
和泉川流域の水循環系に関わる課題や水循環系再生のための基本的な施策について検討し、
平成10年3月に「和泉川流域水循環再生構想」が策定された。
 
引き続き、横浜市が中心となり推進会議を設立し、平成14年4月に行動計画が策定された。
この中で、水循環再生の計画目標として、
①「過去」(昭和30年代)の水量、水質を再生する、
②「過去」の清澄な湧水を再生する、
の2つを挙げている。
また、単に「川の水量や水質を豊かにする」といった発想ではなく、
流域を広く覆う関東ロームという「自然の浄化装置を活かした循環型のまちづくり」を推進することを基本理念として掲げている。
 

(7)鶴見川水マスタープラン、各種アクションプラン(横浜市、川崎市、町田市など)

鶴見川に関わる自治体(東京都、神奈川県、横浜市、川崎市、町田市)首長と国交省関東地方整備局長の署名の下に、
平成16年8月に水マスタープランが完成した。
基本課題を
①洪水時水マネジメント、
②平常時水マネジメント、
③自然環境マネジメント、
④震災・火災時マネジメント、
⑤水辺ふれあいマネジメント
の5つに分類して取り組むこととしている。
 
その後、一般(市民、市民団体、企業、行政)が策定・実行するアクションプランと
流域水協議会が策定・実行するアクションプランの2種類の方法で、具体の実行が行われている。
これまでに、アクションプランには、平成19年3月の河川整備計画、水害対策計画が策定されている。
また、平成20年4月には、水遊びのできる水質の実現に向けたアクションプラン、
河川等の水を震災・火災時に活用するアクションプランが策定された。
平成21年3月には、河川等の利用者を増やすアクションプラン、重要種の保全と外来種駆除に向けたアクションプランが策定された。
 

(8)菩提川流域水循環再生構想(奈良市)

「都市の水循環再生構想策定マニュアル」のモデル流域の1つとして、
奈良県、奈良市および学識者から構成される協議会において、平成10年3月に菩提川流域水循環再生構想が策定された。
 
菩提川は、治水改修が完了している一方で、水質は全国ワースト1、2を争う河川として有名で、
平常流量の確保と水質改善が重点目標とされている。
暗渠化されている中流部に地下水を利用したせせらぎ水路を設け、親水空間の創成を行った。
また、多くの人の散策の場になっている猿沢池の南側水路の整備と水量補給を行った。
平成21年度の環境省による水質調査では、ワースト1を脱出した。
BOD75%値は、平成21年度8.5mg/リットル、平成22年度7.8mg/リットルと改善傾向を示している5)
 

(9)寝屋川流域水循環再生構想(大阪府)

平成13年12月に都市再生本部が決定した「都市再生プロジェクト(第3次決定)」中に盛り込まれた
「大都市圏の水循環系再生」を実現するために、大阪の寝屋川流域を対象とした水循環系再生構想を策定することを決定。
検討委員会を設立し、平成15年6月に構想を完成させた。
寝屋川流域では、環境と人間活動のバランスをとりながら、
人間個人のための水から環境に重きを置いた公(おおやけ)のための水に再配分することを基本理念とし、
都市用水を削減することによる環境用水の確保や、下水処理水等の河川や水路等における有効利用等の施策を提案している。
 

参考文献

1)河川審議会:総合的な治水対策の推進方策についての中間答申、1977
2)建設省:都市の水循環再生構想策定マニュアル(案)、29p、1998
3)健全な水循環系構築に関する関係省庁連絡会議:健全な水循環系構築のための計画づくりに向けて、219p、2003
http://www.mlit.go.jp/tochimizushigen/mizsei/junkan/keikakudukuri.htmlからダウンロード可

4)河川審議会:流域の健全な水循環はいかにあるべきか、総合政策委員会水循環小委員会中間報告、1998
5)浦井和弘:菩提川の水質改善に向けて、平成24年度奈良県技術発表会、発表論文、2012
 
 
 
健全な水循環系構築への取り組み《前編》
健全な水循環系構築への取り組み《後編》
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2013年11月号
特集「水の循環─渇水・洪水等を解決する技術・製品」
積算資料SUPPORT2013年11月号
 
 

 

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