はじめに
鞍ケ池公園は愛知県豊田市に位置し,豊田市街地より車で20分,名古屋市からも1時間圏内にあり,東海環状自動車道の鞍ヶ池PAに隣接していることからアクセスしやすい公園である。
1965年に開設し半世紀続く公園で,高度経済成長による人口増加と共に,人と自然が織り成す鞍ケ池公園「四季のさと」というコンセプトで,動物園,植物園,季節の花々を中心に家族が無料で楽しめるファミリー向けの公園として発展してきた。
近年では来園者数が130万人/年を超え,豊田市のシンボルとして親しまれているものの,本事業では広大な公園面積や美しいロケーションなど公園ポテンシャルをさらに引き出し,魅力向上を図るため民間活力を導入することとなった。
少子高齢化による人口の変化やワークライフバランスを考えたビジネススタイルの変化,おしゃれでスマートな暮らしを楽しむライフスタイルの高まりなどで,多様化する社会情勢の変化に対応した新しい「ミライ空間」の創出に向け,2019年12月に豊田市よりP-PFI制度を活用した事業者公募が公告され取り組みを開始した。
1. 鞍ケ池公園の概要
鞍ケ池公園は豊田市の市街地東部にあり,豊かな自然の中にさまざまな施設を有する風致公園である。起伏に富んだ地形を生かして施設が配置され,鞍ヶ池池畔には池を一周する池畔歩道をはじめ,全山芝生の若草山,動物園,観光牧場などがある(写真-1)。
また,市民の休息,散策,運動や動物とのふれあい,子供の遊びの他多様なイベントに利用されるなど,多目的に活用され古くから市民に愛されてきた(表-1)。
写真-1 鞍ケ池公園全景
表-1 鞍ケ池公園の概要
2. 鞍ケ池公園ミライプロジェクト共同企業体の紹介
今回の導入事業における事業項目は大きく5項目あり,各構成企業の強みを生かした取り組みを提案している。
① 公募対象公園施設の設計施工および管理運営
② 公園のゾーニングを踏まえた自主事業による施設の設計施工および管理運営
③ 特定公園施設の設計施工
④ キャンプフィールドの設計施工および管理運営
⑤ 指定管理による園地全体の管理運営(動物園を除く)
当社は,現時点で日本全国167カ所の複合商業施設の開発・運営を中心に展開しおり,公民連携事業の実績が1,000件を超える強みを活かし,特定公園施設の設計施工および本事業全体のマネジメント業務を担うこととした。
本事業では,鞍ケ池池畔に四季の移り変わりを感じながらゆったりと過ごせる新たな公園施設としてカフェを設置する計画を立て,運営者としてスターバックスコーヒージャパン株式会社に協力をいただいた(写真-2)。
自主事業については,少子高齢化の背景から若いファミリー世代以外の新たな来園者層を呼び込むためにシニア世代でも楽しめる乗馬施設を計画し,同市に本社を構え,全国で6カ所の乗馬クラブを運営している有限会社エルミオーレに協力をいただいた。
同社は,大阪市で当社が指定管理業務を行っている花博記念公園鶴見緑地においても構成企業として参画しており,本事業についても積極的に取り組んでいただいた。
キャンプフィールドについては,公園内で宿泊可能なキャンプ場を目指し,全国で官民連携事業を含む7カ所(提案当時)の直営キャンプ場を展開し,世界25カ国で販売展開を行っているアウトドアメーカーである株式会社スノーピークに相談を行った。
官民連携事業として行うキャンプ場は地域活性化に大きく貢献しており,新たなキャンプフィールドの取組みとして興味を持っていただき,構成企業として迎えることができた。
指定管理については,愛知県内を中心に38カ所の指定管理業務を行っており,その内6カ所については,豊田市での業務(いずれも提案当時)を行っているホーメックス株式会社に参加いただいた。
鞍ケ池公園の安全・安心な管理運営を目指す上で迅速な対応が可能である地元企業として加わっていただいた。
指定管理業務の植栽管理業務については,現在の公園の管理水準を維持させる必要性から園内植栽状況に精通している地元企業である株式会社川合造園土木を招き,代表企業を当社とし,鞍ケ池公園ミライプロジェクト共同企業体として本事業に応募することとなった(写真-3,表-2)。
写真-2 園内のカフェ
写真-3 植栽管理
表-2 鞍ケ池公園ミライプロジェクト共同企業体の構成企業と業務
3. 整備に向けた留意事項
本事業は,既存の公園を開園させたままリニューアル整備を行わなければならないことか
ら,来園者の安全および利便性を確保するために豊田市と協議の上,公園各所に工事の計画および立入制限エリアの明示を行った。
また,同市のニュースリリース後の情報については,整備エリアの仮囲いに掲示し,完成パース等の発信を行うようにした。
整備計画については近隣店舗への配慮を考え,店舗近くでは飲食可能な店舗整備をカフェのみとした(鞍ヶ池PA付近のキャンプフィールドには,スノーピーク直営のレストランを整備)(写真-4)。
また,指定管理業務開始以降は,週末の公園内に来園者の利便性向上を目的としてキッチ
ンカーを配置する計画を立てたが,キッチンカーでは既存店舗の取り扱い以外の商品を扱うことでご理解をいただいた(写真-5)。
写真-4 園内レストラン
写真-5 園内キッチンカー
4. 事業進行上の課題と解決
本事業は,公募公告時期が2019年12月であり,新型コロナウイルスのニュースが流れ始めた時期であった。
誰も予期しなかった未曽有の状況下で計画を進めることは,非常に困難であった。
2020年3月末に優先交渉権を獲得したが,共同企業体内でも対応については意見が分かれ,協議が大幅に遅れる結果となった。
また,夏頃には沈静化するのではないかとの見解を大きく裏切り,整備計画自体も大きな変更を余儀なくされた。
大きな課題としては,コロナ禍であっても利用者にとって安全・安心な公園利用を担保することであり,整備計画を全面的に見直した。
キャンプフィールドについては,ニューノーマルに対応するためアウトドアオフィスとしても利用できるようにコンテンツを変更した。
特定公園施設であるサービスセンターは,多くの来園者が訪れることが予想されるため,出入口を二方向確保し,三密を回避できるよう対応を行った。
指定管理業務が開始してからは,緊急事態宣言によるイベント中止リスクを事業者に対して最小限にできるよう豊田市と協議を行い,それぞれにガイドラインを策定し,事業者にとっても積極的に公園を利用できるように取り組んでいる。
5. 完成後の公園の魅力向上点
本年5月1日に無事,鞍ヶ池公園はリニューアルオープンを迎えることができた。新設したカフェについては,店舗内からの池畔の景色がSNSでも多く取り上げられて話題となり,多くの来店者で賑わいを見せている(写真-6)。
キャンプフィールドについてもスノーピークユーザーを中心に順調なスタートを切ることができた(写真-7)。
自主事業として整備した乗馬体験については,事前予約を中心に受付をしており,年配の
方々については,比較的予約の空いている平日に来園いただいている(写真-8)。
本事業により,豊田市を中心に広く一般の方々にも鞍ケ池公園を知っていただくことができた。
雑誌・テレビの影響により,遠方からの来園者も増え,新規整備施設以外の動物園やボートなどの利用者も相乗効果により増えている。
今後は,来園者が何度でも訪れたくなる公園を目指し,ドッグランや,フィールドアスレチックの計画など積極的に事業検討を行う予定である。
また,豊田市が民間活力導入に向けて事業者に希望している方針の一つに「ミライ空間」使いの実現とある。
豊田市は,モノづくりの街として有名であり,鞍ケ池公園を中心に豊田市と企業との協働を考えていく場として新しい公園の活用方法に取り組んでいく。
写真-6 店舗内からの景色
写真-7 キャンプフィールドの宿泊施設
写真-8 乗馬体験
6. Park-PFIへの今後の取組について
当社は,2015年に大阪城PMOに事業参画してから現在まで16件の公園事業に携わっている(指定管理・業務委託等含む)。
社会的共通資本である公園は,社会の公器として地域の多様なニーズが集まり,交流の拠点となる魅力がある。
これからの少子高齢化や生活様式の変化に対し,公園を活用する事で解決策を生み出せると考える。
当社は,今後も積極的に公園事業に取り組み,官民一体となって将来の問題解決をしていきたいと考える。
【出典】
積算資料公表価格版2021年8月号
最終更新日:2023-07-07
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