• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 「バスタプロジェクト」の全国展開に向けて

1 はじめに

新宿駅南口の人工地盤上に整備した「バスタ新宿」が開業して,2021年4月でちょうど5年が経ちました。
バスタ新宿は,JRと一体となった交通ターミナルに高速バスやタクシーの乗降場を集約するなど,乗換えの利便性や快適性を高めるため,道路事業として初めて整備した施設です(写真-1)。
 
このバスタ新宿を契機としてスタートした「バスタプロジェクト」は,鉄道駅周辺などにおいて交通ターミナル(バスタ)等を官民連携により整備し,みち・えき・まちが一体となった新たな空間を創出するとともに,デジタル技術も活用してモビリティも含めたマネジメントを行うことにより,地域の活性化や災害対応の強化等を図る未来志向の取組です。
 
従来の道路事業では,国民の生活や安全を守るために都市間を安全に速く到達する道路網(リンク)の整備を中心に取り組まれてきましたが,交通拠点(ノード)における新たな道路事業であるバスタプロジェクトについて,本稿において紹介します。
 
バスタプロジェクトを通じて,鉄道やバス等の乗継ぎ利便性の向上,待合時の快適性の向上,公共交通の利用促進が図られ,さらには,民間開発とも連携して交通拠点の再整備が促されることにより地域の賑わいが創出される等,経済的な効果も含む多様な効果が期待されます。
 
地域の拠点でもある鉄道駅周辺などにおいて交通ターミナル等を整備する際に,道路空間を立体的にとらえつつ,官民連携により一体的な空間利用を図るなど,「都市開発」,「まちづくり」の要素が含まれます。
また,バスやタクシー・自動車・自転車・歩行者,さらには,未来の自動運転や次世代モビリティ等も見据えて,道路空間を利用するさまざまな交通モードの接続(モーダルコネクト)を強化するものであり,「公共交通」,「モビリティ」の要素も含んでおり,プロジェクトを進める際には,従来の道路事業とは異なる視点・調整が求められます(図-1)。

  • バスタ新宿の外観
    写真-1 バスタ新宿の外観

  • バスタプロジェクトのコンセプト
    図-1 バスタプロジェクトのコンセプト

  • 2 バスタ新宿の整備(バスタプロジェクト第1号)

    まず,バスタプロジェクトの契機となったバスタ新宿の取組について振り返ります。
     
    バスタ新宿が整備される以前は,JR新宿駅の南側を通る甲州街道(国道20号)では長いタクシー待ちの行列が常態化しており,交通混雑の要因となっていました。
    また,新宿駅西口周辺では道路上など19カ所に高速バス停が点在しており,鉄道との乗継ぎなど利便性に課題がある状況となっていました。
    そこで,甲州街道の新宿跨線橋の架替えを行う際に,これら高速バスやタクシーの課題も併せて解決すべく,線路上に構築した人工地盤を活用して高速バスやタクシーの乗降場を集約した施設を国土交通省において整備することとし,バスタ新宿が2016年4月に開業しました。
     
    フロアの構成は,甲州街道と同じ人工地盤上(2階)はJRの改札口,3階は主に高速バスの降車場所(3バース)とタクシーの乗降場所,4階は高速バスの乗車場所(12バース)となっています。
    その他の施設として,3階には外国人にも対応した観光案内センター,4階には主に高速バスの利用者向けの案内所やチケットカウンター,待合所のほか,待ち時間に利用できるコンビニや土産物屋が入っており,また,隣接する商業施設にもアクセスできる構造になっています。
    これら施設のうち,車両動線や乗降場・待合所,通路などの空間を対象として,2〜4階に立体的に道路区域を設定しています(図-2)。
     
    利用状況について,現在は新型コロナウイルス感染症に伴う移動自粛等の影響により,高速バスの利用者数は減少していますが,バスタ新宿には100社を超える高速バスが乗り入れており,開業以降の平均で1日約1,500便の高速バスが発着し,約3万人が乗降しています。
    高速バスを通じて大阪や名古屋,仙台など全国各地とつながる東京の玄関口であり,バスタ新宿は広域的な公共交通ネットワークを支える拠点となっています。
     
    また,バスタ新宿では,供用以降もさらなる利便性向上に努めており,利用実態に合わせてトイレやベンチなどの設備を増設・改修したほか,ETC2.0データを活用したバスロケーション情報の提供,また,障害当事者とのバリアフリー勉強会を通じた継続的な運用改善も行っています。
    さらに,貨客混載により高速バスで運搬した農産物を前面歩道上のイベントで提供するといった取組も行っています(図-3)。

  • バスタ新宿のフロア構成
    図-2 バスタ新宿のフロア構成
  • バスタ新宿のフロア構成

  • バスタ新宿における利便性向上の取組
    図-3 バスタ新宿における利便性向上の取組

  •  

    3 各地でのバスタプロジェクトの展開

    従来の道路事業は,高速道路など道路網(リンク)の拡充が中心でしたが,道路ネットワークの機能を最大限発現させるためには,リンクに加えて拠点(ノード)も強化し,さらに,それら全体を平常時・災害時それぞれにマネジメントすることが不可欠です(図-4)。
     
    ここでいう拠点の取組の一例が,交通拠点の機能強化を図るバスタプロジェクトですが,モビリティの環境が大きく変化する中にあっても,交通ターミナル等のハード整備に当たっては将来の社会像を見据えた慎重な対応が求められます。
     
    例えば,近年の道路におけるモビリティの状況をみても,カーシェアリングの利用者や高速バスの利用者が増加するなど大きな変化が起きており,今後も自動運転車やマイクロモビリティなど新たなモビリティ,さらには,ICTを背景としたMaaSなど新たなサービスの展開が見込まれ,これらの実装に向けて実証実験などの取組が各地域において進められています。
     
    一方,これらモビリティを支える交通ターミナル等のハード整備は,完成・供用までに一定の時間を要することから,これらモビリティの変化など将来の動向を予見した上で先取りするとともに,その過渡期においても柔軟に対応していくことが求められます。
     
    このような事業の難しさ・複雑さも抱えるプロジェクトですが,バスタ新宿を皮切りとして,各地の交通拠点においても順次展開しています。
     
    2019年度に品川駅西口,2020年度に新潟駅,神戸三宮駅,そして,2021年度には追浜駅(神奈川県横須賀市),近鉄四日市駅(三重県四日市市),呉駅(広島県呉市)の周辺において交通ターミナル整備事業を事業化し,現時点で計6地区において事業を進めています。
    並行して,交通拠点の機能強化の必要性等の調査を,鉄道駅や高速IC周辺など13地区において進めているところです(図-5,6)。
     
    バスタプロジェクトは,必ずしも新宿のような大都市の巨大な鉄道駅だけを対象としているものではなく,地方部の交通拠点も含めて幅広く展開し,また,地域の実情に合わせて高速バスやタクシーだけでなく,地域の路線バスやシェアサイクル,新たなモビリティなど多様な交通モードも対象としており,プロジェクトの幅を徐々に拡大しています。

  • 新広域道路交通計画の策定(リンク×ノード×マネジメント)
    図-4 新広域道路交通計画の策定(リンク×ノード×マネジメント)

  • バスタプロジェクトの経緯
    図-5 バスタプロジェクトの経緯

  • バスタプロジェクトマップ
    図-6 バスタプロジェクトマップ

  •  

    4 特定車両停留施設の創設(道路法改正)

    今般,バスタプロジェクトを推進するに当たり,2020年5月に道路法を改正し,バス・タクシー等の事業者専用の「特定車両停留施設」を道路附属物に位置付けるとともに,その管理運営についてコンセッション(公共施設等運営権)方式を活用できるよう,規定を設けました(図-7)。
     
    先行事例であるバスタ新宿は,道路法上の位置付けは自動車駐車場であるため,一般車両の利用を禁止することができず,現状は一般車両の方には進入を控えていただくようお願いする形で運用しています。
    また,施設の運営については,高速バスに関する部分は兼用工作物管理協定を締結している新宿高速バスターミナル株式会社が行っている一方で,コンビニや土産物屋は国自ら占用入札を行っており,官民連携による施設全体のマネジメントの観点からは課題がある状況となっていました。
     
    このような状況に対して,今回創設した特定車両停留施設は,道路上での旅客の乗降または貨物の積卸しによる交通阻害の解消を目的として設置する施設であり,利用できる車両の種類を指定した上で,利用に先立って道路管理者の許可を要することとしたため,一般車両の利用を法令上禁止できるようになりました。
    また,施設の管理運営に当たってコンセッション方式を導入することを可能とし,運営権者がバス事業者等から,直接,利用料金を徴収できるよう規定しており,民間事業者が自らのノウハウを活用してテナントの配置等ができるようになりました(図-8)。
     
    なお,特定車両停留施設の構造や設備の基準については,今回新設した国土交通省令に示されており,構造耐力や有効高,幅員等の基準を定めているほか,従来のバスターミナルにはない努力規定を定めています。
    具体的には,公共交通機関相互の乗継ぎを行う旅客の利便の増進に資するような施設配置・動線とすることや,災害時に帰宅困難者等が一時的に滞在できる構造にすること,交通手段や避難所の情報等を提供する設備を設置することについても規定されています。
    併せて,旅客が利用する空間については,バリアフリー法に基づくハード基準やソフト基準への適合等も義務付けられています。

  • バスタプロジェクトマップ
    図-7 特定車両停留施設の概要

  • バスタプロジェクトマップ
    図-8 バスタ新宿のスキームとコンセッションの比較

  •  

    5 さらなるプロジェクトの展開に向けて

    バスタプロジェクトを推進するに当たっての環境整備として,前述の法令改正に加えて,道路管理者向けに検討の手順などを解説したガイドラインの作成も行っています。
     
    2020年9月にバスタプロジェクト推進検討会(座長:東京大学大学院羽藤英二教授)を道路局に設置し,交通拠点の機能強化に関する計画等を策定し,取組を進めるに当たっての考え方や留意点を整理して,2021年4月に「交通拠点の機能強化に関する計画ガイドライン」をとりまとめました(表-1)。
     
    ガイドラインの「第1部:計画編」では,道路ネットワークにおける交通拠点の意義や機能などを整理し,「第2部:実務編」では,実際に交通拠点の機能強化を進める際のステップを4段階に分けた上で,各ステップで検討すべき事項や留意点等を事例も交えつつ解説しています。
    特に,「計画段階」において事業計画をとりまとめる際に整理すべき事項(施設内容,空間配置,動線,事業区分,管理運営,整備効果等)について,詳しく記述しています。
    また,「事業化段階」におけるさまざまな場面での官民連携方法(設計コンペ,維持管理協定,PFIなど)について,「管理運営」におけるデータ活用や災害時の交通マネジメント等についても紹介しています(図-9)。
     
    このガイドラインを活用することで,拠点事業になじみのない道路管理者でも交通拠点の機能強化に取り組みやすくするとともに,さらなるプロジェクト推進に資するよう,事例の蓄積を踏まえて,特に事業化段階以降の記載内容を一層充実させていく予定です。
     

  • バスタプロジェクトマップ
    表-1 検討会の構成員名簿 【◎座長(敬称略)】

  • ガイドラインの構成~事業の4つのステップ~
    図-9 ガイドラインの構成~事業の4つのステップ~

  •  

    6 おわりに

    バスタプロジェクトはスタートしてからの年月が浅く,現時点で供用しているのはバスタ新宿の1施設のみですが,今後,その他の事業が進捗して徐々に供用する施設も増えていきます。
    これら施設が交通拠点としての機能を十分に発揮し,また,多くの人々が行き交う賑わいのある空間づくりとするためには,管理運営をいかに実施していくかは重要な課題です。
     
    さらに,交通ターミナル間を結ぶ高速バス等のネットワークをどのようにして形成するか,交通ターミナルだけでなくモビリティ・ハブやデポを含む交通拠点の階層をいかに構築していくか,その際に施設やモビリティのデータをどのように取得・活用することができるのか,あるいは,災害時の代替輸送の確保や帰宅困難者対策など地域の防災対策をどう実効性のあるものにできるのかといったように,今後バスタプロジェクトを展開していく上で具体的に検討して解決策を見出すべき課題は山積している状況です。
     
    そのため,前述の検討会における有識者の方々や関係しうる交通や土木・建築等の各業界の方々のご意見を伺いつつ,また,個別のプロジェクトで得られる知見も集積しながら,継続的にこれらの課題に取り組んでいく必要があります。
     
    また,実際に個別のプロジェクトを進めるに当たっては,それぞれの地域に合った形で交通拠点をデザインする必要がありますが,関係者・調整すべき事項が多岐にわたるため,キーマンを含めた体制づくりが不可欠であり,高度な調整を図りながら厳格なプロジェクト管理が求められます。
    今後も,事例を積み重ねつつ知見をガイドライン等として体系的に整理しながら,バスタプロジェクトの進化を図ってまいります。
     


     
     
     

    国土交通省 道路局 企画課 評価室
    原田 洋平(はらだ ようへい)

     
     
    【出典】


    積算資料2021年9月号



     
     

    最終更新日:2021-12-27

     

    同じカテゴリの新着記事

    ピックアップ電子カタログ

    最新の記事5件

    カテゴリ一覧

    話題の新商品