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1 はじめに

2021年6月25日に総務省は2020年の国勢調査の結果(速報値)を発表した。
日本の総人口は1億2,622万6,568人となり,前回の2015年の国勢調査から86万8,177人(0.68%)の減少となった。
都道府県別でみると,埼玉,東京,千葉,神奈川,大阪,愛知,福岡,滋賀,沖縄の9都府県は増加している。
一方で38道府県は減少となった。
 
人口減少が進む中において,まちづくりをどのように進めていけばよいのだろうか。
国内には,好事例のまちづくりが数多く存在していることから,本稿にてこれらを紹介していきたい。
 
 

2 まちづくりの視点

まずは,良いまちづくりに共通する3つの視点について言及する。
 
第1に,「ないものねだりではなく,あるもの探し」である。
まちづくりを成功の軌道に乗せるためには,今ある地域資源に注目する必要がある。
格言に「足下を掘れ,そこに泉あり」がある。
ことわざにも「灯台もと暗し」がある。
往々にして重要な要素は身近にあるものだ。
 
今日,「ないものねだりではなく,あるもの探し」を基本として,まちづくりを成功させた事例は枚挙に暇がない。
例えば阿智村(長野県)の「星空観賞」,五所川原市(青森県)の「地吹雪体験」,宇都宮市(栃木県)の「餃子」などは有名である。
いずれも「ないものねだりではなく,あるもの探し」である。
 
第2に,地域を構成する多様な主体との「協働」が志向されている点も指摘しておきたい。
特に筆者は「協働」という2文字に注目する。
前者の「協」を分解する。
「協」の字に注目すると,右に3つの「力」がある。
これは,自治体の力,住民の力,事業者の力,と捉えることができる。
自治体,住民,事業者は地域を構成する重要な3主体である。
この3つの力が,「協」の左にあるように「+」(足される)のである。
3つ主体の力が足されて,一緒に働いていく─そういう意味が「協働」にあると解している。
 
後者の「働」という言葉にも価値を見い出したい。
この「働」には多くの語源がある。
その一つに「「傍(はた)」の人が「楽(らく)」になる」がある。
すなわち,3つの主体の力が加わり,その状況をみていた傍(周り)の人たちが楽しくなり,「自分もその活動に参加しよう」と広がっていく思想が含まれている。
まちづくりは協働の思想が大切である。
 
第3に,「主観のまちづくり」も指摘したい。
今までは「客観のまちづくり」に重きが置かれていたように思う。
客観のまちづくりとは量的志向が基本である。
それは「客観的に数字等で判断できるまちづくり」である。
具体的には,地域経済の成長「率」や観光客「数」など数字による成否を捉える考えである。
少しでも数字をよくしようと,まちづくりに取り組んできたきらいがある。
 
これからの時代は「主観のまちづくり」への思考への転換が必要と考える。
主観のまちづくりとは「(参加した)個人の価値観に依存したまちづくり」である。
数字では明確に把握できないが,その地域の住民が得る幸福感ともいえる。
幸福感は一人一人異なる。
それは数字では把握することはできない。
すなわち「自分が満足すればそれでいい」というのが,主観のまちづくりである。

 
 

3 まちづくりの事例

3-1 境港市の水木しげるロード

境港市(鳥取県)の事例を紹介する。1980年代後半は,都市圏を中心にバブル経済により活性化していた。
しかし,同市は地域が停滞しつつあり,新しい方向性を模索していた。
地域が衰退しつつある現状を打破するために,商店街の活性化の一つとして「ゲゲゲの鬼太郎」や「妖怪」をキーワードとした「水木しげるロード」が登場してきた。
当初の計画は,観光客を対象としていなかった。
あくまでも地元住民を商店街へ誘い込む事業を意図していた。
ところが,結果的には観光振興となり,地域活性化を実現させた好事例である。
 
水木しげるロードには,約800mの商店街の道筋に写真−1,2のように鬼太郎をはじめ177体の妖怪ブロンズ像が整備されている。
鬼太郎たち妖怪を採用したのは,漫画家の水木しげる氏の出身地だからである。
 
水木しげるロードの観光入込客数を確認すると,1993年にオープンし,1998年に約40万人となり,2010年には約370万人にまで増えている。
2010年に増加した理由は,NHK連続テレビ小説で「ゲゲゲの女房」が放送されたからである。
年間約370万人もの観光客が訪問する事実は,1日約1万人の定住人口が増加したともいえる。
同市は人口3万人強の小都市である。
そこに1日約1万人の観光客が加わることは,地域活性化に関して良い効果がある。
 
水木しげるロードの成功要因は多くが語られる。
その中で指摘しておきたいのは,地域を構成する3主体の協働があったからである。
まずは「自治体」によるブロンズ像の整備からはじまり,その後「事業者」による多様な事業活動に展開していった(写真−3)。
続いて「地元住民」が中心となり,多くのイベントを行っている。
 
自治体,事業者,地元住民が境港市のポテンシャルを再発見し,協働して「水木しげるロード」を盛り上げた点が成功の一要因と考えられる。
その背景には「疲労する境港を再活性化したい」という共通の目標があったからである。

  • 目玉おやじの街灯
    写真−1 目玉おやじの街灯】
  • 目玉おやじの街灯
    写真−2 鬼太郎の妖怪ブロンズ像】

  • 妖怪ならではの夜間照明
    写真−3 妖怪ならではの夜間照明】
    出典:境港市  ©水木プロ

  • 3-2 川崎市の工場夜景・スタディーツーリズム

    川崎市(神奈川県)は京浜工業地帯を抱え,多くの工場が立地している。
    工業地帯の夜景は「幻想的」であると話題になった。
    そこに目を付け,2008年に川崎産業観光モニターツアーの一貫として「ドラマチック工場夜景ツアー」を試験的に実施した。
    なお,産業観光とは,当該地域にある特有の産業に係るもの(工場や製品,職員など)に加え,過去の工場跡や産業発祥地などの産業遺産を観光資源とする旅行を意味する。
    同市の取り組みは「工場夜景」とも称されている(写真−4〜6)。
     
    工場夜景の反響は大きく,2010年4月から民間会社の協力を得てバスツアーの定期運行を開始している。
    2011年2月には,川崎市において全国初となる「第1回全国工場夜景サミット」が開催された。
    同サミットは,工場夜景観光を推進する都市が対象となっている。
    開催当初は4都市(川崎市,室蘭市,四日市市,北九州市)であった。
    現在は10都市を超えている。
     
    コロナ禍により,工場夜景の実際の体験は縮小しつつある。
    しかし,民間企業の動画配信サービスと協働し,リモートでの工場夜景ツアーを実施している。
     
    川崎市のまちづくりは工場夜景だけではない。
    そのほか市内にある産業遺産や先端技術を体験できる観光を展開している。
    これらの観光は「スタディーツーリズム」(Study Tourism)と称されている。
    スタディーツーリズムを直訳すると「教育旅行」となる。
    しかし,一般的な教育旅行とはニュアンスが異なる。
     
    本来,教育旅行とは,学校などで行われる旅行(例えば修学旅行など)を意味している。
    川崎市の実施するスタディーツーリズムは,教育旅行よりも広い概念を持つ。
    その意味は「観光を通して学習活動を経験することで,知見を豊かにするツアー(催し物)」と定義できる。

  • 工場夜景1
    写真−4 工場夜景1】
  • 工場夜景2
    写真−5 工場夜景2】

  • 工場夜景3
    写真−6 工場夜景3】
    出典:川崎市シティプロモーション推進室

  • 3-3 春日部市の官学連携団地活性化推進事業

    春日部市(埼玉県)には武里団地がある。
    武里団地は1966年から入居が開始され,当時は「東洋一のマンモス団地」と称されていた(写真−7)。
    現在は,国内にある他の団地と同様に「高齢化」という課題に直面している。
     
    春日部市は官学連携団地活性化推進事業を実施している。
    同事業は,大学生に武里団地に住んでもらい,地域貢献活動を実施することを条件に,家賃や大学への通学のための助成を実施している。
    同事業は多くの注目を集めており,取材や視察などが多い。
     
    地域貢献活動は,大学生の自由な発想の下,実施されており,春日部市が青写真を描いて押し付ける内容ではない。
    武里団地で生活する住民が笑顔になれる活動を意図している。
    例えば,地域活動への参加・手伝い(文化祭,ふれあい喫茶など),交流イベントの企画・実施,団地住民への日常生活支援などが該当する(注)。
     
    具体的には,武里団地自治会協議会が主催する「武里団地けやき祭り」に大学生が参加し,出店協力や会場アナウンスなどを手伝っている。
    写真−8〜10は,同団地で実施されたキャンドルナイトの様子で,武里団地に賑わいや地域のつながりを取り戻すことを目指し,大学生が団地自治会と連携して実施した。
     
    現在はコロナ禍のため地域貢献活動がやや停滞気味であるが,春日部市は新たな官学連携団地活性化推進事業を模索している。
     

  • 武里団地
    写真−7 武里団地】
    出典:春日部市

  • キャンドルナイトを企画する様子
    写真−8 キャンドルナイトを企画する様子】
    出典:春日部市

  • 「1万人のキャンドルナイト」ポスター
    写真−9 「1万人のキャンドルナイト」ポスター】
    出典:日本工業大学

  • 自治会と学生たちが協力したキャンドルナイト
    写真−9 自治会と学生たちが協力したキャンドルナイト】
    出典:春日部市

  • 4 おわりに

    現在,日本が歩んでいる「縮小時代」は,多くの分野においてルールや価値観の劇的な変化を促している。
    まちづくりにおいても同様である。
    視点を「外」に向けるのではなく,「内」に求めることが重要だろう(ないものねだりではなく,あるもの探し)。
    また地域に存在するさまざまな主体が共通の目標を見い出し,力を合わせることも大切である(協働)。
    さらに客観ではなく主観に価値を置くことがまちづくりを成功の軌道に乗せるだろう。
    新しい,かつ良いまちづくりの方向性として,この3つの視点を内包した取り組みを実施したらどうだろうか。

     


    (注)関心を持たれた読者は,次のURLを参照していただきたい。
    https://www.city.kasukabe.lg.jp/bunka_sports/sankangaku/danchikasseika/r1.html
     

    牧瀬 稔(まきせ みのる)

    法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。民間シンクタンク,横須賀市役所(横須賀市都市政策研究所),公益財団法人 日本都市センター研究室(総務省外郭団体),一般財団法人 地域開発研究所(国土交通省外郭団体)を経て,2017年4月より関東学院大学法学部地域創生学科准教授。現在,社会情報大学院大学特任教授等を兼ねる。北上市,日光市,ひたちなか市,春日部市,東大和市,新宿区,西条市,美郷町等の政策アドバイザー,厚木市自治基本条例推進委員会委員(会長),相模原市緑区区民会議委員(会長),スポーツ庁参事官付技術審査委員会技術審査専門員等を歴任。「地域づくりのヒント」(社会情報大学院大学出版部),「共感される政策をデザインする」(東京法令出版),「地域創生を成功させた20の方法」(秀和システム)など,自治体関連の著書多数。
    牧瀬稔研究室 https://makise.biz/

     
     
     

    関東学院大学法学部准教授・社会情報大学院大学特任教授
    牧瀬 稔(まきせ みのる)

     

     
     
    【出典】


    積算資料2021年10月号


     

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