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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 構造物とりこわし・解体工法 > 新時代の「解体工事業」の確立に向けた取り組みと展望《前編》

 

日本大学生産工学部建築工学科教授
湯浅 昇

 

1.建設業法改正で「解体工事業」が新しい許可業種に

建設業法は、1971年に建設業を「登録制」から「許可制」に切り替え、
許可業種区分として、総合2業種(土木・建築)、専門26業種の計28業種が規定されました。
解体工事は「とび・土工工事業」に含まれ、
一式工事の土木工事業、建築工事業、とび・土工工事業の間に埋没したまま、43年という長い月日を過ごしてきました。
 
劣悪な労働環境や労働条件が労働者を危険にさらす最大の要因となっており、
解体工事中の重大事故の発生を防止するうえでも、
解体工事業を独立した許可業種として追加することは、解体工事業界の長年の悲願であり、
全国の解体工事業者で構成される全国解体工事業団体連合会(全解工連)は国に何度も訴えかけてきました。
20年前の全解工連の発足も、これが契機だったのです。
 
そして、今年6月、改正建設業法が国会で成立し、晴れて解体工事業が許可業種として独立することが決まりました。
研究者という第三者の立場で見ても、これは大変喜ばしいことです。
 
解体工事の業種区分は、現行の「とび・土工工事業」から分離独立する形で、
全体で29番目(専門業種として27番目)の業種として設けられました(図-1)
 

図-1 改正建設業法における業種区分の新設

図-1 改正建設業法における業種区分の新設


 
解体だけを手掛ける専門の業種であり、土木や建築の全体計画の中で行われる解体工事はそれぞれの「一式工事」区分で対応します。
1件500万円以上の解体工事を実施する場合は許可取得が必要になります。
 
解体工事業許可については、公布日から2年以内に施行される予定です。
施工日時点で「とび・土工工事業」「コンクリート工事」の許可を受けて解体工事を営んでいる建設業者は、
引き続き3年間、したがって公布日から5年間程度は、解体工事業の許可を受けずに解体工事を施工できます。
その間に順次、解体工事業としての許可登録を進めていくことになります。
 
これからは解体工事に配置される技術者に求められる技術・知識を認定する資格制度の確立に向けた検討が焦眉の急となります。
国土交通省において7月30日に「解体工事の適正な施工確保に関する検討会」が立ち上げられ、私も委員として参加しています。
 
 

2.解体工事中の事故を未然に防ぐ

今回、解体工事業の業種区分が新設されたことで、解体工事の安全管理に対するハードルもさらに一段上がりました。
 
「作る」側の安全は確立されていますが、「壊す」側の安全はまだ十分とは言えません。
統計的にみると、簡単には比較できませんが、解体工事は新築工事に比べ事故の発生割合が多いと言えます。
事故には公衆災害と労働災害がありますが、工事当事者以外の第三者に危害が及ぶ公衆災害だけは絶対に起こしてはなりません。
 
解体工事の事故の原因を探っていくと、そのほとんどは「管理」の部分で発生しています。
解体工事に対する技術的な理解が足りないということではなく、
「たぶん大丈夫だろう」といった、ちょっとした不注意やケアレスミスが大きな事故につながってしまいます。
国土交通省はそこを問題にしていて、今回の「解体工事業」の業種区分により、事故防止を確立していこうということです。
 
管理マニュアルも整備されていて、全解工連では、これらの解体工事に関わる事故原因を分析し、
その発生を未然に防ぐべく地道な活動を続けています。
「解体工事施工技士」(国土交通省令に基づく登録試験)資格試験や、解体工事施工技術講習を実施しているほか、
平成20年には「解体工事KYTシート集」というビジュアルなテキストもまとめています。
イラストで現場の状況を提示し、その状況において考えられるリスク、発生するかもしれない事故を予測し、
事前にどういう配慮をすればよいかを自分の頭で考えられるように編集されています。
私個人としては、非常に優れた資料だと思っています。
 
 

3.解体工事の技術開発

さまざまな解体工法がありますが(表-1)、解体工事業者は多くの種類の資機材を保有していて、
対象となる建築物の規模や形状、構造、立地条件などに応じて、
どの解体工法を採用するか、受注した解体工事業者が判断して決定しています。
 

表-1 解体工法の分類

表-1 解体工法の分類


 
そして、それぞれの資機材や工法において、
解体工事業者が日々の解体工事を通して感じている技術的な課題についても、改善に向けて地道に活動しています。
 
例えば、「三角倒し解体工法」は、壁式ラーメン構造の外壁の解体において、
柱・壁の上部を圧砕機で内側に引っ張って三角形に折り曲げ、上部から破砕解体する工法です。
外壁が外側に落下することがないという大きな利点があります。
 
また、都市部の高層建築物では、
油圧ショベルを最上階のスラブ上に設置し、上部から順次解体していく「階上解体工法」が用いられます。
油圧ショベルを支持するためにサポートパイプで上下層スラブを接続し、複数層で支持します。
このサポートパイプの代わりに無筋コンクリートを打設しておき、後で床版ごと解体するという方法もあります。
無筋だから壊しやすいし、きちんとペイするとのことです。
 
全解工連では、研究助成金を提供して、解体技術の進化に向けた取り組みを行っており、
年に一回、その成果をまとめた研究発表会を開催しています。
この助成金を私の研究室も利用しています。
こうして開発された技術を業界で共有し、共通の技術体系に組み込んでいくことで業界全体のレベルアップが期待されます。
 
解体工法の研究は、ゼネコンとの共同研究という側面もありますが、
解体技術そのものは解体工事業者が保有し蓄積しているものなので、
ゼネコンとしては、それをシステム化したり、仕組みを考えたりするということで、お互いの役割分担が出来ているようです。
近年、社会の注目を集めた赤坂プリンスホテルの解体工事でも、
全体のシステムを構築したのはゼネコンですが、
破砕したり切断したりする要素技術の部分は解体工事業者が一手に担当していました。
 
NETIS(国土交通省新技術情報提供システム)では、「構造物とりこわし工」として約60件登録されており、
アタッチメント(低騒音・低振動)、コンクリートカッティング、破砕剤などが登録されています。
解体工事業者が自ら開発し、登録している新技術もあります。
 
ただ、解体工事業界では、既存の技術、中でも「圧砕」が最も使われています。
だいたいの建築物は圧砕で対応可能で、泥くさいけれども最も効率が良い。
圧砕で歯が立たない場合に、別の方法を考慮するという形が多いようです。
ワイヤーソーや手こわしなども大事な技術ですが、あくまで補助的な位置づけです。
圧砕に多くの経験値を積み重ねているので、新技術を積極的に採用していくモチベーションはあまり高くないかもしれません。
 
振り返れば、圧砕工法もかつては新技術だったわけです(図-2)
 
図-2 鉄筋コンクリート構造物の解体工法の変遷

図-2 鉄筋コンクリート構造物の解体工法の変遷


 
コンクリートをノミで壊すところから解体工法は始まったわけで、それを圧砕に進化させるまでに、大変な進歩がありました。
それ以上の大幅な進化は、もう望めないかもしれません。
 
 
 
新時代の「解体工事業」の確立に向けた取り組みと展望《前編》
新時代の「解体工事業」の確立に向けた取り組みと展望《後編》
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年10月号
特集「「解体」の最新技術」
積算資料SUPPORT2014年10月号
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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