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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 構造物とりこわし・解体工法 > 新時代の「解体工事業」の確立に向けた取り組みと展望《後編》

 

日本大学生産工学部建築工学科教授
湯浅 昇

 

4.解体工法のこれからの課題について

私は、これからの解体工法の課題として、次の3つがあると思います。
①高層化、②高強度化、③福島第一原発廃炉への対応です。
 

4-1 高層化への対応

超大手ゼネコンでは、ここ5年くらいの間に、超高層ビルの解体工法を一斉に開発・実用化しました。
詳細は、別稿のCOLUMNをご覧いただくとして、上から壊す、下から壊すという違いはあれ、全体として共通する部分が感じられます。
おそらくゼネコン各社は、騒音・振動対策、廃棄物対策などを含め、今までの解体工事のままではだめだと思っていて、
新しい解体工事の戦略を、超高層ビルを題材としてアピールしようとしたのかもしれません。
 
ただ、これらの工法は鉄骨造を想定しており、
鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建築物にそのまま適用することは不可能です。
 
都市部の高層建築物は、他の建築物と近接していることが多く、解体工事の施工条件が大変厳しくなります。
騒音・振動、副産物の搬出などによる周辺環境への影響を最小限にとどめ、
アスベストやダイオキシンなどの有害物質の飛散にも配慮しなければなりません。
超高層ビルの解体では、解体階をパネル等で覆って外部への飛散を防ぎ、
閉鎖的な施工環境で解体工事を実施しますが、最近では中高層の建築物でも同様の対処になってきています。
防音パネルについては、特に解体工事用の特殊なものは開発されていないので、従来の一般的な防音パネルで対応しています。
 

4-2 高強度化への対応

通常の鉄筋コンクリート建築物ではコンクリートの圧縮強度は18~36N/㎟が標準ですが、
コンクリート技術の進化とともに、60N/㎟クラスの高強度コンクリートが広がり、
現在は150N/㎟を超える超高強度コンクリートも実用化されています。
かつて超高層建築は鉄骨造がメインでしたが、コンクリートの高強度化・超高強度化が進んだことから、
とくに集合住宅などでは、居住性などの点でメリットが大きい高強度鉄筋コンクリート造が主流になっています。
 
鉄骨造であれば、鉄骨部材を切断することで解体しますが、
鉄筋コンクリート造ではコンクリートを圧砕しながら並行して鉄筋を切断する方法が一般的です。
しかし、コンクリートが高強度化し、鉄筋も太径化すれば、その破砕も切断も困難になります。
機械の損耗も早くなり、施工効率も落ちます。
 
私も大学の研究室で、150~180N/㎟クラスの試験体を作製して実験を行っています。
結論としては、現行の圧砕技術でも対応できます。
なぜならば、圧砕が圧縮力ではなく引張力のメカニズムで破壊させる工法のためです
(コンクリートは圧縮強度が高くなっても引張強度はさほど高くなっていきません)。
ただし、いろいろ技術的な課題はあります。
現在はまだ小さな試験体での実験にとどまっていますが、今後、柱サイズくらいの実物大の試験体で実験する必要があります。
 

4-3 福島第一原発廃炉への対応

原子力発電所の建屋は部材が非常に厚いマスコンであり、通常の建築物とは条件が違います。
原子力発電所建屋の解体工法は、すでに笠井芳夫先生が中心になってまとめた指針があるのですが、
これは平時を想定した内容であり、地震で壊れた原子炉およびその建屋を想定していません。
 
被災初期において、放射線の線量が非常に高い中で、
分厚い鉛シートで全身を覆いながら、決死のガレキ除却作業に解体工事業者さんが協力されたと聞いています。
本当に頭が下がります。福島第一原発の廃炉、それは解体工事が要となります。
原子炉の損傷を正確に把握し、放射能を外部に拡散することなく、作業者が危険にさらされることのない解体技術の開発が不可欠です。
私も協力できることは協力したいとは思っています。
 
 

5.土木構造物の解体

道路、橋梁、トンネル、上下水道などの土木構造物は、建築物と比べると、解体については与条件がかなり異なります。
建築物には耐用年数とは別に「陳腐化」という尺度があり、
構造体として健全であっても使い勝手が悪い建築物であれば、社会的寿命が尽きたということで解体される可能性があります。
スクラップアンドビルドからの脱却という命題がありますから、昔ほどではないとしても、最後は壊すことになります。
市街地でも、小さい敷地を集約して大きな建築物に建て替えたりしています。
一方、土木構造物は用途的に陳腐化するということはあまりありません。
 
実際問題として、土木構造物においては、解体せずに維持補修して寿命を延ばすということに主眼が置かれています。
解体するというのは、本当に最後の選択になります。
さらに、供用を停止した後、必ずしも解体するとは限りません。
トンネルにしても橋にしても、解体せずにそのままにしておくことも可能です。
トンネルは入り口を封鎖することで済ますこともありますし、
橋梁は危険な上部構造だけ撤去して下部構造は残すという方法もあります。
文化的な価値がある構造物であれば、土木遺産として後世に残してもいます。
建築ですと、そういう形で残されるのは「軍艦島」くらいかもしれません。
ただし、一般の方が近寄ることは難しいでしょう。
 
いずれにしても、耐用年数に達した土木インフラが今後ますます増えるのは確実なので、
土木構造物の解体も考えていかねばなりません。
 
 

6.新設時に解体に配慮した設計を

私はかつて、鉄筋コンクリート造の柱や梁などの部材をそのまま次の構造物に使えないかと、
複数の解体工事業者に聞いてみたことがあるのですが、彼らの答えは「採算に合わない」「考える余地もない」といったものでした。
奇麗に切断して再利用するより、小塊に破砕してリサイクルしたほうが現状では理に適っているのでしょう。
解体される建築物は既存不適格の建築物が多く、現行の耐震規定に照らしあわせると転用部材としてそぐわないという点もあります。
 
先ほども高強度コンクリートの解体を課題としてあげましたが、
強度レベルが高くなればなるほど、管理上、場所打ちよりはPCa(プレキャスト)部材を現場に搬入して建方する方法が有利といえます。
解体もこのことを逆手にとって実施できないかと考えています。
現在および将来において作製される構造材は十分に転用できるものであり、
高強度で壊しにくいものほど転用部材としての付加価値は高いとも言えます。
設計時に、部材のジョイントを工夫し、施工時と解体時に共用できるようにするのは、それほど困難とは思えません。
設計時に解体時を想定して工夫を盛り込んでおくことで、解体工事が容易になり、副産物も低減するというメリットを実現できます。
 
システマチックかつ安全な解体を考慮すべきです。
大手ゼネコンはそういう方向で考えているはずですし、数年後にはそれを売りにした工法が出てくるかもしれません。
 
 

7.これからの解体工事業への期待

解体工事業界の市場規模
1995年の阪神・淡路大震災でも、2011年の東日本大震災でも、
早期復旧・復興に向けた最大の課題は、がれきの早期処理でした。
解体工事業者は多くの重機を保有し、「どかす技術」を持っています。
自治体と協定を締結しており、こうした非常時にはいち早く出動し、
がれき処理に尽力してきました。
全解工連として、国土交通大臣、環境大臣から表彰も受けています。
 
今回の建設業法改正では、「離職者の増加、若年入職者の減少等による将来の工事の担い手不足が懸念される」ことから、「建設工事の適正な施工とその担い手の確保が喫緊の課題」と指摘しています。
今後、解体市場は拡大していくでしょう。
それには、ひっ迫する労務事情にあって、若く熱意にあふれた技能者を入職させるとともに、特に解体工事業は長年の経験と勘が要求されることから、
労働環境や労働条件を改善し、人材の教育訓練を進め、定着させるための努力が待たれます。
 
また、契約においても、課題があります。
今までは土木・建築一式工事として発注されることが少なくなかったのですが、
今後は解体工事の分離発注が進むことが期待されます。
それには、多様な建築物に適用できる公的な積算基準を整備し、
積算の透明性を高めていくことが必要です。
ただ、解体工事においては官庁工事より民間工事が圧倒的に多く、見積り方式もまだあまり機能していないように思います。
また、地域によって施工規模や単価が全然違うので、なかなか難しいかもしれません。
さらに、価格だけでなく技術提案も加味して発注を行う、技術提案総合評価制度の導入も望まれるところです。
 
今回、解体工事業の許可区分を設けたことは、ある意味で「パンドラの箱を開けた」ことになったと私は思っていますが、
それだけ国土交通省も強い確信をもって決断したわけです。
 
難しい課題はありますが、これから各方面で検討を重ね、あるべき解体工事業の姿を確立していければと思います。
 
 
 
新時代の「解体工事業」の確立に向けた取り組みと展望《前編》
新時代の「解体工事業」の確立に向けた取り組みと展望《後編》
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年10月号
特集「「解体」の最新技術」
積算資料SUPPORT2014年10月号
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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