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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 構造物とりこわし・解体工法 > 大気汚染防止法の改正による石綿飛散防止対策の強化について

 

1.改正の背景

大気汚染防止法(昭和43年法律第97号)においては、平成元年に、石綿を人の健康被害を生ずるおそれのある粉じん(特定粉じん)として位置付け、石綿使用製品の製造工場について、設置の届出、敷地境界基準の遵守等の規制が導入された。
建築物等(建築物及び工作物をいう。以下同じ。)の解体等工事(解体、改造又は補修作業を伴う建設工事をいう。以下同じ。)に対しては、阪神・淡路大震災により倒壊した建築物の解体等工事による石綿飛散を発端とし、平成8年の法改正により、吹付け石綿(いわゆるレベル1建材)が使用された一定規模以上の建築物の解体等工事について作業実施の届出、作業基準の遵守等の規制が導入された。
その後、平成17年の政令改正での石綿含有断熱材、保温材及び耐火被覆材(いわゆるレベル2建材)の規制対象への追加並びに工事の規模要件の撤廃、平成18年の法改正での工作物の規制対象への追加によって規制対象が拡大された。
また、平成25年の法改正では、石綿含有建材の使用状況についての解体等工事の事前の調査(以下「事前調査」という。)の義務付け、届出義務者の元請業者から発注者への変更等の飛散防止対策の強化が行われた。
 
平成25年の改正から5年が経過し、今般、施行状況を検討したところ、事前調査における石綿含有建材の見落としや、これまでは規制対象ではなかった石綿含有成形板等(いわゆるレベル3建材)についても、不適切な除去を行えば石綿が飛散することが明らかになり、また、今後、令和10年頃をピークに石綿含有建材が使用された可能性のある建築物の解体工事が増加する見込みである。
解体等工事に伴う石綿の飛散防止を徹底するため、大気汚染防止法の一部を改正する法律(令和2年法律第39号。以下「改正法」という。)が令和2年6月5日に公布された。
 
これに伴い、大気汚染防止法施行令の一部を改正する政令(令和2年政令第304号。以下「改正政令」という。)が令和2年10月7日に、大気汚染防止法の一部を改正する法律の施行に伴う環境省関係省令の整備に関する省令(令和2年環境省令第25号。以下「整備省令」という。)が令和2年10月15日に、関係告示が令和2年10月7日に公布された。
改正法、改正政令、整備省令及び関係告示は、一部を除き令和3年4月1日から施行されている。

 
 

2.主な改正事項

改正後の大気汚染防止法では、石綿含有成形板等を含めた全ての石綿含有建材を規制対象とするための規定の整備が行われるとともに、事前調査から作業後までの一連の規制が強化された(図-1)。
 
以下では、主な改正事項4点とそれに関連する政省令事項について解説する

  • 大気汚染防止法の規制の流れ
    図-1 大気汚染防止法の規制の流れ

  •  

    (1) 全ての石綿含有建材を規制対象とするための規定の整備

    石綿含有成形板等については、飛散性が比較的低いとして今回の改正前の大気汚染防止法(以下「旧法」という。)では規制対象となっていなかったが、平成25年の改正時に、飛散の実態を明らかにした上で必要な措置を検討することとされた。
    これを受け、環境省では事業者向けマニュアルによる飛散防止措置の周知を行い、併せて実態調査を行った結果、飛散防止措置をとらずに石綿含有成形板等を破砕するような不適切な事例や、作業現場近傍で石綿飛散が確認された事例が明らかになったことから、今般、石綿含有成形板等を規制対象に追加することとした。
    これにより、新たに規制対象となる作業件数は、これまでの規制対象作業件数の約5~20倍となると推計している。
    そのため、都道府県等や事業者の負担が大きくなること、相対的に飛散性が低いこと等を踏まえて実効的な規制とするため、新たに規制対象に追加する石綿含有成形板等については作業実施の届出の対象とせず、後述する電子システムを通じた事前調査結果の報告を活用して都道府県等が作業現場の把握・立入検査対象の選定を行い、作業基準が遵守されているか確認・指導することによって、適切な飛散防止措置を確保していくこととしている。

    (2) 事前調査結果の報告の義務付け等による不適切な事前調査の防止

    旧法では、事前調査の結果、事業者が石綿含有建材なしと判断した場合、作業実施の届出はされないことから、都道府県等においてこのような工事を把握するのは困難な状況となっていた。
    そのため、都道府県等がより幅広く解体等工事を把握し、事前調査において事業者に見落としがあった場合にも対応できるよう、一定規模以上等の建築物等の解体等工事(解体工事の対象となる床面積の合計が80m2以上、改造・補修等工事の請負代金の合計が100万円以上の工事)について、石綿含有建材の有無にかかわらず、元請業者が都道府県等に事前調査の結果を報告する制度を創設した。
    この報告は膨大な件数となることが想定されるため、タブレットやスマートフォンにより簡易に報告できるよう、電子システムの整備を進めているところであり、負担の軽減及び労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)との連携強化の観点から、労働安全衛生法に基づく報告として厚生労働省が検討している同様の電子システムと一体として運用することとしている。
    また、事前調査での見落としを防ぐため、調査方法を法定化するとともに、建築物について一定の知見を有する者による調査を義務付けることとした。
    一定の知見を有する者としては、建築物石綿含有建材調査者講習登録制度に基づく講習を修了した者を基本とすることとしており、制度を共管する厚生労働省及び国土交通省と連携してその人材育成に取り組んでいる(なお、義務付け適用前に一般社団法人日本アスベスト調査診断協会に登録されており、事前調査実施の際に引き続き同協会に登録されている者にも行わせることができる)。

    (3) 直接罰の創設

    旧法では、作業基準の違反者に対して行政命令を行い、その命令に違反した場合、罰則(間接罰)の対象となる。
    しかし、短時間の解体等工事については、命令を行う前に工事が終わってしまい、命令及び間接罰では作業基準遵守の担保が十分でない場合がある。
    そのため、吹付け石綿等の除去等の作業を行う際に、隔離や集じん・排気装置の使用といった飛散防止措置を義務付け、当該義務に違反した者に対して罰則(直接罰)を設けることにより、特に多量の石綿を飛散させるおそれが大きい違反行為の防止を徹底することとした。
    また、事前調査結果の報告によって、都道府県等が幅広くかつ速やかに建築物等の解体等工事を把握できるようになるため、行政命令もより積極的に行うことが可能となると考えている。
    直接罰と間接罰のどちらも活用することによって、飛散防止措置をしっかり担保していくことが重要である。

    (4) 発注者への作業結果の報告の義務付け等による不適切な除去等の作業の防止

    旧法では、作業後の確認に係る措置は明確には規定されておらず、また、施行状況の検討の結果、作業終了後に石綿含有建材の取り残しがあった事例が確認された。
    これを踏まえ、改正法において、元請業者に対し、石綿含有建材の取り残しがないことなど作業完了を「完了確認を適切に行うために必要な知識を有する者(事前調査の実施者又はその現場の石綿作業主任者)」に確認させた上で、当該確認の結果も含め、作業結果を発注者に報告することを義務付けることとした。
    また、都道府県等が作業結果を確認できるよう、元請業者に対し、作業に関する記録の作成・保存も義務付けることとした。
    これにより、発注者や都道府県等が作業結果を把握し、適切な措置を講じることができるようになると考えている。
     
    その他、改正法においては、災害時に備え、平時からの建築物等の所有者等による建築物等への石綿含有建材の使用の有無の把握を後押しする国及び地方公共団体の責務の新設、立入検査対象の拡大等の措置が講じられたところである。

     
     

    3.円滑な施行に向けての対応

    (1) マニュアル類の整備及び周知等

    改正後の制度の遵守を促進するため、各種マニュアルの整備を行った。
    専門家から構成される検討会を令和2年9月から3回程度開催・議論していただき、「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル」を令和3年3月に改訂を行った。
    新設する義務の具体的内容・履行の手順等について、都道府県等や業界団体と連携しつつ、説明会の開催等により周知徹底していくこととしている。
    また、都道府県等に対しては、立入検査等の手引きの作成や技術講習会の開催により、的確な規制の運用を支援している。
     
    なお、令和3年度は、建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションを進めるにあたっての基本的な考え方や手順等を解説した「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン」、環境大気中のアスベスト濃度を測定する上での技術的指針である「アスベストモニタリングマニュアル」の改訂を進めている。

    (2) 事前調査を行う一定の知見を有する者の育成

    事前調査を一定の知見を有する者に行わせるように義務付けられたが、その円滑な活用が図られるよう、施行までに30~40万人の育成を目指している。
    一定の知見を有する者による事前調査の義務付けの適用は、令和5年10月1日を予定しており、厚生労働省及び国土交通省と連携し、広く講習の機会を設けること、一戸建て住宅等に特化した講習を行うこと等により育成を促進している。

    (3) 事前調査電子報告システムの整備

    事前調査結果の都道府県等への報告については、令和4年4月1日から施行となる。
    そのため、事前調査結果の報告に係る電子システムについても、事業者や都道府県等の負担を軽減するために
    不可欠であり、施行当初から活用できるよう令和2年度、3年度の2カ年で整備を進めている。

     
     

    4.建築物の解体等に係る石綿飛散防止に関するマニュアルの改訂

    (1) 背景

    建築物等の解体等工事に伴う石綿の飛散及びばく露防止に係る措置について、環境省では大気汚染防止法に基づく「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」を、厚生労働省では労働安全衛生法に基づく石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)及び「労働者が石綿等にばく露するおそれがある建築物等における業務での労働者の石綿ばく露防止に関する技術上の指針」に基づく「石綿飛散漏洩防止対策徹底マ
    ニュアル(平成30年3月厚生労働省)」をそれぞれ作成し、適切な作業方法等の周知を図ってきた。
     
    令和2年1月に答申がなされた「今後の石綿飛散防止の在り方について(答申)」(中央環境審議会)においては、「解体等工事に携わる事業者の規制内容に係る理解の促進及び法令遵守の徹底、行政の監視・指導の強化等の観点から、建築物等の解体等工事の各プロセスに対する規制に関し、石綿則との連携を強化し、一体として解体等工事の現場での法令遵守を求めていくべき」とされた。
     
    また、今般、大気汚染防止法及び政省令の改正と同様に、石綿障害予防規則等の一部を改正する省令(令和2年厚生労働省令第134号)が令和2年7月1日に公布され、一部の規定を除き令和3年4月1日に施行されている。
     
    以上のような経緯を踏まえ、事業者における建築物等の解体等工事に伴う石綿の飛散及びばく露防止対策の理解を促進し徹底を図るため、法及び石綿障害予防規則等に基づくマニュアルを統合するとともに、両法令の改正内容を反映し、令和3年3月に「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル(厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課、環境省水・大気環境局大気環境課)」として取りまとめた。

    (2) 改訂の概要

    「建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル」の目次(図-2)、環境省の「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル2014.6」からの主な改訂点は以下のとおりである(図-3)。

  • 建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル 目次
    図-2 建築物等の解体等に係る石綿ばく露防止及び石綿飛散漏えい防止対策徹底マニュアル 目次

  • マニュアル改訂の概要
    図-3 マニュアル改訂の概要

  •  

    ①大気汚染防止法及び労働安全衛生法に係る石綿障害予防規則の改正で新たに加わった規制について追記

    大気汚染防止法改正に併せて、マニュアル内容の改訂を行った。
    特に事前調査方法(一例として図-4)、石綿含有成形板等の除去を行う場合の手順(一例として図-5)、完了確認方法の記述(一例として図-6)等を充実させている。

  • 事前調査の概念図
    図-4 事前調査の概念図

  • 石綿含有成形板等の除去を行う場合の一般的手順(解体・改修等)
    図-5 石綿含有成形板等の除去を行う場合の一般的手順(解体・改修等)

  • 石綿含有吹付け材の切断等を行う作業における記録・確認の例
    図-6 石綿含有吹付け材の切断等を行う作業における記録・確認の例

  •  

    ②技術的知見を追記

    本マニュアル改訂に当たっては、「建築物の解体等に係る石綿飛散防止対策マニュアル改訂検討会」での議論を経て、両省の各マニュアルが長年集積してきた知見と経験豊富な改訂検討会委員の知見の成果を本マニュアルの使用者が使いやすいように工夫して取りまとめている。
    現場における新たな技術的知見に基づき内容の充実も図っており、特にグローブバッグ工法や負圧隔離養生を解除する際の措置などについて対応している。
     
    グローブバッグ工法は、除去する石綿含有保温材等の周辺を腕の入れるグローブと一体型になったビニール製の袋で部分隔離するものであり、改訂前のマニュアルでも紹介されていた。
    この度の法改正により、直接罰が創設され、大気汚染防止法で規定する方法で建築物等から特定建築材料(吹付け石綿や石綿含有保温材等)の除去等を行わない場合、その適用の対象となった。
    法では、特定建築材料を建築物等から除去する方法として、「特定建築材料の除去を行う場所を他の場所から隔離し、除去を行う間、当該隔離した場所において環境省令で定める集じん・排気装置を使用する方法」に準ずるものとして環境省令で定める方法(第18条の19第1項第1号ハ)が認められており、大気汚染防止法施行規則において、隔離等と同等以上の効果を有する方法とされている(第16条の13)。
    その具体的なものとして、グローブバッグ工法が該当することを本マニュアルで明確にしている。

     
     

    ③石綿障害予防規則に基づくマニュアルとの統合により、労働者の保護に関する事項を追記

    これまでは、前述したとおり、建築物等の解体等工事に伴う石綿の飛散及びばく露防止に係る措置について、環境省と厚生労働省がそれぞれにマニュアルを策定し、適切な作業方法等の周知を図ってきた。
    そのため、環境省作成のマニュアルには、呼吸用保護具や保護衣の選定や取扱い、労働者の石綿ばく露防止の措置など労働者保護に関する事項の記述はなかった。
    今回、マニュアルを統合することになり、その記述を新たに設けることとなった。
     
    以上のように、マニュアルを統合したことによって、法律の目的は異なるものの技術的に共通する部分や実質的に多くの類似する規制をまとめて示すことにより、解体等工事に従事する事業者にとっては活用しやすいように工夫を行った。
    しかし、法令上での用語が異なっていたり、定義が異なっているため、統合する際にマニュアル上で改めて定義した用語もある。
     
    本マニュアルが建築物等の解体等に係る一般環境への石綿飛散漏えい防止対策の徹底及び従事する労働者の石綿ばく露防止の徹底のために活用していただきたい。

     
     

    おわりに

    石綿は、数十年の潜伏期間を経て中皮腫や肺がんといった重篤な疾病を生じさせることが知られており、今後、石綿含有建材が使用された可能性のある建築物の解体工事の増加が見込まれる中、全ての建築物等の解体等工事に伴う石綿の飛散防止を徹底することは極めて重要であると言える。
    以上のような取組みを通じて実効性のある仕組みづくりを行い、改正法の円滑な施行に努める所存であるので、事業者の皆様も改正内容をご理解いただき、飛散防止対策の徹底に努めていただくようお願いする。

     
     

     
     
     

     
     
    【出典】


    積算資料公表価格版2021年11月号
    積算資料公表価格版

     
     

    最終更新日:2023-07-07

     

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