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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建築施工単価 > 公共建築物等木材利用促進法の改正〜ウッド・チェンジに向けて〜

 

1.はじめに

平成22年に制定された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(以下,法律)が,新たな木質部材の開発や建築基準の合理化などによる木造化に向けた環境整備,SDGsやESG投資などの面からの民間企業の関心の高まりなどを背景に,令和3年6月,議員立法により改正され,「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」として10月1日に施行された。
本稿では,法律改正の概要とともに,建築物における木材の利用促進に向けた今後の施策の展開方向について紹介する。

 
 
 

2.法律改正の経緯

この法律は,戦後植林された森林資源が本格的な利用期を迎える中,木材の利用を促進することが地球温暖化防止や循環型社会の形成等に貢献することから,木造率が低く潜在的な木材需要が期待できる公共建築物を対象に,国や地方公共団体が率先して木材利用に取り組むことで木材の利用拡大を図ることを目的として,平成22年に制定された。
 
この法律に基づき,農林水産省および国土交通省は,公共建築物における木材利用に関する基本方針を策定し,「公共建築物については可能な限り木造化または内装等の木質化を図る」との考え方の下,各省各庁等がそれぞれ木材利用促進計画を策定し,政府一体となり,公共建築物における木材の利用促進に取り組んできた。
 
また,法制定以降,強度に優れた建築用木材や木質耐火部材等の技術開発,木造建築構法や防耐火性能等の技術革新がなされるとともに,木造建築物の防耐火等に係る基準の合理化等により,建築物における木材を利用するための制度的な環境整備も進められてきた。
 
こうした中で,公共建築物の床面積ベースの木造率は,法律が制定された当時の8.3%から令和元年度には13.8%に上昇し,基本方針において積極的に木造化を促進するとされた3階建て以下の低層の公共建築物の木造率も,制定時の17.9%から,令和元年度には28.5%に上昇している(図-1)。

 

公共建築物の木造率の推移
【図-1 公共建築物の木造率の推移】
 
注1 木造とは,建築基準法第2条第5号の主要構造部(壁,柱,床,梁,屋根または階段)に木材を利用したものをいう
注2 木造率の試算の対象には住宅を含む。また,新築,増築,改築を含む(低層の公共建築物については新築のみ)
注3 「公共建築物」とは,国および地方公共団体が建築する全ての建築物並びに民間事業者が建築する教育施設,医療・福祉施設等の建築物をいう
 
資料:林野庁プレスリリース「令和元年度の公共建築物の木造率について」(2021年3月26日)
   国土交通省「建築着工統計調査(令和元年度)」のデータをもとに林野庁が試算

 

現在,非住宅分野や中高層建築物の木造率は低位にとどまっているものの,新規出店および改装時に木造建築への切替えや外装での木材利用を進めるファストフード店や,木造と鉄骨造による12階建てハイブリット構造の商業テナントビルなど,木材を利用する民間建築物の事例が出てきている。
 
さらに,2050年カーボンニュートラルの実現に貢献するためには,「伐って,使って,植える,育てる」という森林資源の循環利用を進め,人工林の若返りを図ることが必要である(図-2)。

 

2050 年カーボンニュートラルへの森林・木材分野の貢献
【図-2 2050 年カーボンニュートラルへの森林・木材分野の貢献】
 

このような状況を踏まえ,今後,公共建築物だけでなく,民間建築物を含む建築物一般での木材利用を促進していくため,今回の法律改正が行われることとなった。

 
 
 

3.法律改正のポイント

今回の改正では,公共建築物だけでなく民間建築物を含む建築物一般での木材利用を促進するため,法律の目的が明確化されるとともに,施策の拡充や実施体制の強化が図られた。主な改正のポイントは次のとおりである。

(1)法律の題名・目的の見直し,基本理念の新設

本改正では,世界的に地球温暖化対策の強化が求められる中で,法律の題名が「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」に改められ,法律の目的に「脱炭素社会の実現に資すること」が明示された。
 
また,基本理念として,木材の利用促進は,森林の循環利用を通じて,森林の二酸化炭素吸収作用の強化が図られること,化石資源の代替材料として二酸化炭素の排出抑制,その他環境負荷の低減が図られること,森林の多面的機能の発揮や地域経済の活性化への貢献に資することを旨として行わなければならないことが新たに位置付けられた。

(2)基本方針等の対象を公共建築物から建築物一般へ拡大

今までの基本方針は公共建築物を対象としていたが,本改正により,民間建築物を含む建築物一般に対象が拡大された。後述の「木材利用促進本部」において10月1日に策定された新しい基本方針の概要は,図-3に示すとおりである。
 
民間建築物での木材の利用促進を図るため,今回の法律改正事項を位置付けるとともに,公共建築物については,さらなる率先垂範を示すことが重要であることから,原則木造化とする対象を3階建て以下の低層から全ての公共建築物へと拡大した。

 

基本方針の概要
【図-3 基本方針の概要】

(3)「建築物木材利用促進協定」制度の創設

建築物における木材利用を促進するため,国・地方公共団体と事業者等が「建築物木材利用促進協定」を締結できるという仕組みが新たに設けられた。
この協定について,国は,締結内容等の公表を行うとともに,事業者等の木材利用の取り組みを促進するため,情報提供や技術的な支援,財政上の配慮,その他の必要な支援を行うこととしている。
 
協定の内容は,事業者等による建築物木材利用促進構想およびその達成に向けた取り組み,国または地方公共団体による建築物木材利用促進構想の達成に資するための支援に関する事項等としている。
 
協定のイメージを図-4に示す。
協定は参画する者によって多様な形態が想定される。
この協定によって,建築主となる事業者においては,社会的認知度や環境意識の高い事業者としての社会的評価の向上等のメリットが得られ,建築事業者においては,安定的な需要の確保や木材の安定的な調達,技術力のアピール等のメリットが得られるものと考えられる。
 
また,木材を供給する事業者においても,林業・木材産業に対する国民の理解醸成や事業の見通しが容易になることによる経営の安定化等のメリットが考えられる。

 

建築物木材利用促進協定のイメージ
【図-4 建築物木材利用促進協定のイメージ】

(4)「木材利用促進の日」,「木材利用促進月間」の法定化

国民の間に広く木材の利用促進についての関心と理解を深めるため,漢字の「十」と「八」を組み合わせると「木」となることにちなみ,10月8日を「木材利用促進の日」,10月を「木材利用促進月間」と法定化され,国等はこれにふさわしい木材利用の普及啓発に取り組むこととなった。
 
また,表彰制度についても法律に位置付けられたところである。
木材の利用促進に向けて,「ウッド・チェンジ(注1)」を合言葉として,国,地方公共団体,関係団体,企業が一体となって,国民運動を展開していくこととしている。

(5)木材利用促進本部の設置

政府における推進体制として,農林水産省に,農林水産大臣を本部長,関係大臣(総務大臣,文部科学大臣,経済産業大臣,国土交通大臣,環境大臣)を本部員とする「木材利用促進本部」が設置され,同本部において基本方針の策定や基本方針に基づく措置の実施状況の公表等を行うこととなった。
 
このほか,林業・木材産業の事業者による木材安定供給に関する規定や木造建築物の設計・施工に係る先進的技術の普及の促進,強度等に優れた建築用木材の製造技術の開発・普及の促進等の規定などが,基本方針に新たに盛り込まれた。

 
 
 

4.今後の施策の展開方向

改正法の施行に先立ち,令和3年6月に閣議決定した「森林・林業基本計画」では,森林・林業・木材産業による「グリーン成長」を掲げ,5本柱の1つに「都市等における『第2の森林』づくり」を位置付けており,都市・非住宅分野等への木材の利用促進,それに資する耐火部材やCLT等の利用,仕様設計の標準化などの取り組みを進めることとしている。
今後の国産材供給量については,10年後に現在の3,100万m³(令和元年実績)の約1.4倍となる4,200万m³(令和12年目標)とすることを目標としている。
 
9月には,民間建築物における木材利用を促進するため,経済・建築・木材供給関係団体,地方団体など,川上から川下までの関係者が一堂に会する官民協議会「民間建築物等における木材利用促進に向けた協議会」(ウッド・チェンジ協議会)
を立ち上げ,課題の整理やその改善策の検討など,建築物に木材が利用しやすい環境づくりに向けた意見交換を進めている(写真-1)。

 

建築物木材利用促進協定のイメージ
【写真-1 ウッド・チェンジ協議会 会長・隅修三氏】

 

また,10月には,建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量を国民や企業にとって分かりやすく表示する方法を示した「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」を制定し,林野庁ホームページに掲載するなどして普及を図っている(図-5)。
さらに,今年度から林野庁委託事業においてESG投資等における建築物への木材利用の評価について検討を始めるなど,民間企業が木材利用に取り組みやすい環境づくりを行っている。

 

中層の木造ビルを想定した表示パネルイメージ(例)
【図-5 中層の木造ビルを想定した表示パネルイメージ(例)】

 
 
 

5.おわりに

燃料材やパルプ・チップ用材と比べ高値で取引されている建築用木材の需要を拡大することは,林業・木材産業の持続性を高め,森林の適正な整備,森林の有する多面的機能の持続的な発揮,雇用の場の創出,山村をはじめとする地域の経済の活性化,SDGsへの貢献につながる。
 
また,木造建築物は,規模や設計等の工夫によっては,非木造よりも低コスト・短工期で整備できる場合がある。内装等に木材を利用することによって,より快適な空間となり,利用者数の増加や利用者の滞在時間の延長につながるなど,ビジネス面での効果も期待できる。
このように,建築物に木材を利用することは,建築主等にとってもメリットがあると考えている。
 
令和3年を,「ウッド・チェンジ元年」とし,建築物における木材利用を着実に進めていくため,皆さまのご協力をお願いしたい。

 
 



(注)
1.建築物を木造化・木質化する,身の回りのものを木に変える,木を暮らしに取り入れるなど,木の利用を通じて持続可能な社会へチェンジする行動を指す
2.法律や協定制度の詳細,木造・木質化建築物の事例,補助事業等の関連情報は,林野庁HPに掲載している
http://www.rinya.maff.go.jp/j/riyou/kidukai/

 
 

非住宅分野や中高層建築物の木造建築物事例(令和 3 年度 木材利用優良施設コンクール受賞施設)
「あわくら会館」(岡山県)
「あわくら会館」
(岡山県)
木造・鉄筋コンクリート造/地上2階
内閣総理大臣賞受賞
「髙惣木工ビル」(宮城県)
「髙惣木工ビル」
(宮城県)
木造/地上7階
農林水産大臣賞受賞


「タクマビル新館( 研修センター)」(兵庫県)
「タクマビル新館(研修センター)」
(兵庫県)
木造・鉄骨造/地上6階
国土交通大臣賞受賞
「流山市立おおぐろの森小学校」(千葉県) 木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造/地上3 階・地下1 階
「流山市立おおぐろの森小学校」
(千葉県)
木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造/地上3階・地下1階
環境大臣賞受賞


詳細は,木材利用推進中央協議会HP(http://www.jcatu.jp/commendation/list.html)参照

 
 
 

林野庁 林政部 木材利用課 課長補佐
櫻井 知(さくらい とも)

 
 
 
【出典】


建築施工単価2022年冬号
建築施工単価2022年冬号


 

 

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