• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 上水・下水道施設の維持管理 > 下水道管路の老朽化対策と管路更生の考え方

はじめに

◆下水道事業概要と管きょストックの状況

横浜市の令和元年度末の下水道整備状況は,処理区内人口375万人,下水道処理面積約3万1400ha,下水道普及率概成100%となっている。
 
下水道管きょ総延長は約1万1900km(管径800mm未満の小口径管約1万km,800mm以上の中大口径管約1900km)で,管種別割合は陶管約29%,塩ビ管約17%,ヒューム管約45%,その他約9%。人孔は約53万個,取付管は140万個と膨大なストックを抱えている。
 
布設後50年以上経過した管きょの延長は約900km(小口径管約700km,中大口径管約200km)で,10年後には約3000km(小口径管約2400km,中大口径管約600km),20年後には約8300km(小口径管約6800km,中大口径管約1500km)と増
加し,20年後には布設後50年以上の管きょが全体の約70%に達する。(図-1図-2参照)
 
下水道管きょに起因する道路陥没事故は平成19年度以降毎年50カ所程度で推移し,平成30年度は51件だった。
老朽化対策に着手する前は年間200カ所程度発生していた時期もあり,老朽化対策の成果は確実に表れている。
 
道路陥没事故の原因の8~9割を占めるのが取付管で,特に取付管と本管の接続部および支管部などが関係しているケースが目立つという。

年度別下水道管きょの整備延長

図-1 年度別下水道管きょの整備延長


布設後50年以上経過した下水道管の分布図

図-2 布設後50年以上経過した下水道管の分布図



 

管きょの老朽化対策

◆経緯

横浜市では,臨海部エリアに老朽化が多く,従来からこのエリアを先行して老朽化対策を進めてきた。
戦前に布設された区域約1910haを「第Ⅰ期再整備区域」に指定し,昭和62年度に事業着手。
続いて戦後から昭和45年度に布設された区域約3900haを「第Ⅱ期再整備区域」として平成12年度に指定し,順次再整備を行っている。

◆「時間計画保全」から「状態監視保全」へ移行

市は従来,老朽化対策と合わせて浸水対策や地震対策を実施しており,老朽化対策は「時間計画保全」(※1参照)の考え方に基づいて行ってきたが,今後急速に進む管きょの老朽化に対応するため,「状態監視保全」(※1参照)による維持管理・整備へと移行することになった。
それに伴い,下水道管きょの維持管理や改築の基本方針等を示す「横浜市下水道管路施設管理指針」を平成30年度,具体的な取り組み内容等を示す「横浜市下水道管路施設再整備・修繕マニュアル」を令和2年度に改定し,スクリーニング調査の手法を取り入れるなどして効率化を図りつつ再整備事業を進めている。

※1
「時間計画保全」:あらかじめ定めた周期(目標耐用年数等)により,管路施設の改築を行う管理方法
「状態監視保全」:管路施設の劣化状況の確認を行い,ライフサイクルコストの最小化の観点から,最適な改築時期を把握,適切な対策を行う管理方法
(「横浜市下水道管路施設管理指針 2019年版」より抜粋)

◆管きょの調査方法,事業量等

小口径管(800mm未満)については,スクリーニング調査を年間約1200km,管口からの目視調査を約200km実施している。スクリーニング調査は道路陥没箇所の早期発見や詳細調査が必要な箇所の効率的な抽出を目的とし,清掃時にノズルカメラ(高圧洗浄用ノズルの前方に装着し,管きょ内の映像を簡易に撮影するためのカメラ)を用いて実施している。
 
ノズルカメラ調査により異常を発見した場合は,テレビカメラによる詳細調査を行う。
 
これまでの実績では,スクリーニング調査を行った延長のうち約1割に異常が発見され,詳細調査の対象になり,詳細調査の結果,概ね7~8割程度が改築工事の対象になっている。
 
一方,中大口径管(800mm以上)については,テレビカメラや潜行目視による詳細調査を年間約150km行っている。
 
なお,中大口径管についても,小口径管と同様に調査で発見した異常箇所へ迅速な対応を図る必要があることから,中大口径管を対象とした包括的民間委託を導入することとになった(後記参照)。

 
 

再整備事業と管路更生工法

◆再整備事業の実績

詳細調査を行い,改築工事が必要と判断された路線については,エリアや優先順位等を決めて計画的に再整備を行っている。
 
施工方法は,本管は管路更生工法を基本とし,管路更生で施工が難しい箇所や,浸水対策等で拡径が必要な箇所については開削工法を採用している。
 
平成27年度から令和2年度における本管の累計再整備施工延長は約113kmで,詳細は表-1図-3のとおり。
平成30年度以前は老朽化対策とともに浸水対策や地震対策の機能向上を図るため,布設替えを多用していたが,平成30年度以降,老朽化対策のスピードアップを優先し,管路更生工法中心に切り替えたため,平成30年度以降,再整備延長が伸びている。
 
このほか,従来は時間計画保全の考え方を採用し,経過年数が一定以上の管を調査していたため,調査の結果,劣化・損傷等がないものは「既設管利用」と分類されていたが,状態監視保全への移行に伴い,この「既設管利用」の分類はなくなる。

再整備事業(Ⅰ期+Ⅱ期)整備延長の推移

表-1 再整備事業(Ⅰ期+Ⅱ期)整備延長の推移


Ⅰ期+Ⅱ期再整備延長の推移

図-3 Ⅰ期+Ⅱ期再整備延長の推移


◆再整備事業の今後の展開

一方,今後の再整備事業の展開に関しては,現在,令和4年度にスタートする次期中期経営計画の検討を進めているが,この計画期間(令和4~7年度の予定)においては,小口径管は年間約30kmのペースで再整備を行っていく方針だ。

◆管路更生工法を採用する理由

再整備事業では近年,老朽化対策優先の考え方から管路更生工法中心で施工している。
管路更生工法の採用のメリットとしては,「施工期間が短い」「工事に伴う地域住民への影響が少ない」「工事費が安い」などを挙げている。
 
管路更生工法の採用等の技術基準に関しては,「管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン 2017年版」((一社)日本下水道協会)に準拠して仕様書を作成している。
実際の工事では,請負業者がガイドラインに記載されている管路更生工法の中から最適な工法を選定し施工している。

◆取付管の対応状況と取付管更生の考え方由

一方,取付管については,再整備事業で年間3000~4000ヵ所程度対応するほか,Zパイプの対応や各土木事務所での対応を年間3000~4000ヵ所程度,計7000~8000ヵ所程度の対応を行っている。
 
取付管の再整備は,従来はほとんど開削工法で行ってきたが,開削が難しい箇所も多いことから,取付管更生工法も採用し,老朽化対策を推進していく方針。
 
そこで,取付管更生についてはガイドラインのような技術基準等が整備されていないため,先進的に取り組んでいる都市からヒアリングを行うなどして,市独自の技術基準を整備し,今年度から運用している。
取付管は本管と比べると曲線部が多く,しわや厚さが課題とされるが,事前の試験施工などを踏まえ,曲線部でどうしても生じてしまうしわは一定程度許容することや,厚さは本管と同様,既設管の流下量以上を確保できるようにすることなどを基準とした。

 
 

包括的民間委託を導入

◆中大口径管の調査をを推進

横浜市において,中大口径管の調査は従来,地震対策に絡む重要な幹線等の一部を除いてほとんど手を付けていない状況だった。
そこで,平成30年度から令和9年度までの10年間で市全体の中大口径管の調査を一巡させる方針を固め,事業着手した。
ただ,個別委託により進める中で入札不調が発生するなど,調査や緊急修繕等の対応の遅れが課題となっていた。
また,中大口径管の調査や緊急修繕等は比較的高度な技術が必要になる。
こうしたことから,中大口径管を調査や緊急修繕等の対応を迅速,効率的に行うため,包括的民間委託を導入することになった。
 
包括的民間委託では,市域を南部と北部に分割して業務委託契約を締結し,今年4月に事業開始した。
委託内容は,詳細調査,緊急清掃,緊急修繕,統括マネジメント,契約期間は3年間とした。
 
この包括的民間委託により中大口径管の調査を着実に実施し,調査が一巡した後,再整備手法を検討して計画的に再整備事業を進めていく考え。

 
 

おわりに

◆管路更生工法への期待

管路更生工法に対する期待としては,狭隘な道路では,車両がマンホールまで近づけないケースがある。
そのため,「本管更生および取付管口の穿孔も含め,車両からの施工可能延長が伸びればありがたい」としている。
 
また,今後は次期中期経営計画のもと,本管は年間約30kmのペースで再整備を行い,道路陥没事故の未然防止の観点から取付管の再整備にも注力していくことから,管路更生工法の事業量も増加する見通し。
そのため,「人材確保,育成により管路更生工法を扱える会社,技術者が増えること,更なる技術開発や効率的な施工方法が確立されること,取付管の技術基準が整備されることなどを期待したい」としている。

管路更生工法の施工状況

(参考)管路更生工法の施工状況(左:施工前,右:施工後)

管路更生工法の施工状況


 
 
 

横浜市 環境創造局 下水道計画調整部

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年1月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-07-07

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品