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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 令和2年度決算検査報告における公共工事関係の指摘事例

会計検査院は,日本国憲法及び会計検査院法に基づき,国や国が出資している独立行政法人等の法人,国が補助金等を交付している地方公共団体等の会計を検査しています。
 
このたび,その検査の結果を令和2年度決算検査報告として取りまとめて,令和3年11月5日に内閣に送付しました。
令和2年度決算検査報告に掲記された総件数は210件であり,このうち指摘事項は192件,指摘金額は計2108億7231万円となっています。
 
なお,指摘事項には「不当事項」,「意見表示・処置要求事項」及び「処置済事項」が含まれ,以下,①「不当事項」は,検査の結果,法律,政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項を,②「意見表示・処置要求事項」は,会計検査院法第34条又は第36条の規定により関係大臣等に対して会計経理や制度,行政等について意見を表示し又は処置を要求した事項を,③「処置済事項」は,検査において指摘したところ当局において改善の処置を講じた事項をそれぞれ意味します。
 
検査に先立ち令和2年9月に策定した「令和3年次会計検査の基本方針」では,重点的な検査項目の一つとして公共事業を挙げるとともに,東日本大震災からの復興に向けた各種の施策及び新型コロナウイルス感染症対策に関する各種の施策について,一定期間に多額の国費が投入されていることなどを踏まえて,各事業等の進捗状況等に応じて適時適切に検査を行うなどとしていました。
そして,検査の結果,検査報告に掲記されたものには,新型コロナウイルス感染症対策関係経費等に関するもの,国民生活の安全性の確保に関するもの,制度・事業の効果等に関するもの,予算の適正な執行,会計経理の適正な処理等に関するものなどが含まれています。
 
指摘事項には,府省等別,事項別,観点別など様々な分類があり,公共工事関係の指摘として明確に選別や分類ができるわけではありませんが,本稿では,表のとおり37件を選別し,簡単に紹介いたします。
なお,選別,分類,説明等の内容については筆者の個人的見解であり,会計検査院の公式見解を示すものではないことをお断りいたします。
また,国庫補助事業に係る事案の指摘金額は国庫補助金ベースで示しています。

令和2年度決算検査報告における公共工事関係の指摘事項の件数・金額

表 令和2年度決算検査報告における公共工事関係の指摘事項の件数・金額



 

1 設計に関するもの

これらは,構造物に求められる所要の安全度が確保されていない状態になっていた事態や,経済的な設計を行っていなかった事態などです。
所要の安全度が確保されていない状態になっていた事態の中には,設計業者の作成した成果品に誤りがあったのに,発注者が看過したことなどが原因となっているものが見受けられます。

不当事項

<内閣府(内閣府本府)>
・地方創生拠点整備交付金事業の実施に当たり,冷温水発生装置等の設置に係る設計及び施工について,耐震設計指針に基づく耐震設計を行っていなかったり,防振架台の施工条件を確認せずに施工していたため,防振架台の一部が梁型基礎に固定されていなかったりなどしていて,設計及び施工が適切でなかったため,耐震性が確保されておらず,地震時に転倒して破損するなどのおそれがある状態となっていた。
[指摘金額:1569万円]

 
 

<農林水産省>
・農業用施設災害復旧事業の実施に当たり,護床工の設計において,現場の状況を的確に把握した上で適切な吸出し防止策を選択することとなっているのに,被災後の河床の状況を的確に把握しないまま,単に河床ブロックを設置するにとどまっており,吸出し防止策を講じておらず,設計が適切でなかったため,被災後の河床から土砂が吸い出されて被災後の河床の洗掘が進行することなどにより固定堰に損傷が生ずるおそれがあり,工事の目的を達していなかった。
[指摘金額:1718万円]
 
・農山漁村地域整備交付金事業の実施に当たり,支柱を土中に埋め込む構造のガードレールについて,支柱の支持力についての検討を行うことなく支柱をU型水路の道路側の側壁に近接して設置していたことから,支柱が背面土質量による所要の支持力を得られておらず,また,衝突荷重を考慮して応力計算を行ったところ,U型水路の道路側の側壁の鉄筋に作用する引張応力度が許容引張応力度を大幅に上回っていて,応力計算上安全とされる範囲に収まっておらず,設計が適切でなかったため,ガードレール,U型水路等の所要の安全度が確保されていない状態となっていて,工事の目的を達していなかった。
[指摘金額:1080万円]
 
・東日本大震災復興交付金事業における水産業共同利用施設復興整備事業の実施に当たり,木造の事務所棟の建築において,耐力壁を構成する柱は必要な引抜耐力を有する金物等を選定して土台等と接合することとなっているのに,必要な引抜耐力を有する金物等が使用されておらず,土台等との接合方法が適切でない柱で構成された壁が耐力壁として機能していない状態となっており,桁方向については耐力壁が全く設置されていない状態となっていて,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されていない状態になっていた。
[指摘金額:523万円]

 
 

<経済産業省>
・電源立地地域対策交付金事業の実施に当たり,災害時における消火栓の機能を確保することを目的として改修した消火栓配管について,三角ブランケットを用いることができない場合の形鋼振れ止め支持の方法を設計図書に明示していなかったことなどから,形鋼振れ止め支持が行われていないなどしていて,標準仕様書等で定められた要件を満たしておらず,設計が適切でなかったため,地震等の災害時に消火栓配管が損傷して,消火栓に消防用水を供給できなくなるおそれがある状態となっていて,工事の目的を達していなかった。
[指摘金額:351万円]

 
 

<国土交通省>
・河川等災害復旧事業の実施に当たり,根固ブロックの敷設幅の設計において,既設の根固ブロックと同様に敷設することとして技術基準等によることなく敷設幅を決定していたり,根固ブロック敷設高を変更していたのに敷設幅を見直していなかったり,根固ブロック敷設高から低下する河床の深さを誤って斜面長相当幅を算出していたりなどしていて,設計が適切でなかったため,護岸の基礎を洗掘から保護できない構造となっていて,工事の目的を達していなかった。
[指摘金額:3件6583万円]
 
・防災・安全交付金事業における道路事業の実施に当たり,擁壁の設計において,プレキャスト鉄筋コンクリート製のL型擁壁が道路から突出する部分について道路の縦断勾配に応じて全延長にわたり斜めに切断することとしていて,切断面に鉄筋が露出したり,鉄筋を覆う十分なコンクリートがなかったりしており,設計が適切でなかったため,鉄筋コンクリート構造物としての耐久性が著しく低い状態となっていて,工事の目的を達していなかった。
[指摘金額:2件778万円]
 
・河川等災害復旧事業の実施に当たり,もたれ式コンクリート擁壁の設計において,本件擁壁の前後で生ずる水位差については,擁壁底版下面から計画高水位までの高さとすべきであったのに,これと異なる誤った水位差により算定した残留水圧を用いるなどして安定計算等を行っていて,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されていない状態になっていた。
[指摘金額:1771万円]
 
・空港整備事業における空港場周柵の設置工事の実施に当たり,空港場周柵の設計において,設置する区間の地盤が全て平たんであるとしていたが,一部の区間における空港場周柵は法肩や法面の途中に設置されていて,基礎の前面に作用する土圧が減少するのに,これを考慮した転倒に対する安定計算を行っておらず,設計が適切でなかったため,所要の安全度が確保されておらず,転倒するおそれがある状態となっていた。
[指摘金額:493万円]
 
・河川等災害復旧事業の実施に当たり,ガードレールの設計において,ガードレールの支柱の支持力について背面土質量により検討を行うことなく,支柱をブロック積擁壁に近接した位置に設置していたことから,支柱が所要の支持力を得られていないなどしていて,設計が適切でなかったため,ガードレール,ブロック積擁壁等の所要の安全度が確保されていない状態になっていた。
[指摘金額:352万円]
 
・防災・安全交付金事業における暮らし・にぎわい再生事業の実施に当たり,指定避難所に設置する分電盤等を固定するアンカーボルトの設計において,設計用標準震度1.5などを用いて耐震設計計算を行う必要があったのに1.0などを用いていて,地震時に作用する引抜力が許容引抜力を大幅に上回っていて耐震設計計算上安全とされる範囲に収まっておらず,設計が適切でなかったため,地震時における所要の安全度が確保されていない状態になっていた。
[指摘金額:197万円]
 
・防災・安全交付金事業における道路事業の実施に当たり,落石防護柵の設計において,現地における平場の幅等を考慮して最低柵高を設定することとされているのに,これを設定せず既設の落石防護柵の高さとしていて,設計が適切でなかったため,落石を防ぐための所要の高さが確保されていない状態となっていて,工事の目的を達していなかった。
[指摘金額:128万円]
 
・防災・安全交付金事業における道路事業の実施に当たり,強度検討書の作成及び確認が行われておらず,受信制御機の更新において適切なアンカーボルトが使用されていなかったり,無停電電源装置の更新においてフリーアクセス床の床パネルに取付ボルトで固定されているのみであったりしていて,設計基準等を満たした適切な耐震施工が行われておらず,設計及び施工が適切でなかったため,地震時における所定の機能が維持できないおそれがある状態となっていた。
[指摘金額:2件536万円]
 
・防災・安全交付金事業における河川事業の実施に当たり,ダム管理用装置の据付けにおいて,設計基準を満たした設計となっていることを示した強度検討書を作成することなく,フリーアクセス床の床パネルに取付金具で固定するなどしたのみで,設計基準等を満たした耐震施工を行っておらず,設計及び施工が適切でなかったため,地震時における所定の機能が維持できないおそれがある状態となっていた。
[指摘金額:1317万円]

 
 

<環境省>
・二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金により造成した再生可能エネルギー等導入推進基金を財源として実施した事業において,太陽光発電設備又は蓄電池設備の設計が適切でなかったため,災害等により商用電力が遮断された際に防災拠点施設等の機能を確保するために必要な電力量又は電力が独立した系統ごとに確保されていないなどしていたり,蓄電池設備の基礎の設計が適切でなかったため,地震時における安全性が確保されていない状態となっていたりしていた。
[指摘金額:3件6091万円]

 
 

2 積算に関するもの

これらは,設計数量の算出を誤るなどしていたため,契約額が割高となっていたり,補償費の積算額が過大となっていたりしていたものです。

不当事項

<国土交通省>
・庁舎,舗装等の取壊し等の工事の実施に当たり,コンクリートブロック等の処理に係る設計数量の算出を誤っていたり,実際の工事現場の舗装厚が設計図書等に示されたものより薄くなっていたことから施工数量はその割合に応じて減少することとなるのに契約額を減額する契約変更を行っていなかったりなどしていたため,契約額が割高となっていた。
[指摘金額:1199万円]
 
・防災・安全交付金事業等における河川,砂防又は下水道の各事業の実施に当たり,補償費の算定において,減価相当額を復成価格に基づき算定すべきところ誤って既存公共施設の材料費を基にするなどして過小に算定していたり,処分利益の一部を控除していなかったりなど,通信線,ガス管等の移設に係る補償費の算定を誤ったため,交付金等が過大に交付されていた。
[指摘金額:7件3630万円]

 

3 施工に関するもの

これは,工事の施工が設計と相違していたため,設置した設備の機能の維持が確保されていない状態となっていたものです。

不当事項

<国土交通省>
・防災・安全交付金事業における下水道事業の実施に当たり,動力センタ盤等を設置する際に,耐震強度計算書等で使用することとしていたおねじ形アンカーボルトではなく,許容引抜力が大幅に下回るめねじ形アンカーボルトを使用するなど施工が適切でなかったため,地震時における所要の安全度が確保されておらず,据付架台の底面前側をコンクリート床に緊結しているアンカーボルトが地震時に引き抜かれるなどして,動力センタ盤等が転倒して破損するおそれがあり,動力センタ盤等の機能の維持が確保されていない状態となっていた。
[指摘金額:3051万円] 

 
 

4 経理に関するもの

これらは,負担金債権を保全するための措置を執ることなく債権を消滅させていたり,工事に係る国庫補助金等の負担割合を誤っていたりしていたものなどです。

不当事項

<農林水産省>
・森林環境保全整備事業の実施に当たり,森林経営計画に基づいて行う間伐及び森林作業道整備について,一部の施行地における間伐は,現計画において計画されておらず,旧計画の計画期間内に完了していて,両計画の計画期間にまたがって実施されてはいないことから,その面積を現計画に基づくものとして取り扱うことはできず,その結果,間伐の施行地の面積の合計が森林経営計画ごとに5ha以上という要件を満たしていないことから,補助の対象とならないも
のとなっていた。
[指摘金額:127万円]
 
 
<国土交通省>
・交通事故により損傷した照明配線等の復旧に要した費用に係る負担金債権の債権管理に当たり,債権管理法等に基づき債務者に対して督促状による督促を行うなどの債権を保全するための措置を執っていなかったため,時効により債権を消滅させていた。
[指摘金額:370万円]
 
・防災・安全交付金事業における港湾改修事業の実施に当たり,交付金の額の算定において,既存施設の延命化のための改良を目的とした橋りょう塗装工等について国の負担割合を3分の1以内とすべきところ,誤って10分の5としていたため,交付金が過大に交付されていた。
[指摘金額:168万円]
 
・防災・安全交付金事業におけるその他総合的な治水事業の実施に当たり,一級河川及び二級河川の水系に属する河川の流域外で実施した地すべり防止工事に関する事業は国費率差額の交付の対象とされている開発指定事業に該当しないのに,国費率差額の交付を受けていた。
[指摘金額:347万円]

 
 

5 維持管理等に関するもの

これらは,予備電源設備が地震等に十分耐えうる状態で保管されていない事態や,設置された機器等の整備更新等の優先順位が決定されていないなどの事態です。

意見表示・処置要求事項項

<国土交通省>
・航空保安施設等の予備電源設備として整備している可搬形電源設備の保管方法について
国土交通省は,可搬形の発電装置,燃料タンク,配電盤,変圧器盤及びそれらの付属品により構成された電源設備(以下,これらを合わせて「可搬形電源設備」という。)の管理・運用・保守について,「運用業務マニュアル」を制定している。運用業務マニュアル等によれば,可搬形電源設備を保管している空港等を管理している空港事務所等(以下「保管官署」という。)は,可搬形電源設備管理等細則(以下「細則」という。)において,可搬形電源設備の管理,運用及び保守について定めることとされている。
また,可搬形電源設備は,地震等に十分耐え得る状態で保管することなどとされ,保管に関する詳細事項については細則で定めることとされている。
しかし,国土交通本省において,可搬形電源設備を地震等に十分耐え得る状態で保管するために必要となる耐震設計に係る計算の方法及び計算の結果耐震性が確保されていないことが判明した場合の設置方法について検討しておらず,保管官署において,可搬形電源設備が地震等に十分耐え得る状態で保管されていない事態が見受けられた。
[指摘金額:8億6048万円]

処置済事項

<国土交通省>
・河川管理施設に設置された機械設備の維持管理について
河川管理施設に設置された機械設備の維持管理に当たり,機器等の整備,更新等の優先順位が決定されていないなどしていたり,機器等の取替え・更新が必要以上に早期に実施されていたり,年点検の点検結果を踏まえた緊急保全がマニュアルに基づいて速やかに実施されていなかったりしたため,機械設備の信頼性が確保されず,維持管理,更新等に係る費用の縮減及び平準化に寄与していないなどしていた。
[指摘金額: 1億4334万円]
[背景金額:26億5359万円]

 
以上に紹介した事例を含め,令和2年度決算検査報告の指摘事項等については,全文を会計検査院のホームページの「最新の検査報告」(https://www.jbaudit.go.jp/report/new/index.html)に掲載しています。
過去の検査報告についても,データベースで検索できますので,是非御活用ください。

 
今後とも,検査活動に対する皆様の御理解を深めていただくため,検査の結果をできる限りわかりやすく公表するとともに,事態の再発防止のため,説明会等の機会をとらえて検査結果について説明してまいりたいと考えております。

 
最後になりましたが,国や地方公共団体,独立行政法人等の職員の皆様及び公共工事に携わる関係者の皆様には,これらの検査報告事例を参考にしていただければ幸いです。

 
 
 

(前)会計検査院 事務総長官房総務課 渉外広報室長
坂本 斉子(さかもと せいこ)

 
 
【出典】


積算資料2022年2月号
積算資料

最終更新日:2022-09-26

 

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