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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM/CIM > 国土交通省におけるBIM/CIMの取り組み

はじめに

測量・調査、設計、施工、維持管理・更新の各段階において、情報を充実させながらBIM/CIMモデルを連携・発展させ、併せて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にすることで、一連の建設生産・管理システム全体の効率化・高度化を図ることを目的に、国土交通省ではBIM/CIM(Building / Construction Information Modeling, Management)の普及、定着、効果の把握やルール作りに向けて、2012年度から取り組みを進めている。
BIM/CIMを活用し、事業の初期において集中的に検討することにより、後工程において生じる仕様変更や手戻りの減少(フロントローディング)、複数の工程を同時並行で進め情報共有や共同作業を行うことにより、工期短縮やコスト縮減(コンカレントエンジニアリング)などの効果が期待される。
 
2020年は新型コロナウイルス感染症を契機とし、建設現場における新たな働き方への転換、デジタル技術を駆使したインフラ分野の変革が急速に進み、政府を挙げてデジタル化による社会の変革が求められているところである。
国土交通省においても国民目線に立ち、インフラ分野のデジタル化・スマート化をスピード感を持って強力に推進していくため、インフラ分野のDX推進本部を立ち上げ、建設生産・管理プロセスなどの全面的なデジタル化に向けた取り組みを進めている。
その施策の一つであるBIM/CIMは、2023年度までに小規模なものを除く全ての公共工事について、BIM/CIM活用への転換を目指す。
 
本稿では、これまでのBIM/CIMの導入に向けた取り組みと、今後の取り組みについて紹介する。

 
 

BIM/CIM実施状況

国土交通省では、業務については2012年度から、工事については2013年度からBIM/CIMの試行を進めている。
2020年度のBIM/CIM活用実績は515件(業務389件、工事126件)となり、前年度の361件(業務254件、工事107件)を大きく上回り、BIM/CIMの活用が進んでいることが分かる(図-1)。
 
さらなるBIM/CIMの活用に向けて、2019年3月、i-Constructionモデル事務所を10事務所、i-Constructionサポート事務所(i-Constructionモデル事務所を含む)を53事務所設置した。
i-Constructionモデル事務所においては先導的に3次元モデルを活用し、各地方整備局等内のリーディング事務所として3次元情報活用モデル事業を推進しており、i-Constructionサポート事務所では地方自治体からの相談対応などを行っている。
2020年度にはi-Constructionモデル事務所として新たに3事務所追加し、取り組みを進めている(図-2)。
各事務所におけるBIM/CIMの活用事例は「BIM/CIM事例集」として活用効果や課題をとりまとめ、公開している。

BIM/CIM活用業務・工事の推移

図-1 BIM/CIM活用業務・工事の推移


i-Constructionモデル事務所

図-2 i-Constructionモデル事務所



 

BIM/CIM原則適用について

2018年度にBIM/CIM推進委員会を設置し、関係団体が一体となりBIM/CIM推進に関する目標や方針について検討を進めており、具体的な施策の検討に当たっては、BIM/CIM推進委員会の下の4つの各WGにおいて議論を行うともに相互に連携を図っている。
2020年度には国際標準を踏まえた対応の重要性に鑑み、WGの体制を見直し、基準要領等検討WGと国際標準対応WGを統合し、基準・国際検討WGとして議論を行っている。
 
表-1に示すように、2023年度の原則適用に向け、段階的な適用範囲の拡大を検討している。
 
特段、先行させてBIM/CIMを活用する大規模構造物は2021年度から全ての詳細設計で原則適用としており、2022年度には全ての詳細設計と工事において原則適用とする。
また、大規模構造物以外については2022年度から全ての詳細設計で原則適用とし、2023年度から全ての詳細設計と工事で原則適用とする。
原則適用の対象とする工種は、従前から検討を進め、知見が蓄積されてきた一般土木と鋼橋上部を対象としている。
 
業務、工事におけるBIM/CIM原則適用において何を実施するのかということについては、2020年9月の第4回BIM/CIM推進委員会において示しており、詳細設計については2020年度に策定した「3次元モデル成果物作成要領(案)」に基
づき3次元モデルを作成し、納品を実施することでBIM/CIM原則適用とし、工事については2022年度以降、「3次元モデル成果物作成要領(案)」に基づく成果品がある場合、これを用いた設計図書の照査、施工計画の検討を実施することで
BIM/CIM原則適用とする。
 
これまでBIM/CIM活用業務または工事においては、円滑な事業の実施および基準要領などの改定に向けた課題抽出を目的に、リクワイヤメントとして発注者が要求事項を指定する、もしくは受発注者協議で決定し、検討してきたところである。
近年、事業においてBIM/CIMを活用する際に必要となる基準要領などがおおむね整備されてきたことから、2020年度にリクワイヤメント実施目的や内容について見直しを行い、2021年度から運用を開始した。
基準要領などの課題抽出を目的とした検討は別途行うこととし、今後は円滑な事業実施のために発注者が必要であると判断した場合にリクワイヤメントを設定し、受注者はBIM/CIMを活用してリクワイヤメントについて検討を行うこととしている。
BIM/CIM原則適用においては、先述した内容について実施することを必須としており、リクワイヤメントの検討は必須ではなく、発注者が指定した場合のみ行う任意の検討事項としている。
 
これらを実施することにより2023年度には図-3に示している内容が実現できると想定している。

令和5年度のBIM/CIM原則適用に向けた進め方

表-1 令和5年度のBIM/CIM原則適用に向けた進め方


令和5年度のBIM/CIM原則適用に向けた進め方

図-3 令和5年度のBIM/CIM原則適用に向けた進め方



 

原則適用に向けた取り組み

国土交通省ではBIM/CIMの効率的かつ効果的な活用に向け、BIM/CIM推進委員会などの議論を踏まえ、BIM/CIMに関する基準類の整備を進めている(図-4-14-2)。
これまでに整備した主たる要領とその他の取り組みについて紹介する。

各段階の事業実施において適用または参照する基準・要領等

図-4-1 各段階の事業実施において適用または参照する基準・要領等


BIM/CIM仕様・機能要件

図-4-2 BIM/CIM仕様・機能要件


(1)BIM/CIM活用ガイドライン(案)

2020年度には、「CIM導入ガイドライン(案)」を設計業務等共通仕様書の構成に合わせ「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」へ全面的に再編した。
「CIM導入ガイドライン(案)」は公共事業に携わる関係者(発注者、受注者など)がBIM/CIMを円滑に導入できることを目的に作成しているが、BIM/CIMモデルを作成することに重点を置いた記載となっており、事業におけるBIM/CIMの活用場面や効果に関する記載が希薄であった。
このため、BIM/CIM活用業務や工事で得られた知見を踏まえ、事業の実施に主眼を置き各段階の活用方法を示すとともに、各段階の構造物モデルに必要となる形状の詳細度、属性情報の目安を示すことを念頭に、「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」として改定した。

(2)3次元モデル成果物作成要領(案)

工事における契約図書を従来どおり2次元図面とすることを前提として、設計品質の向上に資するとともに、後工程において契約図書に準じて3次元モデルを活用できるよう、詳細設計業務における3次元モデル成果物の作成方法および要件を示すことを目的に、「3次元モデル成果物作成要領(案)」を策定した。
今後、詳細設計業務においてBIM/CIM原則適用とする場合は本要領に基づいてモデルを作成し、納品することとなる。
 
詳細設計の最終成果物として3次元モデルだけでなく2次元図面の作成も求めることから、2次元図面の全ての情報を3次元モデルとして作成するのではなく、本要領に基づくBIM/CIM活用目的を達成するために必要となる最小限の仕様を3次元モデルとして作成することを求めている。
単に3次元モデル成果物の要件を定めるだけでなく、設計当初から3次元モデルを作成し、関係者協議、受発注者による設計確認、設計照査を実施の上、最終的な3次元モデル成果物(本要領では詳細度300を基本とし、寸法線や注記などの付与は必須としない)につなげるための基本的な作成方法を掲示している。
 
現在の適用範囲は、「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」における道路土工、山岳トンネル、橋梁、河川(樋門・樋管)を対象としており、今後適用範囲の拡大および要領の見直しを行っていく。
 
また、2021年度は、ICT施工時の3次元設計データ作成の作業を省力化することを目的に、詳細設計時に作成した3次元モデルをICT施工で可能な限り活用できる3次元モデルの作成仕様について検討しており、検討成果を本要領へ反映することを予定している。

(3)人材育成等による受発注者支援

今後のBIM/CIM活用拡大に向け、人材育成についてもさらに積極的に取り組んでいく。
 
受発注者双方の人材育成において、3次元情報の活用のために習得すべき専門的な知識や技能を整理し、2021年6月に「BIM/CIM教育要領(案)」の改定を行った。
人材育成で目指す「人材」とは、土木工学分野の専門知識に加え、BIM/CIMなどの3次元情報の利活用(モデル作成、照査など)ができる能力・技術を有する者を想定している。
 
「BIM/CIM教育要領(案)」では、期待する学習目標を「入門」、「初級」、「中級」と「上級」ごとに設定し、「入門」では、「BIM/CIMの利活用の体系」の学習に向けた事前学習として「BIM/CIMの技術的な体系」の概要の理解を目標としており、「初級」では、「入門」の内容に加え、BIM/CIMに関する基礎的な技術の理解と「BIM/CIM活用ガイドライン(案)」を理解し、自身が担当する実務能力の向上を目標としている。
 
また、本要領に合わせて入門編、初級編の受発注者共通項目に関する研修コンテンツを作成しており、全国の地方整備局などの研修や関係団体などで活用できるよう、「BIM/CIMポータルサイト」に公開している(図-5)。
公開しているコンテンツは、PDF形式の資料に加え、これらの資料をeラーニングとして学習できるよう、動画コンテンツも公開している。
 
また、BIM/CIMをより効率的、効果的に活用していくためには、基準類の整備だけではなく、それらを活用することができる環境を整備していく必要がある。
 
受発注者の支援については研修コンテンツの公開による人材育成だけでなく、国土技術政策総合研究所が主体となり受発注者がクラウド上で3次元モデルの作成や共有などを行い、BIM/CIMモデルなどのデータを一元的に集約するシステムの構築を進めている。
本システムが本格的に運用されることで、受発注者双方の作業環境の構築、円滑な情報共有を行うことができる。

BIM/CIMポータルサイト

図-5 BIM/CIMポータルサイト


(4)その他の取り組み

これらの取り組み以外に2021年度は、3次元測量において取得された点群データがデータ容量などの問題から後工程の設計段階で活用することが難しいという課題を踏まえ、精度を確保するための手法を検討した上で、設計段階で活用可能な測量時の3次元の仕様についてマニュアルとしてとりまとめる予定である。
 
また、これまでi-Constructionモデル事務所で行ってきた取り組み事例を基に、複数の業務・工事が並行して行われる際、BIM/CIMを活用して効率的に事業監理を行う場合の具体的な運用方法について検討し、ガイドラインとしてとりまとめる予定である。

 
 

おわりに

2012年度から検討を進めてきたBIM/CIMについて、これまで活用件数を着実に伸ばしてきたが、2023年度の小規模なものを除く全ての公共工事への原則適用の対象となる母数を踏まえると、活用件数は今後飛躍的に増加させる必要がある。
ただし、BIM/CIMの活用件数はその普及に関する指標の一つに過ぎず、BIM/CIMは生産性向上、受発注者双方の作業効率化・高度化に資する一つの手段であるということを念頭に置いて推進する必要がある。
 
測量・調査、設計、施工、維持管理・更新の各段階におけるBIM/CIMの活用だけでなく、建設生産プロセス全体で一気通貫したBIM/CIMの活用を見据えなければいけない。
 
また、建設現場の生産性向上を図るためには、i-Constructionの取り組みを国の直轄工事以外にも拡大していくことが重要である。
このため、地方公共団体などに対して、発注関係者の集まる発注者協議会などの場を通じて、BIM/CIMをはじめとしたi-Constructionに関するさまざまな基準類について周知を図りつつ、連携して取り組みを進めている。
 
このほか今後はBIM/CIMに係る各種基準類についてもより使いやすく、分かりやすい内容とするため、BIM/CIMを活用して得られた課題への対応や関連基準類の整備状況を踏まえて継続的に改善を図っていくこととしており、i-Construction、BIM/CIMの取り組みの普及、進展を図ることで建設現場における生産性向上をより一層実感できる環境の整備を進めていく。

 

 

国土交通省 大臣官房 技術調査課

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集1 建設DX、BIM/CIM
建設ITガイド_2022年


 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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