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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > BIM > 地方の中小事業者の挑戦、BIMの次の活用

地方で設計者のBIM連携を考える

弊社は2013年からBIMを使い始め、今年で9年目に突入した。
意匠図はBIMから書き出し、建築主との打合せもほぼ3D画面を見ながら行っている。
 
ところが、付帯する設備図、構造図は、2次元CADで書かれたものを使っており、設備配管のルート確認や干渉チェック、意匠図との整合性確認は人の目でアナログ的に行っている。
自社には設備や構造の担当者がいないため、協力事務所への依頼となり、BIMでの連携ができない状態だ。
 
意匠図をうまくBIMで扱えるようになってくると、やはり次のステップに進みたくなる。
より設計全体の効率化を図っていくために、設備や構造との連携事例と、地方設計事務所の動きをご紹介する。

 
 

地方でも施工段階での設備&構造の連携は十分可能

鉄骨造10階建て共同住宅で、意匠図は全てBIMベース、構造と設備は2次元CADでの作図を行った実施案件があった。
設計BIMデータは意匠モデルのみ。
施工段階でのチェックもほぼ2次元図面で行っていた。
 
各専門業者と打合せをする中で、鉄骨の製作所はREAL4を導入していたため、製作図のIFCを取得し意匠図との連携を図ることができた。
また設備業者はTfasで施工図を作成していたため、これもIFCを取得。
これらを設計BIMモデルにインポートして、スリーブ位置や天井納まり、配管ルートなどの確認を行うことができた。
3D上で見ると非常に分かりやすく、設計BIMモデルのデータを生かしながら施工図レベルのモデルを使って検証できた点は良かった。
 
問題だったのは、元請の施工会社がBIMデータを扱えなかったことである。
設計事務所、各下請業者は施工図レベルでBIM連携できるデータを持っているにもかかわらず、肝心の元請が使えないので、結果的にうまく有効活用できなかった。
 
鹿児島に限らず、地方ではこういう事例は多いと思う。
構造躯体と設備等との干渉は、事前に綿密に確認をしておかなければ、現場では手直し不可能である。
鉄骨製作所、設備業者とも「IFCデータを要望されたのは初めて」というリアクションで、実は施工段階で活用できる3Dデータは揃っているのに、それを扱えず、無駄になっているのが現状だ。
 
BIMデータを使えばもっと品質の良い建物が高い生産性で生み出せるはずで、ベースになるデータはほぼ揃っている。
ここに気付けば、後はうまく活用するだけなので、多くの施工会社にぜひ気付いてほしい(図-1~4)。

REAL4データ

図-1 REAL4データ

Tfasデータ

図-2 Tfasデータ



 

構造設備の統合モデル

図-3 構造設備の統合モデル

構造設備意匠の統合モデル

図-4 構造設備意匠の統合モデル



 

より連携を深める挑戦・令和3年度国交省BIMモデル事業「中小事業者BIM試行型」

設計と施工を明確に切り分けて、2次元図面を契約図面とし、図面に基づいて施工していくのが現状の商習慣だが、品質、生産性という観点からはこれが必ずしもベストだとは思わない。
かといって、全て設計施工一括で行うのが理想とも思わない。
現状の商習慣にとらわれず、生産プロセス全体の効率化を意識した上で、うまいやり方はないか?と思っていたところ、令和3年度の国土交通省BIMモデル事業の公募の話があり、鹿児島の地場施工会社とチームを組み公募に挑戦、採択に至った。
 
まずは設計の初期段階で、コストや工程などで施工上懸念される事項を洗い出し、生産プロセスの適正化を図るための取り組みを考えた。
施工コンサルという立場で、施工会社にもBIMモデルのクラウドサーバーにアクセスしてもらい、3D上で仮設計画や共有しながら情報交換、必要項目の設計への反映を行った。
仮設計画を行うための敷地状況は、iPhone12ProのLiDARで点群をスキャニングし、モデルにインポートした。
このようなやり方もBIMならではである。
 
次に、構造、設備、その他専門業者とのBIMデータ連携を考えた。
今回はRC壁式構造で、計算ソフトはWALL-1を使用、これがIFCの書き出しもST-Bridgeでの出力もできなかったため、残念ながらデータ連携はできなかった。
設備はTfasで作図し、IFCデータにて連携することができた。
金物やサッシなどの専門業者でArchicadを使っている企業があったため、クラウドサーバーにアクセスしてもらい、BIMモデルを確認してもらいながら、細かい施工納まりの打合せができた。
 
確認申請についてもBIMデータを使っての取り組みを行った。
弊社では2018年にも実施しているが、今回はBIMデータのみでの申請はかなわなかった。
これは実例があまりに少なく、審査側の人材が育っていないことも一因である。
実例が少ないという点は、設計者側の責任も大きいと考える。
また、消防についてもオンライン・電子化での対応を交渉してもらったが、受け入れられなかった。
実務で申請業務は避けて通れないが、ここがBIM化・電子化できてないのはボトルネックである。
 
積算にもBIMモデルを活用した。
数量算出の精度を確認するため、通常の手拾いと併用している。
施工段階で改めて数量の精度を確認し、最適なモデル入力、算出手法を確立していきたい。
 
次のステップは、施工モデルに変換して活用することだ。
鉄筋のモデリングや施工図の書き出し、モデルベースでの配筋検査、工程監理にチャレンジしたい。
 
通常、設計モデルと施工モデルは分けて作られることが多いが、今回は小規模建築のため、基本設計から最終的な検査完了までを一つのモデルで進めている。
これらについて、それぞれどのようなメリットがあるのか、しっかりと検証したい。

 
 

最新の取り組みは地方にある!

Archicadを使っているユーザーは、各エリアにユーザー会を結成し、定期的に情報交換や勉強会を行っている。
これが、レベルが非常に高いのだが、ほとんどが地方で活躍している設計者だ。
 
BIMはCADに比べるとかなり複雑で、規模の大きい物件をいきなりBIMで進めるのは、難易度が高いと思う。
地方での物件規模は大き過ぎず、小さ過ぎず、最初にBIMに取り組んだり、新しいアプローチでBIMを活用したりするのに最適な案件が多いと感じている。
 
その上、近年はセミナーなどもオンライン化が進み、新しい道具もすぐに手に入る。
もはや都心にいなくても、最新の情報に容易に触れることができるようになった。
 
小回りの利くチームで、ほどよい規模の物件となれば、先進的な取り組みも多くなっていく。
このような動きが各地で起きてくると、日本の建築業界も大変面白いものになってくると感じる。
 
ただ、まだまだ地方では、発注者側にBIMのメリットが伝わっていない。
そのため、発注者側からのBIMの要求は皆無である。
 
本来、BIMを使うことの最大のメリットを享受するのは「建築主」ではないだろうか。
見慣れない図面ではなく誰でもイメージしやすい3Dモデルで打合せができる。
模型とは違いイメージどおりの建物ができる。
そのデータを使って施工コストを適正化するとか、維持管理コストを簡単に管理することができる。
BIMで建物を生産することにより建築主が享受するメリットは非常に大きいものがある。
 
われわれ技術者も、技術を追求していくだけでなく、それを一般的なものとし、広く普及していくフェーズに変えていかなければならないのだろう。

仮設計画との統合

図-5 仮設計画との統合

配管モデルとの統合

図-6 配管モデルとの統合



 

周辺敷地は点群データをインポート

図-7 周辺敷地は点群データをインポート

打合せはオンラインがメイン

図-8 打合せはオンラインがメイン



 

全体ワークフロー案

図-9 全体ワークフロー案



 
 
 
 
 

吉田浩司 プロフィール

【執筆者】
吉田浩司
株式会社ixrea 代表取締役
一級建築士、一級建築施工管理技師、認定BIMマネジャー
公益社団法人鹿児島県建築士会、一般社団法人鹿児島県建築士事務所協会 所属
 
2020年より公益社団法人建築士会連合会青年委員会九州ブロック青年委員を担当
福岡大学建築学科非常勤講師(建築情報のBIM授業担当)


【略歴】
鹿児島県出身
国立都城工業高等専門学校建築学科卒、国立大学法人鹿児島大学大学院理工学研究科建築学専攻修了。
大手組織事務所、地場設計事務所勤務を経て2013年に鹿児島にて(株)ixreaを設立。
設立当初よりArchicadを導入しBIM活用を進める。
2018年にBIMデータによる確認申請を実施。
鹿児島で設計中の案件が令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業に採択され、推進中。

 
 
 

株式会社 ixrea
代表取締役 吉田 浩司
吉田 浩司



 

 
 
【出典】


建設ITガイド 2022
特集2 建築BIM
建設ITガイド_2022年


 

最終更新日:2023-07-14

 

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