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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > 公園緑地における公民連携の推進

1. 都市公園制度と公民連携

平成29年(2017年)に「都市緑地法等の一部を改正する法律」が施行され,公募設置管理制度(以下,Park-PFI)が発足して今年で5年が経過した。
この法律改正は,Park-PFI制度,市民緑地認定制度,都市農地の活用等広く公園緑地全般に公民連携の仕組みを用意したものとなっている。
こうした公園緑地における公民連携の源流は,明治6年(1873年)の太政官布達による都市公園制度の発足当時(あるいはそれ以前)にまで遡ることができる。
また,昭和31年(1956年)に制定された都市公園法においては,法制定時より公園管理者以外の者が公園施設を設置管理する仕組みが用意されており,他の公共施設とは異なり都市公園は制度創設時点から公民連携の仕組みを都市公園本体に内包し今日に至っている。
 
さらに,上記の平成29年改正より前の時点でも,平成16年(2004年)のいわゆる景観緑三法(都市公園法の改正等)において,設置管理許可制度の拡充,立体都市公園制度の創設等の公民連携推進のための制度や仕組みが創設されている。
また,令和2年(2020年)には,都市再生特別措置法の改正に伴い,都市再生整備計画に定める滞在快適性向上区域内の都市公園が,交流・滞在拠点として重要な役割を果たすよう,当該都市公園のリノベーションを促進する制度として,公園施設設置管理協定制度(以下,都市公園リノベーション協定制度)が発足している。
 
これら以外にも,都市計画制度等を活用した公民連携事業により,公園の整備管理が行われている事例もあり,また,都市公園の管理においては指定管理者制度の普及が相当進んでいる。
このように,さまざまな公共施設の中でも,都市公園を中心とする公園緑地は,歴史的経緯から見ても,活用する制度の多様性の面からも,公民連携のトップランナーと言うことができよう。
 
 

2. Park-PFI 事業等の動向

さて,本稿の主題のPark-PFI であるが,制度創設から今年で5年が経過し,既に100件を超える事業の公募が行われており,内容的にも公募実施主体である地方公共団体の創意工夫により,さまざまなタイプの事業が展開されるようになってきている。
 
制度開始当初は,飲食店等の収益施設とその周辺の公園整備を行うものが多く見られたが,最近では,公園の一定の広がりのある区域あるいは公園全体の新設や再整備を行うもの(写真-1,写真-2),指定管理者の公募に合わせてPark-PFIの活用を図るもの,小規模公園の包括的指定管理とPark-PFI を組み合わせて実施するもの,運動施設等の再整備において設計・施工を一括発注す
る方式(DB)とPark-PFI を組み合わせて実施するもの,Park-PFIと公園の周辺地域の整備を一体の公募として実施するものなど複合的な事業スキームを構築している事例が見られるようになってきている。
また,国営公園や都道府県営公園のような大規模な公園でもPark-PFI を実施する事例(写真-3)が見られるようになっている。公募対象公園施設の種類についても,飲食系施設が多く見られる一方,宿泊・レクリエーション系施設,文化・スポーツ系施設,これらの多様な施設を複合的に組み合わせたものなど,幅広い種類の施設が整備されるようになってきており,公募への参加企業の業態も多岐にわたっている。
 
また,地域的広がりについても,大都市圏,地方圏を問わず全国的な広がりが見られ,人口規模の大きな地方公共団体から規模の小さな地方公共団体までさまざまな地域において事業が展開されている。
このように,多様な課題を解決する手法としてPark-PFIが活用されるようになってきていることに加え,前述のように,公園緑地の公民連携の手法として,これまでさまざまな制度が整備されており,立体都市公園制度(写真-4),都市計画制度,市民緑地認定制度,都市公園リノベーション協定制度(写真-5)などを活用する公民連携の事例も増えてきている。
今後は,目的や課題に対応し,どの制度を手段として活用するのかという視点がより重要になってくると考えられる。(表-1)
 

Park-PFIを活用した新宿中央公園の再整備

写真-1 Park-PFIを活用した新宿中央公園の再整備

Park-PFI制度を活用した
新設防災公園イケ・サンパーク

写真-2 Park-PFI制度を活用した
新設防災公園イケ・サンパーク

神奈川県立観音崎公園におけるPark-PFI

写真-3 神奈川県立観音崎公園におけるPark-PFI

立体都市公園制度を
活用した宮下公園

写真-4 立体都市公園制度を
活用した宮下公園

都市公園リノベーション協定制度を活用したこすぎコアパーク

写真-5 都市公園リノベーション
協定制度を活用したこすぎコアパーク

公園緑地における特徴的な公民連携の取組み事例

表-1公園緑地における特徴的な公民連携の取組み事例

 
 

3. 日本公園緑地協会のこれまでの取組み

日本公園緑地協会(以下,当協会)では,これまで,公民連携のためのプラットフォームである「Park-PFI支援ネットワーク」の設置・運営,Park-PFI制度に関する手引書の作成・発行,講習会やシンポジウムの開催,自主事業による調査研究など,Park-PFIをはじめとした公園緑地における公民連携事業の情報発信,普及啓発,業務支援等に努めてきたところである。
 
当協会では,平成30年(2018年)より,公園緑地における公民連携事業に関心のある民間事業者等をメンバーとする公民連携研究会を設置し,民間事業者の視点も踏まえ,国および公民連携事業に先進的に取り組む地方公共団体との意見交換,先行事例の調査等を行うとともに,公民連携事業の円滑な推進に向け,Park-PFIを中心とする公民連携事業の課題等について調査研究を進めてきたところである。
その検討結果として,公民連携事業の初期段階における事項に関する「第1次提言」,公募・選定段階等における事項に関する「第2次提言」,民間事業者が直面した課題,事業推進における要望およびこれらに対する公園管理者の意見を整理し,公民連携事業をより円滑に進めるうえで必要な事項をまとめた「第3次提言」を公表したところである。
また,昨年(2021年)11月には,「公民連携事業を考えるシンポジウム~公民連携による公園の未来」を開催し,これまでの取組みの総括を行ったところである。
 

4. Park-PFI事業の推進に当たっての留意事項

これまで実施してきたPark-PFI 事業の調査検討や前述の公民連携研究会での議論等を踏まえ,事業発案・事業化検討,事業者選定,事業者認定等,事業実施の各段階における留意事項について主要事項を整理すると以下のようになる。
 

①公園管理者の基本的方針と公園目標の提示

公園経営方針や公民連携方針などの基本方針を策定し,さらに公園のヴィジョン,パークマネジメントプラン等の提示による具体的な公園の目指すべき方向性を明確に示すことが重要である。
 

②行政内部の体制の構築

公民連携事業の特性を理解し,構想から事業の完了まで一貫した方針を維持し,マネジメントする組織体制の構築が必要である。
 

③サウンディング調査に基づく条件設定

事業のさまざまな段階で,適切なサウンディング調査を実施し,確実な事業条件の設定を行うとともに,必要に応じ,サウンディング調査への積極的な参加を促進するような民間事業者へのインセンティブの付与なども検討することが望まれる。
 

④適切な公募事業スケジュールの設定

議会対応や予算措置に要する時間等に配慮した公募スケジュールの設定を行うこと,また,認定有効期間を実質的な事業期間とすることなどの取組みが必要である。
 

⑤適正な審査基準の設定と評価の公表

審査に当たって,公園使用料,特定公園施設の行政負担額などの価格評価に偏重することなく,適正な審査基準設定,審査結果の公表が必要である。
 

⑥対象公園に関する適切な情報提供

行政が保有する公園に関するデータ,事業の前提となる各種情報を明確にし,情報提供が不足している場合は公民双方がパートナーシップに基づき対話することが必要である。
 

⑦投資環境の整備

行政として民間事業者が提案した事業が持続可能な事業となるような投資環境を整備することが必要である。
指定管理者制度の採用などにより民間事業が成立可能な事業構造を検討することが求められる。
 

⑧適正なリスクマネジメントの実施

公民連携事業では,適正なリスクマネジメントを実施することが重要である。
リスクが顕在化した段階で,公民それぞれがパートナーシップの精神に基づき協議を行い,双務的に対応することが必要である。
 

⑨役割分担と費用負担の明確化

公民の役割分担と費用負担等の協議が,円滑な事業実施に不可欠な取組みとなる。
 

⑩地域の合意形成への取組み

質の高い公園施設の整備,事業の継続性を確保するためには,ステークホルダーとの合意形成が必要不可欠であり,地域の合意形成プロセスには公民相互が一定の役割分担のもと,主体的に係わることが必要である。
 
 

5. Park-PFI 事業と指定管理者制度の併用および地域の合意形成

以上のように,Park-PFI事業を進めるに当たっては,さまざまな事項に留意する必要がある。ここでは,そのうち,Park-PFI制度と指定管理者制度を併用と地域の合意形成を取りあげ,それぞれの留意点について述べることとしたい。
 

① Park-PFIと指定管理者制度の併用について

最近では,Park-PFIと指定管理者制度を併用する事例が多く見られるようになってきている。
指定管理者制度は,通常,5年程度の期間で運用されるケースが多いが,Park-PFIと併用する場合には,双方の事業期間の調整(すなわち,指定管理期間をPark-PFI の事業期間に合わせて長く設定する)が必要となる。
 
指定管理者制度は,すべての公共施設に適用可能な汎用的制度であり,地方公共団体においては,通常,全般的な指針やガイドライン等が設けられている。
このため,Park-PFIと指定管理者制度を併用する場合には,双方の制度を一体的に運用することのメリットを整理したうえで,指定管理者制度所管部局(通常は行政管理部門)との調整が必要となる。
 
指定管理者の選考は,通常,選考委員会を設けて行うことが多いが,この選考プロセスは,Park-PFIの選考プロセスと親和的であり,ひとつの委員会において,両方の審査を行うことにより事務の効率化が図ることが可能である。
実際にひとつの委員会において両方の審査を行っている事例もある。
一方,指定管理者の指定は,議会の議決事件とされており,Park-PFIの選考自体は議決を要しない事項となる。
しかしながら,財産取得や予算が伴う場合には,議会議決が必要となる場合もあり,一連の双方の事務を整理したうえで,どのタイミングでどの議案を提案するのかなどについて検討することが必要となる。
 
以上を整理すると,Park-PFIと指定管理者の公募を一体的に行う場合には,選考委員会をどのように運用するのか,それぞれの事業期間をどのように設定するのか,議決事件に関する事務をどのように設定するのか等について,事前に検討することが必要となる。

②地域の合意形成について

Park-PFIをはじめとする公園緑地の公民連携事業を進める過程において,行政と市民とのコミュニケーションの不足から,事業の内容等が市民との間で情報共有されていないといった点が課題となっているケースや地域住民等の間で事業に対する合意形成が不十分であることなどが課題となるケースが散見されるようになっている。
 
Park-PFI事業には,制度として地域住民等との合意形成に関する手続きが組み込まれておらず,最低限の手続きを事務的に執行するのみの対応を行うと,市民や地域住民の側から見るとある日突然新たな公園計画が出現するような事態となり,場合によっては,紛争事案に発展してしまうことになる。
したがって,こうした事態に陥らないために,情報開示を進めるなど地域事情を踏まえた対応が求められ,公募を行う地方公共団体が事務手続きの各段階に合わせて任意に工夫をすることが必要となる。
 
いくつかの事例を挙げれば,初期段階からの住民参加,サウンディング調査結果の開示,選定委員会や公募提案のプレゼンテーションの公開,社会実験等を活用した市民参加の促進,地元関係者との合意形成の場を設けるなど,計画段階から公募の各段階において,公園の立地特性に応じたさまざまな工夫を検討する必要がある。
 
 

6. コロナ禍を越えて~都市公園制度創設150周年に向けて

コロナ禍による行動制限等が始まって今年で3年目を迎える。一昨年(2020年)にコロナ禍による行動制限等が始まった当初は,多くの公共施設において利用制限が行われ,都市公園等でも,花見での飲食の禁止,屋内施設,運動施設,バーベキュー施設等の閉鎖などが行われた。
また,学校や保育園が休校・休園・登園自粛となり,在宅勤務が推奨され,家で過ごす時間が長くなるなどの影響から,住宅地等では身近な公園緑地への利用が集中するなどの状況が発生し,公園を管理する地方公共団体には住民からの苦情が多く寄せられた。
こうした事態に対し,新型コロナウイルス感染症対策専門家会議は,「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月22日)において,外出自粛によってこれまでより人が増加する場として公園を例示し,注意喚起を行った。
地方公共団体によっては,ゴールデンウィークを中心に公園の遊具や駐車場の一時閉鎖が行われたことは記憶に新しい。
 
その後,新型コロナウイルス感染症に関する知見が蓄積されるに従い,このような過剰な反応は沈静化しつつある。
昨年(2021年)8月12日の新型コロナウイルス感染症対策分科会 の提言では,クラスターの発生が少なく,感染リスクを比較的
低く保つことができる施設として公園が例示されるに至っている。
また,都市公園等は,コロナ禍においてさまざまな活用が図られており,ワクチン接種のための会場としての活用,PCR検査の
ための臨時仮設施設の設置などの事例もみられる。
 
さらに,専門家からは,コロナ禍の行動制限等や行動自粛による健康二次被害や子どもの遊び環境の課題が指摘されており,屋外で安全に体を動かすことができる公園緑地は,コロナ禍において,その必要性や活動の場としての無限の可能性が再認識されたのではないかと思われる。
公園緑地の管理を担う指定管理者等もさまざまな工夫を凝らし,コロナ禍だからこその公園緑地の利活用の取組みが見られるようになってきている。
 
来年(2023年)は,明治6年(1873年)に太政官布達による都市公園制度が発足してから150年周年の節目の年である。
平成29年(2017年)にPark-PFIの制度が設けられ,公民連携による公園緑地の整備管理の進展はここ数年において目覚ましいものがあるが,冒頭述べたように,太政官布達が発せられた明治初期,あるいは,それ以前から,民間事業は公園(あるいは公園的施設)において展開されてきたのであり,都市公園制度150年の歴史は,公民連携の歴史であったと言っても過言ではない。
例えば,太政官布達公園の代表とも言うべき上野公園やわが国最初の近代的都市計画による都市公園である日比谷公園では,公
園開設初期からの長い歴史を持つ飲食店が現在も健在であるし,こうした民間施設の魅力も相まって多くの人々で賑わっている。
 
当協会としては,来年の都市公園制度創設150周年の節目に当たり,公民双方の連携により,公園の持つポテンシャルがさらに高まり,このことが,さらなる快適な公園の利活用に繋がるよう努力してまいりたい。
 
 
 

一般社団法人 日本公園緑地協会 常務理事 
浦田 啓充

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年8月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-06-28

 

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