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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 生産性向上 > ボルト挿入機能付きリモートスカイドリルの開発

はじめに

近年の建設業就業者数は,55歳以上が全体の約34%となり高齢化が進行している。
一方,29歳以下は約11%と若年者の就業率は低い。
今後数十年で高齢の技能労働者が大量離職すると見込まれ,若手の入職率低迷と相まって担い手の確保は建設産業全体の課題となっている。
このような状況下で社会インフラの維持・整備を適切に継続していくには,業務の効率化や機械化による生産性の向上に取り組む必要がある。
国土交通省では,建設現場におけるイノベーションや新技術導入による生産性向上を図る取組みとしてi-Construction※を推進し,その利活用が加速している(※1)。
 
当社ではこうした社会情勢に対し,生産性向上に資する工法改良として,従来技術であるバックホウドリルに無線操縦機能と誘導管理システムを搭載したリモートスカイドリルを開発した。
 
本稿は,これら削孔システムの概要について紹介するとともに,新たに鋼材挿入機能を付与した「ボルト挿入機能付きリモートスカイドリル」について報告したものである。
 
※国土技術政策総合研究所の登録商標

 
 
 

1. 開発背景

法面工は高所におけるロープ足場作業が多く,専門性の高い技能労働者の確保が必須であるが,高齢化や入職率の低迷により慢性的な労働者不足に陥っている。
そこで法面での削孔作業の省人化・省力化を目的として,本システムの開発に着手した(※2)。

1-1 従来技術バックホウドリルの課題

地山補強土工における従来技術バックホウドリル(以下,従来技術と略す)の課題は,
 
①重量のある付帯設備(空気圧縮機,空圧式削孔機,発電機,操作盤,動力ホース類)が多く,これら設備の移設作業に時間を要する
②削孔アタッチメントが重く,搭載可能なバックホウが大型となり,汎用性に欠ける
③施工箇所が高所であり,バックホウドリルの誘導や削孔位置,削孔出来形の確認といった作業を法面工で行わなければならない
 
など,機械的課題と施工的課題が存在していた(写真-1)。

従来技術(バックホウドリル)の施工状況

写真-1 従来技術(バックホウドリル)の施工状況


1-2 リモートスカイドリルの開発

このような課題を解決するため,「リモートスカイドリル」(以下,新技術と略す)では,前述の課題に対する検討項目として,
 
①付帯設備については,操作盤の無線化および小型化,動力系統の見直しによるホース類および動力機械の削減
②削孔アタッチメントの軽量化による搭載バックホウの小型化
③オペレータを補助するシステムとしてICT
 
機器の導入について検討した。

 
 
 

2. リモートスカイドリルの概要

以下に前述の課題を踏まえたリモートスカイドリルの概要について述べる(写真-2)。

リモートスカイドリル

写真-2 リモートスカイドリル


2-1 動力配管作業の低減

従来技術は,全空圧駆動であり複数のエアーホース配管が必要であった(写真-3)。
これに対し,新技術の動力源は,削孔に用いる空圧以外を油圧式駆動に変更した(写真-4)。
このため油圧動力配管は,バックホウ本体の供用配管を活用することによって,動作コントロールバルブおよび油圧ホース類をアタッチメント内に積載することが可能となった。
これによって,従来型で必要であった地上部における空圧配管が従来の7本から1本に大幅に削減された。
操作用電源(DC24V)については,運転席内からの供給による駆動としたため,従来必要としていた油圧動力ユニットや発電機が不要となる。
これら動力系統の見直しによって,削孔に必要な空圧量も削減され,従来型より出力比50%程度の小型化が可能となった(表-1)。

従来技術の配管

写真-3 従来技術の配管

リモートスカイドリル

写真-4 リモートスカイドリルの配管


表-1 従来技術とリモートスカイドリルの比較
従来技術とリモートスカイドリルの比較
従来技術とリモートスカイドリルの比較


2-2 アタッチメントの軽量化

一連のシステム開発に伴い,アタッチメントについても構造および設計の見直しを行った。
これにより,アタッチメント本体重量が,従来よりも約3割軽量化されたため,従来ベースマシン(0.8m³級)がサイズダウン(0.5m³級)され,小回りが利き,対応可能な施工条件が広がった。

2-3 無線操作方式による配管作業の低減

従来技術は,一連の削孔動力として空圧を用いていたため,圧縮空気の動力ホースに伴う操作盤を必要としていた(写真-1左下写真-3)。
これに対し新技術では,操作盤に小型無線式を採用したことで定置式操作盤の移設や,ホース取り回し作業が低減された(写真-4写真-5)。
さらに,削孔機操作がバックホウの運転席内で行えるため,バックホウオペレータが削孔機操作を兼任することが可能となり,省人化を図ることが可能となった(表-1)。

リモートスカイドリルの無線操作盤

写真-5 リモートスカイドリルの無線操作盤


2-4 姿勢制御機能

従来技術は,バックホウからの操作によるガイドセルの姿勢制御(削孔方向と水平角度)が必要であった。
この場合,オペレータのスキルや油圧駆動特有の誤差が生じていた。
これに対し新技術では,無線操作盤にガイドセルの姿勢制御とスライド機能を付与させたことで,従来技術では時間を要していたバックホウによるガイドセルの微調整作業が低減され,作業時間の短縮が可能となった。

 
 
 

3. 法面削孔機誘導管理システム

さらなる施工管理の効率化を図るために追加した機能として,法面削孔機誘導管理システムがある。
具体的には,角度情報や削孔深度情報を得るための「センサボックス」と,削孔位置を目視確認する「誘導カメラ」をリモートスカイドリルのガイドセルに装着し,それらから得られる情報をバックホウ運転席内に設置した「施工管理モニタ」で把握できるシステムである。
これによって,バックホウ操作と削孔操作をバックホウオペレータに集約できるため,効率的かつ精度の高い施工が可能となった。
さらに,これら機器から得られたデータを後述の「施工管理ソフト」によって収集し,帳票化するシステムも組み込んだ(図-1)。

法面削孔誘導管理システムの構成

図-1 法面削孔誘導管理システムの構成


3-1 センサボックス

当システムで各種計測を担うセンサボックスは次表の機器で構成され,各センサの計測情報は,施工管理モニタへ表示可能とした(表-2写真-6)。
壁面距離センサは,法面に対して削孔方位の直交状況を確認する。
IMUは,ロール角・ピッチ角を計測し,リモートスカイドリルの削孔位置誘導のバックアップを行う(図-2)。
測長センサは,削孔長を計測し施工進捗率が施工管理モニタにリアルタイムで表示される。

表-2 センサボックス機器と取得情報
センサボックス機器と取得情報


センサボックス

図-2 センサボックス

IMU による姿勢制御

写真-6 IMU による姿勢制御


3-2 誘導カメラ

誘導カメラは,ガイドセル先端に設置し,削孔ツールス先端部を撮影する。
これによって法面工による誘導補助を不要とし,バックホウオペレータによる削孔位置確認とセットが可能となる。
カメラ画像は施工管理モニタに表示され,タッチパネル操作により画像の拡大縮小や任意の位置を映し出すことが可能となっている(写真-7)。

誘導カメラ

写真-7 誘導カメラ


3-3 施工管理ソフト

施工管理ソフトは,施工管理モニタに搭載され,事前に削孔情報を登録し,この情報を確認しながら施工が可能である。
施工結果は,各孔ごとの項目(管理番号,角度,方向,削孔長,施工日時)が記録され,日々の施工管理を行うことを可能とした。
加えて,施工と同時に出来形成果表も作成できるシステムとした(図-3)。

誘導カメラ

図-3 施工管理ソフトの概要


3-4 誘導操作

削孔管理モニタにおける誘導画面は,矢印表示による目標角度のナビゲーションとした(図-4写真-8)。
矢印は目標値外を赤,目標値内を青とし,赤→青へ表示が切り替わるように機械操作を行うことで,所定の角度による削孔位置セットを行う。
なお,セット完了後は管理モニタにて「削孔開始」表示をタッチすることで削孔管理画面へと移行する。

削孔角度確認画面

図-4 削孔角度確認画面

削孔ポイントセット状況

写真-8 削孔ポイントセット状況


3-5 削孔および出来形管理

削孔状況管理画面には削孔長と削孔進捗率が表示され,その情報を確認しながらオペレータは削孔を行う(図-5写真-9)。
所定の長さまで削孔した後,「削孔終了」表示をタッチし,データが保存される。

削孔長確認画面

図-5 削孔長確認画面

削孔状況管理画面

写真-9 削孔状況管理画面



 
 

4. ボルト挿入機能付きリモートスカイドリル

地山補強土工は,高所における削孔作業を完了した後,鋼材の挿入作業が必要である。
従来技術では,削孔完了後,鋼材の挿入作業を法面工による人力作業で行っていた。
この場合,高所かつ削孔機械近傍での人力作業が必要となり,高所での重量物作業や重機との接触などいくつかのリスクが存在していた。
これに対し,新技術では,一連の人力作業を機械化することで,危険リスクが低減された(写真-10)。
 
搭載したボルト挿入機能とは,ガイドセルにボルトマガジンを設置し,ドリフタ部に取り付けた削孔ツールスとボルト材を入れ替えながら削孔と挿入の作業を交互に行うものである。
まず,削孔完了後,ロッド脱着装置によって削孔ロッドをドリフタから取り外す。
次に,ボルトマガジンに搭載したボルト材をドリフタへ装填する。
その後,ドリフタをスライドし,ボルト材を削孔穴へ挿入し作業完了となる。
以降の作業は,再び削孔ロッドをドリフタへ取り付け,削孔作業を繰り返す。
ボルト材は,長さ5m,鋼材径19mm~25mmまで対応し,最大6セットまで搭載可能である(図-6)。

ボルト挿入機能付きリモートスカイドリル

写真-10 ボルト挿入機能付きリモートスカイドリル

ボルト挿入機能の概要(模型)

図-6 ボルト挿入機能の概要(模型)



 
 

5. 効果

5-1 工期短縮

新技術は,現場検証により,ホース配管や削孔機のセット等に要する機械移動の作業時間が2割以上削減できることが確認された。
また,削孔完了後の出来形確認(削孔長確認)については,発注者等との事前協議は必要であるが,作業がリアルタイムで確認可能であるため,省略することが可能になると考えられる(図-7)。

作業日数の比較

図-7 作業日数の比較


5-2 省人化

一般的な地山補強土工の削孔における作業員構成は,①土木一般世話役(施工管理),②法面工(法面上での位置誘導,出来形管理),③特殊作業員(バックホウオペレータ),④普通作業員(機械誘導,削孔オペレータなど)となっている。
新技術を導入した場合,バックホウオペレータが削孔オペレータを兼任することが可能であれば,④普通作業員を配置することなく施工ができるものと考えられる。
その場合を想定した総量1000本の現場における作業延べ人数は,従来技術に比べ3割以上削減できると考えられる(図-8)。

作業延べ人数の比較

図-8 作業延べ人数の比較


5-3 出来形管理の簡略化と安全性の向上

従来技術による出来形管理は,法面への検測器具の運搬や,不安定なロープ足場における作業によって削孔角度や削孔長の出来形確認作業を実施していた(写真-11)。
これに対して新技術は,法面削孔機誘導管理システムの導入によって,削孔角度および削孔長の出来形管理を簡略化することが可能となった(図-3図-4図-5)。
本システムを用いることにより,法面上での作業が大幅に低減され,安全性が飛躍的に向上した。
また,発注者や施工管理者による立会い時においても,施工管理モニタに変更することで,安全かつ効率的な出来形管理が可能となっている。

作業延べ人数の比較

写真-11 従来技術による出来形管理状況


5-4 付帯設備や消費燃料,CO2排出量の削減

前述のように,新技術では,付帯設備の削減や小型化が実現された(表-1)。
その効果として,燃料消費量(表-3)およびCO2排出量に関して約5割程度の削減効果が期待される(表-4)。

表-3 付帯設備の燃料消費量
付帯設備の燃料消費量

参考文献:建設機械等損料表(※3)


表-4 CO2排出量比較
付帯設備の燃料消費量

CO2排出量=(燃料使用量×単位発熱量×排出係数×44/12)(※4)



 
 

6. まとめ

国土交通省によるi-Constructionの推進により,さまざまな工種でICT活用工事に関する要領や基準類が策定されている。
法面工においても平成30年度以降,「3次元計測技術を用いた出来形計測要領(案)」が示され,今後,吹付工以外の工種においても,その適用は拡大されていくと考えられる。令和4年3月には「建設機械施工の自動化・自律化協議会」が発足し,建設機械施工の自動化・自律化・遠隔化技術の促進が期待されている。
 
地山補強土工分野においてもICT活用技術に位置づけられる「リモートスカイドリル」にボルト挿入機能を付与し,さらなる省人・省力化を図った。今後は,注入機能やBIM/CIM対応など,さらなる作業効率化の検討を進める所存である。
 
 
 
 

参考・引用文献
(※1) 国土交通省.i-Construction委員会報告書,平成28年
(※2) 永岡ら.ライト工業R&Dセンター報vol.12021,リモートスカイドリルと法面削孔誘導管理システムの開発,令和3年
(※3) 一般社団法人日本建設機械施工協会.建設機械等損料表,令和3年
(※4) 環境省・経済産業省.温室効果ガス排出量算定・報告マニュアル,令和3年

 

 
 

ライト工業株式会社 R&Dセンター
中田 隼 三宅 淳 二見 肇彦 川添 英生

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年6月号
積算資料公表価格版

最終更新日:2023-06-23

 

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