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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 環境と共生する技術 > (一社)全国建設発生土リサイクル協会 について~建設発生土リサイクルに関する初めての全国組織~

はじめに

一般社団法人全国建設発生土リサイクル協会(Japan Soil Recycling Association;略称:JASRA,以下本稿では「JASRA」といいます)は,2021年4月に国土交通省,一般財団法人先端建設技術センターおよび関係者のご支援をいただき,建設発生土リサイクルに関する初めての全国組織として設立された団体です。
2022年6月末時点の正会員数は40社,賛助会員数は21社,特別会員は(一財)先端建設技術センターの1社となっています。
正会員は,建設発生土土質改良プラント事業を実施している企業が中心ですが,建設業者等建設発生土に関係する企業にも加入いただいています。
本稿の場をお借りして,JASRA設立経緯,取組み等を紹介いたします。
 
 

1. 建設発生土の現状

1-1 建設発生土とは

建設発生土とは,資源有効利用促進法(1991年制定,2000 年改正)に基づく「建設業に属する事業を行う者の再生資源の利用に関する判断の基準となるべき事項を定める省令」において,『建設工事に伴い副次的に得られた土砂を「建設発生土」という』と定義されました。
この定義以前は,通称「残土」と呼ばれていましたが,資源有効利用促進法により「建設発生土」として法的位置づけが明確になりました。
 
また,建設工事に伴い副次的に得られた物品を「建設副産物」と称しており,図-1のとおり建設発生土も建設副産物に含まれます。
建設工事から搬出される土砂類としては,建設発生土(そのまま有効利用される土砂)の他,工法によっては廃棄物処理法の建設汚泥に該当する土砂,重金属等含有土(汚染土壌),不法投棄された廃棄物などが混入した土砂(廃棄物混じり土)が発生する場合があります(図-2)。
 
建設副産物と建設発生土
 
図-1 建設副産物と建設発生土
 
建設工事から発生する土砂類
図-2 建設工事から発生する土砂類
 

1-2 建設発生土の現状

国土交通省「平成30年度建設副産物実態調査結果」によれば,建設発生土の発生量は約2.9億m3であり,現場内で利用された(切り盛り)量1.6 億m3を除く1.3億m3が現場外へ搬出されています。
このうち,他工事利す。現場内利用を含め,建設発生土の有効利用率
は79.8%となっています。
 
一方,建設工事で利用される土砂のうち,場外からの搬入量は約6,500万m3であり,そのうち新材が38%,約2,500万m3を占めています。
 
新材利用量約2,500万m3を大きく上回る約5,900 万m3の発生土が受入地へ搬出されていることから,これを新材の代わりに利用できれば,建設工事では新材を利用する必要がないと数値上は言うことができます。
この実態において,建設発生土土質改良土利用量は場外搬出量1.3億m3 の3%,383万m3です(図-3)。
 
建設発生土の現状

図-3 建設発生土の現状

 
 

2. 建設発生土利用調整施設─リサイクル施設─

2-1 利用調整施設の必要性

建設発生土は現場内で切り盛りバランスをとることが土工事の基本ですが,場外へ搬出する建設発生土は他工事で利用すること,すなわち工事間利用が次善の策となります。
 
建設発生土を工事間で利用するためには,1)土工期が一致すること,2)土質が一致すること,が必須条件であり,加えて経済合理性,建設発生土の運搬効率等の観点から工事間距離が一定範囲内であることが求められます。
国土交通省では「リサイクル原則化ルール」において,その距離を50kmとしています。
 
工事間利用の必須条件である土工期調整のための施設が「ストックヤード」,土質調整のための施設が「土質改良プラント」です。
これらを総称して,建設発生土利用調整施設,本稿では,建設発生土リサイクル施設と称します。
 
JASRAの正会員の多くは,土質改良プラント,ストックヤードのいずれか,または両方の施設を運営しています。
 

2-2 建設発生土リサイクル施設のタイプ
(1)土質改良プラント

土質改良プラントには,工場形式の「定置式」と移動式機器を固定して使用する「移動式」があります。
私の土質改良プラントとの出会いは,昭和の終わり頃に旧電電公社が開発した車載型土質改良機です。
この車載型土質改良機を電線路工事現場の近くに仮置きし,電線路掘削工事の建設発生土を改良して埋戻し土として利用していました。
同時期,道路占用工事の掘削土を埋戻し土として利用するため,東京ガスを始めとした都市ガス会社,東京都,横浜市等自治体下水道・水道部局が定置式土質改良プラントを整備するようになりました。
その後,世界的な経済情勢の変化等を受けた都市ガス会社プラントの廃止,自治体行政改革等による自治体設置プラントの民営化が進む一方で,民間企業により土質改良プラントが設置されるようになりました。
 
定置式土質改良プラントの代表例が,東京都が建設した「東京都建設発生土再利用センター」です。
このセンターは,土質改良プラント,ストックヤード,情報センターの3機能を一体的に有する世界初の建設発生土リサイクル施設といえます。
 

(2)ストックヤード

国土交通省「建設発生土等の有効利用に関する検討会報告」(平成15年9月)では,ストックヤードを次の3タイプに区分しています(表-1)。
 
表-1 ストックヤードのタイプ
ストックヤードのタイプ
 
現場内利用型,先行盛土型ストックヤードは,公共工事の円滑な執行のために設置する場合が多く,民間企業が自社工事の建設発生土リサイクルを含め,建設発生土リサイクル事業として設置するのは,「中継基地型ストックヤード」となります。
 
公共機関が設置する「中継基地型ストックヤード」の代表例としては,(1)で紹介した「東京都建設発生土再利用センター」の他,(一財)茨城県建設技術管理センターが設置・運営する公共ストックヤードがあります。
 
 

3. JASRA設立の経緯

前述したように,建設発生土土質改良プラントは,道路占用工事の掘削土を埋戻し土として利用するために設置されました。
そのため,プラント利用条件として,掘削土の持ち込みと改良土の持ち出しを一対とすることが基本となっていました。
プラントによっては,掘削土を運搬してきた車両で改良土を持ち帰ることを条件とする場合もありました。
 
上記の対応は,都市ガス系,自治体系土質改良プラントが主流の時代は可能でしたが,プラントの設置・運営が民間企業主体となり,道路占用工事以外の工事の建設発生土も受け入れて改良するようになると,改良土を利用する工事を別途確保する必要があります。
しかし,民間企業として改良土の利用先の確保は容易ではなく,苦慮することになります。
 
民間企業による土質改良プラントの設置が多くなるに伴い,宮城県,埼玉県,石川県,長崎県では同業者による組合等が設立され,情報交換が行われると,各県組合等での共通の課題が改良土の利用先確保であることが確認されました。
 
そのような状況下,宮城県建設発生土リサイクル協同組合が事務局となり2020年10月に開催した「土サミット2020」を契機に,建設発生土リサイクルに関する全国組織設立に向けた気運が高まりました。
2020 年11 月,宮城県,埼玉県,石川県,長崎県の組合を中心に,協会設立準備委員会を設置し,2021 年4 月16 日にJASRA として法人登記しました。
 
2021年6月11日には,国土交通省大臣官房技術審議官の東川直正様,(一財)先端建設技術センター理事長の佐藤直良様を来賓に迎えて発足式を開催し(https://jasra.or.jp/information/200/),JASRAとしての活動をスタートしました。
 

4. JASRA事業計画

4-1 JASRA設立目的と実施事業

JASRA は定款において,「建設発生土のリサイクル技術の向上及び,普及等を通じて,建設発生土の有効利用を推進することにより,持続可能な循環型社会の構築に貢献及び,環境負荷を低減するとともに,会員の健全な発展と知識及び社会的地位の向上」を目的としています。
 
この目的達成のため,建設発生土のリサイクルに加えて,次の事業を実施することとしています。
 
(1)建設発生土のリサイクル技術に関する研究開発及び研修,
(2)建設発生土のリサイクルの質の向上に関する研究開発及び研修,
(3)建設発生土に関する情報,資料の収集及び提供,
(4)建設発生土に関する技術者の養成,
(5)建設発生土のリサイクル技術を活用した防災,減災,国土強靱化の推進,
(6)建設発生土を活用した災害復旧,復興支援,
(7)前各号に付帯する一切の事業。
 

4-2 当面(第2期)の事業計画

これら事業についての第2期(2021年7月1日から2022年6月30日)における,具体的な事業計画を表-2に示します。
このうち代表的な事業についての実施内容等は次のとおりです。
 

(1)建設発生土土質改良プラント第三者認証制度

建設発生土土質改良プラントで製造される改良土の利用を拡大するためには,所要の品質に適合する改良土製造システムを有することを第三者組織が認証するしくみ(工場認証)が必須であるとの認識のもと,JASRA顧問である京都大学勝見武教授を委員長とする委員会を(一財)先端建設技術センターと共同で2021年9月に設置しました。
3回の委員会を経て,第三者認証制度案というべき「建設発生土土質改良プラント第三者認証制度主要事項に関するとりまとめ結果」を2022年2月に公表しました(https://jasra.or.jp/information/431/)。
 
これを受けて,(一財)先端建設技術センターは,2022年10月末を目途に第三者認証事業を実施する予定としています。
 

(2)建設発生土に関する専門技術者資格制度

建設発生土の土質性状は地域によってさまざまであり,建設発生土を有効利用するためには,土質に関する専門知識を持った技能者が必要との認識のもと,建設業法に基づく「登録土質改良基幹技能者(仮称)」制度構築を目指すこととしています。
2022年5月に品質・技術部会内に検討ワーキンググループを設置し,具体的な検討に着手しています。
 
表-2 JASRA 第2期(2021年7月1日から2022年6月30日)事業計画

JASRA 第2期(2021年7月1日から2022年6月30日)事業計画

 

(3)建設発生土に関する講習会等
①土サミット開催

JASRA設立の契機となった,建設発生土,建設汚泥,汚染土壌など「土」に関わる関係者の情報交換の場である「土サミット」について,2021年はJASRAが事務局を担当し2021年10月7日に大阪で開催しました(https://tsuchi-summit.com/2021/)。
 
当日は,会場参加,WEB参加を含め300名を超える参加者がありました。
 
なお,2022 年10 月21 日に「土サミット2022」を東京で開催いたします。現在,参加者,スポンサーを募集中です(https://tsuchi-summit.com/)。
 

②第1回JASRA建設発生土リサイクル講習会

2022 年4 月26 日に第1 回JASRA建設発生土リサイクル講習会を東京で開催しました。
この講習会は,2021年7月に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流災害を受け,国における盛土等規制法制定等の取組みを踏まえて,建設発生土有効利用事例等を紹介する目的で開催したものです。
当日は会場参加,WEB参加を含め200名を超える参加者がありました。
JASRAとして,今後,講習会を年2回開催する予定です。
 

(4)その他の活動
①行政・建設業者への情報発信

建設発生土土質改良土の利用拡大のためには,土質改良土の最大の利用先である公共工事の発注者および元請者への情報提供が最も重要です。
そのため,土質改良プラント立地・稼働情報,ETIS(新技術情報システム)に登録されている建設発生土発生抑制・土質改良技術情報などをJASRAホームページで公開(情報発信)しています。
 

② JASRA会員向けサービス

JASRA会員向けサービスの一環として,品質・技術部会主催で「技術研修セミナー」を開催することとしており,その第1回を2022 年4 月13日にオンラインで開催しました。第2回は7月12日に開催予定であり,今後,年3~4回開催することにしています。
 
また,会員向けの情報共有ツールの一環として,「JASRAニュース」を年4回発行することにしており, その第1号を2022年4月18日に発行し,JASRAホームページに掲載しました(https://jasra.or.jp/information/492/)。
 
 

5. JASRAビジョン2050

5-1 ビジョンの目的

JASRAは,建設発生土リサイクルに関わる業者による初めての全国組織として設立されましたが,そもそも土質改良プラントが全国にいくつあるのか,土質改良プラント業者はどのような業態なのか等,業界そのものの実態がわかっていません。
 
そこで,土質改良プラント業界,建設発生土リサイクル業界の実態,課題を明らかにし,建設発生土リサイクル業界として目指すべき将来を明確にすることが必須であるとの認識に基づき,2050年を目標年度とする長期ビジョン「JASRAビジョン2050」策定に着手しています。
 

5-2 ビジョン策定のための業界アンケート調査結果

「JASRAビジョン2050」策定に際して,まずは業界の現状・課題を把握する目的で2021年11月末に土質改良プラントを営業していると思われる全国490社を対象に郵送配布・回収によるアンケート調査を実施し,124社から回答を得ました。
124社のうち建設発生土リサイクル事業を実施している会社は92社でした。
 
アンケート調査結果によれば,土質改良プラント専業の会社は少なく,多くは建設業,産業廃棄物処理業との兼業が多いことがわかりました。
また,土質改良プラントの改良土出荷量は原料土受入量の25%でした。
「改良土利用が進んでいない」というJASRA設立に至った最大の問題点がアンケート調査により定量的に示されたといえます。
 

5-3 ビジョン策定に向けて

本ビジョンにおける最大の目標は,建設業界における建設発生土リサイクルの専門業者として,すなわち「建設発生土リサイクル業」として行政,ひいては国民に認められることです。
 
そのための具体的な方策,ロードマップ等を検討中であり,2022年8月の第2期総会にて会員に提示して意見を募り,2022 年10 月公表を予定しています。
 
 

おわりに

2021年7月に静岡県熱海市で発生した大規模な土石流災害により多くの尊い人命が失われたことは,建設発生土リサイクルに関わる者として慙愧に耐えません。
 
JASRA設立は,熱海土石流災害発生前の2021年4月であり,熱海災害との関係はありませんが,マスコミ等から熱海災害に関係づけた取材の申し込みがあり,「建設発生土」への関心が高い状況がしばらく続きそうです。
 
マスコミ等の「建設発生土」への関心が高いことは,JASRAとしてして歓迎すべきことですが,報道等に左右されることなく,JASRAとしては,「質を重視した建設発生土リサイクル」に一歩一歩,着実に取り組んでいく所存ですので,皆さまのご指導・ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
 
 

一般社団法人 全国建設発生土リサイクル協会 専務理事
髙野 昇

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2022年8月号
積算資料公表価格版2022年8月号

最終更新日:2023-07-07

 

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