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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2022年の建設産業を振り返って ─建設資材高騰、従来構造転換の動き─

コロナ禍に入って3年目となる2022年。
ワクチンの接種が進み感染拡大の収束気配が見え始めてきた。
外国人旅行客の受け入れも再開。
コロナ禍前の日常を取り戻しつつある。
 
一方、ロシアによるウクライナ侵攻の影響は日本を含む世界各国に及んだ。
国際的なサプライチェーン(供給網)が分断。
多くの原燃料や資材の価格が過去最高を更新し品不足も顕在化した。
約30年ぶりとなる歴史的な円安も進み、日本経済を取り巻く先行きはかつてないほど不透明な情勢だ。
 
今年も各地で大規模自然災害が相次いでおり、建設業が「地域の守り手」として果たす役割と責任はますます高まっている。
2024年度から建設業にも適用される時間外労働の罰則付き上限規制の対応も待ったなし。
将来にわたる担い手確保に向け継続的な賃上げによる一般産業並みの給与水準を実現することが不可欠だ。
まずは安定した経営環境を構築するため、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」(21~25年度)終了後の新長期計画策定も見越した安定的かつ持続的な公共事業予算の確保が必要になる。
 
 

異例のペースで進んだ賃上げ環境整備─総合評価加点、一般管理費等率引き上げ─

岸田政権が打ち出す「新しい資本主義」実現に向け、労働者の賃金を引き上げるための環境整備が、今年に入り異例ともいえる急ピッチで進められてきた。
政府は建設業で賃上げを行った企業を総合評価方式の入札で加点する新施策を導入。
業界にとって長年の懸案だった土木工事積算基準や低入札価格調査基準の一般管理費等率も引き上げた。
 
政府が昨年11月19日の閣議で決定した「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」。
新しい資本主義のコンセプトに当たる「成長と分配」の実現方策として、公共調達で賃上げ企業を優先する方針を示した。
続く同年11月26日に開いた「新しい資本主義実現会議」。
岸田文雄首相は「2022年春闘で業績がコロナ禍前の水準を回復した企業には3%を超える賃上げを期待する」と呼びかけた。
 
政府方針を踏まえ財務省が主導し、工事や建設関連業務の発注先を決める総合評価方式の入札で賃上げを表明した企業を加点する施策を決定した。
21年12月17日に財務大臣名で国土交通省など関係省庁に通知。
22年度以降に契約締結する総合評価方式の全入札案件に適用することを決めた。
 
建設業にとって賃上げを柱とする労働者の処遇改善は、長期にわたる担い手確保を可能にしていくためにも現場の週休2日と並ぶ最優先課題。
そのため業界は、公共調達の優遇策で賃上げを促すというコンセプトには賛同を示した。
ただ制度設計で建設業の経営実態がほとんど反映されず猶予期間も設けられないことに関し、大部分の反応は戸惑いや反発の声だった。
 
業界の声をくんだ自民党「公共工事品質確保に関する議員連盟」(会長・根本匠衆議院議員)の働きかけもあり、22年2月8日には財務省が最初の通知から2カ月足らずで運用を見直した。
 
経営実態と乖離しているとして、業界が最も見直しを求めていた加点評価基準となる賃上げ実績評価の方法を拡大。
当初は大企業で従業員1人当たり平均給与額を前年度比3%以上、中小企業なら総人件費を年1.5%以上増やす目標を設ける必要があった。
賞与や時間外手当なども含まれるため、実績の内容に基本給や所定内賃金、継続勤務従業員の平均賃金も追加。
企業側が幅広く選択できるようにした。
 
2月18日には国交省が公共事業の積算に用いる新しい公共工事設計労務単価と設計業務委託等技術者単価を発表。
労務単価は全国・全職種の単純平均で2.5%、技術者単価は全職種単純平均で3.2%引き上げ、いずれも10年連続の上昇。
3月から適用している。
発表前はコロナ禍で市場が冷え込んでいる影響もあり、近年のような上昇を期待できないと見ていた業界関係者が多かっただけに安堵したようだった。
国交省が2月24日に発表した直轄土木工事に適用する積算基準と低入札価格調査基準の改定は最もインパクトがあった施策の一つ。
柱は役員報酬や従業員の給料といった本社経費などが含まれる一般管理費等率の引き上げだ。
積算基準は工事原価に対応し「7.47~22.72%」から「9.74~23.57%」、低入札価格調査基準は算入率を「0.55」から「0.68」に見直した。
積算基準は18年以来、低入札価格調査基準は13年以来の一般管理費等率引き上げとなった。
22年度から適用している。
 
一般管理費等率や労務単価などの引き上げは、企業にとって総合評価方式の賃上げ加点に対応するための原資確保で大きな追い風になりそうだ。
しかし、総合評価方式の運用では賃上げ未達成企業に課す加点幅を上回る減点方針や来年度以降の制度設計などを巡り、依然として不安の声も多く上がっている。
そのため議連や業界はフォローアップと必要に応じたさらなる運用改善を提唱。
建設業の継続的な賃上げとともに担い手確保につなげる好循環を構築するためには、企業の不安を少しでも取り除く丁寧な運用や速やかな改善が求められる。
 
国交省と建設業4団体が2月28日に東京都内で意見交換会を開き、技能労働者の賃金水準の上昇率として22年に「おおむね3%」を目指すことを申し合わせた。
「おおむね2%以上」を掲げた昨年の目標値を上回る。
国交省の長橋和久不動産・建設経済局長は「賃上げの成果が労務単価の上昇という形になって現れ、適正利潤の確保やさらなる賃上げにつながっていく好循環を継続することが大事だ」と訴えている。
 
表-1 岸田政権による賃上げ政策の主な経緯
 
写真-1 2月28日に行われた国交省と建築業4団体による意見交換会
写真-1 2月28日に行われた国交省と建築業4団体による意見交換会】
 
 

止まらぬ建設資材価格の高騰主要品目で過去最高更新相次ぐ

建設産業に関連する資機材や燃料の高騰に歯止めがかからなくなっている。
新型コロナウィルスのパンデミック(世界的大流行)を契機に、木材や鉄鋼、石油関連製品、燃料などの価格が上昇。
メーカー等は自助努力が限界と判断し価格転嫁の動きを強めている。
先が読めないロシアによるウクライナ侵攻の影響も暗い影を落としており、コストやサプライチェーンにより大きな影響を与えている。
経済調査会(森北佳昭理事長)によると、この1年の市況の上昇幅は「リーマンショック直前に中国の建設市場が旺盛だった時以来」(土木第一部)という。
当時に比べサプライチェーンの国際化が進展し「あらゆる資材や燃料が高騰し(建設業などへの)影響も大きい」と見ている。
 
政府は4月26日に原油価格や物価高騰などに対応した「総合緊急対策」を策定し、価格転嫁の円滑化対策を盛り込んだ。
官民双方の発注者などに対し原材料費の取引価格を反映した適正な請負代金の設定や適正な工期の確保を働きかけている。
 
ポイントは国が公共工事で対応しているスライド条項のような物価高騰分の適切な価格転嫁を、自治体や民間の発注工事にどれだけ広げられるかだ。
特に契約約款にスライド条項規定のない民間工事への普及は難しい。
最終的には個別の事業者判断に委ねられるため、受注者側も丁寧に現状を説明しながら理解を求める必要がありそうだ。
 
資材高騰分の価格転嫁は発注者だけでなく元下関係でも不可欠。
公正取引委員会は22年度、総合工事業の受発注者関係と元下関係に着目し、労務費や資材・燃料費の転嫁拒否事例などを調べている。
 

図-1 建設資材価格指数(経済調査会)

図-1 建設資材価格指数(経済調査会)】


 
 

国交省が持続可能な産業へ検討着手契約方式や重層化の改善焦点

技能労働者の処遇改善や建設資材の価格高騰など建設業が抱える課題の噴出を契機として、従来型の業界構造の壁を打ち破ろうとする新たな動きが出てきた。
国交省は建設産業政策の新たな展開を検討する有識者会議「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」を立ち上げた。
8月3日に東京都内で開いた初会合では建設業を取り巻く諸課題や環境変化への対応策を議論。
将来的な市場縮小局面にも耐えられる制度や仕組みの具体化を目指す。
直近の中央建設業審議会(中建審)総会で国交省が必要性を指摘した受発注者間契約のリスク分担や重層下請構造の改善などに焦点を当て、その実現方策を模索する。
 
委員7人は幅広い分野の学識者などで構成。
オブザーバーとして厚生労働省も参加する。
初会合では国交省が議論のベースとなる論点を提示し非公開の場で意見を交わした。
 
冒頭、笹川敬大臣官房審議官(不動産・建設経済局担当)は「持続可能な建設業に向けた取り組みが急務。
さらなる施策展開の検討が必要だ。
各分野の専門的見地から意見をいただきたい」と呼びかけた。
業界内外の関係者ヒアリングなどを経て、年度内をめどに検討成果の取りまとめを目指す。
 
論点の一つが資材高騰を契機とした価格変動への対応だ。
6月の中建審総会では民間工事の受発注者双方の関係者から価格転嫁が難しい実態を指摘する声が上がった。
受発注者間で価格変動リスクを適切に分担する方策として、国交省はコストプラスフィー契約などを例示。
コストの「見える化」で価格変動に対応しやすい契約の在り方を検討する。
想定外のリスクやコスト要因を早期に見通す観点でBIMの活用も取り上げた。
 
処遇改善を巡る議論にも重点を置く。
労務費を技能者に適切に行きわたらせるため重層下請構造の改善方策を探る。
先行事例として複数の都道府県が発注工事で導入する下請次数制限制度を紹介。
重層化した下請による労働力の需給調整機能を、別の仕組みで補うことが可能かどうか併せて検討する。
緊急避難的な運用に限って労働者派遣を認めている厚労省の「建設業務労働者就業機会確保事業」など現行制度の在り方も検証する。
 
技能者の賃金上昇を下支えする仕組みも検討課題に設定した。
法律や労働協約として賃金水準を保つ仕組みが定着している欧米の事例を参考に、ダンピング競争にさらされやすい民間工事でも機能を発揮する制度構築を目指す。
建設キャリアアップシステム(CCUS)の活用も視野に入りそうだ。
 
写真-2 建設キャリアアップカード(ゴールド)
写真-2 建設キャリアアップカード(ゴールド)】
 
9月8日に非公開で開いた3回目の会合では、(一社)不動産協会(不動協、菰田正信理事長)の会員企業2社などから意見を聴取。
会合終了後、国交省が物価変動を巡っては、検討会で想定外のリスクを受発注者で分担する在り方が議論されている。
不動協の会員各社によると、受注者の元請とは各自の専門領域に応じ事業上のリスクを受け入れている。
物価高騰に当たっては元請を「不動産事業のパートナー」と捉え、長期的にウィンウィンの関係になるよう対応していると強調した。
 
ただ民間工事の請負契約は総価一式が前提であり「価格変動リスクは請負契約にオンされている(折り込まれている)」と説明。
スライド条項は「詳細な積算から工事価格を設定している公共工事だから対応が可能」との見解を示し、民間工事で一般的な総価契約ではスライド条項の導入がなじまないとした。
 
ヒアリング後、委員からは中建審が作成・勧告している民間工事の標準契約約款が実質的に機能していないことを疑問視する声があった。
標準契約約款には経済事情の激変などを理由に「請負代金額の変更を求めることができる」との規定がある。
ただ受注者側のヒアリングでは、発注者に契約変更の協議を申し入れても応じてもらえないケースが多いとの指摘があった。
 
建設業法の規定では価格変動や請負金額の変更に関する事項を契約時に書面交付しなければならず、この法令と契約変更条項の関係性を問う委員もいた。
業法や標準契約約款の実効性の確保で今後も議論が交わされる見通しだ。
 
一方、受注者側は日建連の宮本洋一会長が9月21日に開いた理事会後の会見で「受発注者双方がウィンウィンの関係を築く必要がある。
総価契約といってもリスクの分を(金額面で)どれだけ考えているのかを伺いたい。
コスト上昇分すべての負担を事業者にお願いしたいと言っているのではなく、相談に乗ってほしいということだ」と強調。
工事請負契約に関する大手デベロッパー側の考え方についても「総価契約でやっているのだからリスクは盛り込まれているという考えが多分にあるのではないか」と指摘した上で、「そこを変えていきたい」と呼びかけている。
 
 

国交省の22年度建設投資見通し0.6%増見通し、民間が全体押し上げ

国交省は10月12日、2022年度の建設投資額(名目値)が前年度を0.6%上回る66兆9900億円になるとの見通しを発表した。
内訳は政府投資が22兆5、300億円(前年度比3.7%減)、民間投資が44兆4、600億円(2.9%増)。
底堅い需要がある民間投資に加え、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」による政府投資も追い風となっている。
 
建設投資見通しは、国内建設市場の規模と構造を明らかにする目的で1960年度から集計、公表している。
国内の全建設活動を対象に出来高ベースの投資額を推計。
15年度以降の総額集計は建築補修(改装・改修)投資額を含めた方法に変更している。
 
建設投資は10年度を底に、東日本大震災からの復興などを経て回復傾向が続いている。
国内総生産(GDP)に占める割合は近年10%程度で推移しており、22年度は11.9%になる見通し。
建築投資と土木投資に分けて見ると、建築は43兆4、000億円(1.9%増)、土木は23兆5、900億円(1.8%減)。
全体構成比は建築65%、土木35%を見込む。
 
政府投資のうち土木の公共事業は14兆4、500億円(3.7%減)、その他は2兆300億円(3.3%減)。
政府投資の建築分野を見ると、住宅が3、400億円(5.6%減)、非住宅が3兆8、500億円(3.8%減)、建築補修が1兆8、600億円(3.6%減)となる。
 
民間投資は住宅とそれ以外で明暗が分かれる。
民間住宅建築投資は15兆9、700億円(0.9%減)、非住宅建築と土木を合算した民間非住宅建設投資が19兆200億円(7.2%増)。
民間建築補修(改装・改修)投資は9兆4700億円(1.2%増)となる見通しだ。 
当面の課題は建設資材の高騰分を反映した22年度第2次補正予算と23年度当初予算で切れ目のない十分な公共事業関係費を確保することになる。
また、資材高騰の影響などで堅調に推移している民間投資が下振れしないような施策も必要だ。
 
自民、公明両党は合同プロジェクトチームを立ち上げ、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の終了後に続く新長期計画の検討を始めた。
持続可能な建設産業の実現に向け、中長期視点で十分かつ安定した公共事業予算を確保することは一丁目一番地の施策として求められる。
 

出典 国土交通省HP図-2 建設投資額(名目値)の推移

出典 国土交通省HP
図-2 建設投資額(名目値)の推移】


 
出典 国土交通省HP【図-3 国土強靭化5か年加速化対策 概要】

出典 国土交通省HP
図-3 国土強靭化5か年加速化対策 概要】


 
 
 

株式会社日刊建設工業新聞社 
片山洋志

 
 
【出典】


積算資料2022年12月号

積算資料2022年12月号

最終更新日:2024-03-25

 

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