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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 上水・下水道施設の維持管理 > ニーズに応える新技術─JSの新技術─

はじめに

下水道を取り巻く環境は厳しく、下水道事業者はさまざまな課題に取り組んでいく必要があります。
さらには脱炭素、下水道資源の有効活用など改めて大きく取り上げられる課題などもあり、機動的に対応することが求められています。
課題に対し日々の業務手法の改善により対応する方法もありますが、新技術を導入することで課題解決を行うこともできます。
日本下水道事業団(以下、JS)では、地方公共団体のさまざまな課題やニーズに対応するため、優れた新技術を受託建設事業に積極的に導入し「技術の善循環」を円滑に実施するため、平成23年度から新技術導入制度を運用しています。
JSではこれまでに45技術(令和4年11月現在、うち5技術は有効期間満了)を新技術として選定し、多くの新技術を受託建設事業で導入してきました。
本稿では、令和3年度に新たに選定された4つの新技術の概要について紹介します。
 
 

1.過給機を用いた流動床炉向け省電力送風装置(流動タービン)

【新技術の選定を受けた者:メタウォーター(株)、(株)クボタ】

1-1 技術の概要

本技術は、流動ブロワから流動床炉へ向かう燃焼空気ラインに「過給機」を組み込み、焼却排ガスの熱エネルギーを利用して過給機を駆動することで、流動ブロワの機能を代替するものです(図-1)。
本技術は主に過給機とインバータ駆動の流動ブロワ、空気予熱器で構成されます。
 
従来技術では、流動ブロワを電気で駆動し、燃焼空気を昇圧して流動床炉へ供給しますが、本技術は、焼却排ガスの熱エネルギーで過給機を駆動して燃焼空気を流動床炉へ供給します。
コンプレッサで圧縮された燃焼空気は、焼却排ガスを熱源とする空気予熱器で間接的に加温され、この加温された圧縮空気がタービンで膨張することによって、同軸上のコンプレッサを回転させます。
そして、コンプレッサは大気を連続的に吸気し、圧縮させるという熱サイクルが継続するため、流動ブロワを停止させることができます。
 

図-1 流動タービンの概要

図-1 流動タービンの概要


 
 

1-2 特徴
(1)流動床炉の安全性や信頼性をそのままに焼却設備の省電力化を実現

流動床炉や排ガス経路を負圧の状態で運転できるため、排ガスの漏れ出しリスクが無く、流動床炉が持つ安全性や信頼性を損なわずに省電力化することができます。
また、過給機はクリーンな空気で駆動するため、過給機の故障リスクが低くなります。
 

(2)新設だけでなく空気予熱器の更新等と合わせた既設改良にも適用可能

流動床炉や排ガス経路は従来と同様に負圧に保たれるとともに、燃焼空気を間接加温する空気予熱器は従来設備と同様の位置に設置されるため、既存の流動床炉本体や排ガス処理設備の流用が可能です。
 
本技術は、流動床炉の消費電力量や温室効果ガス排出量の削減を検討している処理場、空気予熱器の更新に併せて焼却設備の省エネ化を検討している処理場等に適しており、本技術の導入により、焼却設備全体の消費電力量を約4割削減することができます。
 
 

2.噴射ノズル式鋼板製消化タンク

【新技術の選定を受けた者:JFEエンジニアリング(株)、(株)フソウ】

2-1 技術の概要

下水汚泥の減量とエネルギー回収を同時に図ることができる嫌気性消化は下水汚泥の資源化・エネルギー利用が可能な技術ですが、従来のコンクリート製消化タンクは長期間の運転によりタンク内に砂等の堆積が報告されています。
堆積が進行すると、タンク内の容積が圧迫されることによる能力低下を招くため、定期的な浚渫作業が必要となります。
しかし、浚渫作業には多くの時間と手間、コストがかかるため、砂等の底部堆積抑制は消化タンクの維持管理性向上において重要な課題の一つです。
 
こうした背景から、底部堆積物抑制に着目した鋼板製消化タンクの開発を行いました。
本技術は、建設費・工期の縮減が可能な鋼板製消化タンクに、低動力・省エネルギーでし渣の絡みつきを防止できる後退翼型撹拌機と、汚泥堆積物の流動化・除去が可能な堆積物除去機構を組み合わせたものです(図-2)。
 

図-2 噴射ノズル式鋼板製消化タンクの概要

図-2 噴射ノズル式鋼板製消化タンクの概要


 
 

2-2 特徴
(1)鋼板製消化タンク

消化タンク本体は全溶接構造の立形タンクで、消化タンクを鋼板で製作することで、消化タンク本体の工場製作期間に現場での基礎工事の並行作業が可能なため、工期を短縮することができます。
また、地上に設置することで地下埋設部工事や地下管廊工事を削減することもできます。
また、後述する堆積物除去機構を採用することで、底部をフラットな構造としたままで維持管理性の向上を図ることを実現しました。
 

(2)後退翼型撹拌機

インペラ式撹拌機の一種であり、低速で大きな撹拌羽根を回転させることで、従来のスクリュー式撹拌機やガス撹拌装置と比較して大幅な消費電力の削減を実現しました。
撹拌羽根はFRP製であり、取付部から先端に向け細くなっています(図-3)。
 

図-3 後退翼型撹拌機

図-3 後退翼型撹拌機


 

(3)堆積物除去機構

本技術では、消化タンク底部に堆積物除去ノズルを配置する堆積物除去機構を採用しています。
底部のノズルから側壁に沿って消化汚泥を噴射することで旋回流を発生させて砂等の底部堆積物を流動させることができ、流動した堆積物を隣接するノズルから消化汚泥とともに吸い込み、その一部を系外に排出することができます。
ノズル噴射と系外排出は制御弁により切り替えながら1/4区画ごとに堆積物の除去を行います。
 
 

3.ディスク式特殊長毛ろ布ろ過装置

【新技術の選定を受けた者:メタウォーター(株)、前澤工業(株)】

3‐1 技術の概要

本技術は、高度処理や再生水処理を目的として最終沈殿池流出水からSS(浮遊性物質)を分離除去する重力式・固定ディスク式のろ過装置で、従来の急速ろ過施設と同等のSS除去性能と処理速度を有します。
 
ろ過部は、複数枚のディスク式ろ過媒体(以下、ディスク)とセンターチューブで構成され、洗浄設備は、吸引装置(洗浄シュー、洗浄ポンプ、洗浄バルブ等)およびドライブユニットで構成されます(図-4)。
 
ろ過運転時は、ディスクは最終沈殿池流出水によって常時水没しており、ろ過槽と流出槽との水頭差によってディスクの外側から内側に通過する際にSSがろ布に捕捉されることで、ろ過が行われます。
 
一方ディスク洗浄時には、ディスクごとに配置されている洗浄シューでろ布を捕捉し、洗浄ポンプでSSを局所的に吸引し除去します。
洗浄中に洗浄シューの接していない部分では、ろ過を継続するため、連続したろ過を行うことが可能です。
 

図-4 ディスク式特殊長毛ろ布ろ過装置の概要

図-4 ディスク式特殊長毛ろ布ろ過装置の概要


 
 

3‐2 特徴
(1)省スペース

本装置は両面でろ過することが可能なディスクを垂直に立て、水槽壁面と並行に複数配置することで、水面積に対して大きなろ過面積を確保することができます。
加えて、洗浄排水は、導入する処理場内における返流水の処理工程に直接移送できるため、洗浄排水槽が不要です。
 

(2)省エネルギー

ろ過は重力式で行われるため、最終沈殿池流出水およびろ過処理水の移送以外に電力を消費しないことから消費電力量が小さく、省エネルギー化を図ることが可能です。
 

(3)既設躯体の活用

砂ろ過施設等の既設躯体にろ過部および洗浄設備の一部(洗浄シュー、ドライブユニット等)を配置できるスペースがあれば、既設躯体を改造してろ過槽として活用できます。
配置の可否は、必要なスペースが一定規模の処理水量ごとに標準設計されているため判断が容易です。
 
なお、ろ布の交換が7年に1回程度必要になりますが、特殊な技能・工具類を必要とせず、ディスクを外してカバー状のろ布を被せ替えるものであり、維持管理業者等が自ら実施できる簡単な作業です。
 
 

4.初沈代替高速ろ過システム

【新技術の選定を受けた者:メタウォーター(株)】
 
本技術は、合流式下水道の改善に関わる技術として活用されてきたろ過技術を最初沈殿池(初沈)に適用し、「沈殿」によるSSおよび夾雑物等の除去を、「ろ過」によって行うものです。
 
 

4‐1 技術の概要

本技術の処理フローを、図-5に示します。
本技術の主な施設は、ろ過池、洗浄排水槽、洗浄排水濃縮槽で、晴天時、流入水はろ過池で処理され、反応タンクへ送られます。
ろ過により、ろ材に捕捉された除去物質をろ過池外へ排出するため定期的に洗浄が行われ、その洗浄排水は洗浄排水槽で一時貯留された後、洗浄排水濃縮槽に送られます。
洗浄排水濃縮槽にて、上澄水はろ過水と合流し、一次処理水として反応タンクに送水されます。
分離した生汚泥は汚泥処理設備へ送られます(図-6)。
 

図-5 初沈代替高速ろ過システムの概要
図-5 初沈代替高速ろ過システムの概要
図-6 ろ過・洗浄原理
図-6 ろ過・洗浄原理

 
 

4‐2 特徴
(1)初沈より大きな処理能力(単位面積当たり)

初沈水面積負荷:30〜50m³/(m²・日)に対し、ろ過速度:250〜500m/日(m³/(m²・日))であり、単位面積当たりの処理能力が増加することで設置面積を初沈の1/2〜2/3程度に縮小することが可能になります。
 

(2)初沈と同等以上のSS・BOD除去性能

本技術は、沈殿分離方式の初沈では除去できなかった比重の小さいSSや浮遊性BODを除去することが可能であるため、除去性能は初沈と同等以上となります。
そのため、生汚泥の回収量の増加や、反応タンクへの流入負荷軽減による反応タンク容量の縮減が期待できます。
 

(3)生物処理への影響がなく安定した処理が可能

本技術は、従来の沈殿処理より除去性能が高いことから、後段の生物処理への影響も懸念されましたが、溶解性のBODの除去率は、従来技術同等であったことから、生物処理も安定的に行えることが確認されています。
 
 

おわりに

本稿では、新たに選定された4つの新技術の概要を紹介しました。
より詳しい情報はJSのホームページ(https://www.jswa.go.jp/g/g04/g3d.html)に掲載していますのでアクセスをお願いします。
 
今回紹介した技術に関わらず、JSの新技術等にご質問等ございましたら、お気軽にJSソリューション企画課にお問合せ下さい。
 
 
 

日本下水道事業団ソリューション推進部ソリューション企画課長 
猪木 博雅

最終更新日:2023-06-23

 

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