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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 「いい建築」をつくる材料と工法 > 既存建築物の活用促進に向けて~長寿命化に向けたソフトとハードの課題《後編》

 

芝浦工業大学工学部建築学科 准教授 濱崎 仁

 

3.技術的(ハード面)の課題とその対応~あと施工アンカーの適用に向けた課題

既存ストックを有効に活用しようとする場合、構造体の補強や断面形状の変更、
耐震要素への開口部の増設や補強などの構造体を変更するような大規模なリニューアルを行いたいというニーズがある。
また、エレベーターの増設や様々な付帯物を追加することも多い。
このような場合に必要となるのがあと施工アンカーであり、これをうまく適用することにより、ストック活用の幅が大きく広がる。
 
あと施工アンカーは、耐震改修において短期荷重(地震力)を負担する部材の固定用の材料として許容応力度や設計法などが与えられ、
それを用いて設計・施工することが可能である。
しかしながら、長期荷重(自重や積載荷重など)を負担する場合の適用については、
許容応力度や設計法が示されていないため、実質的に適用ができない状況になっている。
その理由としては、クリープ変形や耐アルカリ性などのあと施工アンカーの長期的な特性についての知見が十分でないことや
その評価方法が確立されていない点にある。
 
そういったことから、
国土交通省および(独)建築研究所などを主体に、あと施工アンカーの長期的特性の評価に関する検討が行われている。
著者もその検討を担当していたので、その内容について簡単に紹介したい。
 

3-1 クリープ特性の評価

クリープ変形とは、一定の荷重を載荷した場合に時間の経過とともに変形が大きくなる現象である(図-2)
 

図-2 クリープ変形の模式図

図-2 クリープ変形の模式図


 
特に接着系のあと施工アンカーではクリープ変形が問題となり、
最大耐力の60%~70%程度の継続荷重の載荷によってアンカーが抜け出てしまう現象も確認されている。
実験では、図-3・写真-1に示すような装置でクリープ試験を行い、
90日間の継続載荷試験の結果から、長期的な変形を予測する手法によりクリープ特性の評価を行っている。
 
図-3 クリープ載荷装置

図-3 クリープ載荷装置


 
写真-1 クリープ試験の状況

写真-1 クリープ試験の状況


 
試験結果の一例を図-4に示す。
 
図-4 クリープ変形の長期予測結果の例

図-4 クリープ変形の長期予測結果の例


 
図は、最大耐力の1/3相当の荷重を継続載荷した場合であり、
100年間程度では破壊時の変位(概ね1.5mm程度)に至らないことを確認している。
 

3-2 耐アルカリ性の評価

平成24年12月に発生した笹子トンネルの天井板崩落事故では、
事故の原因の一つとして接着剤の樹脂がコンクリートのアルカリによって加水分解を生じ、
接着力を低下させた可能性があることが指摘された。
あと施工アンカーに関する欧米の製品認証基準(ETAG、ACI基準等)においても、
樹脂の耐アルカリ性は評価項目の一つとなっており、
長期間コンクリート中に埋設されるアンカーとしては、耐アルカリ性の評価が重要な指標となる。
現状のJCAA(日本建築あと施工アンカー協会)の製品認証基準では、
耐アルカリ性の評価として、煮沸したアルカリ溶液中での樹脂単体の質量減少率によって評価が行われているが、
付着力に対する直接的な評価がなされていない状況であったため、
ETAG等で実施されている押し抜き試験(パンチテスト)について導入を試み、実施とその具体の手順等について確認した。
押し抜き試験の手順および評価方法は次ページの枠内の通りである。
図-5に押し抜き試験用の載荷治具を示す。
 

図-5 押し抜き試験治具

図-5 押し抜き試験治具


 
【試験手順】
①φ150mmのコンクリート円柱供試体の中央にアンカーを施工し、30±3mm厚の円盤状になるように切り出す。
②切り出した円盤状の試験体を、pH13.2±0.2になるように調製したアルカリ水溶液中に浸せきする。
③アルカリ溶液中に2000時間の浸せきした試験体と同じ期間気中に置いた試験体各10体について、
 押し抜き試験を行い、最大押し抜き荷重と試験体厚さから、最大付着応力度を算定する。
④気中乾燥の試験体とアルカリ浸せき後の試験体の最大付着応力度の比を求め、
 その比により必要に応じて基準強度の低減などを行う。
 
表-2に試験結果の例を示す。
 
表-2 耐アルカリ試験(押し抜き試験)の結果例

表-2 耐アルカリ試験(押し抜き試験)の結果例


 
使用したアンカーの材料は、有機系(ラジカル反応型)・注入方式、
有機系(エポキシ型)・注入方式、無機系(セメント系)・注入方式である。
 
市販の材料を使っていることもあり、結果的にいずれの接着剤も付着力の大きな低下は確認されていない。
無機系については、材料的な性質から、水中浸せきによって水和が進行し押し抜き強度が上昇するという傾向も見られている。
アルカリ溶液への浸せき時間と実環境下における作用時間の関係は明らかではないが、
コンクリート中で長期にわたって使用することを考えると、直接的に強度低下を確認する方法は適当であると言える。
また、欧米の基準において、長期荷重が作用する部材へ適用する材料に対する評価基準としての実績も参考にできよう。
 
許容応力度の設定としては、アンカー製品ごとの最大耐力を確認した上で、
前述のクリープ試験による一定の荷重レベルでのクリープ変形に対する安全性の確認、
耐アルカリ試験による耐久性の確認と必要に応じた許容応力度の低減を行うことなどが考えられる。
 
 

4.さいごに

本稿では、ソフト面の課題として建築関係法令に関わる問題点について、時代背景とともに簡単に整理した。
また、ハード面の課題として、あと施工アンカーの適用についての検討状況について紹介した。
 
既存の建築ストック活用のためには、
ハード的な技術開発とそれを活用するための諸制度や技術基準が両輪となって整備される必要があることは、
これまでの研究を通じて強く感じたところである。
また、社会制度がストック活用を阻害することのないような働きかけをしていくことも重要である。
最近では、行政面での対応もストック活用を円滑にする方向で動いており、世の中の動きもかなり醸成されてきたように思われる。
今後の建築ストックの活用の促進に期待したい。
 
 
 
既存建築物の活用促進に向けて~長寿命化に向けたソフトとハードの課題《前編》
既存建築物の活用促進に向けて~長寿命化に向けたソフトとハードの課題《後編》
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料SUPPORT2014年12月号
特集「建築物の維持保全と長寿命化改修」
月刊 積算資料SUPPORT2014年12月号
 
 

最終更新日:2023-07-14

 

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