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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 斜面防災 > 北海道内の覆式落石防護網における変状・損傷傾向の調査結果

はじめに

落石対策便覧1)によると、落石等による災害を防止する手段は、落石対策工によるものと、通行規制によるものとに分けられる。
そのうち落石対策工には、発生源に対策を施す覆式落石防護網工、ワイヤロープ掛け工、のり枠工等の落石予防工と、斜面途中ならびに道路際に対策を施す落石防護柵工、落石防護擁壁工、ロックシェッド工等の落石防護工とがある。
 
落石予防工のひとつである覆式落石防護網工は、落石の発生が懸念される斜面全体をひし形金網(以降、本稿では「金網」という。)とワイヤロープで覆う工法(写真-1)であり、落石が発生した
場合に金網や地山との摩擦および金網張力によって落石を拘束する、あるいは金網と地山との間で落石を誘導し斜面下方へ導く工法である。
その一方で、覆式落石防護網工が施工された現地において、金網の損傷が確認される場合がある(写真-2)。
この場合、覆式落石防護網工に期待される落石予防機能が損なわれている可能性がある。
 
本稿は、寒地土木研究所が行った覆式落石防護網工の変状・損傷事例調査から、それらの傾向および発生しやすい現場条件を取りまとめたものである。
なお、変状・損傷事例の情報は、平成30年度および令和元年度に国土交通省北海道開発局が実施した道路土工構造物点検の結果から抽出するとともに、それ以外の区間について現地調査を行い収集した。
 

写真-1 覆式落石防護網工
写真-1 覆式落石防護網工
写真-2 ひし形金網の破網
写真-2 ひし形金網の破網

 
 

1.変状・損傷傾向の調査結果

1.1 点検資料による調査結果

点検資料による調査の対象は、点検資料に「(覆式)落石防護網」に関する記載があった160箇所の覆式落石防護網(以降、本稿では「防護網」という。)施工箇所である。
そのうち、何らかの変状・損傷に関する記載があった箇所は57箇所であり、今回の調査対象とした防護網施工箇所の約3割であった(図-1)。
 
変状・損傷に関する記載があった防護網57箇所における変状・損傷を分類すると、変状・損傷は金網に多く発生していることが分かる。
また、金網の変状・損傷の種別は腐食が最も多いことが分かる(表-1)。
なお、1施工箇所に複数の変状・損傷がある場合も含まれており、表中の内訳の合計は防護網施工箇所数とは一致しない。
金網の破損のうち、外的要因によるものは、落石によるもののほか、植物の根返しに伴うものもあった(写真-3)。
何らかの要因により根返しが発生し、周囲の金網を損傷させたと推察される。
また、防護網の構成部材以外の変状としては、斜面下部の防護網と斜面との間に落石等の堆積が確認された(写真-4)。
堆積した落石等による防護網の面外方向の膨らみにより、金網の設計時に想定していない張力が発生し損傷に至る可能性がある。
 

図-1 覆式落石防護網の変状・損傷割合
図-1 覆式落石防護網の変状・損傷割合
表-1 変状・損傷の種別毎の発生箇所数
表-1 変状・損傷の種別毎の発生箇所数

 

写真-3 植物の根返しに伴うひし形金網の損傷
写真-3 植物の根返しに伴うひし形金網の損傷
写真-4 斜面下部の落石等の堆積
写真-4 斜面下部の落石等の堆積

 

1.2 現地調査結果

前述の点検資料による損傷事例調査において変状・損傷等の割合が多かった金網の損傷に着目し、現地調査を実施した。
現地調査で確認した防護網の損傷事例の中から4つを以下に示す。
 

(1)起伏のある斜面の岩塊凸部付近の破網

写真-5に示した防護網は、沿岸部の覆道上の斜面に施工された防護網である。
当該斜面は起伏のある自然斜面である。
金網は全体的に茶褐色に変色しており、海からの飛来塩分の影響により腐食が生じていると推察される(写真-5(a))。
金網の部分的な破網は、斜面勾配の変化点付近で発生しており、岩塊の角部付近から損傷が生じている(写真-5(b))
このような斜面の起伏や岩塊の形状により金網に集中的に生じる張力や腐食の影響により破網に至ったとものと推察される。
 

写真-5 起伏のある斜面の岩塊凸部付近の破網a
写真-5 起伏のある斜面の岩塊凸部付近の破網b

写真-5 起伏のある斜面の岩塊凸部付近の破網
 

(2)集水地形に施工された覆式落石防護網の損傷

写真-6に示した防護網は、前述した(1)の箇所に隣接する斜面に施工された防護網である。
防護網が斜面全長にわたり損傷している(写真-6(a))。
また、斜面下部には岩塊のほか、斜面上部の植生のものと思われる枝や根の堆積も確認できる(写真-6(b))。
この状況から、出水時などに斜面上部からの崩壊が発生し、防護網を損傷させたものと推察される。
 

写真-6 集水地形に施工された覆式落石防護網の損傷a
写真-6 集水地形に施工された覆式落石防護網の損傷b

写真-6 集水地形に施工された覆式落石防護網の損傷
 

(3)腐食によるひし形金網の破網

写真-7に示した防護網は、沿岸部の自然斜面に施工された防護網である。
斜面上部から下部にかけて筋状に金網の腐食やさびによる変色および斜面下部で金網が広い範囲で破網している(写真-7(a)、(b))。
また、冬期(2月)に調査を行った際には氷塊・つららの発生を確認しており、1年を通して水の供給があるものと推察され、その影響により金網が腐食、破網に至ったものと考え
られる(写真-7(c))。
 
写真-7 腐食によるひし形金網の破網(1)
写真-7 腐食によるひし形金網の破網
 
写真-8に示した防護網は、写真-7の箇所とは異なる沿岸部の自然斜面に施工された防護網である。
岩盤斜面であるが、破網箇所の付近に植物が繁茂している状況が確認できる(写真-8(a))。
調査時(2月および8月)においては湧水の確認はできなかったが、斜面に植物が繁茂していることから水の供給があることが推察される。
破網箇所から斜面下方に向かって金網の腐食やさびによる変色が確認できることから、この破網も湧水による腐食を原因としたものと考えられる(写真-8(b))。
破網箇所の下方の金網の腐食も著しく、素線の破断や断面減少も確認できることから、今後、破網範囲がさらに拡大するものと想定される(写真-8(c))。
 
写真-8 腐食によるひし形金網の破網(2)
写真-8 腐食によるひし形金網の破網
 
防護網に用いられる金網には、一般的には亜鉛めっき鉄線や合成樹脂被覆鉄線が用いられており、腐食に対しての抵抗性を有しているが、沿岸部などの厳しい腐食環境下に加えて、地表水や湧水の供給がある箇所では腐食が促進される。
そのため、こうした状況下に防護網を適用する場合には、腐食環境を考慮した部材の選定や、点検時に湧水の有無やその周囲での腐食や破網などの変状の有無の確認といった点に留意する必要がある。
 

(4)ひし形金網の重ね部の開き

写真-9に示した防護網は、沿岸部の自然斜面に施工された防護網である。
金網の重ね部の開きが確認できる(写真-9(a))。
防護網の設計標準図2)によると、防護網の金網は横方向に300mmずつ重ねられており、隣接するワイヤロープに結合コイルを用いて固定している(図-2)。
しかしながら、当該箇所の結合コイルは引き伸ばされたように損傷している(写真-9(b))。
なお、正常な結合コイルは写真-9(c)を参照されたい。
この斜面では、風化、浸食によるものと考えられる隙間が斜面と防護網との間に部分的に発生していた。
防護網上の積雪荷重などによる想定以上の作用が働いた際に、この隙間の範囲で金網が面外方向に垂れ下がり、重ね部の結合コイルに想定以上の張力が作用したことで、損傷に至ったものと推察される(写真-9(d))。
また、こうした隙間では、防護網の落石予防機能である金網や地山との摩擦および金網張力による落石の拘束の効果は働きにくい。
また、隙間内で落石の跳躍により、金網への衝撃作用が生じる懸念もある。
 

写真-9 ひし形金網の重ね部の開き
写真-9 ひし形金網の重ね部の開き
図-2 ひし形金網の設計標準図(文献2から抜粋して一部加筆・修正)
図-2 ひし形金網の設計標準図(文献2から抜粋して一部加筆・修正)

 
 

おわりに

覆式落石防護網の変状・損傷事例調査から、それらの傾向および発生しやすい現場条件を取りまとめた。
その結果、以下の知見が得られた。
 
1)覆式落石防護網の損傷・変状の多くは、ひし形金網に発生しており、損傷・変状の種別としては、腐食が最も多く、腐食により破網している事例も確認された。
 
2)外的要因による金網の損傷としては、落石によるものだけでなく、植物の根返しに伴う事例が確認された。
 
3)覆式落石防護網の構成部材以外の変状としては、斜面下部の防護網と斜面との間に落石等の堆積が確認された。
 
4)現場条件による覆式落石防護網の変状・損傷としては、以下のものが確認された。
①起伏のある自然斜面における岩塊の角部でのひし形金網の部分的な破網
②集水地形における斜面上部の崩壊による覆式落石防護網の損傷
③斜面からの湧水の影響によるひし形金網の腐食、破網
④覆式落石防護網と斜面の間に隙間が生じたことが原因と推定される構成部材の損傷
 
謝辞:本調査の実施にあたり、国土交通省北海道開発局には点検資料の提供に関して、多大なるご協力をいただきました。
ここに付記し、感謝の意を表します。
 
 
参考文献
公益社団法人日本道路協会:落石対策便覧、2017.12
国土交通省北海道開発局:令和3年度北海道開発局道路設計要領第6集標準設計図集、2021.
 
 
 


国立研究開発法人 土木研究所 寒地土木研究所

寺澤 貴裕
中村 拓郎
山澤 文雄
安中 新太郎

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年6月号



最終更新日:2023-06-23

 

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