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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 生産性向上 > 持続可能な社会インフラメンテナンスの実現に向けた新しい活動

はじめに

一般社団法人社会インフラメンテナンス推進協議会(Social Infrastructure Maintenance Council;以下、SIMC)は社会インフラメンテナンスの各種業務においてドローンなどロボティクス技術、最新AI画像解析技術を活用できる人材育成および技術開発・支援・標準化の事業を行うことや、社会インフラメンテナンスの維持・保全に寄与する補修工法や材料などの研修および開発を行い、インフラメンテナンスに係る新たなビジネスモデルの創出を目的として設立された(図-1)。
「人材育成委員会」「ロボティクス委員会」「メンテソリューション委員会」「企画委員会」を設置し(図-2)、2021年1月に法人として登記を行った。
 

図-1 SIMC事業活動
図-1 SIMC事業活動
図-2 SIMC組織図
図-2 SIMC組織図

 
SIMCの前身は、一般社団法人日本ドローンコンソーシアム(JDC)内に2018年9月に設置が承認された「構造物点検ドローン研究会」で、橋梁、トンネル、ダム、プラント施設など社会インフラのドローンによる点検技術や社会実装に向けてのさまざまな技術の研究や検証を行ってきた。
特に、当コンソーシアム会員でもある三信建材工業(株)は、2014年よりJDC代表理事でもある千葉大学特別教授野波健蔵氏と千葉大学発ベンチャーの(株)自律制御システム研究所(現:(株)ACSL)とともに非GNSS環境対応型インフラ点検用ドローンの共同開発に取り組んでいる。
 
国土交通省が進めている「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入」(図-3)による実証検証の公募が2014年7月から開始されたが、第1回の実証検証よりこれに参加し、5年間のさまざまな実橋梁での実証実験を通じてドローンの改良や撮影画像解析の開発を行い、2019(平成31)年3月に国土交通省は「点検支援技術性能カタログ
(案)」(以下、「性能カタログ(案)」)として公表した。
三信建材工業(株)の点検技術は「非GPS環境対応型ドローンを用いた近接目視点検支援技術」として掲載され、北海道から沖縄まで全国から本技術の採用がスタートした。
 
図-4、5は、2019年「性能カタログ(案)」に掲載された技術である。
 

図-3 「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入」のスケジュール
図-3 
「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入」のスケジュール
図-4 平成31年「点検支援技術性能カタログ(案)」掲載技術
図-4 
平成31年「点検支援技術性能カタログ(案)」掲載技術
図-5 平成31年三信建材工業(株)掲載技術
図-5 平成31年三信建材工業(株)掲載技術

 
 

1.人材育成委員会

SIMCの人材育成委員会では三信建材工業(株)の「非GPS環境対応型ドローンを用いた近接目視点検支援技術」(現:「非GNSS環境対応型ドローンやポールカメラを用いた近接目視点検支援技術(技術番号:BRO10015-V0322)」)を応用して、2020年にAIによる画像解析システムとして「点検支援性能カタログ」に掲載された富士フィルム(株)の解析ソフト「社会インフラ画像診断サービス「ひびみっけ」で対応できる非GNSS環境対応型ドローン(VisualSLAM)による飛行撮影方法の検証やその手順を教材としてまとめ、SIMCの人材育成委員会技能認定部会において「点検支援技能の認定」、スクール認定部会において「技能認定スクールの認定」を定め、2022年1月には2名のスクール受講者に技能認定を行った。
 

図-6 SIMC認定技術の流れ
図-6 SIMC認定技術の流れ
写真-1 実橋を使っての講習
写真-1 実橋を使っての講習

 

図-7 AI画像解析対応コースのカリュキュラム
図-7 AI画像解析対応コースのカリュキュラム
図-8 三次元成果品納品対応カリュキュラム
図-8 三次元成果品納品対応カリュキュラム

 
また、人材育成委員会では2021年3月に国土交通省港湾局が公表した「港湾の施設の新しい点検技術カタログ(案)」掲載の「AIや三次元点群モデルを活用した港湾施設の定期点検支援技術」(開発者:三信建材工業(株)と富士フィルム(株))を三信建材工業(株)開発室と愛知県および東三河ドローン・リバー構想推進協議会の協力を頂いて愛知県三河湾の豊川市御津一区防波堤で実証検証を行い、点検したデータを基に港湾管理者とも意見交換を行い社会実装に必要なニーズの検討を行った。
 
当該技術は、防波堤や護岸をドローンで撮影し(写真-2)、その取得画像を解析することにより、ひびわれや欠損等の変状部を示した損傷図を作成する。
また、取得画像から三次元点群モデルやオルソ画像を構築することにより、ずれ、段差などの変状を検出する。
さらに、三次元点群モデル上に損傷写真や損傷図をリンクさせて一元管理することが可能なため、維持管理業務の向上が期待できる技術である。
 
なお、人材育成委員会では点検レベルを三段階に分けている。
 
レベルⅢ:国土交通省「性能カタログ(案)」掲載技術の社会実装
レベルⅡ:県市町村仕様。発注者やコンサルタントのニーズに適応した点検方法の確立
レベルⅠ:ドローンを活用した簡易点検(スクリーニング点検)の確立
国直轄地での橋梁点検などには、従来の点検方法に新技術を取り入れながら行っているケースが増えている。
一方、県市町村におけるインフラ点検においては限られた予算や人員により従来型の点検を行っているのが現状である。
県市町村においても、管理者のニーズに適合できる新技術を活用した点検方法の確立のため、実証検証を三信建材工業(株)開発室とともに行っている。
 
写真-2 防波堤でのドローンによる点検状況
 

(1)ダムにおける実証検証

ダムにおけるドローンによる点検の実証検証では、管理者の協力を頂いてダムの堤体面の通常目視点検の支援について非GNSS環境対応型ドローン(PF-2 Vision)と全方向Visual SLAM制御機能を有したSkydio X2Eを使用して近接目視点検の精度の検証を行った(写真-3〜5)。
2種類のドローンで離隔距離を変えながら飛行撮影を行い、搭載カメラの性能による撮影画像解析から点検に求められている損傷の程度(ひび割れ幅など)を把握した。
堤体との離隔距離が遠ければ撮影枚数が少なく、現場での作業時間の短縮化に繋がる。
また、特別な飛行訓練も少なくて済み、全方位衝突回避と非GNSS対応型のSkydio X2Eには既にカメラ(1200万画素)を搭載しているため、簡易型のカメラによる撮影の画像解析と離隔距離との関係についても今回実証を行った。
このほか、ダム上部と堤体面の三次元点群データの取得のために空撮も行った。
画像解析の程度は管理者から満足できる精度との評価を頂いたが、三次元点群データを活用したシステムまでの構築は現時点では必要ないが、今後のICTを活用したインフラ管理には必要となる管理方法であるとの意見も頂いた。
 

写真-3 堤防堤体全景
写真-3 堤防堤体全景
写真-4 ドローン(PF-2 Vision)での点検状況
写真-4 ドローン(PF-2 Vision)での点検状況
写真-5 ドローン(Skydio X2E)での点検状況
写真-5 ドローン(Skydio X2E)での点検状況

 

(2)水管橋における実証検証

2021年10月3日に発生した和歌山市の六十谷水管橋の崩落事故を受けて同月8日に厚生労働省医薬・生活衛生局水道課より都道府県水道行政担当部(局)、厚生労働大臣許可の水道事業者と水道用水供給事業者あてに「水道法第22条の2に基づく水管橋の維持及び修繕について(依頼)」が通知された。
管理している水管橋の緊急点検と異常部が発見された際は、必要に応じて修繕を依頼する内容である。
 
三信建材工業(株)は、愛知県企業庁からのドローンを活用した点検の依頼により2021年12月23日に愛知県春日井市内の庄内川水管橋(写真-6)で関係者が見学する中、実証検証を行った。
庄内川水管橋は六十谷水管橋と同じランガー補剛形式で、水管直径1000mm、延長128m、1977年に構築された(写真-7)。
今回の実証検証は今後ドローンを活用した点検の頻度や詳細な仕様を検討するためである。
 
管理者から依頼された確認部位は吊り補剛部と水管の接合ボルトの状況(上部、側面、下面)と橋脚(コンクリート)の状況である。
点検撮影に使用したドローンはPF-2 Visionに高性能カメラ(4200万画素)を搭載したもので、GNSS制御を利用して飛行撮影を行った(写真-8)。
接合ボルトの上部はアーチの曲面に沿って離隔距離を3mに維持して撮影し(写真-9)、側面は上部より斜め、真横、下部より斜め上にいずれも離隔距離3m、下面についてはドローン上部に搭載したカメラの方向を上向きにしての飛行撮影を行った(図-11)。
橋脚部は機体発着側の護岸から橋脚に近接して撮影を行った。
飛行体制としては、パイロット、テレメトリー、画像管理者で行い、飛行情報(GNSS受信状況やバッテリー残量)やドローンの搭載カメラ画像がリアルタイムに撮影管理者に転送され、取り残しや撮影角度、距離の的確な指示をパイロットに伝えた。
撮影画像や部位詳細情報に関しては管理者が満足できる情報であった。
また、ドローンによる撮影が出来ない箇所に対しては三信建材工業(株)が「点検支援性能カタログ」に掲載している「ポールカメラ」を活用して撮影を行った。
 
このように新技術を活用しての点検が重要であり、人材育成委員会では既存点検方法と新技術の活用方法などをドローンによる点検教材として確立していく。
 

写真-6 愛知県庄内川水管橋全景
写真-6 愛知県庄内川水管橋全景
写真-7 水管直径1000mm
写真-7 水管直径1000mm

 

写真-8 水管橋上部ドローンによる点検状況
写真-8 水管橋上部ドローンによる点検状況
写真-9 水管橋アーチ部の飛行経路
写真-9 水管橋アーチ部の飛行経路

 

図-11 水管橋ドローンによる撮影角度
図-11 水管橋ドローンによる撮影角度

 
 

2.ロボティクス委員会

2016年に三信建材工業(株)は建築の外壁点検の高度化を図るため国立大学法人豊橋技術科学大学機械工学系の佐野滋則准教授と「外壁点検昇降ロボット(NOBORIN)」の開発に着手した。
開発のコンセプトは「誰でもが簡易に設置し操作でき、外壁の役物を避け、カメラと打診装置を搭載できるロボット」である。
昇降装置をベルトからタイミングベルトに変更し、軽量化のためにサーボモーターからステッピングモーターに変更したNOBORIN第1号機としてのベースロボットは、現在、基本的な動作確認を行っている段階である。
このベースロボットはさまざまな作業アイテムとの融合が可能であり、現在は、外壁タイル張りの浮き検査として打音装置を装着するための開発を進めている。
 
NOBORINのシステム構成等は次のとおり。

 
①吊下げベルト固定装着装置(パラペットクランプ、ステージ)
吊下げベルト(タイミングベルト)の上部固定装置と地上での固定装置を製作。
地上での固定装置はNOBORINの始動時設置台も兼用している。
この装置により、上下でタイミングベルトが固定されることでNOBORINの安定性が増した。
また、吊下げベルトの幅を50mmから25mmに変更することで風の影響も抑えることができた。
 
②ロボット本体
軽量化のため小型化(目標60㎏)するためにサーボモーターからステッピングモーターに変更し、本体制御PCも小型にして前面に設置した。
ユニット(打診部)は、将来的にはさまざまなアイテムを搭載できるよう、取り換え可能になる予定。
 
③操縦機(地上PCタブレット)
ロボット本体とタブレットPCを有線で接続し、本体の上下動作と速度、センサー部の左右動作と速度の操縦が行える。
また、ステッピングモーターの回転数から算出した移動距離がPC画面上に表示される。
 

図-10 NOBORINシステム構成
図-10 NOBORINシステム構成

 
④打音時の音
センサー部分に打音装置(ソレノイド)を搭載し、地上PCから打音の開始、終了、打音間隔変更の操縦が行える。
これは、タイルの大きさによって打音する場所を変えるためである。
また、打音時の音にはロボットの移動位置情報が付与され、どの位置の音かが判明できるシステムになっている。
打音時の音は地上で確認することができる。
 
⑤画像による位置合わせの性能の検証
実際の壁面を用いて画像による位置合わせの性能の検証を行った。
写真-10はロの字型に3周、検査ユニットを動かした際の画像の貼り合わせ結果である。
精度よく貼り合わせできており、ひび割れ検出に十分な性能が得られていると言える。
 
写真-10 NOBORIN搭載カメラによる連続撮影画像
写真-10 NOBORIN搭載カメラによる連続撮影画像
 
⑥打音ユニットによる打音検査の性能向上
ハードウェア、ソフトウェアの両面から打音検査ユニットの性能向上を図った。
実際の壁面を用いて実証検証し、良好な判定結果となった(表-1)。
 
ロボティクス委員会では、NOBORIN第1号機をベースに点検、塗装、清掃、補修などの分野への社会実装を共に目指す会員の募集を行っている。
 
表-1 打音検査ユニットの判定結果
表-1 打音検査ユニットの判定結果
 
 

3.メンテソリューション委員会

メンテソリューション委員会は、社会インフラの保全・維持・補修に係る材料(素材)や工法の情報を広く集め、会員と共有し、新たなビジネスモデルとして社会に普及することにより社会インフラ維持の促進に寄与することを目的としている。
現在の取り組みとしては、三信建材工業(株)と日研㈱、国立大学法人名古屋工業大学が、無機材料(ケイ酸塩系)を浸透させ、劣化コンクリートの表面強度の回復と雨水の浸入を防ぐための補修材の共同研究を2016年より進めている。
この技術の概要は、劣化コンクリートの空隙特性を理解し、改質性能に合った適切な材料を適切な場所(毛管空隙、微小空隙)に含浸し生成物を形成させる(図-11、12)。
これにより防水性や硬度などを回復させる良好な補修効果が得られ、含浸材をジオポリマー化することで生成物により高い高度と耐久性を付与できる。
 

図-11 ケイ酸塩系含浸による表層緻密化
図-11 
ケイ酸塩系含浸による表層緻密化
図-12 図-11の表層緻密化の拡大
図-12 図-11の表層緻密化の拡大

 
劣化したコンクリートは、毛管空隙、そして水和物の骨格内の微小空隙が粗大化しているため表面がもろくなり、水(鉄筋の腐食因子)が浸入しやすくなっている。
本工法の改質コンセプトは、含浸させたケイ酸により骨格構造が補強されて硬度を回復させること、また、ケイ酸塩により毛管空隙に蓋をすることで防水性を高めることである。
 
図-13の左の写真は、ケイ酸塩の緻密な蓋が確認され、右の写真ではケイ酸による水和物で空隙が充填されていることが分かる。
 
図-13 塗布後の電子顕微鏡写真
図-13 塗布後の電子顕微鏡写真
 
開発した工法では表-2左側のグラフのとおり吸水速度が50%低減できた。
これにより鉄筋腐食リスクを低減することが期待できる。
また、右側グラフはビッカーズ表面強度試験の結果である。
表面硬度の回復率は180%を上回った結果であり、流水などによるコンクリート表面のすり減り抵抗性が向上することで耐久性を付与することができる。
 
表-2 左:吸水率の低減 右:ビッカーズ表面強度試験
表-2 左:吸水率の低減 右:ビッカーズ表面強度試験
 
ケイ酸をアルミニウムにより架橋させ(図-14)、空隙内にアルミノケイ酸塩鉱物を生成させることでコンクリート表層の硬度が飛躍的に上昇した(図-15)。
 

図-14 アルミノケイ酸塩構成図
図-14 アルミノケイ酸塩構成図
図-15 塗布後表層の電子顕微鏡写真と従来品との表層強度の比較表
図-15 塗布後表層の電子顕微鏡写真と
従来品との表層強度の比較表

 
また、促進劣化試験では、中性化抵抗性、耐凍結融解抵抗性があることが確認できた(図-16)。
 
実構造物における適応の検討では、構造物管理者の協力のもと、設計性能(吸水抵抗性、表面硬度)が得られることを確認した(図-17)。
メンテソリューション委員会としては本工法を基軸に、会員とともに施工方法の研究やドローンによる構造物への塗布試験などで新たな工法を確立し、建設、農業、港湾、ダムなどのインフラ構造物の補修・保護剤として普及活動に努める。
 

図-16 左:促進中性化試験 右:凍結融解試験
図-16 左:促進中性化試験 右:凍結融解試験
図-17 実橋での試験結果
図-17 実橋での試験結果

 
 

4.企画委員会

企画委員会は、SIMCの活動をより広く周知する企画や、展示会への出展、また、他の団体と連携して社会インフラメンテナンスの促進に寄与できる活動を行っている。
愛知県東三河の地域産業界や大学とも連携し、ドローンを活用した地域創生を目的として創立された東三河ドローン・リバー構想推進協議会(新城市、豊川市の首長が会長、副会長)に加盟し、ドローンによる社会インフラ点検に関わる人材育成やドローンを介した他分野(他産業)との連携を通して新たな創業創出活動なども行っている。
 
また、静岡県東伊豆地区では「無人航空機の活用による地方創生の推進に関する連携協定」が締結され、その活動の中で地域資産(社会インフラ、自然、人、産業など)を利用してドローンを活用した産業創生活動を行っている。
 
 

おわりに

SIMCは、これら4つの委員会活動を礎として同じ志を持つ会員の皆さまとともに、社会インフラメンテナンスの促進となる新たな活動をこれからも行っていく。
 
 
 

一般社団法人社会インフラメンテナンス推進協議会 代表理事
石田 敦則

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年6月号



最終更新日:2023-06-23

 

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