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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 生産性向上 > ICT施工に向けた取り組みについて

はじめに

建設業は建設労働者の減少や高齢化という課題を抱えている。
賃金水準の向上や休日の拡大等による働き方改革が求められるなか、それを実現する方策として、建設生産プロセス全体にICTを取り入れることによって生産性向上させるべく国土交通省のi-Constructionが推進されている。
 
日本建設機械レンタル協会は、建設機械レンタル会社を中心に構成され、建設機械器具賃貸業に関する調査・研究、行政施策の協力、技術開発やその推進等を担っており、本稿ではi-Constructionに至るまでのICT施工への取り組み、i-ConstructionやICT施工の現状と今後の課題、それに対する建設機械メーカや建設機械器具レンタル会社の取り組みについて概要を紹介する。
 
 

1.ICT施工の草創期から現在に至るまでの概観

1-1 ICT施工の始まり

1970年代に回転レーザーを用いたブルドーザ排土板の2D自動制御を始めた頃からICT施工への取り組みが始まったとされている。
2000年代になると大規模造成工事、道路工事を中心としたICT施工へのブルドーザの適用が始まり、3Dデータを用いた施工が行われるようになった。
これには、通信に関する規制緩和や通信技術の発展、トータルステーション(TS)や衛星(GNSS)による位置特定技術の開発や普及も寄与している。
測器メーカのICT測位機器を後付けしやすい建設機械が開発され、測器メーカのICT機器を後付けした建設機械によりICT施工が徐々に普及していった。
2008年には国土交通省の情報化施工推進戦略により戦略的な情報化施工普及への本格的な取り組みが始まった。
建設機械メーカではICT建設機械の開発が加速し、メーカならではのブレードにかかる負荷制御や履帯のスリップ制御機能を搭載した3Dマシンコントロールブルドーザや掘り過ぎを防ぐ作業機の自動停止や整地作業を容易にする自動整地アシスト機能を搭載した3Dマシンコントロール油圧ショベルなど、さまざまな作業機の自動制御機能を搭載したマシンコントロールICT建設機械が市場導入された(写真-1、2)。
 
この間、レンタル会社としては、ICT建設機械の提供、ICT施工の現場サポート等を通じて、ICT施工普及に貢献してきている。
 

写真-1 インテリジェントマシンコントロールブルドーザD71PXI-24
写真-1 
インテリジェントマシンコントロールブルドーザ
D71PXI-24
写真-2 インテリジェントマシンコントロール油圧ショベルPC200I-11
写真-2 
インテリジェントマシンコントロール油圧ショベル
PC200I-11

 

1-2 国土交通省i-Constructionの取り組み

これらを経て2016年4月から国土交通省i-Constructionが開始された。
情報化施工では施工段階にのみICTを導入していたが、i-Constructionは調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までの全ての建設生産プロセスでICTや3次元データ等を活用して施工全体を3Dで繋ぐものであり、2025年までに建設現場の生産性2割向上を目指している。
 
対象工種はICT土工から始まり、舗装工、浚渫工、法面工などへと展開されていった。
発注形態については、発注者指定型や施工者希望I型の工事予定価格、土工量の領域を広げて、ICT施工対象が拡大されていった。
施工に対する各工種ごとのICT活用工事の積算基準や、施工管理に対するさまざまな「3次元計測技術を用いた出来形管理要領(案)」(以下、「3次元出来高管理要領」)も整備された。
 
 

2.ICT施工普及の現状と課題

2-1 国交省工事におけるICT施工の拡大

これらの施策により、ICT施工は大きく拡大した。
国交省工事におけるICT施工についての実施状況は以下の通りである。
2016年度は、工種は土工のみで、公告件数1,625件、このうちICT施工実施584件、ICT施工実施率36%であった。
これに対し、2021年度は、工種は土工、舗装工、地盤改良工等となり、公告件数2,313件、このうちICT施工実施1,933件、ICT施工実施率84%となった。
適用工種は拡大し、公告件数、ICT施工実施数・率ともに大幅に増え、約8割の実施率にまでなっている。
国土交通省直轄工事においては、ある程度の規模のある工事ではICT施工が一般的になりつつある。
 

2-2 ICT施工による生産性の向上

i-Constructionにおける生産性向上とは、これまでより少ない人数、少ない工事日数で同じ工事量を実現することである。
国土交通省ではICT施工の対象となる起工測量から電子納品までの延べ作業時間について調査を行い、土工、舗装工および浚渫工(河川)で約3割、浚渫工(港湾)では約1割の縮減効果がみられたとされている。

 

2-3 地方自治体工事におけるICT施工への取り組み状況

地方自治体においても国土交通省に倣ってi-Constructionへの取り組みを進めている。
 
地方自治体におけるICT施工の実施状況は以下の通りである。
対象工種は土工で、2017年度は、公告件数870件、このうちICT施工実施291件、ICT施工実施率33%であった。
これに対し、2021年度は公告件数11,841件、このうちICT施工実施2,462件、ICT施工実施率21%であった。
 
公告件数もICT施工実施数も大きく増えておりICT施工の普及は見られるが、ICT施工実施率は国交省が約8割であるのに対し、地方自治体では約2割に留まっている。
 
地域を地盤とする中小規模の建設会社へのICT施工の普及が求められている。
 
 

3.ICT施工の更なる普及拡大に向けて

地方自治体の工事は比較的小規模な現場が多いため、ICT施工の普及拡大に向けては小規模な現場に対応したICT施工の導入が課題であった。
近年、それに対応する要領や基準の整備、小型ICT建設機械や簡易な現況測量技術の開発などが進んできたので、それらについて紹介する。
 

3-1 小規模工事の要領・基準の整備

i-Constructionでは昨年度から小規模工事に対応したICT施工の導入への展開が進められている。
i-Constructionの小規模土工とは、具体的には、施工土量1000m³未満の土工、さらに少ない施工土量の土工量100m³未満や施工幅1m未満の小規模土工、小規模の床掘工、法面工であり、これらの実施要領、積算基準の運用を開始するとともに、小規模施工に適用される現況計測技術の「3次元出来形管理要領」への織り込みも行われている。
今年度からは小規模土工と併せて実施する管渠、暗渠、管路工等についてもICT適用を拡大することが予定されている。
 

3-2 小規模工事に対応する小型油圧ショベル、ミニショベル3Dマシンガイダンスの開発

i-Constructionの小規模工事への適用機械は、0.13~0.45m³の3Dマシンガイダンスバックホウであり、ミニショベルも含まれている。
小規模工事では都市部や市街地などの狭小現場をはじめとする小規模現場での施工となるため、現場環境を考慮した選定ができるようないくつかのシステムが開発されている。
システムの違いはICT建設機械で使用する測位方式によるもので、衛星測位(GNSS)方式とトータルステーション(TS)方式がある。
両者の測位方式の特性から、現場条件に合わせて適切なものが使われている。
比較的小規模な現場でも、ICT施工により丁張作業を行うことなく作業が行えるため、土工作業全体の迅速化、現場の補助員削減による安全性の向上等を期待することができる。
 
①GNSS方式を活用した小型マシンガイダンスバックホウ
Smart Construction Retrofit((株)EARTHBRAIN社製)はIMUセンサー、GNSSアンテナ、コントローラ、タブレットから構成されるGNSS方式を活用したシステムである。
後付けの安価で汎用性のある3Dマシンガイダンスシステムでミニバックホウへの搭載も可能であり、i-Constructionにも対応している(写真-3)。
 
写真-3 ミニショベル(PC30MR-5)に装着したSmartConstruction Retrofit
写真-3 ミニショベル(PC30MR-5)に装着したSmartConstruction Retrofit
 
②自動追尾型TS方式等を活用した小型マシンガイダンスバックホウ
丁張の木杭を打つ位置を測る際に使っているTSを3Dマシンガイダンス用のセンサーとして流用できるようにしたシステムもある。
TSを日常の木杭の位置出し作業と3Dマシンガイダンスに兼用することでICT施工のハードルを下げている。
 

3-3 小規模現場に適応した現況測量技術の開発

i-Constructionが始まって以降、現況測量は大きく変わり、一般的には以下のような測量方法が使われている。
規模の比較的大きな工事ではドローン(UAV)や3Dスキャナ(LS)等が使われるようになった。
一方、規模の比較的小さな工事では衛星測位(GNSS)やトータルステーション(TS)を使った従来の断面管理での管理が標準となっている。
 
UAVやLS等の3次元データ計測機器は高価であり、専門知識や操作技術が必要で、施工者にとって、3次元データを作成することがICT施工のハードルになっている場合がある。
 
「3次元出来形管理要領」の改訂により、小規模施工に適用できるものとして、モバイル端末を用いたものや地上写真測量を用いたものも利用できるようになった。
 
Smart Construction Quick 3D(株)EARTHBRAIN社製)はiPhone/iPadを使用して「楽に」「安く」「早く」施工現場の3次元データを作成することができる地上写真測量技術で、モバイル端末内で生成されるLiDAR点群と撮影画像をサーバへ送り、sfm処理を行って点群データを生成し、WEBアプリでデータ出力等を行っている。
令和4年3月に改訂された「3次元出来形管理要領」の地上写真測量に準拠したものとなっており、工事成績評定での加点対象にもなっている(写真-4)。
 
また、LiDARセンサー搭載のiPhoneと専用のGNSSレシーバー取得の位置情報を組み合わせた短時間で高精度なレーザー測量のタイプも開発されている。
 
写真-4 Smart Construction Quick 3D
写真-4 Smart Construction Quick 3D
 

3-4 ICT建設機械等認定制度

国土交通省ではICT施工をより普及させる施策としてICT建設機械等認定制度を昨年度に開始し、10月には65件を初回認定で公表している。
本制度は3Dマシンコントロール・マシンガイダンスの機能を有するICT建設機械やICT機能を付加するICT後付け機器(ICT装置群)をICT建設機械等として認定するものであり、認定されたものは認定表示・ステッカを貼り付けできることになっている。
初回認定では建設機械メーカのICT建設機械、測量機器メーカのICT装置群の多くが認定された。
この認定を受けることで、i-Construction工事(ICT建設機械で施工する工事)において、現場で、受発注者が容易に相互で、ICT建設機械として扱われる対象であることが明確となり、ICT施工普及に繋がることが期待される(写真-5、6)。
 

写真-5 ICT建設機械等認定表示例
写真-5 ICT建設機械等認定表示例
写真-6 ICT建設機械への貼付例
写真-6 ICT建設機械への貼付例

 
 

おわりに

建設機械器具レンタル会社は、ICT施工の始まりの当時から、従来の比較的規模の大きな工事に、建設機械、測量機器、現場サポートや周辺ソリューションを提供し、i-Constructionの普及、ICT施工の拡大に貢献してきた。
 
今後拡大していく中小建設業が施工するICT施工では、中小規模工事が多いことから、小型油圧ショベル、ミニショベルの3Dマシンガイダンスが使われることが多くなることが想定される。
メーカでも中小規模現場に導入しやすいように工夫がなされているが、一般的に小さな建設機械になると車体価格に対して、ICT機器価格の占める比率が高くなる傾向がある。
また中小規模現場では施工土量が少なく、機械の稼働時間や稼働期間は比較的短く、限られたものになることから、建設機械等は自社保有よりも必要な時に必要なものを調達して使用するレンタルが主流になる傾向にあると考えられる。
 
当協会としては、今後拡大が見込まれる中小規模のICT施工に対し、ベースとなる建設機械、後付けとなるICT装置群、地形計測機器等を適切に保有し、サポートすることで、中小規模の建設会社のICT施工への取り組みを下支えすることが使命であると考えている。
 
今後の中小規模現場へのICT施工の普及と、それによる安全で生産性の高いスマートでクリーンな未来の現場の実現を願っている。
 
 
 

一般社団法人 日本建設機械レンタル協会コマツカスタマーサポート株式会社 

苅谷 秀行

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2023年6月号



最終更新日:2023-06-23

 

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