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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2014年・建設産業の動向 ―「担い手3法」成立、建設産業再生へ―《後編》

 

日刊建設工業新聞社 片山 洋志

 

国土強靱化基本計画が閣議決定

一方、防災・減災対策では昨年12月に施行された国土強靱化基本法に基づく基本計画が今年6月に閣議決定された。
大規模災害に対する国土の弱点を調べて数値化した「脆弱(ぜいじゃく)性評価」を踏まえ、
官民がそれぞれ取り組む防災・減災対策を優先順位付けしている。
 

写真-6 災害時に甚大な被害が想定される東京都区部の木密地域

写真-6 災害時に甚大な被害が想定される東京都区部の木密地域


 
基本計画の施策の達成目標値とその時期をまとめた行動計画「国土強靱化アクションプラン2014」では、
主に東京五輪が開かれる2020年までの達成を目指す短期的な目標が設定された。
例えば、首都直下地震対策では老朽マンションの建て替えなどを推進。
東京など大都市にある建築物の耐震化率を15年までに現在の約80%から90%に引き上げる。
南海トラフ巨大地震で最も懸念される津波に備える対策も急ぎ、
鹿児島から千葉にかけての太平洋側にある海岸堤防の整備率を16年までに現在の約31%から約66%に引き上げる目標を掲げた。
 
防災・減災対策は、主体的役割の大部分を自治体や民間事業者が担うことになる。
そのため、政府は国土強靱化基本法に基づいて地域計画を策定する自治体向けに技術支援を展開中。
すでに20以上の自治体を選定して支援している。
 
民間主体の新しい取り組みも出始めた。
建設など多業種の民間活力を結集して国土強靱化を推進する
一般社団法人の「レジリエンスジャパン推進協議会」(会長・三浦惺(さとし)NTT会長)を7月に発足した。
国土強靱化に関する情報や知見を共有し、政府に規制・制度改革などの提案も行いながら、
防災・減災に貢献する人材の発掘・育成、技術・商品の開発・販売につなげていく計画だ。
 
 

国土のグランドデザイン2050を策定

今年は一定の公共事業量が確保されたが、次年度以降も同等の事業量が確保されるのかは分からない。
建設業界内からは、将来の建設事業量を予測できる国土づくりの長期的な計画の作成を望む声があがっている。
国交省は、太田昭宏国交相が就任当初からその必要性を提唱してきた「国土のグランドデザイン2050」を7月に策定した。
総人口が1億人を下回るなど人口の減少や少子高齢化が進展することや、
南海トラフ巨大地震や首都直下地震など大規模災害の切迫性が高まっていることなども踏まえ、
災害に強く持続的に成長・発展できる2050年までの国土づくりのビジョンを描いた。
 
建設業界が望む将来の事業予算額は明記されていないが、「高次地方都市連合」と呼ぶ新たな都市圏の形成を提案している。
高次地方都市連合は複数の地方都市が官民のサービス機能を分担して提供できる人口30万人以上の都市と位置付けている。
 
国交省は、このイメージに合う都市圏が3大都市圏(東京、名古屋、大阪)以外では現在61カ所あると想定。
ただ、人口が大幅に減る2050年には、全国の居住地域の6割以上の地点で人口が半減し、うち2割の地域には誰も住まなくなると予測。
これに伴い、3大都市圏を除く人口30万人以上の都市圏も61カ所から43カ所に減るとみている。
 

図-3 人口分布

図-3 人口分布


 
人口30万人以上の都市圏が消滅すると、同規模の地域を営業の最低ラインとする救急救命病院や、
百貨店、飲食チェーン店などのサービス施設が一斉になくなる可能性が高い。
地域の雇用機会も消失され、仕事を求めて大都市への人口流出に一段と拍車が掛かることが予想される。
 
このため、人口30万人以上の地方都市圏を現在と同程度の60~70カ所維持する目標を提示。
それを実現する具体策として高次地方都市連合という概念を提案した。
こうした都市連合を形成するのに最優先で取り組む施策が、
郊外に拡散された職住機能を中心市街地に集約させる「コンパクトシティー」と、
各都市や各まちを結ぶ高速交通ネットワークの形成だ。
既存の行政区域や県境などの垣根を超えた経済性の高い都市圏を形成するため、
一つの都市圏内を1時間程度で行き来できるようにする高速道路の未連結区間(ミッシングリンク)の解消や、
既存の高速道路を「賢く使う」ための改修などを早期に実施すべきだと提案している。
 
国交省ではこのグランドデザインを具体化するため、
9月に中長期的に取り組む施策とその目標を盛り込んだ国土形成計画法に基づく全国計画の改定作業に着手した。
高次地方都市連合のような地方創生や国土強靱化などに貢献する施策を主に反映させ、
現行計画では設定されていない定量的な施策目標の導入も検討中だ。
計画期間はおおむね10年間程度となる見通しで、来夏の閣議決定を目指している。
太田国交相はその期間を「日本の命運を決する10年間だ」と、グランドデザインの実現に向けた強い意気込みを語っている。
 
国交省は、国土形成計画と併せて中長期的なインフラ施策をまとめた交通政策基本計画も年内に閣議決定したい考え。
社会資本整備重点計画の見直しにも入り、
インフラ整備を担う建設産業の人材確保に向けて中長期的な公共投資規模を見通しやすくする方針だ。
 
 

東京五輪開催で首都圏開発ラッシュ

日本中が喜びに沸いた2020年東京五輪の開催決定から1年が経過した。
競技会場や選手村などの大会関連施設が集中する東京都心の商業地や臨海部の住宅地では、
国内外からの来訪者の増加を見越して地価が上昇。
今後、この追い風を受けてオフィスビルや商業施設、高層マンションなどの大規模建築事業が相次いで計画されている。
6月に改定された政府の成長戦略「日本再興戦略」には
20年度までに東京などで民間の大規模都市開発事業を約40件実現させる計画が盛り込まれた。
 

写真-7 大規模開発が進む東京駅周辺。手前が八重洲側

写真-7 大規模開発が進む東京駅周辺。手前が八重洲側


 
大規模都市開発をさらに後押しする制度も相次いで整備されてきている。
その一つが昨年12月に施行された国家戦略特区法。
政府が区域を特定して大胆な規制緩和を講じるのが特徴だ。
全国で6区域(東京圏、関西圏、新潟市、兵庫県養父市、福岡市、沖縄県)が指定されており、
その一つに東京の都心や臨海部を抱える特別区の9区(千代田、中央、港、文京、江東、品川、大田、新宿、渋谷)が入っている。
東京の特区では「世界一ビジネスしやすい職住近接の都市づくり」をコンセプトに、
デベロッパーなどが特に外国企業の在京駐在員が働きやすく住みやすい業務ビルや高層マンションを建設する際に
容積率の緩和などの都市計画の特例措置を受けられるようにする。
現段階では東京駅八重洲口前や品川駅の近くで計画されている大規模再開発など
10件程度の都市再生事業がこの特例措置の適用対象になる見通しだ。
 
今年7月に一部施行された改正建築基準法も再開発を後押しする。
ビルの容積率を計算する際にエレベーターシャフト(昇降路)の空間を算入しない措置を導入。
新たに使える容積が発生するため、建設するビルの階数を増やしたり、フロア面積を広げられたりする。
すでに東京の都心での業務ビルや高層マンションの開発計画では、
現行の計画を見直し、階数の増設や床面積の増床を検討する事例が複数出始めている。
 
東京都心と、海外からの窓口となる羽田、成田両空港を短時間で結ぶ空港アクセス都市鉄道の新設構想も浮上した。
国交省は5月に交通政策審議会(国交相の諮問機関)で2015年度を目標年次とした現行の東京の都市鉄道整備計画
「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備に関する基本計画」の見直しの検討に着手。
15年度に新たな答申が出る予定だ。
その中には20年東京五輪までに開業を目指す都市鉄道の整備計画が盛り込まれる。
 
一方、東京五輪の競技会場や関連施設の建設は停滞気味だ。
東京都は五輪関連施設の整備費を当初総額4,554億円と見込んでいたが、
建築費の高騰などを受け相当程度膨れ上がることが判明。
2月に就任した舛添要一都知事は国際オリンピック委員会(IOC)に大会開催基本計画を提出する来年2月までに
施設計画を見直す方針を固めている。
中でも日本スポーツ振興センターが整備主体になる五輪のメーンスタジアムとなる新国立競技場の建設については、
本体工事の施工予定者に竹中工務店(屋根部)と大成建設(スタンド部)が決まったが、
建設費やデザインのあり方をめぐって計画が二転三転しており、再三繰り返される入札不調で解体工事の着手も遅れている。
東京では56年ぶりとなる世界最大のスポーツの祭典を確実に成功させるため、
政府や東京都、大会組織委員会などの関係者間で速やかな調整が求められる。
 
 

リニア中央新幹線が着工へ

 

図-4 リニア中央新幹線の路線予定図(JR東海発表資料を基に作成)

図-4 リニア中央新幹線の路線予定図(JR東海発表資料を基に作成)


 
東京(品川)~名古屋間を最短40分で結ぶJR東海によるリニア中央新幹線の工事実施計画が10月に太田国交相から認可された。
工事完了予定は2027年。総工費5兆5,235億円を投じる巨大プロジェクトがまもなく本格着工する。
 
総延長285.6kmの86%をトンネルが占める。
中でも山梨、静岡、長野の3県にまたがる赤石山脈(南アルプス、約25km)を貫通する区間は
最大土かぶりが1,400mに及ぶ日本最大の大深度トンネルになる。
 
リニア建設構想が浮上して約50年。
着工に備えてゼネコン各社はトンネル技術の開発に力を入れてきた。
その成果が試されるまで待ったなしに迫っている。
 
写真-8 年内に本格着工するリニア中央新幹線

写真-8 年内に本格着工するリニア中央新幹線


 

15年度建設投資見通し、3.2%減

建設経済研究所と経済調査会が10月22日に発表した15年度の建設投資(名目)は、
14年度(予測)比3.2%減の45兆9,500億円になる見通しだ。
 

図-5 名目建設投資額の推移(年度)

図-5 名目建設投資額の推移(年度)


 
13年度補正予算と14年度当初予算を一体編成した「15カ月予算」の効果が見込まれる14年度からは減少するが、
民間投資が住宅・非住宅建築とも堅調に推移し、土木も14年度と同水準になるとみている。
 
政府建設投資が前年度比11.6%減の17兆2,700億円、民間住宅投資が3.4%増の15兆2,500億円、
民間非住宅建設投資が1.9%増の13兆4,300億円と予測した。
 
政府建設投資は、15年度予算の概算要求を踏まえ、
一般会計分を前年度当初予算比1.9%増、東日本大震災特別会計分を5.5%増と見込んで
国の直轄・補助事業費(当初予算ベース)を推計した。
14年度からは大幅な減少となった。
 
民間住宅投資は、次の消費増税が15年10月に予定どおり実施されることを前提に推計。
14年4月の消費増税前の駆け込み需要の先食いがあるとして、駆け込みやその反動減の影響は13~14年度より少ないとみる。
ただ、持ち家は回復を見込むが、分譲マンションは建築費の高騰が続いて減少。
住宅全体の着工戸数は2.2%増と推計している。
 
 

大型補正予算が今後必要となる

政府は12月中に15年10月に実施予定の消費税の引き上げの有無を最終的に判断するという。
仮に消費税を引き上げるとすれば、14年度中に新たな経済対策(補正予算)を打ち出さないと、
上向いてきた景気に冷や水を浴びせることになる。
13年度から続く公共事業による景気の刺激策は経済を確実に押し上げた。
消費増税の実施の有無にかかわらず大規模な経済対策の実施が日本のデフレ脱却には欠かせないだろう。
さらに、中長期的に安定した建設投資を確保し続けることは、
建設業界にとっても若年者の入職促進や技能労働者の処遇改善につながるはずだ。
 
 
 
2014年・建設産業の動向 ―「担い手3法」成立、建設産業再生へ―《前編》
2014年・建設産業の動向 ―「担い手3法」成立、建設産業再生へ―《後編》
 
 
 
【出典】


月刊積算資料2014年12月号
月刊積算資料2014年12月号
 
 

最終更新日:2015-03-19

 

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