- 2014-02-07
- 建設ITガイド
株式会社 大林組 杉浦 伸哉
施工でのCIMモデルの活用方法
では、CIMモデルを実際に施工で活用する場合の方法について、一例ではあるが、実例を交えて見ていこう。今回は地下躯体を構築する工事で、実際にCIMモデルを取り入れてみた。
われわれは施工会社であるため、CIMの最大の効果であるといわれている設計段階における効果はあまり恩恵を受けない。
また、現状では、発注者から発注図として貸与されるデータは2次元CADデータしかないため、まずは2次元CADデータから3次元のモデルを起こすことから始めた。
施工段階で作成したモデルを使い、どのように施工管理を行うかという設計図を構築することにした。
施工フェーズを中心として、モデルから何ができるかを検討したが、①数量算出、②工程連携、③過密配筋などの干渉チェック、④構築手順モデルを使った施工打合せ、といった実際の施工で役立つ部分からスタートしてみることとした。
躯体構造物を2次元CADデータからモデルを約1週間かけ、梁と柱などの属性情報を入れながら作成した。この地下躯体構造物は建築物と似ているので、BIMソフトを活用することで、比較的簡単に作成することができた。土木構造物でも、構築するものによっては、BIMソフトを利用することができる。ただし、構築構造物が「矩形形状」ではないため、端部など躯体形状が矩形でないものは作成に当たって困難を極めた。
さて、作成したモデルを施工時におけるコンクリート打設数量管理に用いる「CIMモデル」に構築するには、躯体同士の重なりがないモデルにしなければならない。
BIMソフトにはそのような機能が備わっており、矩形同士の形状であれば対応は簡単だが、曲面など矩形でないもの同士の重なりの場合は、形状を分割しなければならない。それでもBIMソフトの機能を駆使することでなんとか作成できた。また、実際に躯体打設手順通りにモデルを構築しないと、施工管理では利用できないため、モデルの作成段階で実際の施工と同じ打設手順を意識することとなった。ここが今回のモデル作成の大きなポイントであり、従来の3次元モデルをプレゼンレベルで作成していた時との違いである。
次の図を見ていただきたい。
上は2次元CAD図で、断面図だけを見ると、特に問題ないように見えると思うが、3次元モデルにした時に、上部の梁が地下水を流す斜路の上部にかかり、水量の有効断面が確保できない状況となっているのが分かった例である。
このように、2次元図面から施工時に型枠を作り始め、はじめて問題点が明らかになった場合、施工を中断し、その問題点について発注者と協議する必要があるが、3次元モデルを活用した場合は、このような設計図では表現されにくい部分を可視化し、事前に問題点を明確化できるといった機能に長けていることを理解していただけると思う。
可視化することのメリットは、経験豊富な土木技術者だけではなく、誰でも同じ問題点を同じ見え方で共有できるということである。
また施工で実際に生コン打設をするに当たり、特にハンチのある部分は、ハンチの下で打ち継ぎ目を作るのが一般的である。
ところが、単に3次元モデルを作成する場合、往々にして「梁」と「ハンチ」をそれぞれモデル化して合体する方法がよく取られる。しかし、その3次元モデルでは生コン打設のための数量は出せても実際の施工では利用できない。
われわれ施工業者が利用する「数量表」というものは、このように施工手順を反映した「数量表」であり、「CIMモデル」にはその考え方が反映されているのが一般的である。
これらのことを注意した上で、モデル構築時には属性情報と併せて、今回の構築物に関連した属性情報を付加することにより、モデルから一気に次頁のような数量表が出てくる。
この機能を利用し、モデルをさらに分割して管理することで、当日の数量打設量、作業進捗に合わせて数量表を出すことが可能となり、予定数量と実施数量の差を出来形管理することで、精度の高い工程管理を行うことができるようになった。
数量管理は、調達管理にもつながるので、調達システムとの連携を行うことにより、その手間の一端を効率化できるようになる。
ここまで精緻なモデルを作成した後に、工程とリンクをして、工程管理に利用してみた。
施工で利用する工程表は、土木技術者としては当たり前の工程表ではあるが、慣れていないと、施工手順が分かりづらい。特に若手職員には、この工程を見て全体をイメージすることは至難の業である。一昔前までは、4次元CADと言われ、脚光を浴びたが、当時はハード環境やソフト環境が一般的ではなく、多額のコストとかなりの時間を費やさなければ表現できなかった。しかし、現在は、比較的に簡単に表現できる環境が整い、今回も工程とモデルの連携は1日で完成した。
この作成したモデルを基に工程計画などの検討を細部にわたって実施したが、どの時期にどのような工種が行われるのかなど、イメージが分かりやすくなり、このイメージを全員で共有しながら、より効率の良い施工手順を考えることができるようになった。
地下躯体を専門に行ってきた熟練職員であれば、特にこのようなツールを利用することは必要ないが、全員が同じイメージを共有して議論を行える環境ができることが重要なのである。
モデルを見せながら作業打合せすると、打合せ時間が大幅に削減できることも確認できた。4次元モデルを使った施工管理において非常に重要な場面になることは間違いない。
同様に複雑な配筋構築においては、その手順や段取りなど、協力会社との打合せにも利用でき、施工での活用の可能性を実感できた。
さらに最近では、タブレット端末でモデルを簡単に閲覧できるツールも登場し、作業所だけでなく実際の施工現場でも、モデルを見ながら打合せを行えるため、作業員とのコミュニケーションツールとして欠かせなくなってきている。
今回は地下躯体というプロダクトモデルを中心として、施工での利用を推進したが、トンネルやダム・橋梁といった地下躯体とは別の工種で同じ考えを適用できるか否かは、各工種での実例を増やしていくしかない。
配筋手順の打合せや発注者との打合せでモデルを利用するのは、どのような工種でも同じであるが、数量管理や、工程管理との連携などは、何に着目して施工管理を行うかによって、その利用シーンが大きく変わる。
よって、実際に土木構造物における施工CIMを考える時は、何に着目して施工管理を行うかという計画を最初に構築し、それに向けた準備が必要である。
ゼネコン目線のCIM「施工CIMの行方」《その1》
ゼネコン目線のCIM「施工CIMの行方」《その2》
ゼネコン目線のCIM「施工CIMの行方」《その3》
【出典】
建設ITガイド 2013
特集「建設イノベーション!3次元モデリングとBIM&CIM」
最終更新日:2014-02-07