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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 政府情報システム標準ガイドラインの詳説 第1回 政府における建築及び土木に係る情報システムのプロジェクトの構築の視点から

 

総務省行政管理局技術顧問 梶本 政利(かじもと まさとし)

 

1.はじめに

2014年12月3日に決定された「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」(以下「標準ガイドライン」という。)
が決定され、2015年4月1日から施行された。
 
政府における建築及び土木に関連する情報システムの構築という視点と、建築及び土木のプロジェクトという視点から、
標準ガイドラインによって示されているポイントを解説する。
 
なお、本稿は筆者の個人的見解が多々含まれていることをあらかじめお断りする。
 
 

2.政府における建築及び土木に関連する情報システムの整備の特徴

建築及び土木のプロジェクトと同様に、発注者(施主)である政府は、情報システムの企画段階から、
設計・開発そして運用・保守に至るまでのほとんど全ての工程を民間事業者に依存している。
 
また、政府で整備する建築及び土木に関する情報システムの特徴は、建設プロジェクトに直接関わるものではなく、
国民の生命・財産の保護に関わる対応の判断や政策の決定及び施策の実行を支援するためのものがほとんどであると言えよう。
例えば、防災に関するデータの収集・分析や提供、新たな基準を定めるための基礎情報の作成と提供、
新たな技術開発等を行うものである(図-1参照)。
 

図-1 政府における建築及び土木の情報システムの機能構成の特徴

図-1 政府における建築及び土木の情報システムの機能構成の特徴


 
政府の多くの情報システムが事務処理の高度化を狙っているものであることと性格を異にしている。
 
 

3.ガバナンスとマネジメント

標準ガイドラインが施行される前までは、特定の分野(87分野)の一定規模以上の情報システムについては
「業務・システム最適化指針(ガイドライン)」に基づいて整備が行われてきた。
基本的に、個別の情報システムの整備に関するITマネジメントについての定めのみが存在してきたと言える。
 
今回の標準ガイドラインでは、
全ての情報システムの整備から運用に関して統括するための仕組み(ITガバナンス)を強化することを求め、
政府全体を内閣官房情報通信技術総合戦略室(以下「内閣官房」という。)が統括し、
各府省はPMO:プログラムマネジメントオフィス(民間では「PgMO」と表記されることがある。)が統括するものとして示された。
 
個別のプロジェクトごとに判断するのではなく、将来を見据えて、つまり政府全体の戦略に基づいて、
その上で個別のプロジェクトが各府省において判断されることになった。
この判断に基づいて個別にプロジェクトが選定され、
それらのプロジェクトがPJMO(プロジェクトマネジメントオフィス、民間ではこちらを「PMO」と表記することが多い。)
によるITマネジメントが開始される形が整ったと言える。
 
 

4.政策目的・目標を達成することがプロジェクトの使命

標準ガイドラインでは、情報システムを整備するプロジェクトが目指すべきは政策目的・目標の達成であり、
その目的の達成を測定できるような指標を設定し、管理することが強調されている。
 
具体的取組として、内閣官房から「世界最先端IT 国家宣言」に、今後5年程度の期間で実現を目指すものが示されている。
「目指すべき社会・姿を実現するための取組」の中に、建設に関係するものとしては、表-1のような取組と施策が示されている。
 

表-1 世界最先端IT国家宣言における取組と施策(抜粋)

表-1 世界最先端IT国家宣言における取組と施策(抜粋)


 
表-1の「取組」のレベルがPMOの責任範囲となり、「施策」のレベルが PJMOの責任範囲となる。
それぞれの取組について、様々な施策を実行することによって、各分野に示される目標とする姿の実現を目指すものである。
単に関連する情報システムを整備すれば良いというわけではない。
建設プロジェクトにおいても、ハコモノ等を作り上げることは事業者の目標であるが、
発注者の目標は、完成したものを活用して様々な事業を立ち上げて、効用を生み出すことが求められていることと同じである。
 
 

5.調達の改善

調達の改善について、今回の標準ガイドラインでまず挙げて良いのが「分離調達の見直し」であろう。
これまでは可能な限り調達を分離し、多くの事業者の参加を促す方向であったが、
これを「合理的な調達単位」にすることを求めている。
 
特に、設計と開発は基本として分離しないことが示されている。
全ての要件がプロジェクトの最初の段階で詳細なレベルまで確定できて、
システムの完成まで、要件が変更されることが決してないのであれば、設計と開発を分離しても問題は発生しにくいと考えられる。
しかし、現実は、最初の段階で要件を全て確定させることも、
プロジェクトの進行途中における変更の発生がゼロであることもまれである。
 
土木のプロジェクトであれば、例えば地盤が想定とは異なっていた場合等には、工法の見直しや数量の再見積りを行い、
速やかに設計変更を行って、プロジェクトを進めるのが当然のこととなっているように、
情報システムの整備においても、不確定な要素があるのであれば、
それに柔軟に対応できるプロジェクトの進め方が求められるのは当然と言えよう。
 
また、年金システムの刷新の際に過度の分離調達を行ったために、
密接に連携すべきシステムの連携に失敗した事例が雑誌等で公表されたのは記憶に新しい。
 
さらに、価格だけの競争となってしまっていた落札方式について、技術的要素の評価を行うことが必要な場合について、
標準ガイドラインにおいてあえて解説することによって、技術力のある事業者を選定する必要があることを強調していると言える。
 
入札金額が低い事業者を選定して、結局失敗した事例は少なくない。
国際的にも競争力のある事業者を育成しようとしているのが現在の政府の方針でもあるのなら、
積極的に技術力重視の落札方式が適用されることを望むところである。
事業者の保有技術や提案内容を適切に評価できる体制が、各府省の中に存在しなければならないことは言うまでもない。
 
ここで、情報システムに関する見積りの難しさが存在する。
建設のプロジェクトであれば、施工すべき数量に対し、標準歩掛を用いて積算を行い、その結果は客観性の高いものとなっているが、
情報システムの場合、開発しようとする規模について、実現すべき機能とその複雑さ等の要素を考慮し、
それを数値化したファンクションポイント(FP)で示し、それに基づいてエンジニアの生産性から開発費用の見積りを行うのであるが、
その生産性がエンジニアの個人個人で大きく異なるという問題が存在する。
 
さらには、建物や構造物とは異なり、情報システムは目に見えないものであるため、
開発規模を適切に見積ることが、非常に困難な場合が存在する。
 
 

6.発注者側の核となる職員の能力の重要性

政府における情報システムの整備及び運用は、そのほとんど全てをいろいろな事業者が担っていることは冒頭で述べたとおりである。
ところが、発注者側の職員は人事異動によって短いサイクルで入れ替わってしまうのも事実である。
これが、初期の方針に従って中長期で取り組むべきプロジェクトの継続的な管理の障害となることがある。
 
このため、標準ガイドラインでは、担当する職員人材の確保については、
「プロジェクトの核となる職員が、プロジェクトのライフサイクルの適切な節目までそのポストに留まるよう、
 人事ローテーションの工夫をする等」として、人事上の配慮を求めている。
なかなか難しい課題であることは事実であるが、このような配慮はプロジェクトを円滑に進めるために必要不可欠である。
政府内における取組に期待したい。
 
しかし、職員はいわゆるゼネラリストであり、情報システムのスペシャリストではないという事実がある。
このため内閣官房、PMO及びPJMOを専門家の視点から支援するため、
民間からCIO補佐官が採用されており、政府CIO補佐官として内閣官房の活動の支援、
担当の各府省のPMOの活動の支援及び各PJMOの活動の支援が役割とされており、
異なった立場からの様々な支援を行うことが求められている。
 
 

7.プロジェクトの体制

プロジェクトの実施にあたっては、
当該業務に関係を持つもの全てが情報システムの整備に関して参加することが重要であることは言うまでもない。
民間であれば、情報システムを整備する際には業務部門と情報システム部門が密に連携することが要求される。
政府の業務に関しては、
さらに、その業務の根拠となる制度について責任を持つ部門(制度所管部門)もプロジェクトに参加することが必要となる。
このため、関係部門の責任者が当該プロジェクトを推進するPJMOのメンバーを構成することが
標準ガイドライン及びその実務手引書において強調されている。
 

表-2 PJMOの体制例

表-2 PJMOの体制例


 
政府の建築及び土木の情報システムを整備するには、その特徴を踏まえると、
特に要件定義及び仕様書の作成において、表-2のNo.7における
「その他構成員」として、研究機関等の技術部門の参加は不可欠であるとともに、
多くの関連する組織とのコミュニケーションが不可欠であろう。
 
表-3 プロジェクトの関係機関の例

表-3 プロジェクトの関係機関の例


 
表-3で見るような機関との連携が必要になるが、
国土交通省関係では、防災関係であれば地方公共団体との連携は不可欠であり、
各種技術開発等に関しては独立行政法人である建築研究所や土木研究所等が関わりを持つこととなるであろう。
 
さらに、政府職員のみでは情報システム構築のプロジェクトを適切に管理することが、専門性という観点から見ても困難である。
建築及び土木のプロジェクトでは、通常、設計と施工が分離し、設計を行った事業者が施工監理を行って進められるが、
政府の情報システムの構築においては、PJMOを支援する「プロジェクト管理支援事業者」を調達して、
発注者の立場からプロジェクト管理を行う体制としている。
 
図-2 プロジェクトの全体体制例

図-2 プロジェクトの全体体制例


 
 

8.おわりに

技術の進歩は急速である。
政府における業務の高度化を促進するためには、新たな技術を適切に取り入れていかなければならないことは明らかである。
国家公務員の働き方(=業務の実施方法)についても改革が進められているところであり、
標準ガイドライン及び実務手引書の継続的な見直しは不可欠である。
 
 
 
標準ガイドラインの全般的説明(概要)は、2015年4月号に掲載しております。
合わせてご覧ください。
「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」の策定経緯と概要《前編》
「政府情報システムの整備及び管理に関する標準ガイドライン」の策定経緯と概要《後編》
 
 
 
【出典】


月刊積算資料2015年7月号
月刊積算資料2015年7月号
 
 

最終更新日:2015-07-03

 

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