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建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > スマートウエルネスシティの考え方と取り組みについて

 

1.スマートウエルネスシティとは

スマートウエルネスシティとは、
Smart(賢明、快適、エコ、美しい)・Wellness(健幸、安心)・City(まちづくり)の
ベストプラクティスを実現するという考え方である。
ここで「ウエルネス」(健幸)とは、「個々人が健康かつ生きがいを持ち、安心安全で豊かな生活を営むことのできること」であり、
スマートウエルネスシティとは、このウエルネスをまちづくりの中核に位置づけ、住民が健康で元気に幸せに暮らせることを目指す、
新しいモデル構想である(図-1)
 

図-1 スマートウエルネスシティのイメージ

図-1 スマートウエルネスシティのイメージ


 
高齢になっても健康を維持し地域で元気に暮らせることは、生きがい、豊かな生活、医療費の抑制など、
個人と社会の双方に大きなメリットをもたらすことから、地域の担い手である住民が「健幸」を通じて主体的に健康維持し、
社会参加するための仕組みづくりを支援し、地域の活性化に貢献することを目指している。
 
 

2.スマートウエルネスシティの提唱に至る経緯

2-1 研究を実践に生かすために

加齢による老化現象として顕著に現れる変化の1つに体組成の変化がある。
中でも骨格筋量は、20〜30歳代のピークを過ぎた後、徐々に減少し80歳代では20歳代の約55〜60%まで減少する。
こうした身体機能の低下は、最終的に要介護となる原因の約3割を占める。
しかし、科学的根拠に基づき個々人の身体状況を正確に把握し、適性に合わせたプログラムによりトレーニングすることで、
筋肉の減少が改善され、医療費の低減につながることは、学術的にも明らかにされている。
 
スマートウエルネスシティの提唱者である久野謹也氏(筑波大学大学院人間科学総合研究科教授)は、
かつて、高齢者の寝たきり予防と医療費削減を可能にする地域の健康づくりのシステムの研究で一定の成果をあげていたものの、
研究成果が現場でほとんど生かされていない実態に直面していた。
 
その理由の1つとして、健康づくりに関わる因子が、
体力増進、都市環境、教育、交通網、食事、社会的なつながりなど多岐にわたるため、
狭義の健康政策が健康部門、医療部門、公共土木など、それぞれの分野に分断されてしまうことがあげられる。
総合施策としての健康づくりを可能にするようなフィルターがあれば、より大きな効果が期待できるのではないか。
 
久野氏は、こうした問題意識や知見をベースに「スマートウエルネスシティ」の考え方を提唱するとともに、
2002年に自ら設立したベンチャー企業「つくばウエルネスリサーチ」を拠点に、
地域住民の健康づくりに関心を持つ全国の自治体と連携して実践してきた。
 

2-2 スマートウエルネスシティ首長研究会の誕生

2009年には、スマートウエルネスシティに賛同する全国の自治体の首長が参集し、スマートウエルネス首長研究会が組織され、
科学的根拠に基づく健康まちづくり政策を、産官学の連携により推進している。
2015年6月現在、63の自治体が参画しており(会長:新潟県見附市の久住時男市長)、
年2回の総会で各自治体が成果を紹介するなど、情報共有と連携を深め、着実に成果を上げている。
 
一例として、新潟県見附市では、科学的根拠に基づいた健康増進プログラムの導入後3年で、
医療費を年間1人あたり10万円程度抑制する成果が出ている(図-2)
 

図-2 新潟県見附市での運動継続者1人当たり医療費の推移

図-2 新潟県見附市での運動継続者1人当たり医療費の推移


 
2011年には、首長研究会に加盟する7市(福島県伊達市、新潟県新潟市、同見附市、同三条市、岐阜県岐阜市、大阪府高石市、
兵庫県豊岡市)、および筑波大学、つくばウエルネスリサーチなどと共同で、
地域活性化総合特区(以下、総合特区と略)の認定を受け、
多様なフィールドにおいて「まちの再構築」「健幸クラウド」「条例化」の3つの検証を進めている。
 

2-3 スマートウエルネスシティの属性

スマートウエルネスシティの考え方や取組みの特長として、次の4つの観点があげられる。
①公共交通インフラの整備
②健康医療データ分析、総合的エビデンスに基づく客観評価
③健康増進インセンティブによる住民の行動変容促進(ポピュレーションアプローチ)
④ヘルスリテラシーとソーシャルキャピタルの醸成(社会的なつながり)
 
以下、スマートウエルネスシティの考え方や取組みについて、この4つの観点から紹介する。
 
 

3.公共交通インフラの整備 ―「健幸」づくりは、まちづくりから

3-1 歩くことは健康につながる

日本の地方都市の多くは中心市街地でありながら通過交通が多く、商店街にあまり人が歩いていない。
鉄道などの公共交通よりも自家用車に依存する傾向が高く、歩かないことで生活習慣病の発症リスクが高まる。
 
一方、ドイツのフライブルク市は商店街に活気があり、人がたくさん歩いている(図-3)
 

図-3 フライブルグの中心部

図-3 フライブルグの中心部


 
その理由として、フライブルク市には中心市街地に車を入れないという政策があり、この政策はヨーロッパで広まりつつある。
スマートウエルネスシティのお手本として、ヨーロッパのこうした施策には見習うべき点が数多くある。
 

3-2 自然と歩いてしまうまちづくり

海外の成功事例や最新の研究成果に基づき、そこに住んでいるだけで「歩いてしまう、歩き続けてしまう」ことで、
知らない間に健康になれる、そのようなまちづくりの取り組みを始めている。
 
自動車の流入を制限する地区をつくり、近隣の住民が歩くようになると、日常の身体活動量が増加することで健康度が向上し、
医療費が抑制されるという仮説が成り立つのかどうか、平成24年から総合特区で社会実験を進めている。
 
ハード面の一例として、新潟市の古町モール6では、
全国に先駆けて「ライジングボラート」(自動昇降式車止め)を導入した(図-4)
 

図-4 新潟市に設置されたライジングボラート

図-4 新潟市に設置されたライジングボラート


 
フロントガラスに貼り付けた許可証をセンサが読み取り、許可を受けていないクルマの侵入を防ぐ仕組みで、
公道では初めての設置となる。
幹線道路と生活道路を差別化し、歩行者を主役にする環境の整備を進めている。
 
ソフト面の一例として、新潟県三条市では、郊外の大型店の影響もあって中心部がシャッター商店街と化していたが、
にぎわい創造の仕掛けとして月に1度、「三条マルシェ」という祭りを企画し、
人口10万の都市で10万人が集まるまでになった(図-5)
 
図-5 三条市の「三条マルシェ」

図-5 三条市の「三条マルシェ」


 
まちに魅力があれば、人は歩くことを厭わないことが明らかにされた。
あとは、このにぎわいをいかに日常化するかが今後の課題であろう。
 
 

4.健康医療データ分析、総合的エビデンスに基づく客観評価 ― 科学的根拠に基づく健康づくり

4-1 e-wellnessとは

地域住民が「健幸」であるためには、生活習慣病や寝たきりの予防が必須であり、
この実現には成果の出せる科学的根拠に基づいた健康づくりが重要である。
 
e-wellnessシステムは、多数の住民に対して個別指導と継続支援を可能とする個別運動・栄養プログラムを提供・管理するシステムで、
筑波大学における研究成果を基盤に開発された。
ITを活用することで、全国どこへでもプログラムを提供でき、少人数の担当者でも多数の住民に対して健康づくりの支援ができる。
体力評価、体組成・身体活動量の測定、ライフスタイルテストにより、
対象者一人ひとりに合った科学的根拠に基づいた個別の健康支援プログラムを提供することが可能である(図-6)
 

図-6 e-wellnessの仕組み

図-6 e-wellnessの仕組み


 
e-wellnessシステムより個別に提供された運動・食事プログラムを実施し、
高機能歩数計や体組成計、自転車エルゴメータ等のICT機器を用いて、
プログラム実施状況の記録や改善状況をデータベース(ASP)で管理される。
 
e-wellnessシステムは、全国の自治体・企業健保などに導入され、既に約3万人の方がプログラムを実施している。
 

4-2 e-wellnessプログラムによる成果

メタボリックシンドローム該当者の割合と筋力・有酸素運動の関係を見ると、
有酸素運動能力が高いほどメタボリックシンドロームの該当者割合が低く、
有酸素運動能力が低い場合は、筋力が高いほどメタボリックシンドロームの該当者割合が低い。
つまり、体力の低下はメタボリックシンドロームへのリスクを高める。
このようなエビデンス(科学的根拠)に基づく、
メタボリックシンドロームの評価指標のひとつとして「体力年齢」による評価が可能となる。
 
体力年齢とは、体力水準を示す年齢のことで、
筑波大学の研究成果を基に6項目から構成される体力テストの合計得点から評価され、
現在の暦年齢と比較することで、体力水準を容易に理解できる。
その結果、自治体・企業健保などにおいて、
どの年代においてもプログラム実施後の体力年齢の若返りが実証されている(図-7)
 

図-7 e-wellnessによる体力年齢の若返り効果

図-7 e-wellnessによる体力年齢の若返り効果


 
 

5.健康増進インセンティブによる住民の行動変容促進 ― ポピュレーションアプローチ

5-1 7:3 の法則

生活習慣病や寝たきりを予防するには、
ポピュレーションアプローチにより、地域住民全体の日常の身体活動量を増加(底上げ)させることがカギとなる。
ポピュレーションアプローチとは、高いリスクの住民を対象に絞り込んで対処するハイリスクアプローチに対して、
対象を限定せずに地域住民全体へ働きかけることで、地域全体のリスクを低減する取り組みである。
 
久野研究室が2010年、総務省地域ICT利活用広域連携事業において調査した結果、
運動不足者と運動充足者の比率は7:3であり、
うち運動不足者の71%(全体の50%)は、今後も運動するつもりがないと回答している(図-8)
 

図-8 7:3の法則への戦略が極めて重要

図-8 7:3の法則への戦略が極めて重要


 
この7:3という比率はかなり普遍的なもので、国は2000年頃より、「健康日本21」という啓発活動を展開してきたが、
残念ながら、国民の行動変容にはなかなか結びついていない。
 

5-2 健幸ポイントの導入

生活習慣病対策の予備軍である多数の方々を、健康づくりに導く仕組みを開発することが、
これからのイノベーションとして非常に重要となる。
ここから導き出された仕掛けの1つが、「健幸ポイント」である。
 
新潟県見附市(人口41,000人)は、
前述のように、プログラムに参加することで1人あたり医療費を年額10万円抑制する成果をあげている。
参加者の目標を2,000人に設定することで、年間2億円の医療費削減につなげる考えだが、
参加者がいつも1,300人程度で止まってしまうという壁にぶつかっていた。
 
そこで、地域住民の7割を占める健康づくり無関心層を促す仕掛けとして、
総務省・文科省・厚労省・内閣官房などの支援を受けて福島県伊達市・栃木県大田原市・千葉県浦安市・新潟県見附市・
大阪府高石市・岡山県岡山市の6市と筑波大学等の産官学の連携で、
健幸ポイント大規模実証実験を平成26年度より3年間の予定で開始した。
健幸ポイントの対象プログラムに参加すると市の商品券や共通ポイント「ponta」などに交換でき、
継続して努力を重ねていくと、最大で年間20,000円を超えるポイントが得られるようにした。
なお6市で約1万人の参加者による社会実験を予定している。
 
ちなみに、筑波大学久野研究室のデータから、1人が1歩歩くことで、0.061円の医療費削減効果があることが導き出されている。
これを原単位として、1万人が毎日2,000歩歩くことで、年間4億円を超える医療費が削減できる計算になる。
 
 

6.ヘルスリテラシーとソーシャルキャピタルの醸成(社会的なつながり)

6-1 ヘルスリテラシー

「ヘルスリテラシー」とは、個人が健康課題に対して適切に判断を行うために必要となる基本的な健康情報やサービスを
獲得、処理、理解する能力の向上である。
国の調査では、健康に対する基礎知識は、日本は他国と比べても明らかに高い傾向が出ている。
また、筑波大学の研究によれば、日常の身体活動量が高い層はヘルスリテラシーも高いことが示されており、
ヘルスリテラシーの向上は日常の身体活動量の増加にも寄与すると考えられる。
 

6-2 ソーシャルキャピタル

一方、「ソーシャルキャピタル」とは、人と人のつながり力を表すもので、
健康度に一定の関連があることが最近の研究でわかってきた。
町内会単位でソーシャルキャピタルを比較したところ、
ソーシャルキャピタルが高い地域に住んでいる人ほど健康度も高い、というデータが示されている。
健康づくりのためには、コミュニティづくりも合わせて推進していくことも重要となる。
 
ソーシャルキャピタルの向上には「地域の人々のさりげない接触の総和」が重要であり、
「歩いてしまう、歩き続けてしまう」まちづくりは、
歩く機会を増加させ、まち中で顔見知り同士の偶然の出会いが増えることにもつながり、
この小さな積み重ねがソーシャルキャピタルの向上に寄与すると考えている。
 
 

7.自治体共用型健幸クラウド

自治体共用型健幸クラウドとは、独自の「健幸都市インデックス」により、
各自治体の政策進捗状況を客観的に評価し、得点化して総合的に評価することで、自治体の「健幸度」を見える化するシステム。
国民健康保険データに加え、社保(協会けんぽ等)・後期高齢者のデータを統合し、
約7〜8割の住民の健康データをカバーすることで、より信頼性の高い分析が可能となる(図-9)
 

図-9 健幸クラウドシステムの仕組み

図-9 健幸クラウドシステムの仕組み


 
自治体において、科学的な分析に基づく健康課題を解決するための施策立案と将来シミュレーションを行うとともに、
実施施策の効果検証を行い、次の施策立案に反映させるPDCAサイクルを回すことで、
自治体の予算プロセスを根拠あるものとし、継続性をもたせることによって効果の出せる施策づくりにつなげられる。
 
 

8.おわりに

スマートウエルネスシティ首長研究会の2015年6月現在の一覧を表-1に示す。
 

表-1 スマートウエルネスシティ首長研究会

表-1 スマートウエルネスシティ首長研究会


 
総合特区では、健幸都市への具体的な道標として、自治体における条例の制定を進めている。
新潟県新潟市では「新潟市公共交通及び自転車で移動しやすく快適に歩けるまちづくり条例」、
同見附市では「健幸基本条例歩こう条例」、兵庫県豊岡市では「歩いて暮らすまちづくり条例」などが制定されている。
 
総合特区では、次世代の「健幸」社会の実現に向け、
今日的な「便利さ」の追求から「自律」への移行を目指す、価値観の変換を提唱している。
行き過ぎた省力化が生活習慣病の増加や医療費の高騰にもつながっている課題を踏まえ、
自然に身体を動かす生活、健康寿命の延伸、ソーシャルキャピタルが高いまちづくりを実現することで医療費の適正化を図っていく。
こうした社会イノベーションを全国で展開するため、
具体的な手法を地域特性に合わせて定型化した社会技術として確立することが求められている。
 
 
 

筆者

つくばウエルネスリサーチ(スマートウエルネスシティ事務局)
 
 
 
【出典】


月刊 積算資料公表価格版2015年8月号
特集 公園・緑化・体育施設資器材
月刊 積算資料公表価格版2015年8月号
 
 

 

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