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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 第3回 国連防災世界会議アフターレポート

 

1 はじめに

2015年3月14日から5日間の会期で、第3回国連防災世界会議が仙台で開催されました。
同会議は、国際的な防災戦略について議論する国連主催の会議で、第1回(1994年、横浜)、第2回(2005年、神戸)に引き続き、
日本での開催となりました。
 

写真-1

写真-1 会議開催の機運向上を図るため、街や駅・空港などにはフラッグや看板、横断幕が掲げられた
(写真は仙台駅の様子)


 
最終日の3月18日の国連主催の本体会議で、
「ポスト2015 防災枠組」として今後の各国防災の具体的な行動指針をまとめた
「仙台防災枠組2015─2030(Sendai Framework for Disaster Risk Reduction 2015─2030)」と、
今回の会議の成果をまとめた「仙台宣言(Sendai Declaration)」を採択しました。
会議参加者は、本体会議に世界187カ国から約6,500人、
パブリック・フォーラムには当初予想の4万人を3倍以上も上回る延べ15万6,082人が参加(主催者発表)。
東北・仙台ではもちろんのこと、国内でも過去に例のない最大規模の国際会議となりました。
 
写真-2 オープニング

写真-2 オープニング(仙台、3月14日。国連広報サイトから、UN Photo/Eskinder Debebe)


 
 

2 「仙台防災枠組」を採択

人命、生計など減災7目標を初設定

「仙台防災枠組 2015-2030」は最終日の3月18日深夜、
2015年から2030年までの国際社会における人的・経済的損失など7つの減災目標を盛り込んだ
新しい防災対策の行動指針として採択されました。
国連が具体的な項目や期限を示して減災目標を掲げるのは初めてです。
 

写真-3 仙台開催実行委員会主催レセプションの様子。

写真-3 仙台開催実行委員会主催レセプションの様子。政府関係者をはじめ国内外から多くの関係者が参加


 
第2回会議での「兵庫行動枠組(HFA)」からの10年間、防災の取り組みは進みましたが、
災害による人的被害、経済、社会、健康、文化、環境面での被害は増大し、持続可能な開発を阻害しているとし、
災害リスクを減らすためには、災害への備えの向上と国際協力に支持される「より良い復興(Build Back Better)」が必要で、
「広範囲かつ人間中心の予防的アプローチを取らなければならない」としました。
世界ではこの10年間で災害による死者は70万人、負傷者は14億人を超え、
さらに、2,300万人を超える家屋喪失者など、大きな被害をもたらし続けてきたと言及しています。
15億人を超える人々が災害の影響を受けており、
小規模でも繰り返し緩やかに進行する災害が地方およびコミュニティレベルで人々に被害を与え、
とりわけ女性、子どもおよびその他の脆弱者に偏って損失を加えてきたとまとめました。
 
2030年までの今後15年間で期待される成果として
「人命・暮らし・健康と個人・企業・コミュニティ・国の経済的、物理的、社会的、文化的、環境的資産に対する
災害リスクおよび損失の大幅な削減」を目指すことにしました。
このために、応急対応・復旧への備えを強化し強靱性を高め、
新たな災害リスクを予防し、既存の災害リスクを減少させるというゴールを追求します。
 
具体的には、
 
①死亡者数の減少
②被災者数の減少
③経済的損失を減らす
④重要インフラの損害を減らす
⑤防災戦略採用国数の増加
⑥国際協力
⑦早期警戒・災害リスク情報へのアクセスなどを増やす
 
としています。
 
これらを遂行する「指導原則」として、人権の尊重、女性と若者のリーダーシップ促進、
事前の防災投資(災害後の対応・復旧より費用対効果が高い)
、「より良い復興」による災害後の復旧・復興、発展途上国には財政支援、技術移転、能力構築を通じた支援などを挙げました。
 
その目標を達成するために、「仙台防災枠組」は、住民を守り、迅速な復興を促進するだけではなく、
洪水、山崩れ、および気候変動の影響にさらされている地域において、
不十分な計画の下に行われた都市の成長が引き起こす新たなリスクを防ぐ措置を求めています。
「人々、コミュニティ、および国々をより効果的に守るために災害リスクを予測し、
それに対して計画し、軽減することが緊急かつ重要である」
さらに「気候変動を緩和し、それに適応して持続可能な開発を促進する世界的な諸制度との一体化を主要な目標の一つとしており、
同じく、経済、ガバナンス、構造、法務、社会、文化、教育、および医療の各セクター
ならびに関連する国連機関を通じて包括的にリスクに取り組むこと」も主な目標の一つとして挙げ
「こうしたすべての目的のために、さまざまなソースによる国際協力の大幅な進展が
発展途上国の能力を押し上げるために必要である」としています。
 

先進国と発展途上国で意見が対立

世界会議は「仙台防災枠組」のとりまとめ段階で、「スーパー台風」といった極端な自然災害が増加傾向にあることを背景に、
主な原因が地球温暖化による気候変動などの影響であり、工業化と気候変動との因果関係などの表現について、
さらには国際協力を巡って先進国と発展途上国間の対立が明らかになりました。
今回の会議が今年12月にパリで開催予定の
国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の前哨戦と位置付けられたことから、
参加国・地域の利害が絡んで、3月18日午前の予定だった決着は深夜にまでずれ込んでしまいました。
 
防災関連の技術提供についても、発展途上国は先進国に一定の責任を求めた一方、
先進国側は「その国が自国の防災に第一の責任を持つ」として対立。
最終的に、温暖化については二酸化炭素の排出大国が発展途上国より大きな責任を負うとする
国連気候変動枠組条約を尊重することを盛り込み、
国際協力のうち技術支援の分野で、人工衛星などを利用したデータを防災のために共有することで合意しました。
 
また、「指導原則」に、「各国は防災の一義的な責任を持つ」ことと、
「発展途上国には財政支援、技術移転、能力構築を通じた支援が必要」と併記しました。
 

日本への謝意

「仙台宣言」は、会議参加国・代表団が「増大する災害の影響とその複雑な問題を認識し、
世界中で災害により失われる生命・財産を減らすべく防災努力を強化する」こと、
その指針として「仙台防災枠組 2015─2030に強くコミットする」こと、
新枠組の実現に向けて「すべてのステークホルダーに対し行動を促す」ことを宣言。
また、「日本のコミットメント」に対し謝意を表したものです。
 
 

3 パブリック・フォーラムの様子

私も3月17日に開催されたシンポジウムに参加しました。
パネルディスカッションの中では“防災対策はハードとソフト”をテーマに、
被災した先祖が残したメッセージ(高台にある神社仏閣や記念碑)や
市民活動として行っている防災訓練(ロープワークや河川敷での被災想定キャンプ)などを紹介しました。
 

写真-4

写真-4 仙台市内をはじめ青森、岩手、宮城、福島の複数会場で防災や復興に関するパブリック・フォーラム(350以上のシンポジウムセミナー、200以上の展示、100以上のポスター展示)が開催された


 
会期中の仙台は国連防災世界会議で一色に染まってしまったように感じました。
市内各地に分散して開催されたパブリック・フォーラムには、
政府関係者ばかりでなく一般市民も参加し、どの会場もほぼ満席状態でした。
 
写真-5

写真-5 宮城県庁付近の勾当台公園を中心に防災・減災に関する屋外展示やイベントも開催された


 
女性や子どもたちも4年前の東日本大震災の体験を発表するなど、
各国の人々に災害の危機と、それに負けない力強い復興の取り組みを印象付けていました。
4年が過ぎた被災地の市民たちが存在感を大いに発揮していました。
現場を視察する公式のコースは25コースでしたが、それ以外にも市民が独自に取り組んだ視察などもあり、
震災の経験や教訓、復興や備えなどの現在の様子を国内外に伝えていました。
 
写真-6 せんだい防災のひろば

写真-6 せんだい防災のひろば(Sophia English Schoolのブログより)


 
中でも情報発信の核になったのは「女性と防災」「市民協働と防災」のテーマ館でした。
被災地の女性は守られる側ではなく、災害に強いまちづくりに積極的に関わる姿勢をアピールしていました。
また、子どもから高齢者まで幅広い市民が、被災体験や町内会の安否確認・避難所運営、防災ゲームなどの事例を発表していました。
 
国内外の政府機関や国際NGOなどが災害対策を紹介する「世界の防災展」は仙台市内7カ所で開かれ、数多くのブースが設置。
主会場の「せんだいメディアテーク」では、地震や風水害などに備えた各国の対策をパネル展示、
岩手大学は「防災教育かるた」を出品していました。
海外からの参加もあり、ニュージーランドの5大学は共同でブースを設けていました。
 
写真-7

写真-7 震災の教訓を後世に伝えようと活動する子どもたちが報告したシンポジウム(河北新報、3月16日)


 
「子ども・若者フォーラム」では、子どもの視点で災害に強いまちづくりを話し合い、
たびたび干ばつ被害に見舞われる地域で暮らすインドネシアから参加した子どもは、
現地で同世代の子どもたちと取り組んでいる植樹活動を報告。
 
「子どもも防災に参加したいと思っている。思いを形にできるよう大人に支えてほしい」
 
といっていました。
 
宮城県子ども支援会議主催のシンポジウムでは、
東日本大震災で児童と教職員84人が犠牲になった石巻市大川小学校の卒業生らが意見発表し、
被災した校舎を震災遺構として保存する活動を報告。
 
「二度と同じことを繰り返さないためにも、校舎を残してほしい。
 地震や津波の恐ろしさなど、写真や映像よりも実際に校舎を見て感じることは明らかに多いはず」
 
と訴えていました。
 
写真-8  宮城県女川町「いのちの石碑」

写真-8  宮城県女川町「いのちの石碑」


 
宮城県女川町で津波の教訓を伝える「いのちの石碑」の建設に取り組む女川中学校の卒業生4人は、
防災を学ぶ「いのちの教科書」作りを進めていることを紹介。
 
「世界中の子どもが認められ可能性を伸ばしていける古里をつくるため、1000年後の命を守るための活動を続けたい」
 
と語りました。
 
写真-9 「共に生きよう名取川」と題した公開授業

写真-9 「共に生きよう名取川」と題した公開授業(提供:仙台市、3月17日)


 
 

4 おわりに

「仙台防災枠組」に冠された「Sendai」の名は今後、
被災からの復興の象徴として世界の防災政策の代名詞になることを強く感じました。
 

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写真-10 震災の経験や教訓・防災への取り組みを発信した東北防災・復興パビリオン(提供:仙台市、3月14日)


 
写真-11 閉会式の様子(提供:仙台市、3月18日)

写真-11 閉会式の様子(提供:仙台市、3月18日)


 
閉幕後の3月19日未明、ワルストロム国連事務総長特別代表は記者会見で
 
「震災で大きな被害を受けながら復興に取り組む被災地の人々への敬意を、「Sendai」の名に表した。
 今後も世界の防災に関与し、震災経験を分かち合ってほしい」
 
との強いメッセージを出しました。
このことは参加した各国政府関係者だけではなく、災害大国に住む日本人全国民で共有したいと思います。

(報告 土屋信行)

 
 
 
(編注)
次号(2015年7月号)では、国連防災世界会議のパブリック・フォーラムの一つとして3月17日に開催されました「大規模洪水対策シンポジウム~低平地都市水害への備え~」を掲載する予定です。
お楽しみください。
 
 
 

筆者

公益財団法人えどがわ環境財団 理事長 土屋 信行
 
 
 
【出典】


月刊積算資料2015年6月号
月刊積算資料2015年6月号
 
 

最終更新日:2016-01-28

 

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