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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料 > 2015年・建設産業の動向 ―「担い手3法」の運用開始、若年者の確保・育成に本腰―

 
 
昨年の通常国会で成立した改正公共工事品質確保促進法(改正品確法)、改正建設業法、
改正公共工事入札契約適正化法(改正入契法)の「担い手3法」が4月1日に全面施行された。
建設産業で目下の最重要課題とされる担い手の確保・育成に向けた動きが同法のもと官民双方で本格的に動き出した。
本年度を担い手3法の「本格運用元年」と位置付ける国土交通省は、
地方自治体などの発注機関に担い手3法に基づく自発的な取り組みを促進するため、
発注事務に関する共通ルールとなる改正品確法の運用指針の徹底を要請。
特に歩切りの排除や低入札での受注排除などを地方自治体に強く求めている。
急ピッチで進行する人口の減少を見越し、生産性向上に向けた施策展開を同時に加速している。
一方、日本建設業連合会(日建連)も長期ビジョンを発表し、技能労働者不足による建設産業の存続の危機を指摘。
将来に向けて、技能労働者の確保・育成の重要性を訴えた。
ただし、若年労働者を確保・育成したくても、足下の建設投資の冷え込みが顕著な地域もでてきており、
安定的な公共投資を求める声が強くなりつつある。
この1年の建設産業を振り返ってみた。
 

写真-1 技能労働者不足が懸念される建設現場(写真はイメージです)

写真-1 技能労働者不足が懸念される建設現場(写真はイメージです)


 
 

改正品確法運用指針がスタート、歩切り完全根絶へ

担い手3法のうち、4月1日に全面施行となった改正品確法の運用指針。
 
すべての公共工事の発注者が同法で明確に規定された「受注者の適正な利潤を確保する」責務を果たすための10項目のルールを定めた。
 
必ず実施すべき事項として
▽適正な予定価格の設定▽適正な積算で算出された工事金額から一定割合を切り下げて予定価格を設定する歩切りの根絶
▽低入札調査基準価格や最低制限価格の設定・活用の徹底等
▽円滑な設計変更▽発注者間の連携体制の構築
─の5項目を設定。
さらに実施に努める事項として、
▽工事の性格等に応じた入札契約方式の選択・活用
▽発注や施工時期の平準化
▽見積りの活用
▽受注者との情報共有・協議の迅速化
▽完成後一定期間を経過した後の施工状況の確認・評価
─の5項目を設定した。
 
運用指針で定めた10項目のルールを具体化させようと、現在、国交省が特に力を入れて各種施策を展開しているのが歩切りの根絶だ。
歩切りは一部の地方自治体で長年常態化しているといわれている。
根拠のない金額の切り下げは受注者の利潤を不当に奪うことになり、
ここ数年、自治体の公共工事の入札で相次いでいる不調・不落を招く要因の一つともみられている。
政権交代後の景気の回復などで人件費や資材費が高騰しているにもかかわらず、予定価格が応札額を大きく下回るケースもある。
建設業者は適正な利潤を確保できないと判断し、
結果的に応札業者がゼロという工事案件もあり、円滑な公共事業の執行にも支障を来す事態にもなりかねない。
 
歩切りは改正品確法と昨年9月に閣議決定された改正入契法に基づく入札契約適正化指針で違法行為であることが明確に位置付けられた。
そこで国交省はこのタイミングで歩切りを完全に根絶させようと、
まず同10月に国交、総務両大臣の連名文書で歩切りの廃止を自治体に要請。
同12月には初の実態調査に踏み切ったほか、どのような行為が歩切りに当たるかを列挙したリーフレットも作成・配布した。
今年4月に公表された調査結果(今年1月時点)によると、全自治体の約4割に当たる757団体が歩切りを実施していたことが判明した。
この調査結果を受け6月には2回目の実態調査を実施し、
その際には歩切りを廃止しない自治体の具体名を最終的に年内か年度内に公表することを通告。
その結果、9月に公表された調査結果(7月時点)では歩切りを実施していた自治体は340団体。
わずか半年で半分以上も減少した。
 

図表-1 歩切りに関する再調査の結果概要

図表-1 歩切りに関する再調査の結果概要


 
今後、国交省はまだ歩切りを廃止していない自治体に丁寧に呼び掛けながら、年内または年度内の完全根絶を目指す。
 
一方、同じく4月1日に施行された改正入契法ではダンピング対策の強化と契約の適正な履行が改正の柱となる。
すべての公共工事の入札で応札金額の内訳書の提出が義務付けられるようになり、
見積り能力のない業者が最低制限価格や低入札調査基準価格で入札するような事態を排除し、
手抜き工事や下請へのしわ寄せの防止に乗り出した。
さらに、従来は下請代金の総額3,000万円(建築一式は4,500万円)以上の大規模な公共工事の受注者に義務付けられていた
施工体制台帳についてこの要件を撤廃し、すべての工事に適用を広げた。
手抜き工事や中間搾取を防ぐ狙いがある。
 
 

生産性向上へ就業履歴管理システム

国交省と主要建設業5団体でつくる「建設産業活性化会議」は5月の会合で、
従来の担い手確保・育成と並ぶ建設産業政策の新たな柱に建設生産システムの生産性向上を位置付け、
官民で取り組んでいくことを確認した。
将来の人口の減少を見越し、
今後の建設需要に対応するには担い手の確保と生産プロセスの効率化を同時に進めていくことが不可欠と判断した。
施工の効率化や新技術の活用で一人当たりにかかる負担やコストを減らすことができれば、
雇用環境の改善や若年層の入職促進にもつなげられる効果を見込んでいる。
 
担い手の確保・育成と生産性向上の両面で相乗効果が期待されている取り組みが「就労履歴管理システム」の構築だ。
8月に国交省と業界団体でコンソーシアムを立ち上げ、
早ければ2017年度からの本格運用を目指して議論を進めながら構築していく予定だ。
 

図表-2 就労履歴システム運用の概略

図表-2 就労履歴システム運用の概略


 
同システムは、来年1月から全国民を対象に運用が始まる「マイナンバー制度」の建設業版に当たるイメージ。
建設業に従事する全ての技能労働者(約350万人)に共通番号(ID)を付与し、
現場での就労経験や保有資格を業界統一のシステムに蓄積し管理する。
一人一人の技術力と経験が細かく「見える化」されるため、技能労働者をより適正に評価し処遇できるようになる。
技能労働者を雇用する企業は、限られた人材を効率的に適材適所に配置することができる。
 
さらに、社会保険未加入対策や現場の安全管理でも労働者単位で状況を把握できるため効果を期待できそうだ。
 
システムの構築に向けては、業界団体も積極的な動きを展開。
日建連(中村満義会長)は6月に大成建設の村田誉之社長をトップとする就労履歴管理システム推進本部を設置した。
 
コンソーシアムで今後議論する主な課題には、
膨大な数の個人情報のセキュリティー対策をはじめ、実施主体の選定や初期費用の負担などが挙がりそうだ。
 
このほか、
国交省は生産性向上策として計画から設計、施工、維持管理までの一連の工程を最適化できる
CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)や
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用を促進。
いずれも各工程に現物をイメージしやすくなる3次元モデルを導入し、
その情報をすべての関係者間で共有することで施工や維持管理の省力化などにつなげやすくなるのが特色だ。
さらに、ロボットを駆使する無人化施工の活用や、
あらかじめ工場で製作しておき現場での作業を省く部材のプレキャスト(PCa)化も促進する。
 
 

日建連が長期ビジョン決定

日建連は3月、2050年を見据えて建設業の役割やあるべき姿をまとめた「再生と進化に向けて-建設業の長期ビジョン-」を決定した。
2025年度の建設市場規模を54.9~62.1兆円(名目値、2014年度見込み54.0兆円)と予想。
人口の減少や高齢化が進展し、2025年度までに100万人以上の技能労働者が離職するともみられている。
これらの課題や建設需要に対応するため、2025年度までに10%の生産性向上による35万人分の省人化を実現し、
技能労働者として34歳以下の若年層を中心に90万人の新規入職者の確保を目指す。
新規入職者の20万人以上を女性とする目標も掲げた。
 

写真-2 「再生と進化に向けて-建設業の長期ビジョン-」

写真-2 「再生と進化に向けて-建設業の長期ビジョン-」
編集・発行:(一社)日本建設業連合会


 
図表-3 日建連長期ビジョンのポイント

図表-3 日建連長期ビジョンのポイント


 
これらの目標の達成に向けた今後必要な取り組みとしては、
▽技能労働者の賃金水準目標(40歳代で年収約600万円)の実現
▽社会保険加入の促進
▽週休2日の確保を柱とする休日の拡大・一斉推進
▽技能労働者の社員雇用化
▽省人化技術の活用
─などを列挙した。
 
 

社会資本整備重点計画等が改定

2月から9月にかけて法律に基づく三つのインフラ中長期整備計画が閣議決定された。
2月に初めて作られた交通政策基本計画(対象期間2014~2020年度)と、8月に改定した国土形成計画(2015~2025年度)、
9月に改定した社会資本整備重点計画(2015~2020年度)。
いずれも中長期的なインフラ整備の事業量や優先度合いの見通しを示す目安となる。
国の財政健全化で公共事業に充てられる予算の制約が厳しくなる中、
いずれの計画も防災・減災や成長戦略などに貢献する「ストック効果」を最大限引き出せる施策に優先して取り組むことが特色。
改定を迎えた国土形成計画と社会資本整備重点計画については、
施策を着実に進められるよう担い手確保や生産性向上の必要性を強調しているのも特色だ。
 

図表-4 社会資本整備重点計画で設定された2020年度までの重要行政評価指標(KPI)の主な項目

図表-4 社会資本整備重点計画で設定された2020年度までの重要行政評価指標(KPI)の主な項目


 
交通政策基本計画では、高齢化の進展や国内外からの来訪者が増える2020年東京五輪の開催をにらみ、
交通施設のバリアフリー化と耐震整備に関する目標値を設定。
鉄道駅など全ての交通旅客ターミナル施設を完全バリアフリー化(2013年度時点で60~90%台)するほか、
東京都内などの駅に設置するホームドアの数を現在(2013年度)の583駅から800駅に増やす。
首都直下地震の発生で震度6以上の揺れが想定される東京の都心などにある鉄道の高架橋の耐震化率を、
2017年度までに現在(2012年度)の91%から100%に引き上げる目標も設定した。
 
国土形成計画では、人口減少を喫緊の課題に位置付け、
都市機能の集約と交通ネットワークの整備を「コンパクト+ネットワーク」として一体的に推進する
効率的な街づくり手法を全国共通の基本方針に位置付けた。
 
都市の規模別の整備方針も整理。
3大都市圏(東京、大阪、名古屋)では国内外から企業の立地や優秀な人材を呼び込みやすくするため、
都心で職住機能が一体となった高層ビルの開発を進める。
地方都市では、複数の市町村による人口数十万人規模の「広域都市圏」を形成。
圏内でコンパクト+ネットワークの整備を進め効率的ににぎわいの創出や移動手段を確保。
同規模の人口が営業ラインとなる救命救急センターや大手飲食チェーン店などが撤退しないようにする狙いがある。
 
社会資本整備重点計画では、ストック効果の最大化を柱に据え、インフラ全般の維持更新や耐震化、コンパクトシティーの形成、
民間都市開発の誘発といった重要施策ごとに2020年度までに達成を目指す目標値を設定。
例えば、大規模地震が想定される地域の河川堤防の耐震化率を現在(2014年度)の37%から約75%に、
市街地幹線道路にある電柱の地中化「無電柱化」率を現在(同)の16%から20%に、
大都市を中心に指定されている特定都市再生緊急整備地域での都市開発事業の完了数を現在(同)の8件から46件へと
それぞれ引き上げる目標を設定した。
 
 

新国立競技場整備計画が完全見直し

2020年東京五輪のメーン会場となる新国立競技場(東京都新宿区)の整備計画が
安倍晋三首相のトップダウンによってゼロから見直されることになった。
2012年の当初見積もりで1,300億円だった総工費がその後の建築コストの高騰で2,520億円にまで上昇。
政府はこれを国費だけで調達するのは難しいと判断し、
当初計画の目玉だった全天候対応の開閉式屋根や観客席への冷暖房設備の設置などを取り止め、
新たに1,550億円を上限にデザイン・設計・施工を一括で担う事業者の再選定手続きを9月に開始した。
2019年3月としていた当初の完成予定も1年後の2020年4月末へと先送りし、
2019年ラグビーワールドカップ日本大会のメーン会場として世界各国にお披露目する構想は断念した。
 

写真-3 解体された国立競技場の跡地

写真-3 解体された国立競技場の跡地


 
建設主体の日本スポーツ振興センター(JSC)は、選定中の整備事業者の優先交渉権者を12月に決定する。
その後、2016年1月に設計などの事業契約を締結。
これが完了した後、工事施工・監理などの契約を結ぶ。
現在進めている事業者選定では、事業全体または工程ごとに単体またJVで実施するかを選択できる幅の広い参加条件を設定した。
コストの縮減と工期の順守に関する提案が評価の最大のポイントとなる見通しだ。
 
新整備計画では、当初計画で8万席を設置するとしていた観客席数について、
五輪中は6.8万席にとどめ大会終了後に8万席を確保できるよう機能やスペースの余地を残しておく。
競技場本体の面積は19万4,500㎡。
観客席の上部に設ける屋根の面積は4.5万㎡を確保する。
デザインについては、当初計画ではほぼ反映されなかった日本の風土や伝統を踏まえた木材利用と、
周辺の緑豊かな明治神宮外苑の景観との調和を重視する。
 
 

復興事業予算の新枠組み決定

政府は6月、「復興・創生期間」と位置付ける2016~2020年度の東日本大震災の復興事業予算の枠組みを決定した。
国の復興財源(東日本大震災復興特別会計)を使う事業の総額は5年間で6.5兆円。
被災自治体が行う事業も含め復興事業費の全額を国が負担してきた「集中復興期間」(2011~2015年度)のスキームを転換。
災害公営住宅の建設など最優先で進める基幹的な復興事業は引き続き国が全額を負担するが、
優先度が低い一部事業では新たに自治体に事業費の実質1.0~3.3%を負担してもらう。
 

写真-4 6月の復興推進会議で2016?2020年度の復興事業予算を決定

写真-4 6月の復興推進会議で2016?2020年度の復興事業予算を決定


 
図表-5 2016~2020年度復興事業予算の枠組み

図表-5 2016~2020年度復興事業予算の枠組み


 
6.5兆円の内訳(2011~2015年度の事業費)は、
▽地域病院の復旧など被災者の健康・生活支援0.4兆円(2.1兆円)
▽災害公営住宅の建設や市街地の高台移転など被災者の復興まちづくり3.4兆円(10.0兆円)
▽放射性物質の除染など福島第一原発事故からの復興・再生0.5兆円(1.6兆円)
▽企業立地支援など産業・生業(なりわい)再生0.4兆円(4.1兆円)
▽震災復興特別交付税などその他1.7兆円(7.8兆円)。
 
6.5兆円のうち、特に被害が大きかった東北3県(岩手、宮城、福島)に求める負担額は総額220億円。
内訳は岩手90億円、宮城80億円、福島50億円となる。
 
引き続き国が全額を負担する復興事業の主な対象は、
東北での復興まちづくりや関東の茨城、千葉両県で集中的に被害が出た地盤の液状化対策、
福島県内の原発周辺12市町村で推進中の除染などが含まれる。
 
一方、自治体が事業費用の一部を負担する主な対象には、国直轄の大規模な道路・河川・港湾整備などが含まれる。
 
 

建設投資見通し、2年連続で50兆円割れ

建設経済研究所と経済調査会は10月、2015、2016年度の建設投資見通しを発表した。
2015年度が前年度比3.2%減の49兆6,700億円、2016年度が1.9%減の48兆7,400億円と、
2014年度の51兆3,000億円から一転して2年連続の50兆円割れとなるもようだ。
非住宅投資の回復などで民間部門が増加する一方、東日本大震災の復興予算の減少や、
大型の補正予算が組まれないことを前提にした政府建設投資の大幅な減少が影響する。
政府建設投資は、2015年度が8.8 %減の21兆4,400億円、2016年度が10.2%減の19兆2,600億円。
2015年度は補正予算の編成を想定しておらず、2016年度は復興予算の減少を見越して推計した。
 
この政府建設投資見通しをみても分かるように、地域建設業団体を中心に工事量が本年度は少ないという意見が出始めている。
早急に大型の2015年度補正予算の編成を求める要望が相次いでいる。
9月の関東・東北豪雨を教訓に各地で水害対策の強化が急務となる中、
担い手3法の効果を全国の隅々にまで行き届かせ、
技能労働者のこれ以上の減少に歯止めを掛けるためにも補正予算による新たな経済対策の実施は待ったなしの状況といえる。
 
同時に民主党政権時代に公共事業費が大幅に削減されてから建設産業の深刻な担い手不足を招いた過去を絶対に繰り返さないためにも、
公共事業費を安定的・長期的に確保し続けることが重要だ。
安定的な当初予算の確保が建設業者の安定的な経営に寄与し、担い手の確保・育成につながる。
 
今年も各地で火山噴火や9月の関東・東北豪雨など大規模災害が頻発した。
今後30年以内の発生が予測される首都直下・南海トラフ地震にも備える国土強靱(きょうじん)化や
防災・減災、産業の国際競争力強化や地方創生、一億総活躍社会の実現に貢献する「ストック効果」を最大限引き出すインフラ整備、
東日本大震災からの復興など建設業界が一丸となって取り組むべき課題は目白押しだ。
これを着実に具体化できる強い建設産業を構築するためにも、2016年度予算での公共事業費の安定確保とともに、
地方建設業界からの要望が相次いでいる2015年度補正予算の早期編成が求められる。
 

写真-5 応急復旧工事が進む鬼怒川堤防。現在、各地の河川堤防で水の浸透を防ぎ決壊しにくくするなどの強化対策が進められている

写真-5 応急復旧工事が進む鬼怒川堤防。
現在、各地の河川堤防で水の浸透を防ぎ決壊しにくくするなどの強化対策が進められている


 
 
 

筆者

日刊建設工業新聞社 片山 洋志
 
 
 
【出典】


月刊積算資料2015年12月号
月刊積算資料2015年12月号
 
 

最終更新日:2016-06-22

 

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