建設監督官 森 光正
はじめに
国土交通省における土木分野でのICTの活用としては、
事業の効率化などを目指して平成8年度(1996)に「建設CALS整備基本構想」を策定し取り組んできました。
これまでの間、一定の成果は得られましたが、
調査~計画~設計~施工~維持管理まで、一貫した情報化システムは未だ構築されていません。
平成24年度に国土交通省では、今後の建設生産システム全般において、
既に導入されている建築におけるBIM(Building Information Modeling)の思想とツールを取り入れて、
建設分野全般に適用すべくCIM(Construction Information Modeling)の構築と導入を進めることになりました。
CIMの導入に当たっては、現行制度や要領・基準類の見直しが必要になることから制度の検討を進めることになりました。
また、並行して実際の事業の中でその効果について検証する必要があり、CIMを導入したモデル事業も実施することになりました。
滋賀国道事務所におけるCIMの取り組みは、
平成24年度の「国道161号安曇川地区橋梁修正設計(業務)」で
溝橋(RC単純インテグラルアバット橋 橋長14.6m)の構造物外形・配筋の構造物モデル、
溝橋を中心にした全体モデルの試行から始まりました。
平成25年度には、「国道161号安曇川地区道路詳細設計他設計(業務)」で地形測量を実施し、
そのデータを平成24年度作成の全体モデルのデータに入力し地形の精度を向上させる試行を実施しました。
また、情報化施工でのCIMデータの活用を確認するため、溝橋両側の土工モデルの試行も併せて実施しました。
この取り組みが、平成25年度の「国道161号溝橋・青柳高架橋下部工事」(指定工事)の試行へとつながり、
平成26年度には、「国道161号青柳北地区改良工事」(指定工事)の試行へと続きました。
また、「国道161号青柳第1高架橋PC上部工事」(希望工事)と
「国道161号青柳第2高架橋PC上部工事」(希望工事)も試行工事に参加していただき、
これらを含めて設計から施工までのCIMの試行を行いました。
これらの設計・施工で作成したCIM試行の3次元モデルデータを統合し、国道161号安曇川地区青柳工区の3次元モデルができました。
対象橋梁概要
●橋梁名:溝橋
●道路規格:第3種第1級V=60km/hr(暫定時)
●橋梁形式:RCインテグラルアバット構造 橋長:14.600m
●有効幅員:10.240m(暫定時)
●径間長:14.600m
●橋台:2基(単列場所打ち杭φ1500)
施工段階でのCIMデータの作成
今回「国道161号溝橋・青柳高架橋下部工事」および「国道161号青柳北地区改良工事」(A社)、
「国道161号青柳第2高架橋PC上部工事」(B社)および「国道161号青柳第1高架橋PC上部工事」(C社)における取り組みでは、
設計で作成していない3次元モデルを施工段階で作成しました。
施工業者としての取り組み体制は、以下の通りです。
A社:土木部長を中心に、施工チーム(属性データ、出来形データ収集)、CIMチーム(CIMモデル作成)、
CIM支援チーム(設計事務所、ソフトベンダー)の3チーム体制で取り組みました。
B社:工事担当者による施工チーム:(属性データ収集)、
CIMデータ作成チーム:(CIMモデル・成果品作成)の2チーム体制で取り組みました。
C社:CIM導入に向けた取り組みを実施中であり、今回の案件については、CIM対応部署との連携により実施しました。
CIMデータの閲覧について
滋賀国道事務所の試行におけるCIMデータは、下記の方法で閲覧できます。
●ナビスワークスフリーダム(NAvisworks Freedom)による閲覧
●映像による閲覧
●3次元PDFによる閲覧
CIMデータの閲覧等により施工業者としての試行の効果、負担および施工管理上のメリット・デメリットについて、
以下の通り示します。
●試行の効果
A社:施工時の効果としては、工事打合せ時にCIMモデルを利用することで、非常に理解度が高まり、手戻りの削減に効果があった。
B社:工事完成後の維持管理において、既存の台帳や電子納品データに加え、CIMデータを利用することで効果が期待できる。
C社:施工時にCIMモデルを活用すれば、作業工程の確認や安全管理、出来形管理など作業の効率化が期待できるが、
完成時の納品資料としての役割では施工業者としての効果は限定的に感じる。
スケッチアップなどの比較的安価なCIM対応ソフトやビューアを利用して
CIMモデルから得られる情報が簡単に取り出せるようになれば活用の幅が広がっていくと思います。
●施工業者としての負担
A社:現場施工管理担当者だけでは、日常業務以外にCIMを導入すると負担が大きく、
CIM担当として新たに教育を受けた者を配置する必要があった。
また、導入について、ハード・ソフトのコストに加え、教育訓練等の2次的な費用が発生した。
B社:弊社においては、今回が初の試みであったため初期投資に負担がかかったが、
CIMの今後における汎用性を考慮すると実際のCIMデータ作成に要した労力のみと考えるため、負担について問題ない。
ただし、設計段階からデータがない場合は、最初からのデータ作成となるため負担は非常に大きくなる。
C社:現状ではCIM対応のソフトを導入するための費用負担が大きく、
また操作についても慣れが必要で専門部署やチーム編成ができない場合においては施工業者だけでの導入は困難です。
今後は、CIMに関する要領や基準などが整備されることで、導入に向けた取り組みが業界全体で進むと思います。
CIMモデルを工事発注時に発注図面と一緒に提供していただけると
CIMデータ作成についての施工業者の負担は最小限に抑えられます。
●施工管理上のメリット・デメリット
【メリット】
●鉄筋加工において現場での組み立てが不可能である箇所が確認できた
●埋設管との近接施工において、試掘で得られたデータを基に非常に理解度の高い危険予知活動に結びつき、安全な施工が実施できた
●作業員に対して作業手順周知会を開催することで、桁架設の順序が分かりやすく手戻りの削減につながる
【デメリット】
●CIM実施のため、ハードやソフトに費用がかかり、操作する担当者確保と教育費用がかかる
●通常のパソコンでは操作ができず、高性能のパソコンが必要
CIMデータの活用に対する課題
コンサルタントと施工業者の協力で青柳工区全体の3次元モデルができてきましたが、今後活用するための課題について考えました。
●道路管理への活用
現行制度や要領・基準等が見直しされ、実際現場で施工した状況がデータに反映出来れば、
道路台帳や施設台帳を補完するデータとなる。
●工事の出来形管理や数量算出
実際現場で施工したデータがCIMモデルに反映・修正ができれば、
数量の自動算出による省力化が図れるが、照査や確認方法がない。
●ソフトおよびハードの汎用性
操作や閲覧を行うには、相当ハイスペックなパソコンや特定のソフトが必要となり、
それを扱える人員も含めて多大な費用が必要となる。
CIM導入の取り組みは実施されましたが、建設産業における生産性の向上の実現を目途としている中で、
CIMを活用していくためには、運用面、技術面、制度面に対する課題を解決していく必要があります。
おわりに
滋賀国道事務所で行ったCIMの試行は、小規模な試行でした。
しかし、コンサルタント業者や施工業者の協力による取り組みにより、
橋梁を3橋、溝橋の両側盛土部と青柳工区全体の3次元モデルのデータができました。
今後も引き続き、舗装、ガードレール、標識、照明等の3次元モデルデータを作成し、
3次元モデルデータを統合したバーチャル青柳工区を完成できればと考えています。
【出典】
建設ITガイド 2016
特集1「本格化するCIM」
最終更新日:2016-06-22