- 2016-06-27
- 建設ITガイド
千葉 大樹
はじめに
近年、建設業では情報化施工をはじめとするICT技術の進歩がめざましく、
3D-CADや点群データを活用した工事における計画や検討、施工が円滑な工事の進捗、意思決定等に効果を発揮している。
当社の情報化施工への取り組みは平成20年7月に国土交通省より発表された「情報化施工推進戦略」を受け、
翌平成21年度の工事より本格的に情報化施工を導入したことがきっかけとなった。
本稿では当社が行ってきた情報化施工やCIMに向けての取り組みについて紹介する。
情報化施工導入の目的
当社が情報化施工に取り組む目的として掲げているのは、品質・安全の向上、工程の短縮、利益の向上はもちろんであるが、
業務改善、人材育成を本質とし、ひいては建設業の発展に寄与したいと考えている。
また、近年の若年層の建設業離れ、熟練オペレーター不足、建設業従事者の減少の解消を目的とし、
現場見学会や勉強会、外部への情報発信を積極的に行ってきた。
元々当社は情報化施工のノウハウを持ち合わせていたわけではなく、
継続して情報化施工を導入していくことで技術を蓄積してきたのが現状である。
そういった経験と技術の蓄積から今までICT技術を取り入れてこなかった工種であっても
ICT技術を取り入れることで施工効率向上が図れるような発想も生まれてくるようになってきた。
写真-1は当社で導入した情報化施工の一部である。
当社で行う情報化施工は掘削や盛土、整形を行うツールだけでなく
重機に搭載する設計データに水道管などの埋設物の情報を追加することでオペレーターへの注意喚起を行っている。
また3D-MCについてはブルドーザ、バックホウともに情報化施工専用機などの新しい技術を積極的に導入したり、
ドレーン打設機械などの特殊な専用機械をMG化することで施工効率の向上を図ってきた。
情報化施工を導入することによって丁張設置手間の軽減や重機モニターを遠隔操作で管理、
社内に情報化施工担当者を配置し各現場で行う情報化施工導入に向けての準備を一元化しサポートを行うなど
現場職員の負担軽減にも取り組んでおり、負担が軽減されることで現場管理の充実、休日の確保につながっている。
写真-2は当社で行った情報化施工以外の取り組みの一部で、主に行っていたのはGNSS測量やTS出来形だが、
その他にも3Dレーザースキャナと3D-CADを使用しての施工計画、VRシミュレーションを活用した仮設計画、
構造物の3Dモデル化を行い打合せ等に活用してきた。
単発の情報化施工からサイクルの情報化施工へ
情報化施工を導入した当初、活用する内容はさまざまな工種の中の一工種または一部だけということがほとんどであった。
導入効果の有無はさまざまであったが、知識、経験を得ることができた。
しかし、われわれがモノづくりをしている工事の中で情報化施工を活用しているのはほんの一部であり、
その効果はあくまでも部分効果を得たにすぎない。
そこでクリティカルチェーンに着目した情報化施工の活用で全体効果を得られるのではないかと考え、
平成26 年度に受注した築堤工事で実践、効果の検証を行った。
工事内容は築堤盛土であるが、盛土材は土砂混合撹拌による製作であったため、需要と供給のバランスが重要であった。
そのため盛土と撹拌の両方に情報化施工を導入し、需要と供給に見合った運行管理を行うことで全体効果を狙うこととした。
図-1のように土砂運搬はGPSを利用した運行管理、土砂混合撹拌は3DMG、築堤盛土は3D-MCを導入することで
一連のサイクルの中で情報化施工を活用することで工事全体の効果を検証した。
検証の結果、土砂混合撹拌と築堤盛土は施工効率が約1.2倍に向上、法面整形については約4倍の施工効率の向上であったが、
向上したのは施工効率だけでなく、情報化施工により事前の丁張設置が不要となり丁張箇所の転圧不足等の品質低下の解消、
手元作業員が不要であったため重機の直近作業がなく安全性の向上などさまざまな成果を得ることができた。
図-2の上の表は、情報化施工と従来施工での盛土と法面整形について施工効率を比較したものである。
下のグラフは盛土で活用した3D-MCブルドーザについてコスト面での導入効果を検証したもので、
施工条件で変化はすると思われるが、この工事については盛土量約31,000㎥を超えることにより
コスト面でも導入効果を得られる結果となった。
以上の事から一連のサイクルで情報化施工を導入することで安全、品質、工程、コストにおいて
単発の情報化施工よりも大きな成果を得ることができた。
この工事で3D-MCブルドーザを担当したオペレーターは熟練のオペレーターではなく、
情報化施工は熟練オペレーター不足の解消にも効果を得られることが分かった。
また情報化施工と従来施工を行った際のオペレーターの心拍数を計測し、
オペレーターにどれだけの人的負荷がかかるのかの検証も行った。
図-3に示す通り情報化施工はオペレーターの人的負担(緊張、プレッシャー)の軽減に寄与しているという結果が得られている。
情報化施工からCIMへ
クリティカルチェーンに着目し情報化施工を活用してサイクルを回す。
それは自然に3D(品質)から4D(工程)へ、そして5D(コスト)へとCIMの考え方に導かれているように感じる。
当社では平成27年度から本格的にCIM導入への準備を進めているが、
まず3Dに慣れるために工事受注後早期に現場全体の3Dモデルを作成し施工計画や打合せに活用している(写真-3)。
またUAVによる航空写真測量から得られる点群データも活用し現場を“見える化”することで
問題意識の共有、意思決定のスピード向上につなげ、情報化施工へのデータ反映にも活用している(写真-4)。
おわりに
最初は難しいと思っていた3D-CADも経験を積むことで現場の意図するモデル作成に近づくようになってきた。
当社もCIMへの取り組みとしては始まったばかりで
今後自社でモデル作成、干渉チェック、属性情報の管理などができるように取り組んでいくが、
一口にCIMと言っても人的な問題、費用の問題、ソフトウェアの問題など誰でも簡単にできるものではない。
しかし、近年建設業界でも深刻化してきている少子高齢化の影響、担い手不足を改善するには
CIMこそが最適なツールではないかと当社は考えている。
地場の中小企業が情報化施工やCIMに踏み込めない理由として、まず最初に挙げられるのはやはり“コスト”である。
しかし前述したように上手にサイクルを回すことでコストの問題も解消でき、
加えて安全、品質、工程についても効果が得られるのであれば使わない手はない。
情報化施工を現場で実践した当社の技術者は「次の現場で何か情報化施工できるものはないだろうか」と口を揃えて言ってくるのは、
情報化施工やCIMは良いものだと気付いたからである。
その“気付き”が増え、情報化施工やCIMを地場の中小企業が活用し建設業が活性化することを望み、
CIMを通して「良いモノづくり」に携われることに喜びを感じ、本稿を終えたい。
【出典】
建設ITガイド 2016
特集1「本格化するCIM」
最終更新日:2016-09-27