• 建設資材を探す
  • 電子カタログを探す
ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 下水道施設のライフサイクルにおけるBIM/CIM導入-JS版BIM/CIM-

 

地方共同法人 日本下水道事業団 情報システム室
室長 富樫 俊文

 

はじめに

下水道施設は、処理場、ポンプ場、管路などにより構成されています。
それらのストックは、処理場が約2,200カ所、ポンプ場が約3,600カ所、管路が約46万kmと膨大なもので、
適切かつ効率的な運営・管理が喫緊の課題となっています。
 
日本下水道事業団(以下、JS)は、これら課題の解決策の一つとして処理場・ポンプ場へのBIM/CIM導入に取り組んでいます。
 
一般に処理場・ポンプ場では、土木、建築、建築機械設備、建築電気設備、機械設備、電気設備と6工種が必要で、
設計段階における工種間の調整業務は難易度の高いものになります。
また、施工段階においてもほぼ同一時期に同一場所で施工することから工程調整等も煩雑になります。
一方、維持管理では、機械・電気設備の構成割合が高いことから日常の保守・点検等が非常に重要になります。
さらに、機械・電気設備の耐用年数は15~20年と土木・建築構造物の約1/3であり、
補修や改築・更新をタイムリーに行う必要があります。
 
このような特徴から、下水道施設は、BIM/CIMをライフサイクル全体に導入することで大きな効果が期待できる施設といえます。
 
 

経緯

私がBIMを本格的に意識し始めたのは、BIMとFM連携のデモを見た平成25年7月のことです。
それまでは、BIMだけでなく平成24年度から試行が始まっていたCIMにも全く気付いていませんでした。
 
その後、無料セミナーへの参加等BIM/CIMについての情報収集を進め、
下水道にBIM/CIMを導入すると大きな効果が得られると確信しました。
平成26年6月には、(一財)日本建設情報総合センターの助成研究事業に応募し、
採択となった平成26年8月から、本格的にBIM/CIMについての研究を開始しました。
 
主な研究内容は、下水道施設のプロダクトデータモデル開発と維持管理へのデータハンドオーバーの仕組みの検討であり、
施設を管理する立場に焦点を当てたものです。
 
その後、設計コンサルタント、ゼネコン、メーカー(当初11者、追加3者)と下水道CIM共同研究を平成27年1月から開始しました。
こちらは、施設を造る立場に焦点を当てています(図-1)。
 

図-1 2つのBIM/CIM研究

図-1 2つのBIM/CIM研究


 
 

処理場の構成要素

処理場は、機能的には揚水、水処理、汚泥処理、監視・管理、場内修景、外構等に分類できます。
それらの主な構成要素は、反応タンク、最終沈殿池、管廊、重力濃縮槽、外構等の土木構造物、管理棟、汚泥処理棟等の建築構造物、
空調・換気設備、給排水・衛生設備、照明設備等の建築機械・電気設備、ポンプ、汚泥かき寄せ機、送風機、散気装置、
汚泥脱水機等の機械設備、発電機、コントロールセンタ、現場盤、流量計等の電気設備です。
また、それぞれにダクト・配管・ケーブルラック等が含まれています(図-2)。
 

図-2 設備等の設置状況

図-2 設備等の設置状況


 
 

初期の取り組み

最初に取り組んだのは、市販のBIM/CIMソフトウェア(以下、BIMソフト)を利用し処理場を3次元化することです。
BIM/CIMモデルは3次元形状だけではなく属性データの管理も重要ですが、まずは形状を重視しました。
BIMソフトの選定については、機能や操作性は当然重要ですが、
今回はヒアリング先の紹介や無料講習会の実施等の営業サポート力を重視し、
構造物はグラフィソフト社ARCHICAD、設備はNYKシステムズ社Rebroを利用し3次元化を進めることとしました。
モデル統合・チェック用には、ソリブリ社Solibri Model Checkerを利用することとしました(表-1)。
 

表-1 利用ソフト

表-1 利用ソフト


 
また、3次元化と並行して、IFCの検討にも着手しました。
下水道事業は公共事業であり、JSは発注者側の役割を担っています(図-3)。
 
図-3 JSの役割

図-3 JSの役割


 
このような事情から、BIMソフトのネイティブファイルを公式に利用することには多少問題があるので、
事実上の国際標準であるIFCに着目しました。
 
IFC検討に当たっては、IFCオンライン仕様書に目を通しましたが、理解が難しかったため、
現物重視、すなわち、ARCHICADに簡単なモデル(例えば柱1本)を入力後、ifcxml形式で出力し、
それをIFCオンライン仕様書と照らし合わせて確認する、といった方法で検討を進めました。
 
 

3次元モデル化

(1)手順

3次元モデル化は、既設の処理場を対象に汚泥処理、水処理、管理棟、外構の順で実施しました(図-4)。
 

図-4 3次元化の手順

図-4 3次元化の手順


 
設計が平成13~19年度、工事が平成15~20年度と比較的新しい処理場であり、
電子納品もきっちりとされていたので3次元モデル化の入力データとしては十分に揃っていました。
 
汚泥処理では、まずARCHICADにより構造物を完成図から3次元モデル化し、
次に、ARCHICADから出力したIFCファイルをRebroで読み込み、そこに設備の3次元モデル(図-5)を追加しました。
 
図-5 設備の3次元モデル

図-5 設備の3次元モデル


 
設備を3次元モデル化する過程で構造物3次元モデルの不備も散見されたので、
途中何回かデータを交換しモデルの精度を高めることが必要でした。
最終的には、ARCHICADに統合(ホットリンク)し、汚泥処理の最終3次元モデルとしました。
これと同様の手順を残りの施設についても行い、施設ごとの最終3次元モデルを作成しました。
 
全体統合モデルについては、最初はARCHICADのホットリンクを利用することを試しましたが、
各施設の階高が違うので統合に手間がかかる、コンピュータ上でスムーズに動かない等の問題が生じました。
そこで全体統合にはSolibri Model Checkerを利用しました。
合計8個のIFCファイルを読み込んだことになりますが操作性は良好なものでした(図-6)。
 
図-6 全体統合3次元モデル

図-6 全体統合3次元モデル


 

(2)分かったこと

この最初の3次元モデル化から分かったことは以下の通りです。
 
●BIMソフトによる3次元モデル化は可能
●構造物と設備とで利用ソフトを使い分けることが必要
●IFCによるデータ交換は可能
●既存の完成図書があれば3次元モデル化は可能
 
また、今後検討が必要なことは以下の通りです。
 
●ダクタイル鋳鉄管等の下水道でよく使われる配管の部材登録
● 汚泥かき寄せ機等の下水道特有の機器の部品化方針
●発注や維持管理で必要なデータのプロパティセット化
●モデル形状の詳細度等のルール化
 
 

マネジメントとBIM/CIMの統合・一体化

(1)プロジェクトマネジメント

下水道施設はライフサイクル中に数多くのプロジェクト、例えば、新設、増設、改築・更新等のプロジェクトが下水道整備の進展、
高度処理等の社会的要請、施設・設備の劣化状況等により企画・遂行され、
事業主体・発注者はこれらプロジェクトを首尾一貫した方法でマネジメントすることが求められています。
 
JSは、それらのマネジメントシステムとして
PURE(Project management system for Upgrading and Realizing Earned value concept)を
開発・運用(平成11年10月から)しており、現時点までで約3,600 のプロジェクト(累計)をマネジメントしています。
 
PUREのメインとなるツールがJS標準WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー)です。
JS標準WBSは、施設あるいは機能としての視点で分類した施設WBS(表-2)と
役務あるいは工種の視点で分類した作業WBS(表-3)の2種類で構成しています。
 

表-2 JS標準施設WBS

表-2 JS標準施設WBS


 
表-3 JS標準作業WBS

表-3 JS標準作業WBS


 
プロジェクトマネジメントでは、まず、プロジェクトの対象である施設や機能を施設WBSで特定(ワークフレーミング)し、
次に、施設WBSに対して必要な工種を作業WBSとして組み合わせます。
この組み合わせたものをワークパッケージ(WP)と呼び、プロジェクトの管理単位とします。
これらは、プロジェクトマネジメントの中のスコープマネジメントに相当します。
 
図-7 マスタースケジュール

図-7 マスタースケジュール


 
WPがほぼ確定すれば、これらと工事発注計画との関係を検討し、マスタースケジュール(図-7)を作成します。
PMR(プロジェクトマネージャー)は、マスタースケジュールをベースに、予算要望、設計、積算・発注等プロジェクトを遂行し、
実績を逐次マスタースケジュールに反映することで、プロジェクトをコントロールします。
 

(2)アセット/ストックマネジメント

設備台帳は、設置、点検、修繕・故障履歴等を記録・整備することを目的として作成・利用するもので、
維持管理では必須のツールです。
 
小規模で機器点数が少ない場合は表計算ソフトで作成されることもありますが、
一般にはリレーショナルデータベース(RDB)を利用しており、JSでは「AMDB」と名付けたシステムを開発・運用しています。
 
ストックマネジメントは、設備台帳を基本データとしてサービス水準の目標設定、改築費用の把握、
優先順位を踏まえた保全計画の策定・実施等の施設管理活動を実施するモノのマネジメントになり、
アセットマネジメントは、モノのマネジメントにヒトとカネのマネジメントを追加したものになります。
 

(3)統合・一体化

BIM/CIMのMにはModelingだけではなく、Managementの意味も込められていることから、
プロジェクトマネジメントやアセット/ストックマネジメントのツールとして利用する、
あるいは、統合・一体化することができれば非常に有効です。
 
JSではIFCがプロジェクト情報、空間構造、建築要素、設備要素とそれらの関連を定義していることが
JS標準WBSによるプロジェクトマネジメントの考え方に似ていることに着目し、
BIM/CIMとマネジメントとの統合・一体化を検討しました。
 

表-4 ifcxml形式ファイルの例

表-4 ifcxml形式ファイルの例


 
まず、IDEF1Xというデータモデリング手法によりIFCの各エンティティのデータ構造を分析しました。
ifcxml形式のファイル(表-4)は、一部入れ子構造になっているものの、データにタグが付けられている、
ファイル内で一意となる識別番号(id)がエンティティごとに振られている等、
RDBと似通ったデータ構造であることが分かりました(図-8)。
 
図-8 ER図の例

図-8 ER図の例


 
これは、維持管理へのデータハンドオーバーを検討する上で非常に大きな発見でした。
 
並行して、IDEF0というプロセスモデリング手法により建設プロジェクトのプロセスの分析を行いました。
IDEF0は、プロセス、各プロセスのつながり、プロセスに関する情報等を、アクティビティ(作業・処理)を表す箱と、
入力、コントロール、メカニズム、出力を表す4つの矢印で可視化するものです(図-9、10)。
 
図-9 IDEF0の概要

図-9 IDEF0の概要


 
図-10 プロジェクトの分析例

図-10 プロジェクトの分析例


 
例えば「WPを作成する」というアクティビティは、空間とその空間に建築要素、設備要素が配置され、
さらに属性データも登録されたBIMモデル(図-11)を参照(コントロールに相当)することで、
2次元図面と設計図書による従来の方法よりも、作業の効率化と質の向上が期待できます(図-12)。
 
図-11 BIMモデルの例

図-11 BIMモデルの例


 
図-12 WP作成の分析例

図-12 WP作成の分析例


 
 

下水道用BIM/CIM部品・部材

下水道用のBIM/CIM部品・部材はまだ十分には揃っていないので、
部品・部材整備のための基礎資料として、概念モデルを作成しました(図-13、14)。
 

図-13 概念モデル(全体および土木)

図-13 概念モデル(全体および土木)


 
図-14 概念モデル(機械および電気)

図-14 概念モデル(機械および電気)


 
下水道施設で必要な6工種のうち、建築、建築機械設備、建築電気設備はBIMそのものなので、
土木、機械設備、電気設備についてのみ、詳細な概念モデルが必要となります。
 
例えば、下水道施設の土木施設は、一般土木や建築と大きな相違点はないのですが、
防食塗装、越流堰版、流出水路の銅版張り、開口部の蓋、安全対策としての柵等の多種多様の付帯施設が設置されています。
 
機械設備は、機器といくつかの部品類で構成されていますが、
マネジメントの観点では、部品までをBIMモデル化する意味はほとんどないので、
機器レベルを概念モデルの最下位レベルとしました。
このレベルは、工事設計書の機器費として記載されるレベルと同じレベルでもあります。
 
属性データについては、下水道用のプロパティセットの作成を検討しています(表-5)。
 
表-5 汚泥かき寄せ機のプロパティセット案

表-5 汚泥かき寄せ機のプロパティセット案


 
 

データの有効活用

(1)概要

BIM/CIMは、形状だけでなく属性データを入力できる点が大きな特徴ですので、
建設プロジェクトから維持管理へのデータハンドオーバーによるデータの有効活用に着目しました。
 
プロジェクトではさまざまなデータが発生(表-6)していますが、
そのうち、BIMソフトに入力しているデータだけでも設備台帳にハンドオーバーできれば、
初期データの登録が相当効率的になります。
 

表-6 プロジェクト発生データ

表-6 プロジェクト発生データ


 
図-15 BIMデータ活用の手順

図-15 BIMデータ活用の手順


 
その手順(図-15)ですが、まずBIMソフトから維持管理に必要なデータをifcxmlファイル形式で出力します。
設備台帳には形状等は不要なので、必要なデータのみを抽出できる機能のBIMソフトへの実装が望まれます。
 
次に、変換システムを起動し、ifcxmlファイルを読み込み、中間RDBへのデータ変換・登録、設備台帳RDB用のデータ出力を行います。
事前に、マスターコード設定、設備台帳RDBと中間RDBとのデータマッピング等の準備は行っておきます。
 
最後に、設備台帳のデータ読み込み機能でデータを登録し、不足しているデータは追加入力します。
 
中間RDBを設けるのは、設備台帳RDBは多種多様なのでBIMソフトから設備台帳RDB用のデータ出力を行うことは現実的ではないこと、
データは一度変換すれば終わりではなく追加・修正・削除等が発生するので拡張性・柔軟性を確保することがその理由です。
IFCは構造化されていますが入れ子構造になっているので、
第3正規形まで正規化し、必要なマスターテーブル等を追加して実装する予定です。
 

(2)変換例

ifcxmlファイルから設備台帳「AMDB」へは、
空間構造としては、IfcSite(場所)、IfcBuilding(建物)、IfcBuildingStorey(建物階)、IfcSpace(ゾーン)、
設備要素としては、例えばIfcFlowMovingDevice(ポンプ等)のデータを変換します(表-7、8)。
 

表-7 空間構造のデータ変換例

表-7 空間構造のデータ変換例


 
表-8 設備要素のデータ変換例

表-8 設備要素のデータ変換例


 
プログラムの処理としては、まず、中間RDB(図-8)のIfcRelDefines-ByPropertiesから
その設備要素と関連付けられたIfcPropertySetを探し、
さらにそのプロパティセットに関連付けられたIfcPropertySingleValueをHas-PropertiesLinesから探し出します。
 
次に、IfcPropertySingleValueのNameと「AMDB」のデータ項目とのマッチングを行い、
マッチングルールに応じてNominalValueを「AMDB」のデータとして登録することになると想定しています。
 
 

今後の取り組み

JSのBIM/CIMへの取り組みはまだ始まったばかりで、まだ検討の域を出ていませんが、一定の方向性は示せたと感じています。
今後は、変換システムの実装や実プロジェクトでの試行等実務レベルでの検証を進めていくとともに、
下水道BIM/CIMガイドラインの策定など、BIM/CIMが機能するような仕組みづくりに取り組んでいく予定です。
 
そのためにもIAI日本やBIMライブラリーコンソーシアムの活動に参加し
将来のIFCへの反映や下水道ライブラリーの構築を図っていきたいと思います。
 
最後になりますが、これからも大学や企業の研究者・実務者の方々の助言がますます必要ですので、
JSの取り組みに興味を持たれましたら、ぜひご連絡をお願いします。
 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2016
特集2「海外のBIM動向&BIM実践」
建設ITガイド 2016
 
 

最終更新日:2016-09-27

 

同じカテゴリの新着記事

ピックアップ電子カタログ

最新の記事5件

カテゴリ一覧

話題の新商品