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いさぼうネット事務局 高森 秀次

 

1. はじめに

 
私共が運営している「いさぼうネット」は,斜面防災関連の技術情報や工法をまとめているサイトです。「いさぼうネット」では,落石対策関連の情報を取り扱う機会が多くなってきました。また,「いさぼうネット」を通じて落石対策の技術者や開発者との交流も増えてきました。これまで携わってきた経験から感じたことを中心に落石対策工の特長と留意点を述べていきます。
 
 

2. 落石対策関連の動き

落石対策で多く読まれている図書として「落石対策便覧」(日本道路協会)が挙げられます。現在の落石対策便覧が発行されたのは,今から約16年前になります。それから約17年前の1983年に初版が発行されています。いさぼうネットの運用が始まったのは1997年です。その後,インターネットの普及が広がり,2006年には,NETIS(新技術情報システム)の本格運用が開始されました。この頃から,落石対策の選定においては,NETIS を活用する技術者が増えてきました。
 
「いさぼうネット」では,2000年頃から落石に関する情報を取り扱ってきました。閲覧者からの要望もあり,2003年に落石を題材にした特集を公開しました。この頃から,落石対策の工法を紹介する機会が増加し,技術者や開発者との交流が増えてきました。
 
インターネットを使ったサービスの普及により,今まで知らなかった工法が簡単に見つけられるようになりました。また,落石対策工法の開発も活発になり,NETIS登録数は,2014年に一度整理されましたが,現在でも「落石防護」のキーワードで約50件が抽出されています。このように「落石対策便覧」が発行されてから,数多くの工法が開発されております。その中には,「落石対策便覧」に示されてない工法が存在します(図-1)。
 

図-1  落石関連の主な動きと「いさぼうネット」(いさぼうネット 「吉田博の落石研究室」より一部修正・加筆)




 

3. 落石の種類

「落石対策便覧」では,「浮石」と「転石」といった用語を用います。これについて,「落石対策の設計と計算例」(地盤工学会)によると,浮石は,岩盤の一部が亀裂によって基岩から分離した岩塊で,基岩上に留まっているものを指します。一方,転石は浮石から移動した岩塊,または,未固結堆積物中の礫や岩塊で,これらが落下して斜面上に留まっているものを指します。
 
浮石は,落下すると基岩から次々に危険性の高い,浮石が顔を出し,新たな落石を誘発する可能性があります。一方,転石は,堆積した土砂を伴って落下する場合があります。そのため,落石対策工の選定においては,落下形態や落石発生後の斜面状況などを予想する必要があります。
 
 

4. 接着工と特殊工法

4-1 接着工の特長

接着工は,浮石や転石を,接着材を用いて安定した岩盤や岩塊に固定する予防工です。景観を著しく阻害しないため,国定公園や景勝地などでは特に効果的です。亀裂部分に接着材を充填する場合,洗浄や注入作業が必要になります。接着工にする場合は,その数量算出がとても難しい場合があります。特定した浮石や転石に対して,亀裂の大きさや長さを十分に調査する必要があります(写真-1)。
 

写真-1 DKボンド工法の施工例



4-2 接着材を吹き付け斜面を安定

落石対策を行う場合,施工者の安全にも配慮しなければなりません。そこで,準備工として斜面にある浮石や転石を一時的に止める吹付工法が提案されています。
 
作業員の立ち入りが困難な場合は,ヘリコプターを使った空中散布を行うことも可能です。金網張りと併用することで,さらに密着性が向上し,恒久対策として用いられることもあります(写真-2)。
 

写真-2 SNモルタルボンドの施工例




 

5. ワイヤロープ掛工と特殊工法

5-1 ワイヤロープ掛工の特長

落石予防工として,ワイヤロープ掛工があります。ワイヤロープ掛工は,浮石や転石を個別に対処するのに効果的です。「落石対策便覧」での安定計算では,横ロープとその両端のアンカーで安定度を照査します。このため,縦に短い岩塊を止めようとするとロープおよびアンカーの本数が多く配置できず,対応できないといったことがあります。
 

5-2 個体から群体への対応

ワイヤロープ掛工は,どちらかと言えば,1つの個体に対応していますが,これを隣り合う浮石や転石も一緒に止めてしまうロープ伏工や密着型安定ネット工と呼ばれる工法が開発されています。いさぼうネットでも表-1の工法がこれに該当します。
 

表-1 主な予防工法(いさぼうネットより)




どちらの工法もワイヤロープの格子点にアンカーを配置します。一般的な配置間隔は2mです。伏工と密着型の違いは金網の強化とそれを止めるピンアンカーと呼ばれる部材を利用しているかどうかです。
 

5-3 縦ロープに強力な抑止効果を追加

岩塊にロックアンカーを設置し,その上部斜面にアンカーを配置します。これに特殊なロープで接続し,吊り上げるように抑える工法です。横ワイヤロープを用いれば拘束効果が向上します。これによって,ワイヤロープ掛工に比べ,より大きな岩塊にも対応できるようになりました(写真-3)。
 

写真-3 巨大岩塊固定工法の施工例




 

6. 防護網工と特殊工法

6-1 防護網工の特長

防護網工は,縦ロープと横ロープを一定の間隔で配置し金網と併せて防護します。アンカーは,縦,横ロープの端部に配置します。防護網工には,ポケット式と覆式の2つのタイプが存在しますが,その安定度評価については,全く異なります。覆式の場合,斜面にできるだけ密着させて配置するため,覆われた石の重量が外力になるのに対し,ポケット式は,落下してくる石をポケットで受け止めるため,落石エネルギーが外力となります。
 
さて,よく聞く話として,覆式は落石予防工ではないか? と思う方も多いと思います。一般的な防護工の場合,ポケット式のように外力が落石エネルギーや落石の衝突荷重になりますが,覆式はワイヤロープ伏工や密着型安定ネット工のように落石の重量を外力にしています。覆式防護網は両端のアンカーで支持しています。そのため,凹凸の激しい斜面で密着させるのは難しくなります。
 
「落石対策便覧」が防護工に分類しているのは,浮石や転石が防護網と地山との間で,ある程度の落下を想定しているためではないかと私は思っています。
 
防護網工は,広範囲の落石を防護してくれますが,浮石や転石の重量や落石エネルギーが大きい(150kJを超える)と対応できなくなります。
 

6.2 緩衝装置を用いて吸収エネルギーを向上

防護網工のワイヤロープに伸びしろを設け,防護した際にワイヤロープも共に挙動できるようにした装置のことを緩衝装置(もしくは緩衝金具)と呼んでいます。
 
緩衝装置内でワイヤロープが移動しますが,その時に生じる摩擦力が働きブレーキの役目も担います。緩衝装置を設けることによって,今まで対応できなかった落石エネルギーを防護できるようになりました。
 
また,支柱間隔を大幅に広くとれるようになっています。これにより,落石が支柱を直撃する可能性を抑えることができます。支柱間隔を広げると,設置箇所によっては,ポケットが閉塞してしまうケースがあるため,配置計画には留意しなければなりません(写真-4,表-2)。
 

写真-4 ロングスパン工法の施工例

 

表-2 主な防護網工法




 

7. 防護柵工と特殊工法

7-1 防護柵工の特長

落石防護柵は,路側に設置することを前提としています。基本的に大掛かりな仮設が不要で路肩に設置スペースがあれば効果的です(表-3)。
 

表-3 主な防護柵工法



7-2 斜面に設置する防護柵

落石を路側で受ける場合,落石エネルギーはとても大きくなります。そこで,防護柵を斜面上に設置することで,落石エネルギーを小さく抑えることができます。また,斜面配置に特化した製品も開発されています。
 

7-3 緩衝装置を用いて吸収エネルギーを向上

防護網工と同じですが,ワイヤロープに緩衝装置を設けることで,より大きなエネルギーを吸収できるようになります。
 

7.4 雪崩防止機能を兼用した防護柵

設置箇所によって,積雪にも対応した防護柵が必要になってきます。大きなエネルギーを吸収する場合,緩衝装置が必要になります。ところが,積雪の重みによって緩衝装置が働き部材が緩んでしまうのです。そうなると部材の交換や部材の再配置が必要になってしまいます(写真-5,表-4)。
 

写真-5 雪崩防止機能を兼用した防護柵

 

表-4 雪崩防止機能を兼用した防護柵の主な工法



7-5 崩壊土砂防止機能を兼用した防護柵

近年,崩壊土砂防止機能を有した落石防護柵が増加しています。落石エネルギーとは別に崩壊土砂の衝撃力に対応しなければなりません。
 
F = α ・Fsm
ここに,F:衝撃力 (kN/m2)
    Fsm:移動の力 (kN/m2)
    α:衝撃力緩和係数
 
衝撃力緩和係数は,コンクリート擁壁の場合0.5を用いていますが,防護柵で受け止める際の計算では1.0が一般的に用いられています。
 
 

8. 落石防護補強土壁

ジオテキスタイルなどの補強材を用いて補強土壁を構築します。とても高い落石吸収エネルギーを有しています。土構造であるため,経済性に優れ,写真のように緑化も可能です。ただし,ある程度の設置スペースを確保する必要があります(写真-6,表-5)。
 

写真-6 ジオロック工法の施工例

 

表-5 落石防護補強土壁の主な工法




 

9. ロックシェッドと特殊工法

9-1 ロックシェッドの特長

道路や鉄道など保全対象に直接覆うのがロックシェッドです。とても高い可能吸収エネルギーと土砂捕捉性能を有しています。落石の規模が大きく,あらゆる落下軌跡が特定できない場合にとても有効です(写真-7)。
 

写真-7 ロックシェッドの施工例



9-2 落石防護棚

落石対象が限定された場合,ロックシェッドは施工が大掛かりになるため,不経済になるケースが多くなります。そこで,ロックシェッドと高エネルギー吸収防護柵の中間的構造物として開発されました。維持管理が重視されるようになり,注目されている工法の一つです(写真-8)。
 

写真-8 メガロックキーパーの施工例




 

10.既設構造物の補強工法

10-1 近年の動き

道路法の一部改正も伴って,維持管理といったキーワードが目立つようになってきました。橋梁やトンネルは,もちろんですが,落石対策施設においても点検や補修を行っていく必要があります。
 

10-2 補強工法の開発

落石対策は,保全対象と落石の規模によって決定します。地震や大雨などによって,設計時より規模の大きい浮石や転石が発見されることもあります。そこで,既存構造物に補強できる製品を開発している場合があります。
 

10-3 既設防護網工の補強工法

既設防護網を撤去せずに補強部材(高強度金網,制御金具,補強ワイヤロープなど)を配置し,可能吸収エネルギーを向上させます(写真-9,表-6)。
 

写真-9 リフォース工法の施工例

 

表-6 既設防護網工の主な補強工法



10-4 既設防護柵工の補強工法

既存の落石防護柵を撤去せずに補強部材(高強度金網,補強部材など)を配置し,可能吸収エネルギーを向上させます(写真-10)。
 

写真-10 ストロンガー工法の施工例

 

表-7 既設防護柵工の主な補強工法



10-5 構造物の点検方法

点検は,道路管理者が行います。しかし,現状は,人手不足の自治体が多く,評価も難しいと聞きます。近年は,それらを解消するために民間企業への委託発注やシステム化による効率化を図る自治体も増えてきているようです(図-2)。
 

図-2 タブレットを用いた点検システムの概要




 

11.製品の評価について

11-1 可能吸収エネルギー

以前,興味があって,ライフルから発射された弾丸の運動エネルギーを算出したことがあります。回転のエネルギーは考慮せず,単純に線運動のみで計算しました。結果,50kJに満たなかったのです。つまり,可能吸収エネルギーだけで言えば,「ライフルの弾丸も防護できる」わけですが,もちろん誰も言いません。適用範囲があるのです。近年,高エネルギー吸収タイプが増えています。例えば200kJまで防護できる工法があったとして,落石の大きさが,どの大きさまで対応できるのかといった情報について詳しく述べられていません。
 
現実には,高エネルギータイプを利用する場合,50cmの浮石や転石が条件になることは私の知る限りありません。選定時には,落石の径や速度なども開発者に伝え,対応可能かどうか確認することも重要です。
 

11-2 解析モデル

近年,開発者は製品の実験から基礎データを取りいれ,解析ソフトを用いて検証することが主流になってきました。多様な実験データを得るためには,それだけ多くの時間と費用がかかり,現実的ではありません。また,各社,独自の方法で行っているため,可能な限り解析方法についても積極的に取材することをお勧めします。信頼できる解析ソフトウェアを用いたとしても解析モデルや計算条件が違っていたら意味がありません(図-3)。
 

図-3 イーフェンスの解析画像



11-3 設置条

実験で証明された工法は,それなりの制約条件を備えている場合が多く,これをうっかり気にせず配置してしまう例もあります。落石を捕捉するために,必要なスパン数があるのです。防護施設の場合,実験の殆どは,3スパンで行っています。製品毎にスパン数は異なりますが,10mだけ設置したいという要求に応えられない場合があります。設置延長が短い場合は,単位当りの単価が高くなるケースも多いため注意が必要です。
 

11-4 捕捉後の挙動

防護工の場合,捕捉後の挙動についても確認しなければなりません。路側に設けられた場合,その挙動が通行や保全施設等に影響がないようにしなければなりません。
 

11-5 施工方法

落石対策工の製品を比較するとき,仮設工事の規模によって決まる場合があります。施工機械が大型になると,斜面上で構台が必要になってきます。また,施工機械は,どのように搬入するのかをイメージしなければなりません。落石対策工事では,施工業者が現場を嫌う場合が多くあります。危険な浮石や転石を相手に施工するため,身の危険を感じるのです。機械の振動等で,小石が落下しただけでも人命が奪われることもあります。近年は,仮設として,4-2で述べたような接着効果のある吹付け工法を採用するといった配慮もなされています。
 

11-6 除去方法・補修方法

落石が発生した場合,その石を除去する必要があります。道路脇に堆積した岩塊は,比較的除去しやすいため,費用も比較的軽微になります。斜面設置型の防護工は,先に述べた施工方法と同じように考える必要があります。場合によっては,除去作業中の防護柵が必要になるかもしれません。除去方法についても簡単に行える工法かどうかを考慮する必要があります。また,除去と同時に部材の交換や補修が必要になります。
 

11-7 腐食・経年劣化

ある海岸部の現場見学会に参加したときのことです。ポケット式落石防護網を紹介されたのですが,腐食によって,支柱と縦ワイヤロープしか残っていないものがありました。もちろん別の対策がなされていましたが,腐食によって金網が残っていなかったことに少々驚きました。近年,亜鉛アルミ合金メッキなどの腐食に強い部材が用いられている製品も多くなっています。
 
また,金網から繊維ネットにする製品も開発されています(写真-11)。
 

写真-11 ネイチャーネットの施工例




 

12.おわりに

今回,ご紹介した工法は,いさぼうネットに掲載されている工法であり,ほんの一部に過ぎません。また,留意事項についてもまだまだ沢山あると思います。土木技術者の大変なところは,全く同じ現場が無いことです。現場一つ一つにいろいろな課題や問題があり,まるで,患者1人1人に合わせて治療を行っている医者のように,現場の状態を把握し,要求に合った対策を考えていく必要があります。そういったことから,対策工の情報収集と確かな目が技術者に求められているように感じています。
 
最後になりましたが,本文作成にあたり,このような場をご提供いただいた一般財団法人経済調査会の皆様を始め,画像等をご提供いただいた関係各位に厚く御礼申し上げます。
 
 
【参考文献】
1)日本道路協会:落石対策便覧,2000.6
2)(公社)地盤工学会:落石対策工の設計法と計算例,2014.12
3)(公社)地盤工学会四国支部:落石対策Q&A,2009.12
4)吉田博:吉田博の落石研究室,土木情報サービスいさぼうネットHP
注) 文中の写真は土木情報サービスいさぼうネットHPより転載。ただし写真−11は前田工繊株式会社より提供。
 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年05月号_1

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2023-07-11

 

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