建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建築施工単価 > 生きた建築ミュージアム 〜大阪市における新しい都市魅力の創造・発信に向けた取組み〜

 

大阪市都市整備局 企画部 住宅政策課
まちづくり事業企画グループ

 

はじめに

大阪市では,2013年度から大阪のまちを一つの大きなミュージアムと捉え,そこに存在する優れた建築を通して大阪の新しい魅力を創造・発信しようとする取組みとして「生きた建築ミュージアム事業」を開始した。
 
この事業は,世界的な創造都市の実現に向けて策定された「大阪都市魅力創造戦略」に基づくプロジェクトの一つであり,従来の文化財的価値とは異なる新しい指標で,都市を構成する重要な資源である建築を評価し,その魅力を広く伝えようとするものである。
 
‘生きた建築’というキーワードは,この事業の中で新たに定義したもので,『ある時代の歴史・文化,市民の暮らしぶりといった都市の営みの証であり,様々な形で変化・発展しながら,今も生き生きとその魅力を物語る建築物等』をいう新しい概念のことをいう。
 
大阪のまちには,都心部を中心に,大正時代や昭和初期に建てられたモダンな洋風建築をはじめ,1950年代半ばから1970年代初めのいわゆる高度経済成長期に建てられた建物等,各時代を代表する魅力的な建物が集積しており,様々な形で変化・発展しながら,今も生き生きとその魅力をたたえ,活用され続けている。生きた建築ミュージアム事業では,そうした建築に着目することで,建築そのものの魅力や大阪の都市の魅力を発信していきたいと考えている。
 
本事業を推進するため,2013 年,2014年の2カ年にわたり,有識者の意見を聞きながら,特に新たな都市魅力の創造・発信に資すると認める‘生きた建築’50点を「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」として選定した。この大阪セレクションは,建築的な使われ方,変化・発展の歴史なども踏まえ,様々なカテゴリーから選定することで,全体から,時代の流れや多様で豊かな都市の物語性が浮かび上がって見えるような構成としている。
 
ここでは,「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」のうちから何点かを紹介させていただく。なお,次頁からの各建築の解説は,大阪市生きた建築ミュージアム推進有識者会議委員である
● 大阪市立大学大学院工学研究科 准教授 倉方俊輔氏(以下K と表記)
● 大阪市立大学都市研究プラザ 特任講師 高岡伸一氏(以下T と表記)による。
 
写真提供は,大阪市(撮影:西岡潔氏)による。
 

選定プレートのデザインコンセプト

 
まちの地図に見立てた「生」の漢字をグラフィカルなパターンとして展開。仕上げを変えることで,一枚のプレートを面で分解します。このことによって,本事業が単に建築物等を選定する事業ではなく,多様な建築物の面が重なり,生きた大阪のまち・歴史を生み出していく試みであるということを表します。なお,1948年の創業以来,大阪を拠点に文字文化を牽引してきた株式会社モリサワの協力により,「生きた建築ミュージアム 大阪セレクション」の文字は,同社が1955 年に初めて開発した自社書体フォントを使用しています。
 
※ 「選定プレート」は大阪市が作成し,平成26年10月に「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション(全50 件)」の各所有者に贈呈しました。
 
 

Ⅰ 時代を超えた塔のまち・大阪

 
戦後復興期の大阪を表す建築
なにわのシンボルタワー

 
通天閣
 
所在地:大阪市浪速区恵美須東1-18-6
建設年:1956 年
構造・規模:S 造,一部SRC 造5 階,地下1階
設計:内藤多仲,竹中工務店


現在の通天閣は,戦後大阪の復興の象徴と言えよう。初代の通天閣は1903 年に開催された第5 回内国勧業博覧会の跡地に建てられ,1943年の火災を機に解体されるまで,新世界のランドマークとして親しまれた。戦後に高度成長が始まると共に,通天閣復活の気運が高まり,1956 年に2 代目が誕生。名称こそ引き継いでいるが,下部が凱旋門,上部はエッフェル塔を思わせるデザインだった初代に対し,2 代目は未来に伸びゆく工業主義的なイメージ。展望台の下のくびれや四方に突き出たトラスが,直線基調のシャープさを強調している。西洋がお手本だった時代の初代通天閣を懐古するのではなく,進取の伝統を引き継ごうという姿勢が,戦後大阪の復興の精神を表している。(K)
 
 
 
 
 
英紙タイムズが「世界を代表する20の建造物」に取り上げた国際的な観光スポット
 
梅田スカイビル(新梅田シティ)
 
所在地:大阪市北区大淀中1-1-88
建設年:1993 年
構造・規模:S 造・一部SRC 造40 階,地下2 階
設計:原広司+アトリエ・ファイ建築研究所


約50m離れて建つ2棟を最頂部の39・40階で接続させた,世界で初めての連結超高層ビル。高さ173mは完成当時,西日本一だった。外装の大部分を占めるガラスカーテンウォールに空が映り込み,「空中庭園」と命名された連結部が浮遊して見える。そこに空いた環に「空中エスカレーター」で上がる体験も前代未聞。細部には多様なデザインを混在させて,未来の集落を思わせる景観を形作っている。全体から部分まで設計者の建築観が色濃く,わが国でも数少ない,建築家の作品と呼ぶにふさわしい超高層ビルとなっている。物理的な高さで抜かれても,思想性の高さにおいては,いまだ世界でトップクラスだ。(K)
 
 
 
 
 
 
 

Ⅱ 都市の社交空間:ホテル,倶楽部,バー

 
100 年前に大阪の実業家たちがつくって以来使われ続けている社交倶楽部
 
大阪倶楽部
 
所在地:大阪市中央区今橋4-4-11
建設年:1924 年
構造・規模:RC 造4 階,地下1階
設 計:片岡建築事務所(安井武雄)


現役の倶楽部建築として,全国的にも貴重。19〜20世紀にさまざまな大都市で花開いた倶楽部文化の生き証人だ。会員の社交場としての品格は,趣味の良い外観のまとまりから一目瞭然だが,さらに近づいてみると面白い。前面に並ぶ柱の上には怪獣が乗り,アーチなどには独特の植物文様が展開されているのが分かる。東洋の文明にも関心を抱いた大阪の建築家・安井武雄の個性も息づいた一作だ。(K)
 
 

Ⅲ 大阪の顔:大阪駅前と御堂筋

品格ある佇まいがメインストリートのイメージをリードしてきた御堂筋の代表格
 
日本生命保険相互会社本館
 
所在地:大阪市中央区今橋3-5-12
建設年:[1 期]1938 年[2 期]1962 年
構造・規模:SRC 造7 階,地下3階,塔屋3階
設 計:[1 期]長谷部竹腰建築事務所[2 期]日建設計


1889 年に創立された日本生命は,1902 年に現在の地に本店を構えて以来,1世紀以上もこの地で営業を続けている。最初の赤レンガの洋館が建てられた頃,御堂筋はまだ細い街路に過ぎず,正面玄関は心斎橋筋に面していたが,1936年に御堂筋に面した現在の本館建設が始まった。しかし戦争の影響によって北半分が完成した時点で工事は中断,戦後はGHQに接収され,1962年にようやく全体が完成したという数奇な運命を持つ。花崗岩に覆われた端正な外観は今なお「御堂筋らしさ」の源泉であり,周辺一帯ではこれからの御堂筋のために,上質な街づくりが進められている。(T)
 
 
名のとおり御堂筋の中心に建つ,建設会社を体現する本社ビル
 
御堂ビル[竹中工務店大阪本店]
 
所在地:大阪市中央区本町4-1-13
建設年:1965 年
構造・規模:SRC 造9 階,地下4階
設 計:竹中工務店(岩本博行)


幅広い御堂筋に向き合っても負けない建築の永続感を,どうしたら近代的なデザインで獲得できるのか。説得力のある解答を出したのが,このオフィスビルである。敷地境界より建物の四周をセットバックさせることによって,十分な空地を確保し,どの面も等しい環境をつくることに配慮されている。1 階の床を道路から約1m 下げてエントランスホールとし,9層のオフィス空間を合理的に確保した。最高高さ31mという当時の法的制約や周辺条件を逆手にとって建築の凝縮感を生み出し,茶褐色のタイルで覆われた外観によって都市的に統制された美と,日本の伝統建築につながる細やかな肌触りの両方を感じさせている。大阪に生まれ,竹中工務店の設計部長を務め,この翌年には校倉造りに範を取った国立劇場を竣工させた設計者・岩本博行の手腕が光る。(K)
 
 

Ⅳ 水辺に向かって立つ建築:中之島とその周辺

大阪最初の本格的オフィスだった初代のDNAを感じる二代目ビル
 
ダイビル本館
 
旧 称:大阪ビルヂング
所在地:大阪市北区中之島3-6-32
建設年:1925 年
構造・規模:RC 造8 階,地下1階
設 計:渡辺節建築事務所
建替年:2013 年
構造・規模:S 造,一部SRC 造,
RC 造22 階,地下2階,塔屋2階
設 計:日建設計


近代的なビル群の間で,煉瓦の壁が趣のある存在感を放つ。1925 年の開業から2009 年の取り壊しまで長く親しまれた中之島のシンボル「旧ダイビル本館」の外観を,新本館建設の際に復元したものだ。当時,大阪で最大の床面積を持つ貸オフィスビルとして開業した旧ダイビル本館は,構造や設備にも最新鋭の技術を駆使していた。大阪を代表する老舗ディベロッパーの発祥地としての誇りが,巨大で整然とした壁面から伝わってくる。ロマネスク風の柱や中央玄関など,足元部分の細やかな装飾も味わい深い。ここで使われている兵庫県高砂産の黄竜山石は,旧ダイビル本館以降,特徴的な素材として大阪の近代建築にしばしば用いられるようになった。(K)
 
 
証券の街北浜に時代考証を元に再生された建築
英国ライフスタイルが感じられる

 
北浜レトロビルヂング
 
所在地:大阪市中央区北浜1-1-
26
建設年:1912 年
構造・規模:煉瓦造2階,地下1階
設 計:不詳


通りの向かいの大阪証券取引所と共に,江戸時代以来の金融街の記憶を引き継ぐ近代建築だが,両者のありようは対照的だ。1935年に完成した大阪証券取引所は,幾何学的なデザインを取り入れた鉄筋コンクリート造で,アメリカ流の合理精神が垣間見える。対するこの建物は煉瓦造2階建で,1912 年に株仲買商の商館として建設された。周囲のビルに埋まりそうな小ささの中に品の良い装飾を丹念に施して,イギリスをお手本に西洋建築を学び始めた日本の本流を感じさせる。建物は1997 年から英国流の紅茶と菓子の店舗として用いられ,北浜に新たな人の流れを生み出した。第一次世界大戦前,アメリカに主導権が移り始める以前のイギリスの黄金期に,生き馬の目を抜く株取引に関連して作られた施設が見事,英国流の憩いの場として読み替えられた。(K)
 
 
水都大阪を象徴するように水辺に向かって建つ,スパニッシュ様式のビル
 
ルポンドシエルビル[大林組旧本店]
 
旧 称:大林組本店ビル
所在地:大阪市中央区北浜東6-9
建設年:1926 年
構造・規模:RC 造6 階,地下1階
設 計:大林組(小田島平吉,外観デザイン:平松英彦)


浪花三大橋のひとつ,天神橋の南詰めに建つスクラッチタイルのシックな近代建築は,1892 年に大阪で創業した大手建設会社,大林組の旧本店ビル。設計に際しては社内コンペを実施して,当時アメリカで流行していたスパニッシュ様式の案を採用した。2007 年の耐震補強工事を経て,1973 年に建てた超高層の本店ビルにあったフレンチ,「ルポンドシエル」が移転してきた。「ルポンドシエル」とは「天架ける橋」の意,天神橋にあやかった店名だ。(T)
 
 

Ⅴ 心意気あふれる多彩な民間建築:船場周辺

 
船場で時計屋を営む商家の元本店ビル
時計台とオーナーの語りが街の名物

 
生駒ビルヂング
 
旧 称:生駒時計店
所在地:大阪市中央区平野町2-2-12
建設年:1930 年,改修2002 年 
構造・規模:RC 造5 階,地下1階
設 計:宗建築事務所
改 修:Y’s 建築設計室


1920〜30 年代に流行した「アール・デコ」は,機械的なものの持つ魅力を装飾に変えたスタイルだ。定規とコンパスで引いたような線の強調,ギザギザをはじめとした機械的な繰り返しの形,カクカクと幾何学化された彫刻,大理石などと並べることで対比されたキラキラした金属やガラスの輝き…これらすべての特徴が生駒ビルヂングにみられる。時計という当時,最高に精巧な機械を販売する店舗ビルだったと聞けば,それも納得。1930年の開業時の内装はそのままに,現在は新規事業の立ち上げなどに適したオフィスとして活用されている。ビルは今も時代の最先端を走り,屋上の時計は街を見守り続けている。(K)
 
 
船場のいとさんが通う花嫁学校としても使われていた,多くの人に愛されるコミュニティビル的存在
 
芝川ビル
 
所在地:大阪市中央区伏見町3-3-3
建設年:1927 年  構造・規模:RC 造4 階,地下1階
設 計: (基本設計及び構造設計)澁谷五郎
( 意匠設計)本間乙彦


個性的な外観で,オフィス街の中でも存在感を放っている。芝川家は江戸時代からこの地に店を構えてきた。南米のマヤやインカの遺跡を連想させる濃厚なデザインには,鉄筋コンクリート造のビル建設に踏み切った当主・芝川又四郎の意向が強く反映している。自家用として建てられ,戦前期には「芝蘭社家政学園」という花嫁学校としても使われた。現在はビルの雰囲気を生かしたテナントが多く入居。地下の金庫室を改装したカフェや,さまざまなイベントに用いられる屋上テラスなど,その使われ方においても,その個性によって地域に貢献している。(K)
 
 
外からではわからないパティオがあるヨーロッパのプチホテルのよう
 
船場ビルディング
 
所在地:大阪市中央区淡路町2-5-8
建設年:1925 年
構造・規模:RC 造4 階,地下1階
設 計:村上徹一


外からは想像できない内部が楽しい。住居を併設した鉄筋コンクリート造のビルとして,1925 年の完成時には周囲の木造家屋の中にそびえていた。外から見ると比較的シンプルなデザインだが,中央の入り口をくぐれば,明るい中庭が目に留まる。入り口から続く幅広い通路や,床に敷き詰められた木製ブロックは,中庭まで荷馬車を引き込むための工夫。問屋街として発展した船場の土地柄が反映されている。中庭を取り囲んだ開放的なつくりは,今では他にあまり例が無い。空間の魅力が個性的なオフィスやショップを数多く集めているのだろう。一つ一つのドアの向こうでは,今日も想像できないクリエーションが行われている。小さな街のような中庭だ。(K)
 
 
銀行をレストランにコンバージョン(用途変更)した‘はしり’の建築
 
堺筋倶楽部
 
旧 称:川崎貯蓄銀行大阪支店
所在地:大阪市中央区南船場1-15-12
建設年:1931 年
構造・規模:RC
造4階,地下1階
設 計:川崎貯蓄銀行建築課


戦前の近代建築が多く残る北浜から少し離れた堺筋沿い,堺筋と長堀橋のちょうど間くらいに建つレストランは,1931 年に建てられた銀行建築を2001年にコンバージョンしたもの。今でこそ大阪ではレトロ建築を使ったカフェやレストランがブームのようになっているが,堺筋倶楽部はかなり早い時期の事例といえる。1階は元営業室の高い天井を活かしたイタリアン,2階と3階は役員室や電話交換室,金庫室といった小部屋をうまく活用したフレンチとなっている。また4 階にはバンケットルームもあり,施設全体を使ったウェディングも可能。(T)
 
 

Ⅵ 先端をゆく商業建築:楽しむまちミナミ・心斎橋とその周辺

 
天井や柱といった内部の装飾も見事な大阪を代表するアール・デコ建築の傑作
 
大丸心斎橋店本店
 
旧 称:大丸百貨店大阪店
所在地:大阪市中央区心斎橋筋1-7-1
建設年:1922〜1933 年
構造・規模:RC 造7 階,地下2階(後年に8 階増築)
設 計:ヴォーリズ建築事務所(ウィリアム・メレル・ヴォーリズ)


アメリカ生まれの建築家ウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計を手がけたデパートの名作。とりわけ教会や学校,住宅といった人々が集う空間の設計の巧さには定評がある彼らしく,北西角の塔から玄関上部のレリーフ,内部装飾に至るまで,華やかな演出によって来客者の気分を盛り立てている。当初からの改変も全体の雰囲気を尊重している。アール・デコの装飾の下では,今日も市民が行き交う。消費の街・大阪に無くてはならない存在だ。(K)
 
 
キャバレー閉店後も,若者による再評価が進むミナミの大型レジャービル
 
味園ユニバースビル
 
所在地:大阪市中央区千日前2-3-9
建設年:1955 年
構造・規模:S 造5 階,地下1階
設 計:志井銀次郎


昭和の夜を華やかに彩ったキャバレーも,その数は数えるほどとなった。1955 年にオープンした味園のキャバレー「ユニバース」は,1962 年の米LIFE 誌に見開きで取り上げられ,1000 人の客を飲み込む大空間は,「JAPAN’S BIGGEST CLUB」と紹介されて外国人観光客も多く訪れた。その後キャバレーは地下へと移り,ホテルやスナック街,サウナなど時代の要請に応じて改変を重ね,味園は総合レジャービルへと成長していった。残念ながらキャバレーは2011 年に営業を終了したが,インテリアを活かしたイベント会場として人気を集め,ライブイベントなどが開催されて若者による再評価が進んでいる。(T)
 
 
建築家・村野藤吾を支え続けた企業の本社ビル
外観の自由なデザインに圧倒される

 
浪花組本社ビル
 
所在地:大阪市中央区東心斎橋2-3-27
建設年:1964 年
構造・規模:SRC 造5 階,地下1階
設 計:村野・森建築事務所(村野藤吾)


関西を代表する建築家・村野藤吾の「村野らしさ」を語ろうとすると,作品を依頼したクライアントや作品をつくった職人といった村野以外の人の話もしなければいけないところにある。本作はその代表格。大正時代から続く左官業者の本社で,浪花組は村野建築の左官工事に多く関わっているが,それだけでなく,建築家としての成長を後押ししたクライアントでもあった。社長の中川貢は数寄屋造の自邸,経営に関わった今は無き「心斎橋プランタン」,各地の本支店など,生涯に8つの建物を村野に依頼した。そんな信頼感と職人技を基盤に,村野作品の中でも一二を争う技巧的な外観が生まれた。他者とのコミュニケーションの中で個性を発揮した「村野らしさ」の象徴である。(K)
 
 

Ⅶ 戦後大阪の都市改造:立体都市の実現

 
今や世界が注目するメイドインジャパン。カプセルホテル第1 号
 
スリープカプセル(カプセルイン大阪)
 
所在地:大阪市北区堂山町9-5  
建設年:1979 年  
構 造:−  
設 計:黒川紀章建築都市設計事務所


「カプセルホテル」は大阪から始まった。スリープカプセル一つの大きさは,奥行き190cm,幅90cm,高さ90cm。極小の空間に寝具をはじめ,時計・ラジオ・テレビまでも収めている。工場で一体成形されるスリープカプセルは外殻自体に十分な強度があるため,持ち込めば空間を宿泊施設に変えることができる。発案したのは,大阪でサウナを経営していた中野幸雄。快適な宿泊施設を安価に提供できないかと考え,大阪万博で目にした「住宅カプセル」の設計者である黒川紀章に設計を依頼した。黒川らしい曲線的なデザインを家具メーカーのコトブキが実現,1979 年に開業した「カプセルイン・大阪」を皮切りに,カプセルホテルという新たな業態は瞬く間に全国に拡がり,今では海外でも知られるようになった。(K)
 
 
誰もが知っている,決して触れることができない謎のデザイン
 
梅田吸気塔
 
所在地:大阪市北区曽根崎2-16
建設年:1963 年
構 造:S 造
設 計:村野・森建築事務所(村野藤吾)


大阪の玄関口・梅田にあっても,ステンレス板の硬質な輝きと,生き物を思わせる柔らかな曲面の奇妙な取り合わせに気付かない方もいるかもしれない。これは単なるモニュメントではなく,1963年に第一期工事が完成した梅田地下街の吸気塔として,建築家・村野藤吾の手によって設計された施設だ。1930年代から半世紀近く第一線にあり続けた巨匠の個性と,高度成長期の地下街建設ラッシュを反映した大阪らしい逸品。直線的なビル群に取り囲まれながら,静かな存在感を放っている。(K)
 
 

Ⅷ 大阪の都市居住:長屋,市街地住宅,タワーマンション等多彩な住まい

 
元銀行建築の格調高い意匠の外観を‘曳家工法’で保存した関西初のマンション
 
グランサンクタス淀屋橋
 
旧 称:大阪農工銀行
所在地:大阪市中央区今橋3-2-2
建設年:1918 年
構造・規模:RC 造13階,地下1階
設 計:辰野片岡建築事務所
改修設計(1929 年):國枝博   
建替設計(2013 年):IAO 竹田設計


電柱の地中化などプロムナード整備が進む三休橋筋の,中央公会堂にほど近い今橋に建つ高層分譲マンションのグランサンクタス淀屋橋は,1918年に建てられた銀行建築の敷地に,2013年に竣工した。建築家・辰野金吾率いる建築事務所が設計した当初の銀行は,赤いレンガ壁のいわゆる辰野式でデザインされていた。しかし10年後に建築家・國枝博によって大規模な改修工事が行われ,繊細で濃密なアラベスク模様のテラコッタの外観に一新された。マンションへの建て替えに際しては,その外壁を曳家工法で移動させて活用している。(T)
 
 
日本の高層集合住宅のパイオニア
マンモスアパートは市民の憧れだった

 
西長堀アパート
 
所在地:大阪市西区北堀江4-2-40
建設年:1958 年
構造・規模:RC 造
11 階,地下1 階
設 計:日本住宅公団大阪支所


戦後,良好な住宅の不足が問題となる中で,新たな住まいの形が模索された。西長堀アパートは,日本住宅公団が手がけた初の都市型高層住宅として,東京都・晴海高層アパートと共に1958 年に完成した。スタイリッシュな外観の中に,多彩な間取りを収めている。最先端の住居として人気を集め,作家の司馬遼太郎などの著名人が暮らしていたことでも知られる。晴海高層アパートはすでに取り壊されたが,こちらは健在。完成当時,長堀川はまだ埋め立てられておらず,現在の長堀通りに水面が拡がっていた。今もなお,工業化時代の清廉な都市生活のイメージは鮮明だ。(K)
 
 
 

おわりに

本市では,平成26年11月に『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2014』を開催した。このイベントは,‘生きた建築’の魅力に触れていただくことを目的とするもので,所有者をはじめ,地域・大学・企業等の協力により,「大阪セレクション」を中心に,普段は見ることができない建物内部の特別公開やツアー,演奏会,トークセミナーといった77のプログラムが原則無料で実現した。
 
‘生きた建築ミュージアム’の実現には,こうした民間との連携による取組みを継続・発展させ,より多くの方々,とりわけこどもたちに自分たちの都市を楽しんでもらうことが重要であると考えている。本事業推進のための有識者会議(大阪市生きた建築ミュージアム推進有識者会議)座長の橋爪紳也氏は,「都市は遺物を収める宝物館ではない。過去から現代,そして未来へとたえず創作を重ねることで産みだされる‘LIVINGHERITAGE’,すなわち‘生きた資産’をこれからも収め続けるミュージアムであると考える」と述べられている。今後も,‘生きた建築’を通して,前の世代から受け継ぎ,発展させてきた大阪の魅力をより広く発信していくことができるよう,一層の取組みを進めていきたい。誌面の関係で紹介できなかった「生きた建築ミュージアム・大阪セレクション」は,大阪市のホームページ(http://www.city.osaka.lg.jp/toshiseibi/page/0000266754.html)で紹介しているので,ぜひご覧いただきたい。
 
 
『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪2014』(平成26年11月1・2日開催)
 

【新井ビル】特別見学会にな らぶ参加者


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【大丸心斎橋店本館】営業後の夜間特別見学会

【生駒ビルヂング】建物オーナーによる建物内部の案内ツアー


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
【出典】


建築施工単価2015冬号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

同じカテゴリの新着記事

最新の記事5件

カテゴリ一覧

バックナンバー

話題の新商品