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浜松市環境部環境政策課

 

はじめに

浜松市は,首都圏と関西圏のほぼ中間に位置し,都市機能や先端技術産業が集積する都市部,都市近郊型農業が盛んな平野部,豊富な水資源に恵まれた沿岸部,広大な森林資源を擁する中山間地域があることから,国土縮図型都市と言われる。本市は江戸時代から続く綿織物と製材業をルーツとした地場産業が盛んで,繊維,楽器,輸送用機器の三大産業を中心とし,近年では産学官の連携を積極的に展開し,次世代自動車,光・電子技術関連などの高度な技術の集積が進みつつある。特に光技術産業については,愛知県豊橋市や長野県飯田市を含んだ広域で連携し,一大集積地を目指してその振興を図っている。
 
2014年には浜松市出身の天野浩名古屋大学教授が青色発光ダイオード(青色LED)研究の功績により,ノーベル物理学賞を受賞された。また,市内に本社を置く光学機器メーカーである浜松ホトニクス株式会社の技術は,2002年の小柴昌俊東京大学特別栄誉教授,2015年の梶田隆章東京大学教授の同賞受賞に大きく貢献した。
 
本市では,光技術・光産業のまちをPRするとともに,低炭素・省エネルギー社会の実現を図るべく,LED 照明の導入を進めている。
 
今回はその中でも主だったものとして,市で管理する施設のLED化,企業協賛を活用した公共施設へのLED照明設置,自治会が設置・管理する防犯灯のLED化,学校体育館などのLED化の各取り組みについて紹介する。また,今後の展望では,本年度から開始した事業として,市内の道路照明灯全てをLED灯へ更新する取り組みについて紹介する。
 
 

省エネルギー改修事業(環境政策課)

本市では,地球温暖化対策の推進に関する法律第20 条の3 の規定に基づき,「浜松市地球温暖化対策実行計画(事務事業編)」を策定し,浜松市役所が率先して自らが排出する温室効果ガスの抑制に取り組んでいる。
 
平成24年度から平成26年度の3年間を計画期間として設定した第3期計画では,浜松市役所の事務事業により排出する温室効果ガスの排出量を,平成26年度には平成17年度比で12%以上削減し,16万6,098t以下に減らすことを目標とした。さらに,「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」(以下,「省エネ法」)では,エネルギー使用原単位を中長期的にみて年平均1%以上改善することが求められている。施設から排出されるエネルギー起源の温室効果ガス排出量は,市役所における事務事業全体の排出量の半分以上を占めており,それを削減することは目標の達成に非常に重要である(図- 1)。
 

【図-1 浜 松市役所の事務事業により排出される温室効果ガ スの内訳】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
削減対策としては,施設の運用改善によるソフト面からの省エネ対策にとどまらず,照明設備や空調設備をはじめとしたハード面の省エネ改修を進めることにより大きな効果が期待できる。
 
平成24年10月に,当課と財務部門,公共建築部門で構成する,庁内横断組織「省エネルギー対策プロジェクトチーム」を立ち上げ,まずは費用対効果を考慮して「投資回収年数(※)10年以内」を前提とし,複数施設で一体的に実施可能な省エネ改修の手法について検討を行った。
 
足掛りとして平成24年度に283施設7,781個の白熱電球をLED電球などの高効率型へ更新する「さらば白熱電球! LED電球一括導入事業」を実施した。現在は,平成26年度から平成27年度にかけて,30施設約5,500 台の蛍光灯をLED照明に置き換える「LEDベースライト一括導入事業」を実施中である。同事業では,蛍光灯照明の使用時間などを勘案して更新範囲を設定の上,施工している。
 
LED照明への更新は,灯具だけではなく器具ごと交換を行っている。天井埋込型器具の場合,天井開口部の大きさに合うように,既存蛍光灯とLED照明で器具のサイズが一致するものを選択する(写真- 1)。
 

【写真-1 LED照明と蛍光灯】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しかし,中には既存蛍光灯器具が大きく,置き換えられる大きさのLED照明が市販されていないこともあった。このような場合には,器具のサイズに合うように天井補修を行った上で,最小限の器具を取り付けた(写真- 2)。
 

【写真-2 既 存蛍光灯器具と同じサイズのLED照明がない場 合,天井補修を行った】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
このほかLED照明以外では,電力の見える化とデマンド制御(※)により電力使用の最適化を図る「ビル・エネルギーマネジメントシステム導入事業」について,21施設を対象に実施した(表- 1)。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
一方で,各施設による省エネ対策への積極的な取り組みを図るため,環境政策課において省エネ改修に要する予算を一括して確保し,施設所管課と連携した体制づくりを行った。これにより施設所管課が主体となって省エネ改修を進めることができ,また,省エネに対する意識の向上を図ることができた。その一環で,水銀灯やメタルハライドランプのLED化を実施した(表- 2,図- 2)。
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

【図-2 施設所管課主体で行う省エネ改修の事務スキーム】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
以上の取り組みにより,平成26年度の浜松市役所の事務事業により排出する温室効果ガスの排出量は,平成17年度比12.9%減の16万4,453tとなり,第3期計画の「平成17年度比で12%以上削減し,16万6,098t以下に減らす」という目標を達成することができた。
 


※ 投資回収年数とは
改修に要した費用(設計費,工事費)を,それによって削減できる電気料金などの年間維持管理費で割って算定する指標。値が小さいほど費用対効果が高いといえる。
 
※デマンド制御とは
電力会社では,使用電力を30分ごとに計量しており,過去1年間の最大値を最大デマンドとして,基本料金を算定している。空調機器などを自動的に制御して最大デマンドを抑制することをデマンド制御といい,電力料金の低減を図ることができる。
 
 

企業協賛を活用したLED照明等設置事業(エネルギー政策課)

 
本事業は,太陽光発電と組み合わせたLED照明を,企業や団体からの寄付(設置工事,維持管理,移動または撤去に係る費用負担)により市で管理する施設に設置し,環境意識の高い企業や団体を顕彰するとともに,市で管理する施設を利用する市民の環境意識を啓発することを目的としている。
 
LED照明にはCO2の排出抑制を呼びかける内容とともに,協賛する企業や団体の名称が表示された銘板が付設される(写真- 3)。
 

【写真-3 LED照明と銘板】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
また,市のホームページにてその内容が紹介されるなど,企業や団体にとっては活動をPRする機会となる(図-3)。
 

【図-3 企業協賛を活用したLED照明等設置事業のスキーム】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
平成26年度までに14件の寄付があり,16台のLED照明を設置した。
 
 

防犯灯設置維持管理助成事業(市民協働・地域政策課)

 
地域の安全と防犯を目的として,市内のそれぞれの自治会が防犯灯を設置・管理している。本市では,自治会に対し防犯灯設置費と,電気料金や補修費などの維持管理費を補助しているが,平成23年度から省エネルギー化と温室効果ガス排出抑制を目的にLED灯の設置を促進すべく加算補助を開始した。
 
防犯灯のLED化を図ることで,電気料金の削減が見込まれることに加え,LED灯の光源寿命が蛍光灯に比べ約7倍長いことから,電球交換に要するコストの削減も見込まれる。
 
本市ではLED化をさらに推進するため,平成25年度からはLED灯の新規または更新設置のみを補助対象とした上で金額を増額し,市内全ての防犯灯約6万5,000灯について,平成29年度までの5年間でLED灯への置き換えを進めている(表- 3)。
 

 
 

公共建築物非構造部材落下防止対策(公共建築課)

平成23年の東日本大震災において,体育館や音楽ホールなどの天井が脱落し,甚大な被害をもたらした。これを受けて,文部科学省や国土交通省から,吊り天井や照明器具などの非構造部材について落下防止対策を講じるよう要請があり,本市においても,これまでに調査・点検を実施してきた。特に学校や協働センターの付設体育館は,災害時に地域の避難所として活用されることもあり,対応が求められた。
 
具体的には吊り天井を撤去し,必要に応じて,軽量天井を再設置した。照明器具についても一度天井から取り外すこととなるため,水銀灯やメタルハライドランプからLED照明への切り替えを併せて行った(写真- 4)。
 

【写真-4 吊り天井と照明の改修前後】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
平成26年度に学校付設の11体育館,平成27年度に協働センター付設の24体育館について,対策工事を実施の上,照明のLED 化を行った。
 
なお,公共建築課では平成25年度以降,公共建築物の新設時または大規模改修に際し,LED照明の導入を基本とすることを方針としている。
 
 

今後の展望

 
本市では,平成26年度に「浜松市地球温暖化対策実行計画(事務事業編)」の第4期計画を策定した。その中で,平成32年度までに浜松市役所の事務事業に伴う温室効果ガス排出量を平成25年度比で12%削減することを目標として掲げた。
 
新たな目標の達成に向け,照明器具のLED化や空調用ファン・ポンプなどのインバータ化をはじめ,市で管理する施設の省エネ対策を継続して実施していくことが必要となる。
 
さらなる一手として,平成31年度までに市内に設置されている道路照明灯約1万2,000基を,全てLED照明灯に更新する「道路照明灯LED化更新事業」(道路課)を計画しており,本年度から事業が動き出している。
 
消費電力の抑制により環境負荷低減を図ることに加え,LED照明灯の寿命が15年程度と見込まれることから,水銀灯やナトリウムランプと比べ,維持管理コストを縮減できることが期待される。仮に市内の約1万2,000基全てをLED照明灯に交換した場合,電気料金と保守料を合わせて年間約4,800万円のコスト削減効果があると試算されている。
 
道路照明灯のうち支柱の劣化度合が大きい箇所を優先し,支柱の更新と合わせて面的整備を実施する。一方,劣化度合が小さい箇所については,水銀灯を優先に灯具のLED化を実施する(写真-5)。
 

【写真-5 道路照明と損傷状況】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
また,道路照明灯をLED化することの副次的な効果として,道路全体がはっきりと見え,横断歩行者などの発見に優れた効果があるといわれる(写真- 6)。
 

【写真-6 LED照明灯とナトリウム灯の比較】


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
本市では交通事故防止対策に注力しているところであり,一役買うことが期待される。
 
今後は道路照明灯に限らず,施設における照明器具についても,安定器などの経年劣化により更新が必要になることが想定される。また,白熱電球同様,蛍光灯照明も製造中止になれば, 最終的にはLED照明へ更新されることになる。しかし,省エネ法の要請や温室効果ガス排出量削減目標を考慮すると,器具故障による更新のタイミングを待つのではなく,攻めの姿勢でLED照明を導入し,省エネ対策と低炭素化を図ることが必要であると考える。
 
また,市で管理する施設のLED照明への更新と合わせて,市域への普及を進め,「LEDが灯すノーベル賞のまち」を実現するとともに,光技術・光産業のまちとして全国へのPR にもつなげていきたい。
 
 
 
【出典】


建築施工単価2016冬号

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

最終更新日:2016-09-27

 

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