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ホーム > 建設情報クリップ > 積算資料公表価格版 > 特集 公園・緑化・体育施設 > 「TOKYO GREEN 2020 推進会議」 オリンピック・ パラリンピックを契機に東京に緑のレガシーを

はじめに

2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催まで4年となった。リオが終われば不退転のモードになるだろう。いい意味で本腰となればよいのだが,やるしかないとばかり,力だけで押し切るようなことになると,いつか来た道になってしまう。そこで時間は切迫してきたのだが,TOKYO GREEN 2020推進会議では,行動宣言を公表することで,常にそれを忘れずにここの取り組みを具体化してゆこうという決意を固めている。
 
推進会議の目指すところは,「防災・景観」「歴史・文化」「健康・福祉」等の観点から,水と緑を基軸としたグリーン インフラの再構築を図り,自然共生都市東京を実現しようというものである。これは世界中の成熟都市が抱える都市環境問題を短時間で集中的に解決に導く壮大な実験でもある。テーマは,高密で高効率な集積の一方で環境負荷の最小化を図ることができないか,世界の人々が集い交流する賑わいと活力に満ちたサステイナブルシティがつくれないかという2つに集約できる。
 
このテーマへの取組み視点と,実現に向けての実践方向には,多くの提案や意見があるが,都市生活者の生活目標と結びつけると,水と緑がネットワークした防災機能の強化と,安全・安心を実現インクルーシブなデザインの推進であり,生物多様性を量的,質的に向上させ,より身近でより豊かな自然との触れ合いを可能にする,スポーツレクリエーション空間の多彩な展開と連携を図ることにより健康ライフを楽しむ機会を確保することである。
 
これらの点は,オリンピック・パラリンピック開催を契機とするだけでなく,計画的に実現すべき公園緑地の政策課題なのであるが,スポーツの祭典が国家的事業として展開されるこの機会を,水と緑の環境整備の原動力として活用することに,多くの賛同と支持がえられるだろうことは,歴史的に見ても疑いない。
 
 

国家的出来事とともにあった公園緑地

1873年の太政官布達第16号により,江戸時代の名勝,旧跡あるいは市民のレクリエーション地などが公園という名称でよばれ一般に利用されるようになっていった。上野公園や王子の飛鳥山公園である。不燃化された近代的街づくりを目指した1888年の東京市区改正条例により,日比谷公園が生まれた。明治の時代が終わりを遂げ,明治神宮内外苑が整備された。震災復興事業の一環で元町公園などが各所に整備され,戦時色が強まると東京緑地計画で環状に描かれていた緑は防空緑地へと変わっていった。それらは戦後わずかに残り,都心縁辺部の水元公園や世田谷の砧緑地として整備された。また戦災復興区画整理事業で各所に児童公園や近隣公園が造られていった。公園緑地の成立と発達は,国の大きな出来事と強い関連性を持っていた。
 
そして1964年の東京オリンピックである。日本の国際社会への復帰,高度経済成長への足掛けとして期待された国家的事業でもあった。第二会場として新たに整備されたのが駒沢オリンピック公園で,主会場の神宮外苑の国立霞ヶ丘競技場は,観客席数の増設でスタンドは違法性が指摘されるほど道路に被さった。風致地区でありながら大会後には施設が整備される事態も発生した。隣接地に国立代々木競技場が立地する代々木公園は,旧陸軍の練兵場で,復興都市計画緑地として決定されていたところであるが,一部は選手村として使用され,今日ではオリンピック記念青少年センターや代々木ユースホステルとして利用されている。後述するように,国家的出来事のオリンピックによる公園への光と影だったと指摘3)する向きもある。
 
 

緑の基本計画を実行・実現する絶好の機会

都市緑地法で定められた法定計画である緑の基本計画は,緑地の保全と緑化の推進を総合的,計画的に実施する,いわば緑の都市計画といえるもので東京都も持っている。実行に際しては土地取得や多くの調整事項をクリアする必要があるため,他の公共団体でも計画が止まっている施策や進行が遅れている事業も少なくない。とすれば,オリンピックは,緑の基本計画に示された施策を強力に進める上でまたとない好機になる。
 
東京都の緑の基本計画は,見直し作業の最中にあり,近いうちに中間の取りまとめが示されるという。それを待つ間,2006年12月に都が策定した「10年後の東京」で示された2016年までに実現すべきとされている緑に関する課題を列挙してみよう。新たに1,000haの緑を創出する,街路樹を100万本に倍増,あらゆる手法を駆使して既存の緑を保全する。その施策として,緑化計画書制度,開発許可制度の強化,既存建築物における緑化の推進,緑化の質を評価する制度の導入,既存の緑の保全とネットワーク化,学校校庭の芝生化,都市公園・海上公園の整備,水辺の緑化,すきま緑化,市街地内における農地の保全,生産緑地の活用による保全,都民や企業など様々な主体による緑のムーブメントの展開,緑を身近に楽しむライフスタイルの普及など多くの行政課題があげられている。
 

図-1 2020東京オリンピック・パラリンピックに向けては,海上公園を回遊式にネットワーク化する計画が進められている




 
 
これらの施策が十分に展開され目標が達成できたか,施策の効果が上がったかの検証が見直し計画策定の中で必要であるが,この間に,市街地のヒートアイランド化は顕著になり,局所的集中豪雨も多発するなど,都市気象の不安定化が進行し,またそこに住み働く人々の生活の質が高まっているとは言えない状況が高まってきたこと,都市力の世界比較で東京が低迷していることなどを見ると,都市環境を改善し,美しい都市景観を創出するために,緑豊かな都市として再生していくことがオリンピックに向けて,またオリンピック後への最優先課題であることは間違いない。
 

図-2 官民が連携して主体的に取り組み,緑のレガシーとしたい 内容と,その後の継続により発展充実させたい取組み




 
 

「TOKYO GREEN 2020 推進会議」が目指すもの

この推進会議は,オリンピック・パラリンピック開催を契機として,水と緑を基軸としたグリーン インフラの再構築を図り,緑豊かな自然共生都市東京を実現するための活動を積極的に推進することを目的に,2014年9月に緑関係9団体を構成団体として立ち上げられた運動体である。その発案者であり事務局を担当している国交省都市局公園緑地・景観課の町田緑地環境室長の報告7)があるので詳細はそちらに譲り,ここでは立ち上げ時点からその後の展開,すなわちキックオフフォーラムから最新の第3回フォーラムまでの概略を紹介しておく。
 
第1回のフォーラムでは,会議を支えている構成団体あるいは関連団体が進めている事業の中から,オリンピックを意識した取組みが紹介された。推進会議として特に主体的に実現を目指すべきではないかと提案されたのが,マラソンコースを軸とした水と緑と花の回廊形成である。世界から注視されるマラソンレースは,東京を象徴する著名なスポットを巡るコースが提案されているが,この都心のコースを中心としてどれだけの環境整備ができるのか,推進会議として関係行政機関や沿道の施設管理者,民間事業者等へ働きかけを行い,また自らも整備事業の実施主体として参加し,実現を目指したいという強い意志表示があった。環境再整備への具体的手法として,街路樹の充実,おもてなし空間となる都市公園や文化財公園の再生整備あるいは復元的整備,道路構造物や地下鉄の出入り口などの緑化,民間の建築敷地等において休憩スペースとなる緑のキオスク,ファニチャー,サインの整備等,良好な緑環境と好ましい景観形成のために取り組むべき多彩な提案がなされた。
 
2015年4月には第2回のフォーラムが開催され,気鋭のプレゼンテータから基本的な課題が提示され,緑の環境づくりを進めていくための「5つの戦略」としてまとめられた。それらは以下のように要約できる。
 
①江戸から続く東京の緑の歴史と文化を継承し守り伝える。特に,東京の緑の構造を規定し,守ってきた制度的,計画的枠組みを共有の理解とする。
 
②東京の緑の将来ビジョンを,様々な技術分野との連携を図りながら,主導的,戦略的に策定しこれを実現する。特に,東京全体の総合的な緑の長期プランを,細部レベルの視点も留意しながら策定し,実現に向けて導く。
 
③これからの東京や日本の都市の資産価値を向上する緑の将来ビジョンを社会や海外に向けてアピールする。特に,都市のパーツとしてではなく,都市のテーマとして緑が語られる(ような)ランドスケープイニシアティブの(確実な)展開を図る。( )は筆者注。
 
④祭典の場としての,もてなしやイベントのための装飾的な花や緑にとどまることなく,2020年までに具体的な緑のベンチマークを残し,2020年を超えて生活文化の基盤としての緑を推進していく枠組みを構築する。特に,文化,暮らし,生態系,風格などの効果を発揮する多様な緑が,2020年のレガシーとして創出・保全され続ける枠組みを継続的に維持する。
 
⑤子供から高齢者まで,心身の健康を育むヘルシーなライフスタイルを,スポーツを通じて,また食(農)も含めた生活文化として実現する。特に,緑の環境とスポーツライフスタイルを融合させ,誰でもが容易に参加できるライフスタイルを実現する都市環境づくりを目指す。
 
第3回のフォーラムは2015年11月に日比谷図書文化館で開かれ,前の東京オリンピックの際に,造園・ランドスケープの分野で活躍されていたレジェンドともいうべき大家から,1964の記憶と2020・未来に向けたメッセージと題した話題提供があった。中でも田畑氏2)は,前のオリンピック以降の東京は,自然歴史文化空間の喪失が続いた。したがって今回は,ランドスケープの再構築を目指すべきであり,水と緑を軸として都市構造を考えると,玉川上水と分水網の再評価と保全という課題が浮かびあがると発言した。また樋渡氏3)は,オリンピックといういわば国家的事業のもつプラス面とマイナス面を注視し,自身も東京都の業務の中で関与された代々木公園を事例にとりあげた。この場所は,昭和21年付戦災復興院告示第14号で決定された都市計画緑地であり,東京オリンピック時には選手村となり,大会後は森林公園として整備することが閣議決定されたところであるが,その後も都市基盤整備の圧力がありながら,緑地として今日まで保全できたのは,明治神宮と一体の計画区域であったこと,国有地であったことが幸いしたと指摘した。しかし神宮外苑のほうは,風致地区でありながら,「再開発等促進区」「沿道再開発等促進地区」に係る地区計画などにより自然と環境の調和の下に施設の整備が可能であり,またそうすべきであることが打ち出され,実際にも施設が入り込んでいる。
 
このような状況を振り返ると,大会終了後には神宮の森を再生し,森に囲まれた施設とし,神宮や明治公園付近を源流とする渋谷川を復活させ水循環を回復させるという想い6)を,大切にしたい。国立霞ヶ丘競技場の設計の見直しばかりが注目されることは,これまでのいきさつから今はやむを得ないとしても,この場所では,外苑全体の補修とリニューアル,表参道から外苑前駅までの青山通りをふくむ沿道地域や界隈の緑の充実と景観整備が重要になることに気づかねばならない。
 

図-3 21世紀をリードする環境都市東京に向けて,オリンピック・ パラリンピックを契機とした恒久的施設の整備。関連社会基盤整 備と連携した水と緑の整備を進め,首都東京らしさを醸成する主 要ポイントの環境形成の全体像

 


 
 

オリンピックレガシーと緑のコアプロジェクト

オリンピック・パラリンピックを契機に緑の創出と再生を図り,それを遺産(レガシー)として確実に継承してゆく。このことは,いずれほかの都市に対しても,都市の環境再生にむけて貢献する力となる。それには,表層的な一過性の装飾的事業だけで終わらせるのではなく,イベントが誘引する力強い事業として,人々の記憶に深く刻まれ,永続性のある機能と構造が共鳴する事業となるようなものを考え出したいものだ。それが定着すれば,緑のライフスタイルとでも呼ぶべき,新しい様式が創造されるだろう。
 
 

オリンピックは成熟した都市構造を変えた

競技会場の配置に注目すると,これまでのオリンピック大会は3つに大別できる。アトランタ,ロスアンジェルス,メキシコシティなどの分散型施設配置と,ロンドン,北京,シドニーなどの集中型施設配置で,開催都市名から推察されるように,どちらかというと前者はやや古いタイプの計画で,後者が最近のものである。1964年の東京大会は,自転車,射撃,ヨット,カヌーなどが競技の性質上から都心から離れた会場で行われたので,中間型の多極集中分散型配置といえよう。同様の配置は,1992年のバルセロナでも見られたが,東京と異なるのは,大会以前から胚胎しつつあったコミュニティレベルでの環境である。改善をもとめる住民活動が盛んで,それを支える専門家集団の一体となった運動がオリンピックの実施により一気に花開き,その後の都市戦略の方向性を導いたという点である4)。前の東京大会は高度経済成長の路線上にあったが,バルセロナ大会では,市場原理では動きづらい地区の再整備を主眼に置いた都市構造の抜本的な再編が構想され,進められていったという。
 
エリザベス二世オリンピックパークを中心に大会が行われた集中型のロンドン大会では,このエリアが2000年代のロンドン計画で都市再生が期待されていたエリアで,グリーン インフラの戦略ネットワークを構成する不可欠の要素として位置づけられていた。東ロンドングリーングリッドと呼ばれる計画で,市街地と公園を縫合する,歩車分離の持続可能な交通手段グリーントラベルが実現された。この緑のプランの根底にある都市政策コンセプトは,ソーシアル インクルージョンの強化で,福祉,教育,住宅,生活の楽しみを向上させることであった。5)
 
 

2020への課題と提案

招致プランよりは施設が分散したものの,コンパクト オリンピックがテーマの2020東京大会は,内陸のヘリテージゾーンと臨海部のベイエリアゾーンへの集中型配置である。大規模なイベントと装飾的な華やかさに終始するのではなく,東京に欠けている,スポーツ,文化芸術,都市公園,街並みなどを,オリンピックによりこれらを補い,成熟社会における生活の豊かさを享受できる街へと変えることができるかが求められている。道路と鉄道を軸とした前のオリンピックの時代の都市構造論から,水と緑を軸とした2020年オリンピック・パラリンピックにふさわしい都市構造論へ転換し,装飾的で仮設的な緑と花だけではない,成熟都市東京のアーバングリーン インフラストラクチャーの構築への道筋に世界が注目するだろう。
 
内陸部は各所で進められている都市改造型の再開発事業の中に,骨太の緑再生プランが提示できるかが課題である。たとえば市ヶ谷の大日本印刷のリニューアルでは,自然の大地と人工地盤が連続した上に,“美しい雑木林”市ヶ谷の杜が完成した。開放型のこの敷地は地域に開かれた大きな緑として成長していくことを期待したい。
 
開発途上の臨海部にはさらに大胆な提案が欲しい。東京都の港湾計画では,水と緑,生物生息環境ネットワークの拡充とともに,歴史や文化の継承の場の創出,海と陸との一体性を確保した空間整備を推進するとしている。また臨海部において,積極的な親水性をもった自然に親しむ公園として海浜公園やふ頭公園とそれらをつなぐ緑道公園などの整備事業が進められている。最近では,風の道の起点となり,資源循環の機能をも担う森づくりということで,多様な主体が参加して進められている。オリンピックのベイエリアゾーンへの関心がこのような形で持続することが,持続型の都市づくりへの力となる。
 

図-5 風の道




 
 
オリンピック開催にむけて勢いをつけたいのが,海上公園を緑の歩行者専用道路と自転車専用道路で回遊式につなげるというアイディアである。そこにはセグウェイのような自走式の歩行補助機や電動式車椅子など実用化されている乗り物が自由に走れる特区を設ける。そして東京港の各ふ頭とオリンピック会場との間を待たずに連絡する水陸両用車網を運行し,陸上と水上からの臨海景観を緑で修景し,都市力アップにつなげたい。
 

図-6 地下鉄への入り口部分への緑化

 

図-7 公共トイレへの緑化

 

図-8 グリーンパーキングの導入。技術開 発が積極的に行われ,評価される新技術も 増えてきた




 

図-9 横断歩道橋の側壁,高架橋のピア などへの立体緑化技術の適用

 

図-10 休憩・休息スペース,売店,自販機コー ナーなどのサービス施設への緑化,ドライミス ト装置の設置,太陽光発電パネルの活用を随所 に展開し,スマートシティへのイメージ戦略を 推進する




 
 

【参考文献】

1) 白井宏昌:オリンピックと都市再編 その歴史的変遷。ランドスケープ研究79(3),197-199.2015
2) 田畑貞壽:1964年造園界が目指したこと その成果と2020年に向けたランドスケーププロジェクトの推進.
  ランドスケープ研究79(3),200-202.2015
3) 樋渡達也:1964年東京オリンピックの光と影 代々木公園.ランドスケープ研究79(3),203-208.2015
4) 阿部大輔:オリンピックを文脈化する バルセロナの景観からの考察.ランドスケープ研究79(3),209-212.2015
5) 木下剛:ロンドンオリンピックが残したもの グリーンインフラの戦略ネットワークの形成を通じた地域の再生.
  ランドスケープ研究79(3),213-215.2015
6) 石川幹子:新国立競技場から東京2020を考える.ランドスケープ研究79(3),224-225.2015
7) 町田 誠:「TOKYO GREEN 2020 推進会議」が目指すもの.ランドスケープ研究79(3),226-227.2015gu
 
 
 

公益財団法人都市緑化機構 理事長、TOKYO GREEN 2020 推進会議 会長 輿水 肇

 
 
【出典】


積算資料公表価格版2016年08月号



 

最終更新日:2023-07-11

 

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