1 はじめに
首都高・横浜北線(横羽線〜第三京浜)(以下,横浜北線)は,「横浜環状北線」として建設事業を進めてきた路線で2017年3月の開通に向けて工事が大詰めを迎えている。横浜北線は,・横羽線の生麦JCTから第三京浜道路の横浜港北JCTを結ぶ約8.2kmの路線であり,両端のJCT部周辺は既存の横羽線・第三京浜の高架構造に合わせた高架構造,全長の約7割の約5.9kmは「横浜北トンネル」で,このうち約5.5kmをシールド工法により建設している。また,横浜北線には出入口が3カ所設置され,これらの出入口に接続する街路は関連街路として横浜市により新設・拡幅等の街路整備が実施されている(図- 1)。
本稿では,まず,横浜北線の開通により期待される効果を紹介し,橋梁部の特徴や架設工法,シールドトンネルの特徴,出入口部の非開削切り開き工法,換気所の設計・施工について述べる。また,横浜北トンネルにおいて首都高速道路で初めて採用したすべり台方式の非常口を紹介する。
2 開通により期待される効果(暮らしに役立つ高速道路ネットワーク/安心とにぎわいのために)
横浜北線の開通により期待される効果は,横浜市北部と横浜港,羽田空港とのアクセス性が向上することにより,物流の効率化や空港連絡バスの所要時間の短縮が見込まれる。また,多様なルート選択ができるようになり,例えば,突発的な事故や災害によって通行止めなどになった場合に,極端な遠回りをせずに,所要時間のロスを減らすことなどが期待される。
また,横浜環状北西線が開通すると,横浜北線と一体として機能することで,東名から横浜港への所要時間が大幅に短縮し,保土ヶ谷バイパスに集中する交通が分散するなどのさらなる効果が期待されている(図- 2)。
3 横浜北線の設計・施工事例
(1)生麦JCT
生麦JCTは横浜北線の最も東側に位置し,横浜北線,横羽線および大黒線を接続する4枝のJCT である。各路線を結ぶ連結路の一部は,県道6号東京大師横浜線や横羽線,大黒線の上空を跨またぐため,高架下に位置する道路を通行止にして架設した。
横羽線を跨ぐ橋桁は,横羽線を23時〜翌朝6時まで通行止めし,国内最大級となる1,250t吊りの超大型クレーンを使用して大ブロック一括架設工法により架設した。また,供用中の路線を規制しての架設となるため,工事ヤード内で事前に地組した橋桁を多軸式台車により地切位置に運搬して吊上げ架設するなど,周辺街路への交通影響を最小限に抑えるよう多種の架設工法を採用した(写真-1)。
(2)鉄道交差部
生麦JCTから子安台換気所へ向かう途中,京浜東北線や東海道本線などのJR線や京浜急行線など鉄道営業線10線に加え,国道,市道を跨ぐ約300mの高架区間については,東日本旅客鉄道株式会社への委託工事として施工した。高速本線の上下線として2本,この上下線のそれぞれに接続する出口・入口の連結路が4本,関連街路の岸谷生麦線の上下線の2本,合計8路線が分合流する曲線桁を鉄道上等に架設する工事となった。橋桁の架設作業は終電から初電までの数時間に限られるため,主に送り出し架設工法が採用された(写真- 2)。
(3)シールドトンネル
横浜北線8.2kmの約7割に当たる5.9kmは,トンネル構造となっている。このうち約5.5kmは,シールド工法により建設し,新横浜立坑から平成2010年秋に上下線の2基のシールドが発進し,上り線シールドは2013年秋,下り線シールドは平成2014年春に到達,おおむね3年から3年半をかけて子安台立坑に到達している。
シールドマシンは,外径約12.5m,長さ約11.5m,重量は約2,000tの泥土圧式シールドマシンを用いた。セグメントは,ポリプロピレン繊維を混入した耐火性の高い厚さ40cmのSFRC(鋼繊維補強高流動コンクリート)セグメントを使用しており,耐火試験により火災時のセグメントの耐火力を確認している。これにより,二次覆工を省略してシールド径の縮小を図った(写真-3,4)。
(4) 馬場出入口における本線シールドの地中拡幅部
馬場出入口の4カ所の分合流部は,本線シールドトンネル内から非開削で地中拡幅する工法を採用した。この4カ所の地中拡幅の延長は約150〜約220mである。
まず,地中拡幅始端部の本線シールド外周にパイプルーフを施工するための発進基地となる空間を拡大シールドにより構築する。この拡大シールドは,本線シールドの下部に立坑を構築し,その立坑内で矩形の拡大シールド機を組み立て,本線シールドの外周を円周方向に掘進し,本線セグメントと拡大セグメントの内周側を撤去することで,拡大された空間を確保するものである(図-3および写真-5)。
次に,この拡大空間をパイプルーフ発進基地とし,トンネル軸方向に大口径パイプルーフ(φ 1,200mm,27本)を施工する。このパイプルーフは,各ランプの地山切開き時の支保工として,また,切開き部外周を止水するための薬液注入工の作業エリアとして構築するものである。パイプルーフ間の地山にはパイプルーフ内から薬液注入を行い,本線シールドトンネル,パイプルーフ,薬液注入されたパイプルーフ間の地山,さらに薬液注入された地中拡幅部と止水隔壁部からなる遮水ゾーンを構築する。
遮水ゾーン構築後,トンネル軸方向に4〜8m幅で本線シールドを切り開き,パイプルーフで覆われた地山を拡幅掘削する。拡幅掘削部には,本設構造となる覆工コンクリートを施工し,必要強度が確保された後に隣接するブロックの掘削を行う。これらを繰り返すことで,鉄筋コンクリート構造の楕円形躯体を構築した(図- 4)。
(5)換気所
約5.9kmの横浜北トンネルには,トンネル内を安全で快適に走行できる環境を保つため,3カ所の換気所を設置している。換気所のデザインは,周辺の環境を考慮して個々にデザイン方針を定めた。新横浜換気所は,「鶴見川の開放的な風景との調和に配慮しつつ,新しい街並みづくりを支えるデザイン」。馬場換気所は,「閑静な住宅地の緑に溶け込む換気所のデザイン」。子安台換気所は,「学校のある住宅地に囲まれた子安台公園になじむデザイン」とし,それぞれ近隣にお住まいの方々を対象としたアンケート調査の結果を踏まえ,景観等の専門家の意見を参考にしながら,街並みに溶け込む外観を目指した。
換気所の構造形式等を図- 5に示す。
馬場換気所および子安台換気所では,首都高建築として初となる,着色コンクリート(コンクリートの表面塗装と比較すると,質感を生かした色彩のあるコンクリート)を採用した。
(6)大熊川トラス橋
大熊川トラス橋は,横浜港北JCTから新横浜出入口間において鶴見川に並行し大熊川を渡河する単純鋼床版ダブルデッキワーレントラス橋である(写真- 8)。
架橋地点は,鶴見川,大熊川,江川の三つの河川が合流すること,堤防法面の自然環境への配慮,河川区域外への支保工の設置および非出水期間での施工が求められたことから,橋脚を河川内に設置しない約160mの支間長となった(図-6)。
なお,同形式の橋梁としては国内最大支間長であること,鶴見川沿いの景観との調和,高架からトンネルへの縦断勾配を付した特徴的な橋梁である点などから,2015年度の土木学会田中賞(作品部門)を受賞した。
(7)横浜港北JCT
横浜港北JCTは,横浜北線と第三京浜を接続する高架構造のJCTである。横浜北線と接続する連結路の桁は本線部と同様の2層式高架橋となっており,第三京浜の本線,港北ICの連結路と料金所,横浜市道新横浜元石川線とオーバークロスしながら第三京浜と横浜北線の本線とを接続している。
第三京浜との接続部は料金所拡幅部を含む高架橋で,横浜市道新横浜元石川線と交差している。高架橋の架設工事にあたっては市道の通行止めを避けるため,道路中央部にベントを設置し,2回に分けて大ブロック一括架設を行った。
第三京浜と交差するランプ桁は,第三京浜の本線を夜間に通行止めにした上で,大ブロック一括架設を行った。2層式高架橋のため,架設は2回に分けて行った。
架設した径間は立体ラーメン橋の中間径間で,セットバック等のスパン調整ができないため,片側の鋼製橋脚に引張装置を設置して架設時のスパン調整を行った。
(8)トンネル防災設備
横浜北線のトンネル内は,火災やその他の災害が発生した場合には各種センサーによりいち早く検知し避難誘導や初期消火を行うための防災設備が設置されている。その設備の中で代表的な自動火災検知器,拡声放送設備および泡消火設備について紹介する(図- 7)。
(9)すべり台方式非常口
トンネル区間の大部分は,通常時に車が走行する車道部と,緊急時に人が避難する道路下安全空間の2層構造となっている。この2層をつなぐ非常口は首都高で初めての「すべり台方式」を採用しており,災害時は本線からすべり台を使用して道路下の避難通路(安全空間)へ避難する計画である(写真- 10)。
横浜北線のトンネルは,主にシールド工法によって築造されており,狭きょう隘あいな空間においても必要な避難通路を確保できる構造として,すべり台方式を採用した。この避難施設は,実物大模型実験にて安全性・使いやすさ・バリアフリー等の観点から検証を行い,基本的な構造を決定している。
事故や火災など万が一の場合にお客様の安全を確保するために,本避難施設を採用し避難計画を策定している。
4 おわりに
横浜北線は,2001年度に事業化し,約15年間にわたって建設事業を進めてきた。家屋の移転を少なくし,周辺環境を保全するため,全線の約7割をトンネル構造としたことや,河川や鉄道・道路の交通への影響を少なくする橋梁架設工法を活用するなどの取り組みを行ってきた。
事業を進める過程においては,関係する鉄道・道路等の事業者の協力を得ながら施工を進めたこと,トンネル上や周辺にお住まいの方々の安全・安心のために,地盤の状況について学識経験者の意見を聞きながら工事を進めたことなど,関係者の皆様の多大なご協力をいただいた。この場をお借りして関係者の皆様に改めて感謝を申し上げたい。
今後も引き続き,当建設局の所管する主要な事業である横浜環状北西線(第三京浜・横浜港北JCT〜東名高速・横浜青葉IC・JCT(仮称),延長約7.1km)の早期完成に向けて,共同事業者である横浜市と連携し,安全に着実に工事を進めていく。
筆者
首都高速道路株式会社 神奈川建設局
【出典】
積算資料2016年12月号
最終更新日:2017-03-21
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