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はじめに

社会資本の維持管理に対する需要が拡大基調にあることは論を待たない。例えば橋梁や河川管理施設については,建設後50年以上を経るものの割合は,2023年過ぎには4割以上にまで達すると言われ(表− 1),労働人口が減少する中で適切な維持管理を行っていくことが求められている。
 

表−1 建設後50年以上を経過する社会資本の割合




 
こういった状況の中で,国土交通省は平成25年(2013年)を「社会資本メンテナンス元年」と称し,橋梁,トンネル,ダムをはじめとした社会資本の点検を強力に推進する取り組みを始めた。
 
平成25年11月には,同年6月に閣議決定した「日本再興戦略」に基づき,老朽化対策に関する政府全体の取り組みとしてインフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議で「インフラ長寿命化基本計画」がとりまとめられ,ロードマップが策定された。この中で,「新技術の開発・導入等」として,劣化・損傷箇所の早期発見等に繋がる点検・診断技術の開発・導入に関しては図− 1の通り計画されている。
 

図−1 インフラ長寿命化基本計画のロードマップから「新技術の開発・導入」を抜粋




 
ロボット技術についての具体的な取り組みとしては,2013年度に,維持管理等の場面におけるニーズや分野を明確化するなど実用化に向けた方策を検討するため,国土交通省と経済産業省で連携して「次世代社会インフラ用ロボット開発・導入検討会」を局長級会合として設置・開催した他,2014年度から2カ年にわたり,民間企業や大学等の有用な技術を公募し,「次世代社会インフラ用ロボット現場検証委員会」により,現場検証と評価を実施し,活用に向けた取り組みと開発の両面を促進してきたところである。
 
本稿では,これらの取り組みのうち,特に最新の取り組みとして,平成27年度の「次世代社会インフラ用ロボット現場検証委員会」での検証結果について紹介する。
 
 

1. 次世代社会インフラ用ロボット検証事業の目的と概要

施工用機械では,遠隔操縦による水中施工用ブルドーザなどを契機とし,雲仙普賢岳での砂防堰堤施工で活躍した遠隔操縦バックホウやダンプ等,施工機械の遠隔操縦・制御というロボット技術活用の流れが存在した。また,i-Constructionにおける「ICTの全面的活用」の取り組みでは,施工機械のマシンコントロール機能やUAV写真測量を用いた出来形管理の導入など,施工効率向上の観点からの作業支援への広がりを背景に,建設施工分野でのロボット技術やICTの活用による安全や効率等の課題の解決に向けた動きが発展してきている。
 
一方,維持管理の分野においては,水中構造物を陸上から安全に映像で確認する水中機械が一部で活用されてきた流れがあるが,メンテナンス用ロボットの事業分野が築けているとは言い難い現状にある。
 
ロボット技術の導入が特に先行した工場内での「ものづくり」の分野では,高まる国際競争の中で,日本製品が高い価格競争力を持ちつつ,安定品質で大量に生産していくかという課題への意識や,ロボット技術へのニーズの高まりと,そのニーズ主導によるロボットの活用が,ロボット技術自体を花開かせた経緯があるとされ,ロボット技術の活用促進については,いわば,ユーザー・オリエンテッドな開発の動きが有益であるとされている。
 
雲仙普賢岳の災害時における遠隔操縦式のバックホウなども,それらの機械がなければ施工が安全に行えないという切実なニーズが主導し,ロボット技術の導入が進んだといえる。
 
よって,社会資本の維持管理や災害対応分野においても,ユーザー側のニーズを示し,その開発目標を一定のもとに定め,開発者に提示することが,開発の促進に有効であると推測される。
 
今までの社会資本維持管理分野では,工場などの安定した環境の中で繰り返しの作業の置き換えを行うような「ものづくり」分野でのロボット技術の導入スタイルとはかけ離れていて,千差万別の現場状況を背景に多種多様な構造物等の点検等に関して,ある一定のマーケットサイズを持つ特定のロボット技術ニーズを,具体的な開発目標を伴って提示することは容易ではなかったが,近年,各種インフラの点検が大規模に行われてきたこと,また,点検要領等の改定が重ねられ,具体的な解説と適用が整理されてきたことにより,いくつかのシーンにおいて,インフラ点検等におけるロボット活用の可能性が見えてきつつある。
 
そこで,この見えつつあるロボット活用シーンのうち,より具体的な活用可能性のあるシーンを選定し,広く技術の募集を行い,実験室でない実現場や現場サイズの模擬施設を用いた現場検証を行い,ニーズ主導の開発・導入サイクルを回すこととしたのが,「次世代社会インフラ用ロボット現場検証委員会」という活動である(図− 2)。
 

図−2 次世代社会インフラ用ロボット現場検証委員会の役割イメージ




 
この委員会では,インフラ点検等の現場で活用できるかどうかを検証しつつ,経済性も含めた評価を行う一方,すぐには活用に課題がある技術についても,その不足している点を開発者にフィードバックすることとし,ユーザーニーズを起点とした開発と導入の促進を目指している。
 
また,委員会では,技術個別の検証にとどまらず,その活用シーンをより具体化して,実業務に試行的な導入を行う活動も検証していくこととし,本格導入への筋道を一つなりともつけることを目的としている。
 
なお,検証委員会では,5つの重点分野に分かれて個別に検証を行っており,その分野を示したのが図− 3である。
 

図−3 次世代社会インフラ用ロボットの検討を行っている重点5分野




 
 

2. 次世代社会インフラ用ロボットの平成27 年度検証結果について

ここからは,平成27年度の検証結果全体の概要と,「橋梁維持管理分野」の検証状況の紹介を通じて,次世代社会インフラ用ロボットの技術動向をつかんでいただきたい。
 

2-1 結果全体概要−5 分野の全てにおいて活用が期待される技術があることを確認−

平成27年度の現場検証は,4月から約1か月間の期間をとって募集を行った。募集区分は,維持管理については3分野(橋梁点検,トンネル点検,水中点検),災害対応については2分野(災害調査,災害応急復旧)について,それぞれ募集技術内容を明示して公募し,実現場における一定のシナリオに基づいた検証を行った。なお,シナリオについては,全体の業務の流れは事前に提示するが,点検ポイントなどについてはその発見自体も検証項目であるため,事前情報を提示せずに厳しい条件の中で検証を行った。
 
この検証概要を表− 2にまとめた。
 

表−2 技術募集区分とそれらの応募技術数・検証数と検証評価結果の概要




 
この表− 2で,「Ⅰ」は,それぞれの募集区分ごとに若干の意味の違いがあるが,いずれも,活用の可能性が十分にあるという評価を得た場合につける評価で,各分野ともに検証数の半分弱が「Ⅰ」の評価を獲得し,平成26年度の検証に比べ,いずれの分野においても活用可能性の議論ができる技術が一定数存在しつつある状況が確認できた。これは,平成26年度に行った当該検証事業の中での指摘等を参考に,技術開発者が多くの改良の努力を積み重ねたことによる効果もあったものと推察される。
 
なお,応募技術数というのは,各提案者から提出された技術の数で,検証数とは,各募集技術区分の中にある検証対象区分数ごとに算定したものである。また,各分野における「&#8544」の意味の違いは,各検証分野における具体的な活用シーンの整理熟度によって記述され,橋梁やトンネル分野においては,シナリオの検討を追加して行う必要が強い分野であったため,「試行的導入に向けた検証を推奨」という表現に留まっている。
 

2-2 「橋梁維持管理分野」“総評”抜粋の紹介

次に,簡単にではあるが,検証状況の具体例として,橋梁維持管理分野での検証結果総評の抜粋を示す。橋梁は,災害調査等の本格導入フェーズにあるような先行する分野と比して,未だ試行的導入に向けた追加的整理を行う段階であるが,個別技術としては十分に活用の可能性が確認された技術があり,検証のプロセスを概観するのに適したものとして,ご覧いただきたい。なお,各5分野の検証シナリオ,評価項目,個別のロボットの評価については,次世代社会インフラ用ロボット開発・導入の推進にかかる各分野の報告書(http://www.mlit.go.jp/report/press/sogo15_hh_000149.html)をご覧いただきたい。また,個別技術の概要の詳しい説明は,(http://www.c-robotech.info/)をご参照いただきたい。
 

2-3 橋梁維持管理技術“総評”の抜粋

平成27年度の橋梁維持管理分野における現場検証では,各種ロボット技術が,コンクリート橋や鋼橋の「桁,床版,橋脚・橋台,支承部」について,目視や打音の一連の点検作業における『行く』,『見る・撮る』,『検出する』,『記録する』の各過程(図− 4)について,点検作業支援の可能性の確認や更なる活用に向けた課題を明らかにした。
 

図−4 橋梁点検の各過程と支援のイメージ




 
必要な情報を取得できる位置に接近する機能については,移動可能な広さ,動きの安定性の他,安全性,操作性,効率などを評価した。
 
今回検証対象とした技術では,『行く』機能は概ね実現されており,【飛行型】(無人航空機)は,移動範囲の広さ,速さに優位性がある一方で,主桁などで囲まれた空間への進入や安定性(特に耐風安定性),安全性については課題が見られたが,2カ年の現場検証を通じて安定性は大幅に向上し,また,空間認識や自律制御技術の導入,飛行体を球状のフレームで囲むことで点検対象物との接触を可能とする等の改良も進んでおり,今後も適用範囲の拡大が見込まれる。
 
そのほかには,桁や高欄からカメラ等を搭載した梁やワイヤーを吊り下げて用いる【懸架型】,搭乗型の台車あるいは特殊車両をベースとしたシステムである【車両型】,下からのアプローチで簡便性に優れる【ポール型】もあった。【その他の移動機構】として,壁面や橋桁に吸着して固定・移動する新しい機構として,点検ロボットへの適用の可能性が示されたが,これは実用までには小型化や信頼性の向上など,更なる改良が必要と考えられる(図− 5)。
 

図−5 各ロボットのアプローチのタイプ




 
『見る・撮る』では,目視検査の支援を目的としたカメラと打音検査を支援する打音装置などがあり,鮮明な画像の取得や損傷を見分けるデータの採取が求められる。
 
鮮明な画像の取得では,解像度やレンズなど「カメラ本体の性能」の他,移動機構に装着する際の「マウント方法」や「撮影方法での工夫」が品質を左右する。一般的には「カメラ本体の性能」はカメラの大きさや重さと比例するため,搭載する移動機構の性能や撮影対象の特性を踏まえた選択が必要である。今回は飛行型でも高性能カメラを搭載するものが多く,カメラの高性能化に合わせて進化する可能性が見て取れた。また,カメラの「マウント方法」,「撮影方法」はいくつかの技術のパターンに分かれているが,それら機能をバランス良く実現し,従来の点検員による撮影画像と比べても遜色ない画像が得られているものもある。
 
「打音検査装置」については,叩く,集音するといった機構は,ほぼ実用段階であることが確認されたが,被検査物表面の状態(風化状況や砂塵などの付着)やノイズの影響などについては十分な検証に至っていない。今後も継続した検証が必要である。
 
『検出する』については,画像や打音などのデータから損傷を識別し,損傷の程度を表す定量的(サイズや長さ等),定性的(色や表面状態等)な情報を解析することを求める。今回検証を行った範囲では,画像からコンクリートのひびわれを自動検出し,ひびわれ幅や長さなどの情報を得られるものもあったが,実用的な精度には至っていない(※画像から手作業で損傷を抽出,測定を行う応募者が多かった。)。
 
「打音」については,今回いくつか自動解析技術の検証を実施し,一部支援の可能性も見られたものの,検出した損傷を記録する方法についての対処が望まれる。なお,打音検査装置に代わる装置として,赤外線カメラによる損傷検出技術については,適用条件に制約はあるが,一定の損傷の検出は可能であることが確認された。
 
『検出する』作業は,今回の検証により点検作業全体の中で費用,手間の占める割合が大きく,この改良は効率の向上に大きく貢献することが見込まれる。画像利用,解析技術は異分野でも発展が見込まれる技術であり,そこで培われた技術の展開も含めて,今後の改良が期待される。
 
『記録する』について,今回の検証範囲では各応募者から提出された点検調書に記された損傷図と損傷写真が記録としての品質を有するかどうかで判定した。多くは一定の品質を有しており,点検への支援効果が認められたものもあった。なお,今回の評価は,現状の点検要領に基づく紙媒体の調書を基本としているが,近年の情報通信技術の進歩を鑑みると,コンピュータ上で画像データやCAD等の電子媒体の調書の実現も期待される。今回の検証でも,一部の応募者より撮影した2次元画像を,図− 6に示すような3次元化したモデルが,参考資料として提出された。今後,こうした最新技術を活用した管理方法についても検討されていくことが期待される。
 

図−6 3次元化モデルの例




 
 

おわりに─今後の活動について─

2.の検証結果にかかるところでは誌面の都合上,橋梁維持管理分野のみを紹介したが,1.で述べた通り,国土交通省では,今後,重点5分野について,それぞれ平成28年度以降に,「試行的導入に向けた検討」(「橋梁・トンネル」がこの段階),「試行的導入」(「水中維持管理」がこの段階),「本格導入」(「災害調査・災害応急復旧」がこの段階)の順にロボット技術による各作業の支援等の取り組みを進めていく予定である(図− 7)。
 

図−7 次世代社会インフラ用ロボットの開発・導入の流れ




 
本稿では紹介できなかったが,災害調査及び災害応急復旧分野のロボットについては,すでに活用が推薦され,一部のロボットは,すでに地方整備局にて災害協定を締結され,必要に応じた稼働が可能な状態となっているものも存在する(図−8)。
 

図−8 レーザスキャナを搭載したドローンの例(左が中日本航空(株),右がルーチェサーチ (株))




 
また,水中維持管理分野でのロボットでは,「?」の評価を受けた7技術を中心に,平成28年度に実際の業務での試行的活用によって導入の確認を行う「試行的導入」となっており,現在,現場での取り組みを進めているところである(図− 9)。
 

図−9 ダム設備・堤体等の水中点検を行うロボットの例(左からパナソニック(株),五洋 建設(株),(株)大林組)




 
当該取り組みにご協力・ご尽力いただいている関係者の皆様に感謝申し上げるとともに,ここで検証された次世代社会インフラ用ロボットだけでなく,これに続く各種ロボットが開発・導入され,社会資本メンテナンスの課題の解決に貢献するべく,さらに活動を進めていきたいと考えているところである。
 
 

国土交通省総合政策局公共事業企画調整課 課長補佐 大槻 崇

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年01月号 特集②



 

 

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