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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 北陸地方整備局におけるCIMの取り組みについて-大河津分水路の改修事業における事例-

 

はじめに

北陸地方整備局信濃川河川事務所では、平成27年度より大河津分水路の改修事業の調査・計画段階および設計段階においてCIMの試行に取り組んでいます。今回、その取組概要と現時点での成果を紹介します。
 
 

大河津分水路の改修事業とは

 大河津分水路は信濃川の洪水を日本海へ流すため造られた延長約9kmの放水路で、河口部は洪水を安全に流下させるための断面が不足している他、分水路建設後90年以上が経過し、施設の老朽化・機能低下も顕著になっています。これらのことから、信濃川水系全体の流下能力を向上させ、浸水被害の防止を図るため、平成27年度に大河津分水路の改修事業に着手したところです。本事業は、概ね18 年間という長期の事業工程の中で、山地部掘削、低水路拡幅、第二床固改築および野積橋架替を実施することとしています(図-1)。
 

図-1 大河津分水路 改修事業計画図




 
 

なぜ、CIMなのか

本事業は、多くのステークホルダーが存在する中、同時に複数の構造物の築造等を円滑に進める必要があります。そのため、事業の初期段階から各工事の特徴を捉え、想定される課題を解決しながら事業進捗を図ることが求められています。そこで平成27 年度は山地部掘削、平成28年度は山地部掘削、第二床固改築および野積橋架替の調査・計画段階および設計段階においてCIMを試行しています。
 
①複合的かつ大規模な事業
 
本事業では、複数の本設・仮設構造物を同時並行で施工することが予想され、施工上の干渉が懸念されます。また、長期にわたる事業のため、事業中の元設計に対して随時全体計画の修正が必要になる可能性があります。それらを極力回避、また、適切に対処するため関係者間において情報の共有、一元化を図ることが重要となります。
 
②多様な土質区分・長大法面の出現
 
山地部掘削では、1千万m3を超える大規模掘削を事業計画期間内で実施する必要があります。掘削地は多様な土質区分を持ち、脆弱な地層やスレーキング特性を有することに加え、掘削後は最大約100mの長大法面が出現します。そのため、既往情報を確実かつ的確に精査し法面対策工等の検討を行うことが重要となります。また、各年度の掘削範囲は、全体工程計画や土砂搬出先状況等に影響するため、計画変更に応じ速やかに岩種別の掘削土量を把握し、必要となる法面対策工の検討を迅速かつ的確に実施することが求められます。 
 
これらの要求事項を満足しつつ、設計および施工計画の立案を効率的・効果的に実施するため、3次元施工ステップモデルや3次元地質モデル等に関するCIM試行に取り組んでいます。
 
 

CIMモデルの概要

今回のCIMの試行で扱っているCIMモデルの概要を、以下に整理します。
 
①3次元施工ステップモデル
 
事業の全体像を関係者間で共有、把握することを目的として、山地部掘削、第二床固改築、野積橋架替の設計段階においてCIMを適用しました。
 
それらのCIMモデルを統合し、3次元施工ステップモデルを作成することにより、事業進捗に応じた施工段階ごとの既設構造物の取り合いや仮設工の干渉等を視覚的に確認することが可能となり、分かりづらい施工計画上の問題点を事前に把握し、その対策に係る検討資料としての活用が期待できると考えられます。
 
②3次元地質モデル
 
ボーリングデータを元に3次元地質モデルを作成しました。これにより、地質関係情報の統合・可視化に加え、岩級区分別・標高別水平断面図の自動作図や各施工ステップにおける岩級区分別掘削土量の自動算出による負担軽減、さらに今後必要となるボーリング調査において、深度や位置等の決定のための検討資料として活用が期待できると考えられます。
 
また、3次元地質モデルに概略設計段階の法面対策工を追加した3次元法面対策工モデルを作成しました。これにより、法面対策工の概略設計段階における地質との整合性や課題の把握等、概略から詳細設計へ検討結果を継承することで、設計の品質向上が期待できると考えられます。
 
 

CIM導入による効果

 
①3次元施工ステップモデル(図-2)
 
・3 次元施工ステップモデルにより、現時点の概略の施工計画において構造物と山地部掘削は干渉しないことが確認でき、また、地元住民との合意形成ツールとしての活用が期待されます。
 

図-2 3次元施工ステップ図(抜粋)




 
 
②3次元地質モデル(図- 3)
 

図-3 3次元地質モデル(掘削途中)




 
 
・3次元地質モデルと事業進捗に応じた3次元施工ステップモデルを重ね合わせることで、施工途中での地質状況が明瞭になり、施工上の配慮が必要と考えられる箇所の地質構造を容易かつ的確に把握することが可能となります。不可視部分である法面対策工における支持層の定着部確認等に活用できると思われます。(図-4)
 

図-4 3 次元法面対策工モデル




 
 
・3次元地質モデルを活用することで、岩級区分別・標高別水平断面図を容易に作図することができるようになります(図-5)。従来手法との比較で作図に8 人・日を要するところ、本試行では1人・日で実施でき、工数削減・経費縮減が期待できることを確認しました。
 

図-5 水平断面図自動作図




 
 
・岩級区分別の数量算出においては、従来の平均断面法で5人・日を要するところ、本試行では、3 人・日で実施できました。断面図の作図や数量算出は、設計変更が発生するごとに、その都度作業を行う必要があり、高い効果が期待できるものと思われます。
 
 

今後の展開

今後の展開として、今回の試行で扱ったCIMモデルが次工程の施工段階・維持管理段階でも活用可能となるよう、検討を進めていきたいと考えています。特に昨年度末、国土交通省i-Construction委員会により報告されたトップランナー施策の一つである「ICT の全面的な活用(ICT 土工)」の活用促進に寄与することを見据え、山地部掘削において、UAV(無人航空機、ドローン)やLS(レーザスキャナ)等の測量データを事業工程確認や出来形管理に活用する等、施工段階での活用を視野に入れた取り組みも進めたいと考えています。
 
 

まとめ

大河津分水路の改修事業では、調査・計画段階および設計段階において、3次元施工ステップモデル、3次元地質モデル等を活用する等、CIMの試行に取り組んできました。その結果、設計作業の負担軽減や施工計画の検討等で効果が期待できることを確認致しました。 
 
本試行において確認できた効果の他、今後、詳細設計段階や施工段階においてCIMを活用する中で効果を確認できるものもあると思われます。事業の進捗に伴い、新たな課題が出てくる可能性も大いにありますが、より良い活用・運用の仕方を見出すべく、引き続きCIMの試行に取り組んで参ります。
 
 
 

国土交通省 北陸地方整備局 信濃川河川事務所
計画課 企画係 福田 紗央

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集1「i-Construction時代の到来とCIM」



 
 

最終更新日:2017-06-05

 

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