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ホーム > 建設情報クリップ > 建設ITガイド > 3次元情報の活用による被災損傷した下水道管きょの査定設計の効率化

 

齊藤 計介氏

平成28年4月14日、16日に発生した熊本地震は、これまでに相当の費用と期間をかけて建設を行ってきた下水道施設に甚大な被害をもたらした。被害施設の早期復旧のためには、短期間で被災状況を調査し、災害査定を完了することが必要であった。
 
本町の災害査定の件数は、最終的に管きょ施設27 件と処理場施設5 件の計32 件となった。これは隣接する熊本市(39件)に次ぐ、県下2番目の件数であったが、下水道課の技術系職員は数名しかいなかったことから、支援自治体やコンサルタント、関係業界団体の協力を得ながら早期に災害査定を完了することができた。
 
本報告では、維持管理データと損傷度調査データを融合した3次元情報の利活用により、災害査定図書を作成した経緯を紹介する。
 
 

はじめに

益城町の位置および地勢

益城町は、図-1に示すように熊本県のほぼ中央北よりで阿蘇山の麓、熊本市の東側に位置し、豊かな水と緑に恵まれ、農村部と都市部が融和した自然豊かな町である。
 

図-1 益城町の位置




 
 
町内には“阿蘇くまもと空港”があり、交通の要所となっている。
 
平成27 年度末の人口は約34,000人と県下45市町村中、13 番目と上位に位置し、人口減少社会の中で、熊本市のベッドタウンとして人口が増加してきた都市である。
 

益城町の下水道

益城町の下水道は、公共下水道1処理区(益城処理区)、特定環境保全公共下水道2処理区(飯野処理区・津森処理区)から成り、特定環境保全公共下水道の2処理区は公共下水道の処理場である“益城町浄化センター”へ接続して処理を行っている。
 
平成27年度現在の下水道事業の概要を表-1に示す。
 

表-1 下水事業の概要




 
 

熊本地震の発生と被害

熊本地震の概要

4月14日21時26 分、熊本県熊本地方を震央とする震源の深さ11km、気象庁マグニチュード6.5 の地震(前震)が発生し、益城町では震度7を観測した。
 
その28 時間後の4 月16 日1時25分には同じく熊本県熊本地方を震央とする震源の深さ12km、マグニチュード7. 3の地震(本震)が発生し益城町では震度7を観測した。
 
マグニチュード7.3 は1995 年(平成7年)に発生した兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)と同規模の大地震である。
 
14日の地震は日奈久断層帯の北端部の活動、16日未明の地震は布田川断層帯の活動によるもので、隣接する二つの断層帯が連動することで発生した連動型地震で南北方向に張力軸を持つ横ずれ断層型であった。
 
震度7以上を観測する地震が2度も連続して発生したのは初めてであり、余震の回数においても9月末までに震度1以上を観測した地震は4,068回となり、過去の大規模地震の余震回数を上回っている。
 

下水道の被害

地震発生後、益城町職員で0次調査(発災後の緊急点検)を行ったところ、14日の前震では秋津川周辺の地域や処理場の流入幹線等で被害が確認された。16日の本震後は、被害の範囲と規模がさらに拡大していた。
 
本震前後の下水道管きょの被害写真を図-2に示すが、前震で被災した施設が本震でさらに被害が拡大したことが見て取れる(ほぼ同一地点において本震前後に撮影)。
 

図-2 本震前後の被害状況(撮影日:上4月15日、下4月16日)




 
下水道施設の被害は処理場施設、管きょ施設の両方に見られ、そのうち管きょ施設の被害は最も早くから整備を開始した益城処理区に多く見られた。
 
1次調査において目視による点検を行った結果、テレビカメラ調査による2次調査が必要な管きょ延長は総延長の約4割近くとなる約37kmとなった。本稿では、これら管きょ施設の災害査定について述べることとする。
 
 

地震発生から査定までの流れ

4月16日の本震以降から災害査定完了までの流れを時系列で整理したものを表-2に示した。
 

表-2 地震発生以降の流れ




 
 
地震発生後、1次調査を完了させるまでには10日間程度しかなく、さらに2次調査においては、対象延長が非常に長いにもかかわらず、5月25日には完了させる必要があった。
 
2 次調査の完了後は、査定対象施設を抽出し、査定設計、積算、査定資料の作成という手順となる。下水道の査定は3次査定から始まることとなり、甚大な被害を受けた益城町は3次査定から臨んだ。実に本震発生から2カ月後には査定受験、資料提出〆切(目論見書提出)までは発災から1カ月半、テレビカメラ調査の報告が上がってから3日後となるタイトな作業を余儀なくされた。
 
 

情報の活用

事業計画情報の活用

災害査定設計を進める上では、既存の管きょが現状からどのように被害を受けているかを確認し、被害状況を明確にする必要があることから、既設管きょの縦断図の作成が第一歩となる。
 
益城町では平成17年度以降の事業計画設計から、(株)シビルソフト開発により開発された管きょ設計支援ソフトPipe Rapidを用いた管きょ設計を行っている。このため、平成17年以降の事業計画管きょに関しては全て電子化されたデータで管理されており、台帳図、竣工図のデータに値を置き換えることで、縦断図の作成は容易に行うことが可能であった。
 
なお、上記ソフトは管きょ設計の一連の作業をシステム化したソフトで平面図-縦断図-流量表-数量が連動しており、地形図(DMデータ等)上に平面線形、地盤高、地下埋設物等のデータを入力し、これらの情報を基に縦断設計が行えるシステムである。
 

台帳情報の活用

平成17年度以降の拡大区域については縦断図作成が容易に行えるが、地震による被害が大きかった益城処理区は、平成17年以前に事業計画が立案された区域であり、管きょ設計支援ソフトを用いていなかったことから、縦断図の作成には多くの時間がかかることが想定された。しかしながら、益城町では下水道台帳をGISで構築しており、平成25 年度末のデータまで整備を行っていたことが査定設計の効率化に当たっては功を奏した。
 
下水道台帳は(株)パスコが提供しているPasCAL下水道で整備を行っている。この台帳データの活用に関し、(株)パスコ、(株)シビルソフト開発、(株)東京設計事務所の3社で協議を行ったところ、下水道台帳データをPipe Rapidのデータに変換することが可能であることが判明した。
 
これまで構築してきた下水道台帳のデータ(3次元情報)を有効活用することで縦断図作成に関する時間を大幅に削減できた。
 
なお、下水道台帳のデータ変換は被害が大規模であったことを考慮し、下水道整備済み区域全域を対象に4月下旬から着手し、3次元情報を基に全体的な整合性のチェックを含めて概ね5日間程度で図-3に示す全路線の管きょネットワークをPipe Rapidへの変換を完了し、縦断図の作成を可能にした。
 

図-3 全路線の管きょネットワーク




 

災害査定図書作成

災害査定延長

災害査定を受ける延長は最終的には約14.4kmとなった。この内訳を表-3に示す。
 

表-3 復旧延長




 

災害復旧方針

災害復旧方針は、熊本県下である程度の統一を図る必要があることから、熊本県、熊本市、被災自治体、支援自治体、(社)全国上下水道コンサルタント協会(水コン協)現地対策本部(熊本市)と連携しながらベースを作成した。その後、益城町の支援自治体並びに町に設置した水コン協現地対策本部とともに益城町の状況へ適合したものに補正を行った。
 
査定時に提出する図面の作成方法としては、縦断図1枚を原則とし、以下の事項を表記する方針となった。
 
・図面1枚当たり1スパンもしくは100m程度を標準とする。
・管きょがたるんでいる場合はたるんだ縦断を追記する。
・たるみ量はその数値を明確にする。
・管本体の亀裂、破損、継手のズレ等は位置を明確にし、その量を旗揚げする。
・損傷度合いの写真を縦断図の余白に貼り付ける。
 
このように、テレビカメラ調査結果の情報で復旧判定基準に適合する事項は全て表記する方針となった。
 

図化作業の効率化

①図化作業の煩雑さ
災害復旧方針に基づき、通常の手順で作業を進める場合、以下のような手順が必要とされた。
 



 
このような多くの手順を繰り返すことで査定図を完成することができる。
 
②作図上の課題
査定スケジュールに間に合わせるためには、早急に作図を行う必要があったが、作業着手当初は査定対象箇所の特定が行えておらず、どの程度、査定対象となるかが不明であった。しかし、作図の量が膨大となることは十分想定された。
 
膨大な査定対象箇所についてⅲ)~ⅳ)の作業を行うことは非常に手間であり、これらを簡略化することが急務とされた。また、査定官への分かりやすい説明を行うためにも丁寧な図面作りが必要とされ、作図に関する手間が大きな課題となった。
 
さらに、タイムスケジュール上、テレビカメラ調査を行った日本下水道管路管理業協会の最終成果を待たずに、益城町でも適宜、テレビカメラデータを確認する必要があった。また、最終成果がまとまった際にはデータ確認結果により損傷度合いが修正される可能性もあったことから、作図に要する時間を減らすことに加え、修正時の対応を迅速に行えることが必要とされた。
 
③作図作業の効率化
損傷度合いの作図を効率的に完了するには以下の事項が必要と判断した。
 
最も効率化を図るには、損傷位置および度合いをExcelにより数値データとして入力し、縦断図作成に使用しているPipe Rapidへ機械的に設定させる必要があった。しかしながら、PipeRapidにはこの機能を実現するインポート機能はなく、改良を行わない限り実現は難しいこととなった。
 
このため、益城町の水コン協現地対策本部のコンサルタントを通じて、開発元のソフト会社と協議し、改良の協力をいただいた。
 



 
ソフトの改良を行った結果、作図フローは前記の手順に変更となった。
 
このようにⅱ)損傷データの入力に多少の時間は要するものの、効率化以前の作図ステップから2ステップ減少させることができ、大幅な時間の短縮が図れたことに加え、より正確な損傷の位置を示すことが可能となり、説明のしやすい図面を作成することができた。また、Pipe Rapidへのデータ化により、損傷位置および度合い、査定対象箇所等の修正時も迅速な対応を行うことができた。
 
 

Pipe Rapidを用いた図面作成

Pipe Rapidを用いた具体的な縦断図の作図方法を以下に紹介する。
 
Pipe Rapidは管きょ設計の支援ソフトであり、地形、他企業の埋設物の3次元情報および集水面積等を基に管きょ設計を行うことが可能で、縦断図を作成する際には割り付け方法を指定すると、おのずと平面縦断図が自動的に作成される。
 
災害策定に使用する縦断図の作成を行う上ではこの機能に加え、再構築設計等に使用する損傷位置および度合いを縦断図に自動作図する機能、細部の修正にはCAD機能の利用を行うことで被災状況の図化を可能にした。以下に災害策定図作成までのプロセスを紹介する。
 
まず、図-4 のようにExcelにて抽出された損傷データの入力を行い、そのデータを図-5 のようにCSV出力しPipe Rapidにインポートする。
 

図-4 Excelにて入力情報シートを作成(損傷データの抽出・損傷データの入力)




 

図-5 入力情報をCSV出力 ⇒ CSVをPipe Rapidへ取り込み (損傷データの抽出・損傷データの入力)




 
 
管きょネットワークと損傷データが融合されたので、これら異常情報を含んだ縦断図を図-6のように自動的に作図し、補足事項の記入、写真の貼り付けを行い、図-7のような最終的な災害査定図書とした。
 

図-6 縦断図出力(縦断図データのCAD化)




 
 

図-7 細部修正(最終形) (補足事項の記入・写真の貼り付け)




 
 

おわりに

これまで、“九州には大きな地震が発生しない”という認識があったことから、熊本地震の発生とその被害の甚大さに改めて自然の驚異を再認識させられた。
 
幸いにも益城町では下水道台帳の電子化(GIS)を進めていたことに加え、事業計画に管きょ設計支援ソフトを活用するなど情報の電子化が進んでいた。このため、査定図書の作成は昨今のCIM(ConstructionInformation Management)の概念と合致し、維持管理データの有効活用を図ることができた。
 
震災発生から査定完了まで、各支援自治体、水コン協各社、管路管理業協会、ソフトメーカー等の多大な協力を得たことで、益城町の被害は甚大であったにもかかわらず、早期に査定を完了することができた。この場をお借りして、ご協力いただいた多方面の方々に感謝を申し上げる次第である。
 
下水道事業の災害査定は効率的に終えたものの、これから本格的な復旧工事に入っていく段階である。震災後に電子化されたデータの強みを生かせたことを考慮し、復旧段階においても、IT技術の活用、今後のデータリサイクル等、情報化社会の流れに対応していきたい。
 
 
 

熊本県益城町 下水道課 工務係 係長 齊藤 計介
株式会社 東京設計事務所 九州支社 宮崎 宗和

 
 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集1「i -Construction時代の到来とCIM」



 
 

最終更新日:2017-07-24

 

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