イノベーションとの遭遇
2016年から本格的に広まってきた「i-Construction」施策は、良い意味でも悪い意味でも、建設業において物議を醸している。発表されてからもう1年が経過した。この1年で上記に書いたような現状維持派と、積極推進派は半々だという結果もある。おおむね、このような流れや傾向は一般的だと思われるが、3 年後に、2 派がどのような会社になっていくのか、感じている方はどのくらいいるのか、非常に興味がある。
イノベーションの歴史は太古から失敗と成功の繰り返しにより進んできた。21世紀に入り、「シーズ」が「ニーズ」を満足させるためのツールとして活躍できる時代になってきたことにより、一気に生産活動への具体的な「シーズ」の落とし込みが可能になった。
シーズの落とし込みは、ニーズの中で具体性をもって行われなければならない。
ここで、私が言っている「シーズ」とは、ICT活用工事を構成するさまざまなICT機器を意味し、「ニーズ」とは、受注者である施工会社やコンサルもさることながら、発注者を含めた建設業に携わる全ての人間を指している。 UAVや3Dレーザスキャナー、GNSSローバ、CIMを活用し、測量段階や設計段階、施工計画や施工検討段階で多くのシーズを使いながら、最後は検査段階においても、シーズを使い効率を上げていく流れを作ったのが、i-Constructionという施策である。点を線で結べる会社が増えることが、本当の意味で生産性向上を行える会社である。点のままで終わる会社は、残念ながら、見かけの生産性向上しかできない。そんなイノベーションが、いよいよ建設業界にもやってきたのである(図- 1)。
ICT活用工事の効果
当社では、1990年台から情報化施工と呼ばれる施工を推進してきたが、大規模造成工事という特殊な工事での取り組みという認識のため、どんな工事でも適用という状況ではなかった。施工会社はどこでもこの感覚であったと思われるが、それでも長年、建設重機から出力されるデータを使い施工管理を行ってきたのは、面的に広いエリアの施工状況をいち早く把握するためのイノベーションとしては、非常に優れた「シーズ」であったためである。
しかし、この優れた「シーズ」を最後でその効果を激減させるのは、発注者における検査監督要領が従来通りの検査方法であり、「シーズ」を活用することまで踏み込んだものになっていない状況であった。
今回のi-ConstructionにおけるICT活用工事では、施工プロセスの各段階で実施する① 3次元起工測量 ②3次元設計データ作成③ ICT建設機械による施工 ④ 3次元出来形管理等の施工管理 ⑤ 3次元データの納品を行い、発注者が実施する検査業務においても、④のデータを活用して面的な検査監督業務を行うことが明記された。
この流れにより、従来、受注者が受注者のために行ってきた取り組みが、一気に発注者と受注者の相互で活用されることになった。これは活気的なことで、このように従来、受注者としての「点」で活用されてきたものが発注者という「点」にも使われるようになることで、初めて「線」として使われるようになる(図- 2)。
15 の基準への期待と「カイゼン」への取組み
線としてつながったものを活用できるようにするために、ICT活用工事を行う上での要領・基準類が15も新規や改訂となり公表されたのが、2016年3月31日である。
さて、この基準の中で、施工会社として非常に気になる基準が含まれていた。最終的な出来形管理を今回は、従来の管理断面における出来形計測から一気に施工エリア全体を「面的管理」に切り替えるという部分である。
そのためには、出来形計測の方法を従来の断面における計測から、UAVや3Dレーザスキャナーを活用し、施工部分を面的なデータとして取り込み、検査時にそのデータを活用しなければならない。
3Dレーザスキャナーでの実施については、ほとんどの方が誰も疑わないであろう。しかしながら、今回はUAVというツールをも活用してよいという流れができており、UAVを活用する場合の精度も求められている(図-3)。
当社では3 年前からすでにUAVを使った出来高数量把握への取り組みは実施しており、UAVでの出来高数量を出す精度としてもかなり高精度な数値まで出せるようになっており、高さ精度で5cm以内に納めることは可能である。
今回出来形管理を進めるためのUAV実施基準として書かれている「地上画素寸法が1cm/画素以内との記述や、進行方向の写真ラップ率が90%以上」という「仕様規定」により、高さ精度で5cmを求められているが、当社で従来実施している「地上画素寸法が2cm/画素、進行方向の写真ラップ率が80%」での実施と比較することで、計測時間や精度がどのくらい生産性に関わるのかを確認することにした(図- 4)。
表-1のように、地上画素寸法として1cmから4cmまでの状況を構築し、比較検討を行った。
これらの撮影方法によりSfMによる写真解析結果を基に、精度検証のための場所を以下の場所において実施した。特に写真解析においては誤差が大きく出やすい法面部を含め2カ所で比較検討を行った(写真-1)。
その結果、検証点全てにおいて、実測との誤差が±5cmの中に収まっていることが確認できた。今回策定された15 基準の中において、出来形計測時の検証点の許容値については、道路土工では±5cmという範囲であれば、合格となっているため、十分この許容値に入っていることが証明された(表-2)。
進行方向ラップ率の違いがもたらす作業性について
地上画素寸法がデータ解析において特段問題になることがないことが証明されたが、次は「進行方向ラップ率」についての違いが解析においてどの程度の影響があるのかを検証した。
比較対象としては従来の当社実施方法である地上画素寸法2cmと今回の出来形基準で規定された地上画素寸法1cmとを比較した。
進行方向ラップ率の違いによる施工効率の変化
表-3を見ていただければ明らかであるが、当社従来方法と比べ、地上画素寸法やラップ率が少し違うだけでもこのような大きな施工効率につながることが分かっている。
よって、次の検証としては、地上画素寸法が1cmと2cmのそれぞれに対し、進行方向ラップ率を70%~ 90%で実測と比べてどの程度の誤差があるかを検証した。
ラップ率の違いによる実測比較
地上画素寸法とラップ率の違いを変えたものを表-4で示す。
この組み合わせで検証点における高さ比較をしたのが次の表-5、6である。
結果としては、地上画素寸法1cmで進行方向ラップ率が70%の場合に平坦部の誤差許容値である±5cmを超える点が出た。その後、これが「点」としてだけの誤差なのか、周囲の面としても同じような誤差が生じるのかを確認するため、図-5のように同じ場所を3Dレーザスキャナーで計測したものと面的に比較検討した。
その結果、やはり地上画素寸法1cmで進行方向ラップ率が70%の場合は、面的にも平坦部の許容誤差±5cmを超えるエリアがあることが分かった(図- 5)。
結果はこの通りであり(表-7)、従来当社が出来高数量のために行ってきた計測方法(地上解像度2cm、進行方向ラップ率80%)が、出来形という最終結果への基準として利用される精度の高い出来形計測にも十分使える仕様であることが確認された。
そもそもICT活用工事を進めるための目標は「生産性向上」である。そのためのイノベーションであり、イノベーションをさらに使いやすくするための取り組みとして、「カイゼン」は行われるべきだと考える。
「カイゼン」はされるのか
このような状況を踏まえ、国土交通省と日本建設業連合会においてUAV撮影条件見直しのため現場検証を行うことになった。起工測量と出来形測量が対象で、撮影条件となる地上解像度とラップ率(画像の重複率)の規定値を緩和できるかどうかを検討することになり、当社の現場において11月26日に国土交通省と当社における合同の検証を行った(写真-2)。
結果がどうなるかはまだ分からないが、少なくともこのような取り組みを進めることで、さらに多くの課題への「カイゼン」が進むことは、i-Const-ructionが求めている理念であり、当社のみならず、多くの会社がこのような「カイゼン」への取り組みを進めることが求められている。
さらなるイノベーションが生産性向上へのカギ
平成28 年3月に「空中写真計測(無人航空機)を用いた出来形管理要領(土工編)(案)」を含む15の基準が出て1年になろうとしている。
すでにICT活用工事における出来形検査を受けるに当たり、この基準を適用している現場が出てきていると思われるが、国土交通省が進めるi-Constructionの目的は、建設産業全体の生産性向上であり、それを阻害してまで、基準にこだわるものではないと思われる。
平成28年4月に出されたi-Constructionの報告書に書かれているが、現状を「さらに」良くするための提案は積極的に受け入れる「カイゼン」姿勢を国も取ることを約束している(図-6/http://www.mlit.go.jp/common/001127288.pdf)。
その意味において、今回のようなデータを基に、施工性をさらにカイゼンするための提案は積極的に受け入れてもらうことが可能であると思われるし、また、そうしなければ業界全体としての生産性は向上しない。
その意味でさらなるイノベーションを展開するための「カイゼン」は重要であり、その流れを止める訳にはいかない。
このような「カイゼン」が今後の建設業全体としての生産活動に定着することで、従来の建設業における請負体質の既成概念を脱却し、常に「カイゼン」がもたらされる流れになることを祈りつつ、関係者全員が真の生産性への「神髄」に迫ることを、受発注者の垣根を越えて議論できるようになることが重要である。
本報告のみならず、多くの方が同様の取り組みを各方面で報告することが「カイゼン」への第一歩であることを期待し、本報告を終える。
情報技術推進課長 杉浦 伸哉
【出典】
建設ITガイド 2017
特集1「i-Construction時代の到来とCIM」
最終更新日:2017-06-05