建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 建設ITガイド > 施工BIMの今 −前田建設工業における施工BIMへの取り組み−

 

はじめに

最近の建設業界では、施工段階のBIM(以下、施工BIM)に注目が集まっている。いままでのBIMは、どちらかといえば設計者が活用するものと考えられがちだったが、施工BIMでは現場の職員が活用するものとして位置付けられている。国土交通省では、2016年度を「生産性革新元年」と呼んでおり、ICTを積極的に活用して建設現場の生産性向上に向けた取り組みを進めていることも関係しているであろう。
 
このような動きに呼応するかたちで、一般社団法人日本建設業連合会は、2016年4月に『生産性向上推進要綱』を策定した。その中では「施工段階におけるBIM、ICTの啓発、普及促進」と具体的に記載している。生産性を向上させる武器として、それらは必要不可欠と宣言したのだ。
 
前田建設工業では、すでに2007年より設計、施工そして維持管理にわたりICTやBIMを活用する新しい建設生産システム【TPMs(ティピーエムエス)】の構築を行い、運用を始めている。【TPMs】の推進は、まさしくこれらを先取りした活動であったと言えるであろう。【TPMs】による取り組みの主な目的は以下の通りである。
 
①設計や施工段階のBIM化、施工管理のICT化(写真-1)により、職員や協力会社担当者の生産性を向上させること。
 

写真-1 ICTを活用した施工管理




 
 
②施設管理のICT化により、施設所有者に対して、施設のライフサイクルコスト低減を支援すること。
 
そこで本稿では【TPMs】の中から施工BIMに関する取り組みを紹介することで、建設業における生産性向上を考えたい。
 
 

施工BIMの概要

施工BIMの考え方と狙い
 
施工BIMは、作業所を中心とした取り組みである。そのため社内の調達部門、支援部門や専門工事会社が施工BIMに取り組む目的、作業手順や作業工程などを共有するところから始まる。
 
たとえ設計段階が従来型の2 次元であっても、工事を着工する前後からBIMに取り組んでも良いとする。もちろん設計者から整合性が確認された設計BIMと連携ができればなお良い。その際に目指すことは、作業所と専門工事会社のお互いの担当者の業務を楽にすることだ。また、作業所長をはじめとする作業所の基本方針を「この現場はBIMに取り組む!」として、取り組む目的を明確にすることも重要になる。
 
BIMにはいろいろなメリットが考えられるが、「見える化」が何と言ってもメリットの一番である。これを施工段階でも活用しない手はない。
 
施工段階からBIMを始めた場合、仕事を進める情報のスタート地点は設計図であるが、設計変更などの作業により情報が更新されると、それらは施工図や製作図に盛り込まれる。つまり工事を進めるためには、作業所において設計図の情報から施工図(総合図、躯体図、割付図など)を作成し、専門工事会社は担当工事部分の製作図を作成することになる。工事の進捗は施工図や製作図の承認工程に左右されると言っても過言ではない。
 
ところが施工図の担当者は、それらの図面類を調整するために、多ければ数百枚の2次元図面をひたすら見比べ自分の頭の中で空間を想像しながら調整業務をするのが一般的だ。そのため、机の上は図面だらけになる場合が多い(写真-2)。
 

写真-2 机のまわりは図面だらけ




 
 
BIMでは施工図・製作図レベルのBIMモデルを統合し空間を把握する。数百枚の図面を見なくてもXYZの位置関係を直観的に把握でき、多くの担当者と空間を共有することが容易になる(図- 1)。
 

図-1 統合されたBIM




 
 
そこで、前田建設工業が施工BIMに取り組む狙いは主に以下の3項目である。
 
①【図面】施工図・製作図の調整業務の効率化
②【品質】品質不具合の防止
③【安全】作業安全性の向上
 
すでにさまざまな施工BIMの取り組みを行ってきたが、ここでは上記の3つの狙いからひとつずつ適用事例を紹介する。
 
 
①図面】施工図・製作図の調整業務の効率化
 
今までの図面調整と施工BIMによる図面調整の手順の違いを示す(図- 2)。BIMにより効率的に図面調整を進めるポイントは以下である。
 

図-2 図面承認までの作業手順




 
 
①専門工事会社を早期選定し、BIMモデルを作成する
②作業所は基準となるBIMモデルを各業者に提供する(躯体、仕上のモデル)
③変更履歴などの最新版をきちんと管理する
④最新のBIMモデルを共有できるクラウドなどの情報一元化ツールを活用する(設計者・専門工事会社も閲覧可能)
⑤BIM調整会議を開催する(隔週程度の開催。設計者も参加が望ましい)
⑥BIMモデル合意後、スムーズに2次元図面を作成し承認する
 
業務の進め方はBIMモデルで異工種間の調整を行い、関係者間で合意をしてから図面を作成し図面承認を行う。合意するまでは、作業所のBIM担当者と専門工事会社のBIM窓口が参加する調整会議を開催し、整合性が確保されたBIMモデルを更新する(図-3)。
 

図-3 統合された施工BIM




 
 
これらの取り組みは「BIMモデル合意(※1)」と呼ばれている。場合により2次元図面を先行させてBIMモデルを作成する場合もあるが、いずれにしても避けなければいけないことは、BIMと2次元図面の作成を同時にすることだ。
 
取り組みを確実に実施するためには、社内事前打合せで目的を設定することが大事である。それと同時に参画する専門工事会社との協創によりBIMモデル合意に取り組む方針を立案する。
 
その際は全てのBIMモデルを専門工事会社が作成するのではなく、作業所側でも各社にBIMモデルの提供やモデルを統合する体制を整備しておく必要がある。
 
BIMモデル合意に期待できる大きな効果としては、逸失利益の低減がある。また検討時間の短縮(20 〜 30%の低減)や検討するための2次元検討図の枚数低減などの効果もある。それらの効果を享受するためには、作業所のBIM担当者のリーダーシップと専門工事会社のBIM窓口がお互いにBIMにより作業を効率化させる目的を共有し、実際の仕事の流れに組み込むことだ。
 
BIMモデル合意では、BIM調整会議を概ね隔週で開催している場合が多い(写真-3)。
 

写真-3 BIM調整会議の開催




 
 
参加者は作業所のBIM担当者と専門工事会社のBIM窓口の方々だ。必要に応じて設計者も参加する。
 
BIM調整会議の開催前には、参加者間で最新版の情報共有ツールを通じて検討課題を共有し、対応可能な範囲で各社が新たな質疑や回答を用意する運用が望ましい(写真-4)。
 

写真-4 検討項目のリスト




 
 
②【品質】部分の検討
 
施工BIMでは、必ず対象物件の建物をすべてBIM化する必要はない、と考えている。
例えば作業所から必ずと言っていいほど依頼される項目の一つに鉄筋の納まり検討がある(図- 4)。
 

図-4 鉄筋の納まり検討




 
 
建物全ての鉄筋を入力するのではなく、部分的でも十分な検討時間の短縮効果がある。さらに鉄筋を組み立てる職人さんとの作業手順の確認もできる。
 
また、物流倉庫ではランプ部分のPCa手摺壁と鉄骨との関係をBIMにより調整する場合もある(図-5)。
 

図-5 鉄骨と腰壁PCaの干渉確認




 
 
初めての施工BIMでは、確実に作業所のニーズがあるこのような場所から
取り組んでも立派な施工BIMの一つと言えるだろう。
 
作業所長からは「分かりやすい」「施工図や製作図の進捗状況の確認が容易」「安心感がある。おかしいと思うところを施工前に指摘できる」「若手職員のOJTに活用した」などの評価が得られた。このような評価が建物全体のBIMモデル合意への取り組みに挑戦する素地となる。
 
所長の感想が口コミで広がり、「今の施工BIMは以前に話を聞いたBIMとは違う。施工でも活用するメリットがある」と認識が変わりつつある。
 
 
③【安全】施工手順の「見える化」
 
施工図や製作図の図面調整に活用したBIMモデルをそれだけで終わらせるのはもったいない。このようなBIMモデルは現実にこれから施工する完成形に近い精度で作成されていることもあり、付加価値として施工手順や安全設備の検討にも活用できれば同じく精度の高い施工手順を職員、職長や作業員と共有することができる。
 
施工BIMに取り組んでいる作業所では、本支店の支援部門が参加する施工検討会や専門工事会社を交えた作業手順の説明(写真-5)などへの活用も始まっている。
 

写真-5 BIMを活用した施工検討会




 
 
特に鉄骨建方手順の「見える化」による事前検討(図-6)では、主に以下の関係性が分かりやすいことを確認している。
 

図-6 鉄骨建方のステップ図




 
 
①作業工区分けと重機・荷取りヤードとの関係
②先行取り付け鉄骨と後取り付け鉄骨・仮設材との関係
③取り付け手順と材料積込順との関係
④外部足場せり上げと鉄骨組上げの関係
⑤鉄骨組立とデッキ材の荷上げの関係
現場内の「見える化」ボードには、工事工程表と一緒に時間軸で表した建方
 
手順などの現場状況を貼り出している現場もある。作業員が作業の開始前に出来形をイメージすることで、安全作業への啓蒙にもつながっていると思われる(写真-6)。
 

写真-6 「見える化」ボードへの掲示




 
 

施工BIMに関する教育

先日、作業所職員向けの施工BIMに関する研修会を開催した(写真-7)。
 

写真-7 施工BIMの社内研修会




 
 
開催場所は実際に施工BIMを実践している作業所である。参加者は今後施工BIMに取り組む予定の全国から集まった職員だ。年齢層は所長から若手の担当者まで幅広く集まった。
 
研修はBIMツールの操作教育ではなく、BIMモデル合意や施工計画への適用などBIMの活用事例を社内で共有できるような内容を企画した。
 
講師は施工BIMの支援部門だけでなく、作業所のBIM担当者も担った。実務の担当者が工事概要を説明するように実際の施工BIMの取り組みを説明したことで、参加者の多くが施工BIMを身近に感じることができたようだ。
 
作業所で施工BIMに取り組む予定の担当者からは、具体的な作業所の体制づくりやBIMモデル作成のタイミング、期間などの質問があり、質疑応答の時間は活発な情報交換の場となった。
 
このような地道な活動が、施工BIMの社内展開や取り組みの改善などには必要と改めて感じた。
 
今後も作業所で開催する施工BIMの研修会は続ける予定である。
 
 

今後の展開

本稿では施工図や製作図の図面調整を中心として取り組みを紹介してきたが、施工BIMの可能性は、図面調整だけではない。作業所におけるその他のICTとの連携にも期待できる。例えば墨出し作業の効率化、写真測量による数量把握などのような測量技術との連携が思い浮かぶ。また、自動施工をするための要素技術には施工BIMが必要になるに違いない。
 
スマートデバイスの活用によるフィールドでのBIMモデルを活用した作業員への分かりやすい作業指示などへの活用にも展開できる。すでにタブレット端末を活用した各種検査での活用が始まっており、それらの検査情報との連携も考えられる。
 
ようやくBIMに「見える化」だけを期待するのではなく、BIMに付加されている情報(information)を現場で活用する環境が整い始めたと言える。
 
施工BIMを活用した取り組みはさらに広がるであろう。
 
 

おわりに

施工BIMのひとつの進め方として、工事が始まってから専門工事会社とBIMモデルを連携しながら作業を進める手法は、作業所における図面調整業務を大きく変える可能性があることを確認した。今後はBIMを建物全体や部分とかという議論ではなく2次元CADによる図面作図が一般化してきたように、どのような用途・構造の建物であっても当たり前のように作業所においてBIMが活用できる環境が整備されてゆくと思われる。
 
過去を振り返って見てもBIMやICTの活用を挑戦する機会は何度かあったが、今の社会背景を考えると今回が最後のチャンスではないか。施工BIMの確立には、発注者や設計者・監理者がどのように施工BIMに参画してゆくのかも視野に入れた運用方法を確立させる必要がある。
 
設計からの一気通貫を実現させるのもまさしく今であろう。施工段階でのBIMの活用方法が見えるようになったことで、情報を設計者にフィードバックさせることができるようになりつつある。
 
維持管理段階では前田建設が独自開発したアイクロアとBIMが連携(※2)して施設やインフラの管理が実務で始まっている(図-7)。
 

図-7 BIMを活用した維持管理




 
 
IOTやAIなどの技術の進歩により、建物に合った修繕や改修を計画するところにもBIMの技術が活用されるのも近い。
 
今後もいろいろな取り組みを通じて、施工BIMの確立を進める予定である。
 
 
(※1) 一般社団法人日本建設業連合会BIM専門部会:『施工BIMのスタイル 施工段階における元請と専門工事会社の連携手引き2014』、2014.11、一般社団法人日本建設業連合会
 
(※2) 曽根巨充、他:維持管理システムの実績からニーズを的確に反映−BIMと連携し、3次元の“見える化”を簡単に実現−、『建設ITガイド2016』、2016.2、一般財団法人経済調査会
 
 
 

前田建設工業株式会社 建築技術部 TPM推進グループ長 曽根 巨充



 
 
【出典】


建設ITガイド 2017
特集2「BIMによる生産性向上」



 
 

 

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