建設資材データベーストップ > 特集記事資料館 > 積算資料公表価格版 > 公共施設への地中熱の導入事例分析

 

1. はじめに

これまで地中熱は,庁舎や学校・コミュニティ施設など中心に,全国の公共施設に多く導入されてきた。雑誌・書籍注1)にて,公共施設への地中熱の代表的な導入事例が取り上げられたことがある。
 
ここでは,雑誌・書籍3点で取り上げられた記事の内容について,導入理由とメリット,先進性・モデル性などの特徴,性能・効果,政策・補助事業の項目で,表− 1(次頁以降参照)のように整理した。特にユーザーである自治体サイドが,どのような導入目的と経緯で地中熱を導入し,どのようなメリットと効果を期待しているかを分析してみた。
 



 
 



 
 



 
 



 
 
今後,地中熱の普及を拡大していくには,先行して公共施設への導入が進み,民間施設へ波及していくことが望まれる。今回の導入事例の分析結果から,公共施設へさらに地中熱を導入促進していくために何が必要か,検討の一助となれば幸いである。
 


 
注1) 『隔月刊 地球温暖化』(日報ビジネス),『地中熱利用ガイドブック』(地中熱利用促進協会),『事例に学ぶ地中熱ヒートポンプシステム』(オーム社)
 
 

2. 導入事例の用途・地域・規模・熱交換方式

3点の雑誌・書籍での地中熱掲載事例は,計38件である。これに,『隔月刊 地球温暖化』で取り上げられた「地中熱利用導入マップ」の公共施設リストの50件を加え,計82件(重複6件あり)について用途・地域・規模・熱交換方式で整理すると,以下のような分布となる。
 



 
施設用途は,学校などの教育施設,プール・温浴施設,庁舎・役場施設の順に多く導入されている。最近では,防災拠点としての位置付けも重視され,コミュニティや消防施設なども増えている傾向がみられる。導入地域は,関東から以北の寒冷地に多い傾向を示し,7割近くを占めている。設備規模は,容量200kW以上の大規模施設が多く,プールなどで500kWを超えるものもある。また,地中熱交換方式は,圧倒的にクローズドループ方式が多く採用されているが,オープンループ方式は1件当りの導入規模が比較的大きい傾向にある。
 
 

3. 導入理由とメリット

掲載記事38件について,ユーザーが地中熱を導入した理由ないしどのようなメリットを感じ,何に期待しているか整理すると,複数回答も含め図− 5のようになる。
 

図−5 導入理由とメリット




 
 
● 再生可能エネルギー導入,省エネ・CO2削減など環境配慮 22件
● ランニングコスト,補助金を含むコストメリット 20件
● 地下水が豊富など地中熱有利(地産地消のエネルギー) 10件
● 防災拠点としての機能 7件
● 環境教育や市民への環境啓発・アピール 7件
● 快適な空調で環境改善 6件
● 温度が一定で安定した熱源 5件
● メンテナンス軽減 5件
● ヒートアイランド抑制 4件
● 騒音や排ガスなど周辺環境への負荷が小さい 3件
● 電力消費の平準化 2件
● 火気を使用しない安全・安心 2件
● 過去の利用実績 2件
● 自治体の政策,トップの判断 2件
● 環境技術による営農環境づくり 1件
● 地場産業の活性化 1件
 
地中熱の導入理由ないしメリットは,環境配慮が最も多く,次にコストメリットとなる。コストメリットは,ランニングコストの削減に期待する声が最も多く,補助金利用によるイニシャルコストやライフサイクルコストの削減を導入理由・メリットとしている意見もある。環境配慮にコストメリットが付与されることが,地中熱の導入に至る最も大きな要因と判断される。
 
地下水が豊富であることなど地域的な優位性を重視し,地産地消のエネルギーの有効活用を導入理由にしている自治体も多い。このことから,地中熱ポテンシャルマップなど地盤情報の整備も,今後の地中熱普及の重要なテーマになってこよう。
 
また,防災拠点としての機能や市民への環境啓発・アピールなどもメリットとしている声も多い。少数意見も含めると,10項目以上の導入理由・メリットに整理され,多岐にわたるメリットを期待して導入していることが伺える。
 
 

4. 先進性・モデル性などの特徴

地中熱の特性をより有効に機能させるなど,先進的かつモデル性のある施設も多くみられる。特に特徴的なもの,または多く採用されている事例
を下記に挙げる。
 
● 夜間電力を利用して水蓄熱方式を併用しているシステムが5件程度あり,コスト縮減と電力の平準化を図っている。
 
● 床暖房などの輻射冷暖房や床からの吹出し空調を採用している施設が10件程度あり,更なる省エネと快適な環境づくりを図っている。
 
● 太陽光発電や自然換気・断熱など他の省エネ設備を同時に導入している環境配慮型施設も,
 庁舎やコミュニティ施設を中心に,10件程度と多い。
 
● モニターや表示パネルなどを設置し,見える化を図っている施設が10件程度ある。
 
● 排熱回収型ヒートポンプの採用や地中熱をベース熱源で利用して,より効率的運用を図っている施設もある。
 
● ESCO注2)事業といったエネルギーマネジメントサービス事業を活用した施設もある。
 
地中熱を単独かつ単純に利用するのではなく,蓄熱方式や他の省エネ設備または従来設備を併用して効率アップを図ることが,地中熱の優位性を更に高めている。
 
また,液状化対策と併用した熱交換方式や地下水の2次・3次利用で有効活用している事例など,非常に独自性に富むものもあり,地中熱の幅広い活用方法があることもわかる。
 


 
注2) エネルギー・サービス・カンパニー
 
 

5. 性能・効果

最も期待している地中熱の導入効果は,3.導入理由とメリットでも示したように,一次エネルギー削減によるランニングコストの削減そしてCO2排出量の削減による環境負荷軽減である。ランニングコストおよびCO2排出量の削減率は,30〜40%の施設が多く,北海道と青森県の施設では50%を超える事例もある。ただし,掲載事例38件のうち,実績データで示された事例は8件にとどまっており,今後モニタリング結果のフォローを実施し,設計段階との検証やチューニングによる運用見直しも必要と思われる。運用実績データは,積極的に収集し公表されることが,地中熱システムの信頼性に繋がる。
 
この他の効果としては,騒音・排ガスの問題がないといった周辺環境や空調環境の改善,環境教育に活用,見える化によるPR効果などが挙げられる。
 
 

6. 政策・補助事業

政策面からアプローチしてみると,やはり国の補助事業の活用が最も多く,環境省補助事業の利用など12件の事例が確認できる。補助事業の存在は,現状,地中熱が採用される重要な要素であるが,補助金依存体質からの脱却も,今後市場競争力を高めていく上では必要な課題である。
 
また,自治体独自のエネルギー基本計画に基づき,地中熱利用を進めている事例や県と市との共同事業として地中熱設備を整備した事例もある。札幌市では,市内の消防署に緊急出動を円滑化する目的で地中熱を積極的に導入している。すでに消防署41ヶ所のうち15ヶ所に地中熱が導入されている。
 
今後,地方自治体の予算は人口減少と高齢化に伴い,さらに縮小していくことが予想される。4.で示したように,ESCO事業などエネルギーマネジメントサービス事業の活用や官民連携によるPPP注3)/PFI注4)事業など,初期コストの軽減を図る政策も,今後必要と思われる。
 


 
注3) パブリック・プライベート・パートナーシップ
注4) プライベート・ファイナンス・イニシアチブ
 
 

7. おわりに

雑誌・書籍に掲載された公共施設への地中熱の導入事例をもとに,導入理由・メリット,先進性・モデル性などの特徴,性能・効果,政策・補助事業について,整理・分析を試みた。
 
今後,公共施設に地中熱の更なる導入を進めるためには,環境配慮にコストメリットが伴うことが最も重要とされているが,地産地消のエネルギーとして活用,防災拠点施設としての機能や環境教育・市民への環境啓発効果など,多様なメリットも期待されており,これらをアピールしていくことも必要となる。現状,補助金を最大限活用することは普及に弾みをつけるため必要であるが,補助事業が終了した段階での市場競争力をつけるためには,コストダウンを図るとともに省エネ技術としての信頼性の向上,ひいては低炭素化社会への貢献など,地中熱導入メリットが広く浸透していくことが求められる。省エネ・CO2 削減効果は,30〜40%の削減が期待でき,実際に50%以上の削減効果を上げている事例もある。ただし,運用実績として公表されている事例はまだ少なく,モニタリングによる検証と運用改善により,より信頼性を向上させる努力が必要となっている。
 
今後,公共施設は統廃合が進められ,ますます縮小される方向となると同時に,長期的に利用する志向が高まると予想される。設備の改修ないし更新需要をターゲットに,地中熱による省エネ設備を,ライフサイクルの視点で提案していくことも必要であろう。また,先に述べたESCO事業などによる初期投資の軽減や民間資金の活用も有効と思われる。
 
今回の調査から公共施設へ地中熱の導入を進めるポイントとして,下記のような事項が重要と考える。
 
● 環境配慮にコストメリットが伴うことが重要であるとともに,多様なメリットをアピールする。
 特に,地下水が豊富など地域特性を生かし,地産地消のエネルギーとして位置付ける。
 
● 施設用途に応じて,地中熱の特徴を生かした多様かつ幅広い活用方法を採用していく。
 
● 運用効果を広くアピールし,信頼性を高める。
 
● ライフサイクルでの導入効果とESCO事業等による初期コストの軽減を提案していく。
 
2017年度よりスタートする「省エネ基準の適合義務化」に伴って,省エネ技術である地中熱利用が公共施設でさらに進めば,民間施設や住宅への普及にも繋がる契機となろう。
 
今回,雑誌・書籍に掲載された公共施設への地中熱の導入事例をまとめるに際しては,日報ビジネス株式会社様,株式会社オーム社様,内藤春雄様のご理解とご協力を頂いた。ここに改めて感謝・御礼を申し上げる。
 
 

NPO 法人地中熱利用促進協会 副理事長 森山 和馬

 
 
 
【出典】


積算資料公表価格版2017年04月号



 

 

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